田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第155話 日本の説明(6)

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「あれは車と言って馬車と同じような乗り物と考えてください。魔物ではありませんので」
「そうですか……、申し訳ない」
「――いえ。ご理解頂ければ幸いです」
 
 藤和さんに向けて頭を下げるナイルさん。
 どうやら藤和さんも俺の同じ説明をしたらしいが、納得していなかったようだ。
 
「それにしても珍しい馬車ですね。馬などで引いていないようですが……」
「馬が無くても走りますから」
「なんと! それは――、それでは魔法か何かで?」
「それに近いモノです」
「そうでしたか! それにしても、あそこに居られる方は、そのような珍しいモノに乗っているという事は貴族なのですか?」
 
 ナイルさん、完全に勘違いしている。
 思わず顔を見合わせる藤和さんと俺。
 
「ナイル様、彼らは職人です」
「職人でも、あのようなモノを持てるのですか?」
「はい。それが、この国ですので――」
「なんと!」
「――では、自分は職人と打ち合わせがありますので、あとはよろしくお願いします」
「畏まりました」
 
 恭しく芝居じみた対応をしてくる藤和さんにナイルさんの応対を任せたあとは、鎧や盾を立て掛ける木組みや、設置場所を相談して決めていく。
 そして作業が終わった頃には、夏という事もあり日が昇りかけているところであった。
 
「もう6時か」
「何とか終わりましたね」
「そうだな……」
 
 踝さんと話をしつつ、あと数時間で猟友会の集まりが始まるとなると睡眠も殆ど取れていない事から億劫になりかけるが頑張るしかない。
 お金を包んだ封筒を職人さんや工務店――、踝さんに渡したあと解散する。
 
「月山様」
「どうかしましたか?」
「少し所用がありますので、少し席を外しますが大丈夫ですか?」
 
 訳すと、藤和さんも自宅に戻って休みたいというところだろう。
 ずっとナイルさんや辺境伯達との対話を任せてきたのだから疲労も蓄積していて疲れているに違いない。
 
「分かりました」
「それでは失礼します」
 
 藤和さんが車に乗り駐車場から出ていくのを見送ったあと店のシャッターを閉めてナイルさんと共に家に戻ると――、
 
「おかえりなさい。業者の方とはどうでしたか?」
「一通り終わりました」
「そうですか。それとナイル様でしたか?」
「はい。お久しぶりです」
 
 以前に、雪音さんとナイルさんは会った事があるので挨拶はすぐに済む。
 
「朝食は出来ていますので客間で待っていてくださいね」
 
 既に朝食の仕度を終えていたのか客間で待っているとすぐに、ご飯やお味噌汁などを持って雪音さんが部屋に入ってくる。
 料理が運び終わったあと、俺とナイルさんだけで朝食を取ることにするが――、ナイルさんは日本料理をいたく気に入ったようで終始、雪音さんの料理の腕を褒めていた。
 
 食事を終えたあとは、仮眠をとる事にするが――、
 
「ゴロウ様、たしか此方の世界とは時差があると聞いておりましたが――」
「そうですね」
 
 二人して、麦茶を飲みながら会話をする。
 
「それでしたら王家の方を待たせると面倒ですので、辺境伯邸で休憩をされた方が宜しいかと思います」
「なるほど……」
 
 たしかに、その方がいいかも知れない。
 余計な面倒ごとは作らない方がいいだろうし……。
 雪音さんに異世界に行ってくる旨を伝えたあとはナイルさんを伴って異世界へ。
 
 店から出るとリーガルさんが待っていて、ナイルさんに異常が無いことを報告していた。
 そのあとは馬車に乗り辺境伯邸へと向かった。
 
 
 
 いつもは、辺境伯邸の中まで止められることは無いのに今日は初めて待たされる事となった。
 まぁ、時刻は此方の世界ではすでに午後8時に近いのだから仕方ないのかも知れない。
 待たされたと言っても時間的には10分ほど。
 
「ゴロウ様、お待ちしておりました」
 
 辺境伯邸の入り口――、ホールに到着したところで俺を出迎えたのは、アロイスさん。
 何時もは騎士風の鎧を着ていたけど、いまは光沢のある絹と思われる服を着ており、その上から淡い紺色のトーガを羽織っている。
 
「……アロイスさん、何時もとは雰囲気が違いますね」
「はい。ノーマン様より異世界に同行するのなら、鎧甲冑を着るのはよろしくないと言われまして――」
 
 なるほど……。
 たしかに日本では鎧を着ている人はいないし、ノーマン辺境伯は異世界に一度は来た事があるのだから、配慮してくれたのかも知れない。
 
「そうですか。それで、あと3時間ほどで私の世界へお連れしたいのですが」
「はい。話しはリーガルから上がってきておりますので、そのように手配は済んでおります」
 
 どうやら、リーガルさんが話を上げておいてくれたようだ。
 
「分かりました」
「アロイス様」
「どうかしたのか? ナイル」
「はっ。ゴロウ様は、王家の方を招待するに当たって短い時間で用意をしておられましたので疲れているので――」
「なんと……。ゴロウ様、御身体は大丈夫でしょうか?」
「とくには――、睡眠不足くらいですので」
「なるほど。それでは、薬(ポーション)を用意させましょう」
「薬を飲むほどでは……」
「王家の方と接するのですから何か問題が起きた場合、困りますので」
 
 そう言われると、こちらの方としても断れない。
 
「よろしくお願いします」
 
 素直に受け入れるほかはない。
 アロイスさんからの提案を受け入れる。
 そしてすぐに、アロイスさんの命令でメイドさんが薬を取りに、その場を離れる。
 
「それではゴロウ様、執務室にてノーマン様がお待ちしております」
「分かりました」
 
 どうして執務室で? と、内心で思ったが会えば分かると思い歩き出したアロイスさんの後を付いていく。
 いつもは屋敷のホール近くの客室が話し合いの場だったが、今日は屋敷の奥まで進むと、突き当りに両開きの扉が見えてくる。
 
「こちらになります。ノーマン様、アロイスです。ゴロウ様が来られました」
「うむ」
 
 すぐに返事が返ってくる。
 それに呼応するかのようにアロイスさんが執務室の扉を開けた。
 部屋に足を踏み入れる。
 室内の広さは、俺が普段は寝起きしている居間の3倍くらいはあるが執務室内は綺麗に片付けられていて埃一つ落ちていない。
 
「待っておったぞ」
「時間が掛かってしまい申し訳ありません」
「うむ。気にする事はない」
 
 話しをしながら室内を見渡すが、俺とアロイスさんとナイルさん、そしてノーマン辺境伯以外の姿はない。
 
「安心してよい。ここには身内しかおらんからの」
 
 その言葉に少しだけ安堵する。
 
「――さて、異世界での用意は順調かの?」
「はい。一応、問題なく演習を御見せできると思います」
 
 言葉を選びながら返答する。
 
「ふむ……」
 
 そこで、ノーマン辺境伯は言葉を切ると――、
 
「ところでゴロウ」
「はい」
「一つ頼みがあるのだが」
「頼みですか?」
「うむ。王家の者に異世界の料理を食べさせたいと考えておる。何か、すぐに用意できるものはあるかの?」
「すぐにですか……」
「食文化というのは国の根幹を支えるモノの一つだという事はお主も理解しているであろう?」
 
 その言葉に、たしかに! と、内心頷く。
 それだけに適当なモノを出すのは――、と考えてしまうが……。
 
「料理人を手配する時間はありませんが……」
 
 あっても雪音さんの手料理くらいだし。
 最悪、俺が料理を振る舞っても問題ないけど……。
 
「帝国と言ったか? あそこまでの料理をすぐに用意しろとは言わん。だが――、それなりの料理を用意してほしい」
 
 それなりと言われても……。
 正直、どの程度の料理を用意していいのか皆目見当もつかない。
 
「辺境伯様、やはり王族の方や身分の高い方という事ですので、それなりの料理を普段から――」
「うむ」







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