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第173話 計画を立てよう(2)

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「それは……。――なら、村長には何か良い案があるんですか?」
「うむ。辺境伯には、塩の取引を行った代金については、こちらの世界に来てもらい山の中に金を精製してもらうというのはどうかの?」
「――え?」
 
 一瞬、村長が何を言っているのか理解できなかった。
 
「おじいちゃん! それは無理があるわよ。金が、そのまま出てくる鉱山なんて大問題になるもの」
「鉱石に含まれる金の含有率の事を言っているか?」
「うん」
「たしかに……」
 
 雪音さんが指摘した内容は確かに、その通りだと思う。
 
「うむ。たしかに雪音の言う事も分かる。だから、金の含有率を世界的に見て平均的な1トンあたり3グラムから1キロほどに変更などはどうか?」
「それって無理があるんじゃ……」
「九州では、1トンあたり30グラムほどの金の含有率を持つ金鉱山も存在しておる。実際に、そのような異例の鉱山もあるのだから何とかなる。そう押し通すしかない」
「でも、それだと……、うちにメリットってありますか?」
 
 態々、金鉱山をでっちあげて生成するという手順を踏む――、その内容に俺の方にメリットが一切感じられないどころか、即! 現金化出来ないのだから店の運転資金も滞ることからデメリットしか感じられない。
 
「そうじゃな。幾つかメリットはあるが、まずデメリットは五郎が言った通り、店舗の運転資金の確保が難しくなるという点にある」
「ですよね……」
 
 なら、金鉱山を作る意味なんてないのでは?
 
「次にメリットだが、これはいくつかあげられる」
「おじいちゃん、自然を壊すのは良くないと思うけど……」
「分かっておる。まず第一に、金鉱山を作ることで、人を集めるという目的がある」
「それって大規模な金の採掘を行うという事ですか?」
「――いや、そこは制限をかければいい。つまり、鉱業権と土地所有権だな。それらがあれば規制することができる。あとは、河川法関連も考えていかなければならない」
 
 雪音さんが、ハッ! とした様子で、「え? それって……、大規模な採掘をしないってことは……」と、呟く。
 
「つまりだな。大勢の人間に金鉱山における採掘入場料を取ることで一日、どのくらいまでの採取を許可するかで、その入場料で稼ぐという手法になる」
「それって、金を見せモノとして扱うって事よね?」
「そうなる。次に、村の人口が増える事にもなる」
 
 その言葉に何となくだが理解できてきた。
 
「疑似的なゴールドラッシュを起こして、それにより村を活性化させようという事ですか……」
「うむ。いまは半導体や最新の機械などを作る為には金は貴重だと言われているからの」
「たしかに、そうですけど……」
 
 俺としては、そこまでしなくても良いと思うんだが……。
 
「気乗りはしないか?」
「はい。自分としては……」
「だが、今後のことを――、塩などの取引の量を考えた場合、近い将来、必ず行政が嗅ぎつけてくる可能性がある」
「……」
「行政だけなら、まだいい。同業他社が利権に群がってきた場合、一番危険に晒されるのは家族だという事を考えなければいけない。五郎、お前は、もう一家の大黒柱なんだぞ? 覚悟を持て」
 
 その言葉に、俺は……。
 
「少し考えさせてもらっていいですか?」
 
 そう返す事しか出来なかった。
 村長が、帰ったあと悶々としながらパソコンに向かっていたが、集中することが出来ず仕事の進捗は芳しくなかった。
 それから数時間が経過し、根室さんが帰る時間になったので交代してレジに入る。
 
「ナイルさん、どうですか? 少しは慣れましたか?」
「特に問題はありません。それよりも魔法を使わずにボタンを押すだけで灯りが灯ったりすることは非常に興味が沸きます」
「そうですか……。それよりも疲れてはいませんか? 朝から、ずっと仕事をしていますよね?」
「行軍と比べれば大したことはありません」
「そうですか……」
 
 どうやら、ナイルさんが働いていた職場は、それなりのブラックだったらしい。
 
「それに、そんなに来訪する人間も少ないので」
「そ、そうですね……」
 
 買い物客が殆ど来ないというニュアンスで言われたと思うが、ナイルさんには、そういう考えはないのだろう。
 そもそも普段から客がいないのがデフォみたいなものだからな。
 
「それにしても、ここはのどかな場所ですね。――あ、ゴロウ様! ここが田舎という意味で言った訳では……」
「大丈夫です。気にしてませんから」
「それよりも、昼頃にユキネ様が確認していましたアレは一体……」
「ああ、あれがノーマン辺境伯様へ納品する塩などになります」
「なるほど……。これだけの塩を一度に輸送できる馬車があるのは、さすがは異世界と言ったところですね」
「まぁ……」
 
 変なところで感心してしまっているナイルさんに、俺は何と答えていいのか迷いながら頷いておく。
 時刻は、すでに午後6時を過ぎてはいるが、店を閉めるのは午後9時なので、いまは塩を店内に運ぶ訳にはいかない。
 
「ナイルさんは、今日はどうしますか? 辺境伯領に一緒に来られますか? 先にお風呂に入って寝ても問題ないと思いますが?」
「――いえ! ゴロウ様の護衛として来ておりますので!」
「そうですか……。それでは、先に身嗜みを整えてきた方がいいと思います。さすがに朝から仕事をしていたのですから」
「ですが! 襲撃は夜にこそ起こり得るものです!」 
 
 こんな人口300人程度の村で、どんな襲撃があるのか――、甚だ疑問ではあったが、無理に断ってナイルさんの仕事を否定しても良い事はないと思い、店を閉めてからナイルさんには身嗜みを整えて貰う事にした。
 
 結局、3時間経って客が一人も来ないまま店を閉めることになったが、フォークリフトのエンジンは掛けたままにしておいたので、パレットに載せてあったままの塩を店の中へと運ぶ。
 10以上あるパレットの店の中へと運んだあと、フォークリフトも店内に入れたまま店のシャッターを閉める。
 その後は、母屋に戻りナイルさんが身嗜みを整えたあと、すぐに異世界に向かう為にバックヤードに向かう。 時刻は、まだ午後10時。
 
「ゴロウ様、何時もは、この時間に私達の世界に来られているのですか?」
「――いえ。いつもは、2時間くらい遅く向かっていますが、今回はエンジンを掛けたまま店内にフォークリフトを置いてあるので――」
「それが何か問題でもあるんでしょうか?」
「エンジンを掛けたままですと、排気ガス関係で色々と問題があるので」
 
 俺の説明に首を傾げているナイルさんだったが、1から説明していたらキリが無いので急いで店の中に入る。
 すでにガラス越しに太陽の光が見えていて、兵士の姿も見えているので、受け渡しには問題ない。
 すぐにシャッターを開け、ナイルさんを供だって異世界側へと足を踏み入れた。
 
「ナイル様、お待ちしておりました」
「うむ。ご苦労。何か問題などは起きなかったか?」
 
 異世界側へ出たあと、業務連絡を受け取っているナイルさんを横目に、俺はフォークリフトを運転し、パレットごと塩が載った台座を異世界側へと移動していく。
 フォークリフトを見るのも、何度目かになる兵士の面々は、俺が運転している機械を見ても驚くような事はない。
 文明の利器を使ったことで、すぐに全ての塩を異世界側へと移動する事ができて、空になったパレットを店の中へと移動する。
 もちろん、フォークリフトを動かす必要は無いのでエンジンを切っておく。
 
「ゴロウ様」
「ナイルさん、話は終わったのですか?」
「はい。特に問題は起きてはいないようです。このあと、ノーマン様の屋敷に向かう事になりますが、時間は大丈夫でしょうか?」



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