田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第168話 月山雑貨店の日常(4)

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 根室さんはレジ打ちの方法をナイルさんに教えると言っていたが、言語もまったく異なる以上、難しいと思う。
 それでも、品出しくらいはできるようになってくれれば楽になる。
 店の方は根室さんに任せて、母屋へ戻る。
 
「ただいま」
「おかえりなさい」
 
 すぐに出迎えてくれる雪音さん。
 そして――、小走りで走ってくる桜。
 
「おじちゃん! おじちゃん!」
「どうした?」
「クーラーつけていい?」
「別にいいぞ?」
 
 あれ? どうして雪音さんに聞かないんだ?
 
「桜、今度からは雪音さんに確認を取ってOKが出たらやっていいからな」
「うん!」
 
 すぐに居間の方へ駆けていく桜。
 
「雪音さん」
「桜ちゃんは、家のことは五郎さんに聞くことが最優先みたいで……」
「なるほど……」
 
 まぁ、たしかに桜と一緒に暮らしていて何かあったら俺に聞くように言い聞かせてきたからな。
 
「そういえば、藤和さんから連絡はいきましたか?」
「はい。一応、塩と他の商品の納品については目途が立ちました。これから仕入れ代金を手に入れに目黒さんのところに行ってきます」
「それではお店の方は私も協力して見ておきますね」
「よろしくお願いします」
「――おじちゃん! お出かけするの!?」
 
 俺と雪音さんの話を聞いていたのか桜が居間から顔だけ出してきいてくる。
 どうやら、横になっていたようだ。
 そして――、フーちゃんがズルズルと舌をハッハッハッ! と出しながら夏バテしているのか、床を這ってくる。
 
「そういえば、犬は暑さに弱かったような……」
「はい。今度からは、クーラーをつけたままの方がいいかも知れないですね。少なくとも夏が終わって涼しくなるまでは」
 
 その雪音さんの言葉に俺は「そうですね」と頷く。
 ただし! 田舎の家で隙間だらけなので、クーラーを付けていたとしても冷風はガンガン! 建物の隙間から出ていく。
 来月の電気代は恐怖そのものだ!
 まぁ店の維持費の電気代も相当だと思うので、それと比べれば家の電気代は大したことがないと思うが……。
 
「雪音さん」
「はい? 何でしょうか?」
「来月の電気代とかヤバイですかね?」
「はい。たぶん店の方だけで60万円近く、家の方が3万程ですので――」
「それって……」
「かなりシビアですね。五郎さん、頑張って塩を換金してきてくださいね!」
 
 それって、俺に質屋に行けって安易に告げているよな?
 桜も、その事に気が付いているのか「わーい! 旅行なの!」とか「わんわん!」と、フーちゃんまで喜んでいる始末。
 
「とりあえず、目黒さんのところに行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい」
「桜も行くか?」
「桜は、臨時休業中なの」
 
 どうやら、桜も暑さで動く気力がないようで、フーちゃんと共に、通路の木の床部分が冷たいのか頬を当てて俺を見てきている。
 
「そうか。そういえば和美ちゃんは、どこに行ったんだ?」
「昨日ね、夜遅くまで遊んでいたから桜の部屋で寝ているの!」
「クーラーはつけているのか?」
「つけてないの!」
「……大丈夫なのか?」
 
 特に熱中症とか……。
 
「五郎さん、私が和美ちゃんを見ておきますので目黒さんの方へ行ってきてください。約束を取り付けてあるんですよね?」
「はい。それじゃ、お願いします。あと、くれぐれも自分の不在のことはナイルさんには‐―」
「分かっています。一応、護衛任務ですものね」
 
 とりあえず雪音さんに母屋のことは任せて根室さんの家へと車で向かう。
 
「一人で車に乗るのは久しぶりだな」
 
 車のラジオをつけて運転をし続け、目黒さんの家に到着したあとは金の一部を換金したお金をいただき家への帰路についた。
 母屋に到着したあと、「ただいま」と、玄関の戸を開けると、待っていてくれたのか、雪音さんが出てくる。
 
「おかえりなさい。五郎さん」
「今、戻りました」
 
 目黒さんの所から真っ直ぐに帰宅したこともあり、予定よりも早く自宅に戻ってくる事が出来た。
 靴を脱ぎ家に上がり、雪音さんの声がした台所へ向かう。
 台所に到着したところで――、
 
「おじちゃん、おかえりなさいなの!」
「おっさん、おかえり!」
「ただいま……」
 
 二人とも、お皿に入ったシャーベットを口にしながら挨拶してくる。
 
「アイスクリームを作ったんですね」
「はい。五郎さんも食べますか?」
「いえ、自分はとりあえず店の方に行ってきますので――、あと、これを――」
「はい。預かります」
 
 現在の月山家の資産管理は、雪音さんに丸投げしているので、俺は目黒さんに渡された100万円が入った封筒を雪音さんに渡す。
 
「それじゃ自分は、店の方に行ってきます」
「はい」
 
 俺は桜と和美ちゃんの頭を撫でたあと、店へと向かう。
 ちなみにフーちゃんはクーラーの下で仰向けになって横になっていた。
 犬は、暑さに弱いというのは、異世界の犬であっても同じのようだ。
 
 
 
 店に入ると、根室さんとナイルさんが丁度、談笑していたようで――、俺が戻って来た事に気が付いた二人は居住まいを正す。
 
「今、戻りました。何か、業務報告とかはありますか?」
「特には問題はありませんでした」
「そうですか。良かったです」
「ナイルさんも、どうですか?」
「私も特には――」
 
 おや? 意外だな? 異世界とは勝手が違うから何か質問があると踏んでいたんだが……。
 
「仕事に関しては、私が教えていますので大丈夫ですよ?」
「そうですか。根室さん、申し訳ありません」
「いえいえ。それより、ナイルさんって留学生なんですよね?」
「そうですね」
 
 まぁ、表向きは……。
 
「私、聞いた事のない国なんですけど、エルム王国ってどこにあるんですか?」
「そうですね、ロシアと中東の間のどこかですね」
「なるほど……」
 
 怪訝そうな表情で頷いてくれる根室さん。
 こんな大雑把な説明でいいのか? と、一瞬――思ってしまうが、納得してくれたのならOKとしておこう。
 
「ナイルさん」
「何でしょうか?」
「日本語は読めるんですか?」
「――いえ! まったく読めません」
「そ、そうですか」
「根室さん、本当に大丈夫ですか?」
「はい。仕事に関しては、いつも一緒に行動していれば大丈夫だと思いますので!」
「なるほど……」
 
 まぁ、基本的に根室さんはうちの店舗の大黒柱に近いモノがあるからな。
 ナイルさんに関して言えば根室さんに任せておけば問題ないだろう。
 
 二人に店番を任せた後は、レンタルしていたガスコンロを返す為に、中村石油店に電話をする。
 しばらくしてから、中村さんが到着し――、レンタルしていた機材を返却し支払いを済ませる。
 
「そういえば五郎、アレは外国人か?」
「まぁ、そんなもんです」
「ふむ……」
「そういえば中村さん」
「何だ?」
「今度、そこのトイレから少し離れたところにプレハブ小屋を建てようと思うんですけど、プロパンガスでいいので、ガスが使えるように工事をお願いできますか?」
「かまわんぞ。何時頃だ?」
「リフォーム踝に確認をとってからになるので……」
「分かった。それでは、またな」
「はい。今回は、助かりました」
「気にする事はない。陸翔のことで、五郎には迷惑をかけたからな」
 
 そう言い残すと中村さんは車に乗って帰ってしまった。
 
 
 
 一日の仕事も終わり、店のシャッターを閉める。
 
「ゴロウ様」
「どうかしましたか?」
「今日、一日――、平民の方と仕事をしていて思ったのですが……」
 
 何か問題でもあったのか? と――、考えてしまうが……。
 
「……」
「いえ! 特に不平不満があった訳ではないのです! それと、私には敬語は不要ですので!」
 
 俺が無言で考えていたのを変な風に捉えたようで、慌ててナイルさんが釈明してくるので、「敬語は、仕事をしていると自然と身に付くものなので気にしないでください」と、言葉を返しておく。







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