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第150話 日本の説明

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「そうですか……」
 
 領地運営と店員では仕事の内容がまったく異なるんだが……、まあ――、何とかなるか? 最初から仕事のできる人なんていないからな。
 出来ないなら育てればいい。
 
「それと正規兵の甲冑と鎧の手配については鐘一つほどで可能になると言う事です」
 
 つまり2時間ほどで用意が出来るということか……。
 
「分かりました。――では、急ぎましょう」
「それより、リーシャ様はどちらに?」
「ナイルさんの後ろに立っています」
「いま……あなたのうしろに立っているの……」
 
 フッ! と、ナイルさんの耳に背後から息を吹きかけるリーシャ。
 思わず驚き、その場から立ち退くナイルさん。
 
「――リ、リーシャ様。あまり、驚かさないでください。心臓に悪いです」
「ごめんなさいね。何か、ゴロウ様が悪戯するように! って、目で見て来たから」
「そんな目で見たことは一度もない」
「それは、困ったわね」
 
 唇から舌を出して反省の色を見せないリーシャ。
 正直、リーシャに関しては店舗で店員として雇用するのは難しい気がする。
 
「ゴロウ様、その点はご安心ください。リーシャ様には、別のことをお願いする予定ですので」
「……そ、そうですか……」
 
 まるで俺の考えていることをエスパーのごとく読み取って先回りして説明してくる藤和さんに少し戦慄を覚えたんだが……。
 
「ゴロウ様、兵の手配もありますので向こうの世界に行かれるのでしたら急ぎましょう」
「――ナイル様」
「何でしょうか? たしかトウワ殿でしたね?」
「はい。鎧と盾なのですが、すぐに用意出来るモノはありますか?」
「はて? 時間まで待つ事は出来ないのですか?」
「それなのですが、どの程度の規格の物を渡されるのか――、それを見せて頂きたいのです」
「分かりました。それでは私が、いま着ております鎧をお渡しましょう」
「――え? 宜しいのですか?」
「一応、ある程度は手を加えておりますが、一般の正規兵が使っているものなので。壊さないのでしたら、一時的にお貸しいたします」
「ありがとうございます」
 
 数量が届くまでの見本ということで藤和さんは言い出したのだろう。
 
「それでは急ぎましょう」
 
 ナイルさんの言葉で話しが纏まったところで、辺境伯邸から出る。
すでに用意されていた2台の馬車に、それぞれ乗り込んだあと町の中心部――、月山雑貨店へと俺達を乗せた馬車は走り出す。
 
 
 
 辺境伯邸から、町の中を通り店先に到着。
 
「それでは、藤和さんから店の中に案内しますので――」
 
 まずは藤和さんの手を掴み店の中へ。
 次にリーシャ。
 ちなみにリーシャの手を握るときは、彼女は頬を赤らめていた。
 
「それでは、ナイルさん」
「よろしくお願いします。――とっ! その前に……、リーガル!」
「はっ!」
 
 店前で立っていた兵士達の内の一人。
 それが、俺達の前に進み出てくる。
 年齢は20代後半くらい。
 髭なども生やしておらず衣服も茶色のベストに紺色のズボンにブーツといった具合で、他の兵士よりも軽装であった。
 
「ゴロウ様、こちらは私の副官でリーガルと言います」
「リーガル・マウスマンです。以後お見知りおきを――」
「こう見えてもリーガルは騎士爵の者ですので礼儀は問題ないと思いますが、今後の店前の兵士に関しましてはリーガルが担当する事となると思いますので――」
 
 とりあえず藤和さんには極力、話さないようにと言われていたので、俺は頷くだけに留める。
 そんな俺の態度にリーガルさんは特に気にした様子もなく頭を下げてきた。
 
「それではリーガル、あとは任せたぞ?」
「はい!」
 
 ナイルさんとリーガルさんの話が終わったタイミングで彼の腕を掴み店の中へと案内する。
 
「お待たせしました」
 
 待たせておいた3人に話しかける。
 
「それでは月山様、まずは向こうの世界へ移動しましょう。そんなに時間は掛けていられませんので」
 
 その言葉に頷き、すぐにバックヤード側から異世界――、日本側へとナイルさんとリーシャを連れて移動する。
 
「時刻は午前3時ですか……。思ったより時間がありませんね。すぐに作業に取り掛かりたいのですが、まずはお二人に此方の世界での事を説明する必要がありますね」
 
 たしかに、バックヤード側から日本側に出てきて裏庭に居るわけだが、二人とも店の裏手と母屋の壁との間の狭い空間にいるからなのか不安そうな表情をしている。
 それに、あたりは暗く――、バックヤード側から出た場所には灯りもないから当然かも知れない。
 
「ナイルさん、リーシャさん、こちらに来てください」
 
 とりあえず母屋の方へと案内する。
 母屋の敷地側へ通じる戸を開けて母屋の軒先へ――、戸をガラガラと音を立てながら開けてから――、
 
「それではナイルさん、リーシャさん、履いているモノを一回脱いでから土間から上がってもらえますか?」
「――え? 裸足で家の中に上がるのですか?」
「はい。自分が住んでいる日本は履物を履いたまま家の中には上がらないので」
 
 俺の説明にとりあえず二人は納得して頷き土間で、それぞれサンダルとブーツを脱いで家に上がってくれる。
 
「――では、こちらが客室になりますので」
 
 すぐ近くの何時も客室として使っている部屋に案内するが、何となく二人の表情が強張っているような気がするのは気のせいだろうか?
 
「こちら座布団になります」
「座布団?」
「はい、畳の上にそのまま座ってもいいんですが、普段座り慣れてない方だと大変だと思いますので」
「そうですか……」
「これが……」
「ところで――、ゴロウ様。こちらは使用人の屋敷か何かなのでしょうか?」
「――え?」
 
 辺境伯には、月山家は貴族という事で一応、話は通してある。
 そして、うちにナイルさんが派遣されたと言う事は、辺境伯から話が通っている事に違いない。
 そして、それは貴族の家に行くことと……、そう思われている確率は非常に高く、貴族の家という認識なら家が小さいというナイルさんが気になったのを聞いてきたのは当たり前とも言える。
 使用人の家と本宅があるのなら、それを考慮に入れて警護をするのは普通だからだ。
 
 ――なので、ナイルさんは聞いてきたのだろう。
 
 まぁ俺だって、思わず聞かずにはいられないと思うし。
 うちの母屋と辺境伯邸などと比べるまでもないのだから。
 
「こちらが本宅となります」
 
 ナイルさんの問いかけにあっさりと答える藤和さん。
 さらに話は続く。
 
「月山様は、こちらの土地に移動してきてから時間が経過しておりませんので――」
「なるほど……、つまりゴロウ様は本宅を今後は建てる予定があると……」
「そうなります」
 
 ――まってほしい! 俺の家は、このままいく予定ですけど!?
 話しを勝手に進められても困る。
 
「そういう事ですか。それなら、護衛は簡単ですね」
 
 藤和さんの説明に頷いて納得するナイルさん。
 それより、ふと気になったことがある。
 辺境伯もナイルさんと同じように思っていたのかと……。
 そうなると俺の貴族設定も崩れてしまうんだが……、
 
「ご理解頂き助かります。ナイル様、それでは今後の事に関しまして当家の者だけで一度、段取りをしてきますので、こちらでお待ち頂いても宜しいでしょうか?」
「分かりました」
「それでは月山様」
 
 藤和さんに促されて部屋から出たあとは台所の方へと移動。
 
「藤和さん。あれで大丈夫だったんですか?」
「あれとは?」
「使用人の屋敷とナイルさんが聞いてきた件についてです」
「その事に関しては今後の対応という形にしましたので問題ないでしょう」
「問題は、大有りだと思いますが……」

「本宅を建てる件ですか?」
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