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第151話 日本の説明(2)

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「そうですね……、家を建てるというとお金が掛かりますから……」
「その点に関しては、今回の話し合いと商談が上手くいけば特に問題はないと思います。むしろ上手くいかないと困りますので」
「それはそうですが……」
「それに、月山様の警護に付けられた方は貴族出身ですが、それだけです」
「――?」
 
 思わず何を言ったのかと心の中で首を傾げてしまう。
 
「まず彼は貴族籍の方ですが、日本では何の効力もありません。そして何より、一介の貴族が、今回の話に口を出しても、どうすることも出来ないと言う事です」
「ナイルさんは、ノーマン辺境伯領の貴族ですよね?」
「はい。ですが、今回の話し合いのテーブルは既に辺境伯や王家が席について話を進めている段階なのです。会社の役員会議に、平社員が意見を具申して採用される事がありますか? それと同じなのです。もう、一貴族が口を挟める段階はとうに過ぎていますので大丈夫なのです」
 
 何となく分かってきた。
 つまり、いまさらナイルさんがどうこうしようとしても話の大勢は決してしまっているので、意味は無いと言う事か……。
 
「それよりも、問題はこれからのことです。すぐに鎧や盾などを立て掛ける為の工事の手配が必要になります」
「――え? でも……」
 
 俺は腕時計を確認する。
 時刻は、午前4時。
 この時間に動かせる業者はいない。
 
「さすがに時間的に業者を手配するのは難しいですね」
「…………月山様」
「何でしょうか?」
「月山様は、工事業者には猟友会で使われる設備設置をした支払いなどは済ませているのですか?」
「もう終わっていますが……」
 
 工事業者に支払った金額などを藤和さんに説明していく。
 最初は、眉間に皺を寄せていた彼だったが……。
 
「なるほど……、本来なら相手の言い分で支払ったということで問題ですが……、本当は私を話しを通して下さっても良かったのですが……、今回はプラスに働きそうですね」
 
 ――ん? どういうことだ?
 
「工事業者の方々から名刺などは受け取っていますか?」
「もちろんです」
「――では、いまから電話をかけてコンタクトをとりましょう。それなりのお金を提示すれば来てくれるでしょう」
「いまからですか!?」
「はい。相手は、言い値で払ってくれた月山様のことを良客として認識しているはずのですので、それなりに色をつければ応対してくれるはずです」
「……分かりました」
「それでは、私はナイル様と今後の事に関して打ち合わせをしてきますので――」
 
 そこで足を止める藤和さん。
 
「――あと、できれば雪音さんには話を通しておいてください。ナイル様が、母屋で暮らす可能性は非常に高いと思いますので」
「分かりました。ところでリーシャさんは、どうしますか?」
「リーシャ様に関しては、うちの営業所で働いてもらいます。事務所内作業でしたら、周りへの影響も最小限に日本の事に関して学んで頂けると思いますので」
「それで納得しますかね……」
「大丈夫です。月山様は業者への連絡を最優先にお願いします」
 
 俺は頷く。
 これ以上、話をしていても時間の浪費に他ならない。
 俺は雪音さんへの説明と業者手配。
 藤和さんは、ナイルさんとリーシャへの今後の説明。
 それを短時間で終わらせてから、異世界――、辺境伯が用意してくれている防具などを受け取りにいき、それと再度持ってきて設置しなければならない。
 やる事は山積みですぐに行動に移さなければ……。
 
「まずは、雪音さんに報告か……。いや――工務店への依頼の方が先か?」
 
 雪音さんに情報を知らせる必要はあるが、それは直ぐにという訳でもない。
 むしろ業者への連絡が、最優先だろう。
 それにしても――。
 
「朝4時か……」
 
 思わず溜息が出てしまう。
 保守契約を結んでいる訳でもないのに、こんな朝から電話することに少し考えるところはあるが……。
 それでも背に腹は代えられない。
 居間に行き名刺入れの中から、先日――、工事に来た工務店の名刺を取り出し書かれている電話番号を電話子機に入力し終える。
 数度の発信音のあとに、ガチャリ! と、通話を示す音が聞こえてくる。
 
「はい。踝ですが……」
 
 かなり眠そうな声。
 さすがに隣村の工務店へ直接電話をするのは、気が引けることから一応は知り合いの元へと電話をすることにしたが――。
 
「俺です」
「…………五郎か? どうかしたのか? こんな朝早くから――」
 
 すぐに反応が返ってこない事から寝ていたのだろう。
 
「実はお願いがありまして――」
「ああ、いいぞ。――で! 今回は、何だ?」
 
 即答――、まったくの逡巡なしに返してくる言葉に俺はさすがに、どうなんだ? と、思いながら話を続ける事にする。
 
「実は、今日のイベントの件で幾つか設置してもらいたいオブジェクトがあるんです」
「ほう……。今日の猟友会のイベントは午前10時からスタートだったな?」
「そうですね」
 
 一瞬、間が空いたと思ったところで――、
 
「そうなると、すぐに作業に向かわないといけないか。――で、どれだけの規模の作業が必要になるんだ?」
「即答ですか……」
 
 さすがの俺も、思ったことを口にしてしまったが、
 
「金払いがいいクライアントの要望はなるべく聞くのが、不景気を乗り越える秘訣だからな」
「……そ、そうですか……」
 
 藤和さんが言っていた多めに料金を払っていた事が、こんな副作用を産むとは思わなかったが、嬉しい誤算でもあるが……、また懐が寂しくなることに内心、溜息が出かけるが――、ここで失敗すると生活も立ち行かなくなると考え――、引き締める。
 
「――で、規模は?」
「そうですね。中世の鎧をショットガンやハンティングライフルの的にしようと考えているんですが……」
「それは面白そうだな。――で? 許可は得ているのか?」
「一応、的に当てるような発砲関係については田口村長が許可を取ってくれる手筈になっています」
「それなら安心だな。――それで、人数が必要なのか?」
「一応は――」
「分かった。とりあえず声を掛けてみるから、此方からの連絡を待ってくれ。くれぐれも直接は電話するなよ?」
「分かりました」
 
 とりあえずは踝さんが確認を取ってくれることになってよかった。
 名刺は、貰っていたが普段から付き合いが無い所に、朝方から電話をするのは流石に失礼に当たるからだが――、
 
「とりあえず雪音さんを起こして事情を説明するか」
 
 雪音さんが寝ているであろう居間の襖を、これから起こすというのに音を立てないように開けるが、そこには布団はなく雪音さんの姿も見当たらない。
 
「――ん?」
 
 ……一体、どこに……。
 
「どうして、ここで寝ているんだ……?」
 
 居間に行くと、俺が普段寝ている布団――、最近は雪音さんが布団を干してくれているので煎餅布団から座布団へとクラスアップを果たした布団に姪っ子の桜と雪音さんが二人で寝ていた。
 しかも桜は、雪音さんと身体を密着させているので、雪音さんだけを起こすのは難しい。
 
「これは困ったな」
 
 とりあえず、雪音さんの肩を揺さぶってみるか。
 雪音さんが羽織っているタオルケット。
 一枚の布地越しに彼女の肩に手を置き何度か揺さぶると、すぐに反応が返ってくる。
 
「……ご……五郎さん? もう戻られたんですか?」
「はい。少し問題が起きたので、早めに戻ってきましたが、すぐに異世界に戻らないといけないので……」
「…………」
 
 ボーッと、俺を見てきている雪音さん。
 どうやら、寝起きは強くないようで――、しかも寝てからそんなに時間も経過していない。
 つまり、寝不足状態なのだろう。

 幸い、桜が起きた様子はなく、フーちゃんも桜の横で伏せて寝ている。







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