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第163話 異世界人の視察(5)

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「お気になさらず。それより異世界の方の様子はどうですか?」
「かなり驚いていました」
「なるほど。それは良い事です。それとリーシャさんの事ですが……」
「リーシャがどうかしましたか?」
「はい。かなり物覚えが良いと言うか……、誰かに地球というか日本についての知識を習っているように見受けられます」
「日本についてですか?」
「はい。もしかしたら、月山様が教えられたのでは? と、一瞬――、思ったのですが、そのようなことは?」
「ないですね」
「なるほど……」
 
 藤和さんが顎に手を当てながら考え口を開く。
 
「リーシャさんの事ですが、私の会社でしばらく預かっても宜しいでしょうか?」
「どうぞ! いつまでも可です!」
 
 思わず俺は即答しておく。
 
「分かりました。それでは、リーシャさんはしばらく私の方に預からせて頂きます」
「――ですが、リーシャさんが素直に応じるかどうか……」
「本人に聞いた方が早いかも知れませんね」
 
 そう言い残し、藤和さんは店の中に入っていく。
 その様子は、もう夜も暗いので店内はガラス越しに筒抜けだ。
 しばらく、リーシャと話していた藤和さんが、彼女を連れて戻ってくる。
 
「ゴロウ様!」
「はい。ゴロウです」
「話は伺いました! 私を娶る代わりに、こちらの世界の一般常識を身に付けるために奉公にでよ! と、伺いました!」
「藤和さん……」
 
 ジロリと、彼の方を見るが――、意に介さない表情で、
 
「これも色々とありますので」
「それは必要な事と受け取っても?」
「はい」
 
 仕方ない。
 藤和さんには異世界との交渉事は任せているから、ここで反対するのは不味いか。
 
「そうですね。リーシャさん、お願いできますか?」
「分かりました!」
 
 人間に化けているリーシャは元気よく答えてくる。
 
「それでは、私はリーシャ様と派遣の方――、業者の方を連れて一度戻りますので、明日にはご連絡致します」
「よろしくお願いします」
「はい。あと、月山様」
「何でしょうか?」
「こちらを異世界の方に渡しておいてもらえますか? 必要になると思いますので」
 
 渡されたのは、海外旅行などで使うような大きなキャリーバッグ。
 
「中には一体、何が……」
「あちらの王族の方を交渉の場に引き摺り出すモノとお考えいただければ――」
「王族の方? 王族の方は王女様が来ているような……」
「いえいえ。身分だけ王族の方が来られても意味はありませんので――、実質の王族の方との交渉の場が欲しいのです」
「それは、営業をかける上で決裁権を持つ相手を探すような?」
「そんなところです」
「なるほど……。分かりました。それでは、預かっておきます」
「使い方については、ヴェルナー卿かリコード卿に教えておいて頂ければ問題ないと思いますので。それでは、そろそろ帰りませんと派遣の方も待たせていますので、また明日――」
「お気をつけて」
「はい。それでは失礼します」
 
 話しが一段落ついたところで、藤和さん達が乗った車やトレーラーなどが一斉に駐車場から出ていく。
 それを見送ったあと店内に入ると、疲れた様子の根室さんの姿が――。
 
「お疲れ様です。今日は、無理をお願いしてしまい申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず」
「店の戸締りは自分がしておきますので、もう帰ってもらって大丈夫です。今日は、本当にお疲れ様でした」
「お疲れ様です。あっ! 月山さん」
「はい?」
「明日からは、リーシャという女性もシフトに入るんですか?」
「いえ。そういう予定はありません」
「そうですか……」
「何かリーシャが問題でも?」
「いえ! すごく物覚えがいいので助かりましたので! 出来れば、人が増えると品出しやレジ打ちも楽になると思って」
「なるほど……」
 
 たしかに店の規模の割には、人員が少ない。
 ただ、普段は買い物客が滅多に来ないので、少ない人員で回ってしまう。
 忙しくなると、そこがネックになるのか……。
 そうなると人員補充は急務なのかも知れない。
 
 ――あっ! そういえばナイルさんとか仕事してくれないかな?
 
「そうしますと、しばらくは今の人員のままですか?」
「そうなります。もしかしたら、男性が一人入るかも知れませんが、その時は宜しくお願いします」
「分かりました。お幾つくらいの方ですか?」
「そうですね……、あそこに立っている方ですね」
「――! が、外国の方ですか?」
「そんな感じです」
「そんな感じですか?」
「はい」
 
 ナイルさんに関しては詳しいことは言えない。
 村長からも口止めはされているし。
 
「そうですか……」
 
 少し不安そうな表情を根室さんは覗かせた。
 彼女が帰ったあとは、店を閉める。
 
「ナイルさん、お待たせしました」
「――いえ。何か私の方を見て先ほど帰られた女性と話されていましたが何かありましたか?」
「実はナイルさんの事を聞かれまして――」
「なるほど。そういう事でしたか。それでは、今度、お会いした時にゴロウ様の護衛についている事を伝えておきます」
「そういうのはいいので」
「そうですか? ――ですが、ゴロウ様の事に関してですので、最低でも雇っている人間に対してはある程度の情報開示は必要なのでは?」
「ナイルさん、じつは異世界との交流に関しては内密で行っている極秘事項なのです」
「……どういう事でしょうか?」
 
 ナイルさんが眉を顰める。
 
「ノーマン辺境伯様と、自分が膨大な塩の取引をしているのは知っていると思いますが――」
「それはもちろんです」
「塩というのは人間の生命を支える必需品です。それを少量ではなく莫大な量を取引するとなったら国が出てくる事になります」
「なるほど……、つまり国同士の国交が必要になり、色々と問題が出てくると――、そうゴロウ様はお考えなのですね?」
「まぁ、そんなところです」
「…………分かりました。それでは、私の身分については明かさない方が得策かも知れませんね。――それでは私は何と言う身分に致しましょうか?」
「そうですね……、外国人技能実習制度を利用した実習生というのはどうでしょうか?」
「それは、一体何なのでしょうか?」
「簡単に言うのなら、他国で勉強をしながら、他国の仕事内容を学ぶという制度ですね」
「――なんと!? そんな危険な制度を推奨している国があるのですか!?」
 
 外国人技能実習制度の何が危険なのか俺には今一分からないが――、
 
「そ、そうですね……」
 
 一応、話を合わせておく。
 
「そんな制度を取り入れている国は、相当危険ですね」
「危険?」
「はい。自国の技術を他国の者に教えるなど、自殺行為に他なりません。その者が国に戻ったあとに同じ品質の物を作れば国力のバランスが崩壊します。まったく! 愚かとしか言えません。普通、そんな制度を作る輩が存在していればエルム王国でしたら縛り首モノです」
「……そ、そうですね……」
「ま、まさか……」
「……」
「先ほどのゴロウ様の話しぶりから、そんな制度を、この国は行っているのですか?」
「そのまさかです……」
 
 俺の返答にナイルさんは深く溜息をつく。
 
「とりあえずナイルさん。ナイルさんは技能実習生と言う事で説明しますので、お願いします」
「…………分かりました」
「それでは母屋に戻りましょう。王宮からの方々を、辺境伯領に戻さないといけませんので」
 
 頷いたナイルさんを連れて母屋へ。
 
「ただいま戻りました」
「五郎さん、お帰りなさい」
「どうですか? 皆さん、そろそろお開きの様子ですか?」
「それが……」
 
 苦笑いをしてくる雪音さん。
 それで何かがあったと思い至り客間へ向かうと、そこには――、アロイスさんとルイーズさん以外、畳の上で寝ている人達の姿が目に入ってきた。
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