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第148話 王国との交渉事(4)
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ノーマン辺境伯が、藤和さんの言にニヤリと笑みを浮かべる。
それとは対照的に、エメラスさんとルイーズさんの顔色が悪い意味で変わる。
「……な、何のことでしょうか?」
「すでに分かっておられると思っていますが?」
挑発に近い言葉で、話をはぐらかしてきたエメラスさんに返答すると、藤和さんは俺を見てきて――、
「我が当主は全てを見通しております。その為に、リーシャ様に――、こうして交渉の場に立ち会って頂いたのです」
「…………そうですか……。全て、お見通しだったという事ですか……」
「はい。異世界では、このような事は良くあることですので」
よくあったら困るよ! と、言う心の声は言わずに俺は頷くだけに留まる。
余計なことを言って話し合いの場を混乱させてもいけないと思ったからだが――。
「分かりました」
「姫様っ!?」
「いいのよ? エメラス。どうやら、ゴロウ様は私達の狙いが何なのか分かっていたようだから……。そうではないと私を保護するという言葉は出てこないと思うもの」
「ですが……」
そんな語りをエメラスさんとルイーズさんが行ったあと、居住まいを正すと――、
「ゴロウ様。私は、エルム王国――、父王から異世界の交渉を円滑に進める為に送られたのです。――そして……、異世界が侵略に値するのなら私の身を以てして、侵攻の為の礎になれと勅命を受けております」
「それは、死も含まれる! と、解釈して宜しいでしょうか?」
「はい」
彼女は藤和さんからの質問に首肯しながら言葉を返した。
その返答に思わず俺は眉をひそめる。
藤和さんと幾つか話をしたが、それはどれも異世界との商談交渉に関する内容であって、最悪の場合、侵攻される可能性もあると想定はしていたが、事実はそれよりも遥かに悪い。
――まさか、実の娘の命までを政争の道具に使ってくるなど誰が想定できるであろうか。
「なるほど……」
ただ――、藤和さんは静かに頷くとノーマン辺境伯の方へと視線を向ける。
俺も思わずノーマン辺境伯は、どのような対応をしてくるのか? と、疑問を思いつつ顔色を伺ったが……。
「――で、ゴロウはどうするつもりだ?」
何か案を出してくるのかと思えば完全にキラーパスもいい所だ。
このような話の流れまでは流石に藤和さんと予測して話し合いはしていない。
困ったことを表情に出さないまま、藤和さんの方を見ると――、
「当家の指針は先ほどお伝えした通りです。ルイーズ様の保護をする予定です」
「……いくら門を潜り抜ける条件が、ゴロウ様に許可を得た者だけと言っても、エルム王国は人口が百万を超える王国です! 異世界の領主という事ですが、さすがに門を超える方法が一つだけとは限らないかと思われます。もし侵攻された時に対処は、どうするおつもりですか? いくら何でも無謀が過ぎるかと思います! それに私は、王からの命令に殉ずる覚悟を持って! こちらの……ルイズ辺境伯領に来たのです!」
やはりというか確固たる意志が、その言葉には込められている。
それに、こちらからの条件を受け入れるのは頑なに拒む――、王族としての責務からなのか受け入れることを良しとはしていない。
簡単に言うなら、一度決めた事に関しては譲らない……頑固者と言ったところか……。
――だが、それでは交渉が決裂したら、こちらとしても困る。
ここは何か代案を出すべきだと思うが、相手の頑なに閉じた心をこじ開ける材料が……。
「……」
俺は無言で、ルイーズさんを見る。
自ら決めたこと――、王族としてのプライド……そして何よりも臣下には迷惑を掛けることが出来ないという自負。
――ただ、そこには何かが欠けているように思えてならない。
「月山様」
「いい。ここは俺が言う」
「そうですか。分かりました」
藤和さんは何か俺に期待していたのか話を振ってくる。
それに関して俺は明確に答えを出すと告げる。
何時も、藤和さんは相手に対してどうやって商談を持ちかけていた?
そして、今さっきまでどのように話を主導していた?
必死に考えて――、ハッ! と、して俺は藤和さんの方を見る。
彼は、得心がいったのか頷く。
俺は予想が間違っていないことを祈りながら口を開く。
「ルイーズ様、大変失礼ですが勘違いされておられるのではないでしょうか?」
俺の言葉に、彼女は一瞬――、何を? と、言った表情で俺を見てきたあと――、「私は何も間違った事は言っておりませんわ」と、言葉を返してくるが、俺は首を左右に振りながら否定の意を示す。
「僭越ながら、ルイーズ様はご自身の進退については決めて居られるようでございますが、ルイーズ様に何かあれば困るのはノーマン辺境伯だということをご存知でしょうか?」
「――え?」
そこで、ようやく確固たる意志を宿していたルイーズさんの瞳が揺れる。
そう――、忘れていた。
ノーマン辺境伯も、エルム王国の貴族であり臣下の一人で有ると言う事を。
そして、この商談が上手くいかない場合には彼にも迷惑が掛かるということを――、つまり……、ルイーズさんを説得する方法は姑息だが一つだけ……。
それは臣下の為に身を削る覚悟があるのか?
それとも王族としての責務を最優先させるのか? と、言う事を選択させる道しかない。
「ノーマン辺境伯様も、エルム王国の臣下でございます」
「それは分かっているわ」
何を当然のことを――、と……ばかりに答えてくるが……、それは本当に分かっているのか? と、思ってしまう。
ただ、問題は、シビアな交渉を俺が行っていいのか? と、言う疑問がある。
ここは藤和さんに任せた方がいい。
「そうですか。余計なことを――」
俺は頭を下げ藤和さんの方を見る。
彼は、頷く。
「ルイーズ様、当家の当主は此方の世界との交渉を主軸に考えております。決して、エルム王国の貴族位や権力には興味はありませんので――、まずは、そこをご理解ください」
藤和さんの説明を聞いたルイーズさんとエメラスさんが俺を見てくるが、俺は表情を変えないまま笑みを浮かべるだけ。
丸投げしたのだから、あとは任せるだけだ。
「エルム王国――、そして王家の方の方針は私どもには分かりかねますが、それなりの経済的見返りを用意する予定です」
「見返りですか?」
「はい。エルム王国の財政が切迫しているのは庶民も知っていることですので、それを改善する為に、それなりの塩を譲ることも可能でございます」
「……ですけれど……」
やはりというか、それだけの利益が見込めるのなら何とか侵略してしまおうというのが、エルム王国にはあるのだろう。
その事を知っているルイーズさんは、首を縦に振る事はない。
「本当に、それだけの利益をエルム王国に提示できるのかどうかを心配されているのですね?」
「――いえ、そうではなく……」
「分かっています! 全て、ゴロウ様はお見通しでございます。エルム王国にとって見逃せない程の利益――、つまり塩を提供する事は出来ます。ですが、本当にそれが行えるのか? 当家の力は、どの程度の物なのかを見たい! と! 言う事ですね?」
「――え? そ、そういうことを望んでいる訳では……」
「大丈夫です! 後程、当家の兵士が演習をする手筈になっておりますので、月山家の軍事力を見て頂けるのでしたら、お約束の品を用意出来る程の担保となると自負しております」
「演習? 軍事力?」
「はい。異世界の戦力と武力――、どの程度の物か気になりませんか?」
藤和さんの視線がエメラスさんに向かう。
「……う、うむ。……そ、そうだな……。見せてもらおうとするか」
「畏まりました。――して、そこでご理解頂けるようでございましたら、エルム王国内での交易の件――、その話を王家へと伝えて頂けますでしょうか?」
それとは対照的に、エメラスさんとルイーズさんの顔色が悪い意味で変わる。
「……な、何のことでしょうか?」
「すでに分かっておられると思っていますが?」
挑発に近い言葉で、話をはぐらかしてきたエメラスさんに返答すると、藤和さんは俺を見てきて――、
「我が当主は全てを見通しております。その為に、リーシャ様に――、こうして交渉の場に立ち会って頂いたのです」
「…………そうですか……。全て、お見通しだったという事ですか……」
「はい。異世界では、このような事は良くあることですので」
よくあったら困るよ! と、言う心の声は言わずに俺は頷くだけに留まる。
余計なことを言って話し合いの場を混乱させてもいけないと思ったからだが――。
「分かりました」
「姫様っ!?」
「いいのよ? エメラス。どうやら、ゴロウ様は私達の狙いが何なのか分かっていたようだから……。そうではないと私を保護するという言葉は出てこないと思うもの」
「ですが……」
そんな語りをエメラスさんとルイーズさんが行ったあと、居住まいを正すと――、
「ゴロウ様。私は、エルム王国――、父王から異世界の交渉を円滑に進める為に送られたのです。――そして……、異世界が侵略に値するのなら私の身を以てして、侵攻の為の礎になれと勅命を受けております」
「それは、死も含まれる! と、解釈して宜しいでしょうか?」
「はい」
彼女は藤和さんからの質問に首肯しながら言葉を返した。
その返答に思わず俺は眉をひそめる。
藤和さんと幾つか話をしたが、それはどれも異世界との商談交渉に関する内容であって、最悪の場合、侵攻される可能性もあると想定はしていたが、事実はそれよりも遥かに悪い。
――まさか、実の娘の命までを政争の道具に使ってくるなど誰が想定できるであろうか。
「なるほど……」
ただ――、藤和さんは静かに頷くとノーマン辺境伯の方へと視線を向ける。
俺も思わずノーマン辺境伯は、どのような対応をしてくるのか? と、疑問を思いつつ顔色を伺ったが……。
「――で、ゴロウはどうするつもりだ?」
何か案を出してくるのかと思えば完全にキラーパスもいい所だ。
このような話の流れまでは流石に藤和さんと予測して話し合いはしていない。
困ったことを表情に出さないまま、藤和さんの方を見ると――、
「当家の指針は先ほどお伝えした通りです。ルイーズ様の保護をする予定です」
「……いくら門を潜り抜ける条件が、ゴロウ様に許可を得た者だけと言っても、エルム王国は人口が百万を超える王国です! 異世界の領主という事ですが、さすがに門を超える方法が一つだけとは限らないかと思われます。もし侵攻された時に対処は、どうするおつもりですか? いくら何でも無謀が過ぎるかと思います! それに私は、王からの命令に殉ずる覚悟を持って! こちらの……ルイズ辺境伯領に来たのです!」
やはりというか確固たる意志が、その言葉には込められている。
それに、こちらからの条件を受け入れるのは頑なに拒む――、王族としての責務からなのか受け入れることを良しとはしていない。
簡単に言うなら、一度決めた事に関しては譲らない……頑固者と言ったところか……。
――だが、それでは交渉が決裂したら、こちらとしても困る。
ここは何か代案を出すべきだと思うが、相手の頑なに閉じた心をこじ開ける材料が……。
「……」
俺は無言で、ルイーズさんを見る。
自ら決めたこと――、王族としてのプライド……そして何よりも臣下には迷惑を掛けることが出来ないという自負。
――ただ、そこには何かが欠けているように思えてならない。
「月山様」
「いい。ここは俺が言う」
「そうですか。分かりました」
藤和さんは何か俺に期待していたのか話を振ってくる。
それに関して俺は明確に答えを出すと告げる。
何時も、藤和さんは相手に対してどうやって商談を持ちかけていた?
そして、今さっきまでどのように話を主導していた?
必死に考えて――、ハッ! と、して俺は藤和さんの方を見る。
彼は、得心がいったのか頷く。
俺は予想が間違っていないことを祈りながら口を開く。
「ルイーズ様、大変失礼ですが勘違いされておられるのではないでしょうか?」
俺の言葉に、彼女は一瞬――、何を? と、言った表情で俺を見てきたあと――、「私は何も間違った事は言っておりませんわ」と、言葉を返してくるが、俺は首を左右に振りながら否定の意を示す。
「僭越ながら、ルイーズ様はご自身の進退については決めて居られるようでございますが、ルイーズ様に何かあれば困るのはノーマン辺境伯だということをご存知でしょうか?」
「――え?」
そこで、ようやく確固たる意志を宿していたルイーズさんの瞳が揺れる。
そう――、忘れていた。
ノーマン辺境伯も、エルム王国の貴族であり臣下の一人で有ると言う事を。
そして、この商談が上手くいかない場合には彼にも迷惑が掛かるということを――、つまり……、ルイーズさんを説得する方法は姑息だが一つだけ……。
それは臣下の為に身を削る覚悟があるのか?
それとも王族としての責務を最優先させるのか? と、言う事を選択させる道しかない。
「ノーマン辺境伯様も、エルム王国の臣下でございます」
「それは分かっているわ」
何を当然のことを――、と……ばかりに答えてくるが……、それは本当に分かっているのか? と、思ってしまう。
ただ、問題は、シビアな交渉を俺が行っていいのか? と、言う疑問がある。
ここは藤和さんに任せた方がいい。
「そうですか。余計なことを――」
俺は頭を下げ藤和さんの方を見る。
彼は、頷く。
「ルイーズ様、当家の当主は此方の世界との交渉を主軸に考えております。決して、エルム王国の貴族位や権力には興味はありませんので――、まずは、そこをご理解ください」
藤和さんの説明を聞いたルイーズさんとエメラスさんが俺を見てくるが、俺は表情を変えないまま笑みを浮かべるだけ。
丸投げしたのだから、あとは任せるだけだ。
「エルム王国――、そして王家の方の方針は私どもには分かりかねますが、それなりの経済的見返りを用意する予定です」
「見返りですか?」
「はい。エルム王国の財政が切迫しているのは庶民も知っていることですので、それを改善する為に、それなりの塩を譲ることも可能でございます」
「……ですけれど……」
やはりというか、それだけの利益が見込めるのなら何とか侵略してしまおうというのが、エルム王国にはあるのだろう。
その事を知っているルイーズさんは、首を縦に振る事はない。
「本当に、それだけの利益をエルム王国に提示できるのかどうかを心配されているのですね?」
「――いえ、そうではなく……」
「分かっています! 全て、ゴロウ様はお見通しでございます。エルム王国にとって見逃せない程の利益――、つまり塩を提供する事は出来ます。ですが、本当にそれが行えるのか? 当家の力は、どの程度の物なのかを見たい! と! 言う事ですね?」
「――え? そ、そういうことを望んでいる訳では……」
「大丈夫です! 後程、当家の兵士が演習をする手筈になっておりますので、月山家の軍事力を見て頂けるのでしたら、お約束の品を用意出来る程の担保となると自負しております」
「演習? 軍事力?」
「はい。異世界の戦力と武力――、どの程度の物か気になりませんか?」
藤和さんの視線がエメラスさんに向かう。
「……う、うむ。……そ、そうだな……。見せてもらおうとするか」
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