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第153話 日本の説明(4)

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「それで、五郎さんから見て王女様は可愛かったですか?」
「かなりの美少女でした」
「なるほど……、つまり年下ということですか? ふーん。そうですか……」
 
 何だか、すごく不機嫌そう……だ……。
 
 ――と、とりあえず此処は俺の気持ちをハッキリと伝えておく必要がある。
 変に勘繰られても困るからな。
 
「雪音さん!」
「――え? あ、はい」
「誤解されても困りますので、雪音さんには以前にもお伝えした通り、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いている事だけは自分は忘れていませんので、ご安心してください」
「はい……」
 
 彼女が、顔を真っ赤にして小さく頷く。
 それを見て何とか説明が出来たと俺は胸をホッと撫でおろす。
 
「あの……、五郎さん……」
「何でしょうか?」
「あそこに居る女性は誰なのでしょうか?」
「え?」
 
 雪音さんの指差す方向――、そこには露出度の高い服を着たままのリーシャが座っていて麦茶を飲みながら此方を見てきていた。
 
「えっと、リーシャさんです」
「リーシャさん……ですか? えっと、名前からして異世界の方という感じを受けますけど……」
「はい。異世界から来られた方です」
「それってナイルさんのような立場のある?」
「それとは若干異なっています」
「えっと……、どういうことでしょうか?」
「何と言うか……ハイエルフの方です」
「エルフ?」
 
 きょとんとする雪音さん。
 その視線は、ジーッと座布団の上で座っているリーシャに向けられる。
 
「あの……、私の知っているエルフって金髪の白い肌の方のイメージが……」
「異世界ですから」
「そうなのですか?」
 
 俺と、雪音さんが話している間にもリーシャは座布団の上から立ち上がると目の前まで近づいてきて――、
 
「ハイエルフ族の巫女をしておりますリーシャと言います。お話を伺っている限りではゴロウ様と婚約されているという事で宜しいのでしょうか?」
 
 リーシャとは思えないほど、まともな挨拶をしてくる。
 もっと天真爛漫な態度を取ると思っていただけに予想外だ。
 
「そうなります……」
 
 それに答えたのは雪音さん。
 
「なるほど……。――と、なると私は側室という形になるのでしょうか? ゴロウ様?」
「まずは、そのへんは藤和さんに確認してください」
「家令の方ですか……」
 
 その様子から、何となくだがリーシャは藤和さんが苦手な印象を受ける。
 まぁ、ナイルさんと共に藤和さんに付いて行かなかったあたりもしかしたらそうなのかも知れないが……。
 
「分かりました。それで、私は少し外に出ていてもいいですか?」
 
 ずいぶんとアッサリと引き下がるリーシャに違和感を受けながらも、
 
「そうですね。――ですが、あまり遠くには行かないようにしてください。今日は大事な行事があるので」
「分かっています」
 
 そう言葉を返しながらリーシャは縁側から外へと飛び出してしまう。
 もちろん背中の蝙蝠のような羽をパタパタと動かしながら空へと――。
 
「あの五郎さん」
「何でしょうか?」
「彼女は、ハイエルフなんですよね? 角が生えていてもハイエルフですよね?」
「そうですね」
 
 俺が何度も通った疑問に、雪音さんは眉間に指を当てながら小さく息を吐くと――。
 
「異世界ってすごい所ですね」
 
 それには、俺も同意せざるを得ない。
 俺は頷くことで肯定の意を示しておく。
 
「――あと、五郎さん。側室って言っていましたけど、どういうことか説明してもらってもいいですか?」
「あ……、それは――」
 
 とりあえずリーシャとの関係性を軽く説明する。
 
「結界の維持ですか……。それは王女様よりも、ずっと厄介かも知れないですね」
「やっぱり雪音さんも、そう思いますか?」
「はい。それで五郎さんは、どうするか決めたのですか?」
「自分は雪音さん一筋です」
「――! そ、そうじゃなくて……あ……そういうことじゃなくてですね……、あのリーシャさんって人をどうするのかって……ごにょごにょ」
 
 いつもは自分の意見をハッキリと伝えてくる雪音さんが顔を真っ赤にして言葉少なく曖昧に話してくるのは何というか、とっても可愛らしいと思ってしまう。
 
「あっ! 電話が鳴っています!」
 
 間がもたなくなったところで電話が鳴る。
 雪音さんが電話を取ったあとで――、
 
「あの……、五郎さん。踝さんから、あと少しで到着するって電話がありました」
「そうですか。それでは、外にいる藤和さんに報告してきてもらえますか? 自分は、異世界に行って鎧や盾がどのくらい用意されているか進捗を見てきますので」
 
 とりあえず、リーシャのことは後回しにすることにする。
 まずは目先のことを優先にやらないとな。
 
 
 
 雪音さんと別れたあと、中庭を通りバックヤード側から店内へ。
 店の外はまだ明るく外を見ることができる。
 外には、辺境伯の兵士達が鎧や盾などを運んでいる姿が確認できた。
 
「思ったより早く行動している?」
 
 そう思いながらも、王家からの介入を含めたら、辺境伯側も早めに行動をして準備しておきたいというのは当たり前かと思い――、バックヤード側からホームセンターで購入した折り畳み台車を取り出す。
 
 店の外に出れば、当然のごとく話しかけてくる兵士。
 
「ゴロウ様、お待ちしていました」
「これはリーガルさん」
「リーガルで構いません。ノーマン様と対等に交渉できる方に、敬称を付けられても困ります」
「分かりました。――ではリーガル。すでに鎧や盾などの手配は済んでいるんですね」
「はい。ノーマン様からの指示で迅速にということですので」
「なるほど……」
 
 こちらが異世界で手配をしている間にも、辺境伯側でも準備を急いでいたと――、そういうことか。
 つまり、相手側も今回の商談に関しては成功させたいと思っているわけか。
 
「――では、こちらの台車に載せて貰えますか?」
「分かりました。おい! これに用意した鎧や盾を載せろ」
 
 リーガルさんの命令に兵士達が頷き鎧や盾を台車の上に重ねていく。
 見た目からして重量がありそうだから、盾を載せまくるのは止めてほしいんだが……。
 
「それでは、ゴロウ様。何度か往復して頂く形になりますが」
「分かっています」
 
 鎧や盾が台車に載った状態で、台車を押し店の中に入る。
 当然、思った通り鎧も盾も重く台車が軋む。
 思わず「お、重い……」と、言いかけたのは内緒だ。
 全ての鎧と盾を運んだあと、異世界側へと出る。
 
「これで全部でいいんですよね?」
「はい。一応は10人分ですので」
「――あ、あれで……」
 
 思わず溜息を洩らしそうになるが――、
 
「思ったよりも多かったのでびっくりしました」
「予備の鎧と盾ですので……、もっと必要でしたらご用意致しますが如何いたしましょうか?」
「いえ。十分です。それよりも、言付けをお願いしたいのですが――」
「何でしょうか? ノーマン様へ――、という形で宜しいのでしょうか?」
「はい。辺境伯様へは、4の鐘の時間に伺うことをお伝え頂けますでしょうか?」
「4の鐘ですね。分かりました。たしかにお伝えいたします」
 
 午前8時に辺境伯邸へ伺うことを伝えてもらうように頼んだあと店の中に戻りシャッターを閉める。
 
「――さて、今度は鎧と盾を店の外に運びだすのか……」
 
 総重量は、たぶん40キロ近いと思うが――、取っ手が無いのでそれ以上の重さに感じる。
 正直、台車に乗せ換えて外に運ぶのは……。
 
「ああ、そっか」
 
 そこで気が付く。
 異世界側と違って日本側では、普通に誰でも店の入り口から入れることに。
 それなら業者の人に運んでもらった方が楽かもしれない。
 ただ、数日後には筋肉痛になってそうだけど。
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