田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第149話 王国との交渉事(5)

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 藤和さんの説明に、ルイーズさんとエメラスさんの視線が絡みあう。
 しばらく二人で目で見つめ合ったところで――、
 
「お話の件は理解致しました。――ですが、いまは席を外しております者がおりますので、すぐに了承することは……」
「よいではありませんか! 姫!」
 
 ルイーズさんが話している所で、割って入ってきた太った男。
 その後ろには、先ほど退出したリコード卿が付き従っていた。
 
「ヴェルナー卿……、話を聞いていたのですか?」
「はい。声が廊下まで漏れておりましたので、つい――。それよりも、月山家ですか! いやー気になりますね! ぜひ! 異世界に招待して欲しいものです」
 
 ニヤリと笑うヴェルナー卿。
 身長は150センチほどしかないだろう。
 だが、樽のような身体は小太りからは程遠い。
 
「よいのですか? ヴェルナー卿」
「もちろんだとも!」
 
 リコード卿の言に、笑みを浮かべながら答えるヴェルナー卿。
 
「ありがとうございます。それでは、演習につきましてご説明させて頂きます」
 
 藤和さんは頭を下げたあと説明を始めた。
 
「演習につきましては、我が月山家の領内で行う手筈となっております」
「ふむ」
 
 藤和さんの説明に、それは当然とばかりに頷くヴェルナー卿。
 
「――ですが、一つ問題がありまして……」
「問題とは?」
 
 リコード卿が疑問を呈してくる。
 対して、ヴェルナー卿は殆ど気にしていないように見えるが――、
 
「こちらの世界と私達の世界では時間差があるのです」
「時間差?」
「ヴェルナー様、私達の世界と此方の世界では12時間の時間の差があります」
「そうなのですか!?」
「はい」
 
 エメラスさんの呟きに端的に答える藤和さん。
 そして、それと共にヴェルナー卿の視線がノーマン辺境伯へと向かう。
 
「こちらの者が言う通りです」
「なるほど……。ノーマン辺境伯が、異世界に赴いたという話は伺っておりましたが、世界間が違うだけで、時間も差異があるとは……。ずいぶんと面白いモノなのですな」
「それでは、話の続きをさせて頂いても?」
「うむ。それでは、そちらの世界に赴く時も違う――、そういう事でよいのか?」
「そうなります。12時間の隔たりがある為、演習までは9時間ほどの時間があります」
「なるほど……。それでは、それまでは私は休ませてもらおうとするか。辺境伯殿、それでよろしいか?」
「部屋はご自由にお使いください。必要な物があれば屋敷の者に伝えてください」
「――うむ。では、失礼する。リコード卿」
「はい――、それでは失礼致します」
 
 退出するヴェルナー卿に付きそうような形で来賓室から出ていくリコード卿の後ろ姿を見送る。
 
「――して、演習に関しては此方も聞いてはいなかったが、どういうことかの?」
 
 そこで、はじめて話の主導権を握らんとばかりにノーマン辺境伯が俺ではなく藤和さんの方を見る。
 
「申し訳ありません。軍事演習については機密事項となっておりましたので……」
「ふむ……、つまり血が繋がっていたとしても領地の情報を簡単には流せないと――、そういうことかの?」
「ご理解頂ければ幸いです」
「そうか……。それでは、前回に赴いた時のように車とやらの移動になるのかの?」
「いえ、先ほどにご説明した通りに月山家の周辺で行う形となっています」
「そうか……。それでは前回とは違う――、そういう事でいいのかの?」
「そうなります」
 
 藤和さんの返答にノーマン辺境伯が顎に手を当てると考える素振りを見せる。
 
「――で、規模はどのくらいを想定しておるのだ?」
「3000人から1万人を想定しております」
「さん――!? そ、そうか……、なるほどのう……、どうやら儂が考えている規模とは違うようだ」
「ありがとうございます」
「褒めてはおらん。下手に危機感を煽っても意味がないと思っただけだ」
「こちらの世界での演習は、どのくらいの人数で行っているのですか?」
「領地を持つ男爵で100人前後、それ以上になると1000人まではいかないまでだ」
「ちなみにルイズ辺境伯領では?」
「1000人も出せればよい方だ。それ以上になると出費も馬鹿にできんからの」
「そうでしたか」
 
 二人の会話を聞いていて分かったことは、うちの軍事演習の人数は相当多いと言う事だけは分かった。
 しかも3000人となれば辺境を任されている貴族の3倍。
 
「国を挙げての演習が3000人ほどであるな」
「……それは良かったです」
 
 ニコリとノーマン辺境伯に言葉を返すと同時に微笑む藤和さん。
 
「まったく……、エルム王国と同等の軍事力を見せるなど相手と対峙すると言わんばかりではないか……。少しは自重してもらいたいところであるが――、現在のエルム王国に下手な小出しの武力では逆効果か……」
 
 深く溜息をつくノーマン辺境伯。
 
「――して、あの領地で本当に三千人もの兵士の軍事演習が可能なのか?」
「はい」
「それならよい」
「ありがとうございます。それと――、辺境伯様にお願いが御座います」
「お願い? ゾッとしない物を感じるが何か?」
「この国の兵士達が戦で着る最も重厚な鎧を何着か譲って頂きたいのです」
「まったく……。分かった。すぐに手配をしよう。他には大丈夫なのか?」
「はい。それ以外の事に関しましては、既に手筈は整っておりますので」
「うむ。それでは、すぐに動こうとするかの」
「月山様、それでは私達も急いで向こうの世界に戻りましょう。用意する事がありますので」
「それでは――、ノーマン辺境伯様」
 
 俺と藤和さんは立ち上がり、挨拶を交わしたあと部屋から出る。
 その後をリーシャが付いてくる。
 
「このタイミングで向こうの世界に?」
 
 廊下を歩く俺達の後ろから、ノーマン辺境伯に命令を受けたであろうナイルさんが足早で近寄ってくる。
 それを確認しながら、俺は横を歩いている藤和さんに小声で話しかけるが――、
 
「仕方ありません。それに一緒に連れて行った場合に、手間が掛かってしまいますので、私達もそれだけの人員はありませんから」
「たしかに……」
 
 藤和さんの、その説明には一理ある。
 それに、地球に連れていくと約束をした以上、早めに地球に連れていき現地のことを案内しておいた方がいいことも確かだ。
 
「ゴロウ様!」
「ナイルさん、どうかしましたか?」
「はい。ノーマン様より、正式にゴロウ様の護衛を仰せつかりました」
「護衛?」
「はい。以前に、ノーマン様がゴロウ様の世界を見聞された際に、護衛が必要だと言う事を考えておられたようですので……」
「そうですか……」
「月山様、宜しいではありませんか? 護衛の一人や二人が居た方が人手不足の解消にもなります」
 
 ――笑顔で俺にナイルさんが護衛で居ることのメリットを伝えてくるが、その意味を何となく察する。
 それは、雑貨店の経営について――。
 店を経営して分かったことだが、基本的に人手が慢性的に足りていない! そして田舎で有る事もあって人員募集を掛けても人手が集まるかどうか分からないし――、何より人件費も馬鹿にできない。
 以上のことから、護衛として……否! 雑貨店の店員としてナイルさんに入ってもらうのは十分ありな気がする。
 それに店員として仕事をしてくれていれば、接客業も含めると日本の常識を学ぶのは早いと思うし……。
 
「分かりました。それではナイルさん、よろしくお願い致します。あと、自分の仕事を手伝って頂くこともあると思いますがお願いできますか?」

「もちろんです! こう見えても、貴族籍ですので――、ただ次男と言う事もありますが……、それなりに領地運営の知識に関しましては勉学を治めております」







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