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第143話 リーシャとの交渉(4)

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 頷く藤和さん。
 俺も世界感のゲートについては興味があったので聞く事にする。
 
「ゴロウ様の世界と、こちらの世界を繋ぐ門についてはエルフの間でもよく分かっていません」
 
 ――ん? よく分かっていない? どういうことだ?
 
「先代のハイエルフの巫女様が、ルイズ辺境伯様のご依頼により門を固定したと伺っておりますが、門が作られた経緯などは分かっていません」
「そうなのですか」
 
 つまり、世界間が繋がった本当の理由は分かっていないという事か……。
 
「ただ、門の固定にあたり私達、ハイエルフは昔から継承されてきた伝説の至宝! カリブルヌスを使い不安定な空間を固定したと聞いております」
「カリブルヌス……、なるほど……エクスカリバーですか……。そんなモノが本当にあるとは……、月山様は知っていましたか?」
「ええ、まあ――」
 
 エクスカリバーというとアレだろう?
 店のカウンターの下にとりあえず置いたやつ。
 あれが至宝?
 あんな汚らしかった物が?
 途中からは綺麗になったが、少しだけ納得いかない。
 まぁ、とりあえず取り出すか。
 
 俺は、カウンターと床の隙間に手を差し込み埃まみれのロングソードを取り出す。
 
「……わ、私達の至宝があああああ!」
 
 アワワワと言った様子で俺が手に持っていたロングソードを受け取ったリーシャは、すでに半泣き状態。
 
「月山様……」
 
 どうして、そこで俺が批難されるような目で見られるのか意味が分からない。
 大事な物ならば大事な物らしく店に飾っておいてほしいものだ。
 
「すいません。うちの父親が、大事な物だとは教えてくれなかったので……」
「……」
 
 無言で――、涙目で俺を見てくるリーシャ。
 そんな俺達を見ていた藤和さんは小さく「ふむ」っと、言った様子で頷くと――、
 
「リーシャ様。至宝につきましては、月山様は先代当主からは何も聞いてはいなかったようです。無論、私も聞いておりませんでした。そのために、このような事になってしまい誠に申し訳ありません。今後は、このような事がないよう細心の注意を払って行きたいと思います」
「…………ほんとうですか?」
「はい。私は、嘘は! つきませんので」
「分かりました……」
 
 目元を拭いながら、リーシャはエクスカリバーと言っていた長剣をカウンターの上に置く。
 
「ご理解頂きありがとうございます。それでは、話の続きをさせていただいても?」
「はい。他に聞きたいこととかありますか?」
「エクスカリバーを使っての空間の固定と先ほど伺いましたが、それはエクスカリバー以外でも代用は出来るという事ですか?」
「――いえ。エクスカリバー以外では、難しいと思います」
「理由は?」
「それは、聞いておりません」
「なるほど……」
 
 つまり、まったく何も分かっていないという事か……。
 
「月山様が、手を繋いでいなければ門を潜れないというのは?」
「それは、門に最初に干渉したのがゴロウ様のお母様だからです。ただ、ゴロウ様のお母様では門を維持する為の魔力供給が行えないということで、ゴロウ様のお父様も干渉できるようにしたと聞きました」
「つまり、誰でも門に干渉できるようになると?」
「――いえ。それはゴロウ様のお父様だから出来たと伺っています。詳しくは――、すいません」
 
 聞けば聞くほど粗があるように見える。
 それは、藤和さんも同じように感じたようで顎に手を当てながら考えていることから伺いしれる。
 
「それは、私が門を開けることも出来るのですか?」
「それは無理です。そもそも結界に干渉する能力は非常に稀有な物ですから」
「なるほど……」
 
 頷く藤和さん。
 
「つまり我が家の当主である月山五郎様は、結界に干渉する能力を持っていると?」
「そうなります」
「――ん? ということは桜も?」
「サクラちゃんは、結界の能力は持っていません」
「そうなのか?」
「はい」
「だが、桜は門を一人で潜り抜けてリーシャさんの世界に来たはず……」
「それは、ゴロウ様が門の維持をしているので魔力が似通った桜ちゃんが通り抜ける事が出来ただけです」
「つまり、登録者の家族だから通り抜けることが出来た――、そういうことですか?」
「有体に言えばそうなります」
「そうなるとノーマン辺境伯は?」
「ゴロウ様のお母様とは血が繋がっておりませんので――」
「なるほど……」
 
 そうなると、親父はどうやって異世界の門を潜れたのか分からない。
 ――いや、門が潜れなくなったのはもしかしたら……、何かリーシャが知らない理由があるのか?
 そして、それを知らないと……。
 
「分かりました。とにかく門のことについては大体の事情は伺い知れる事が出来ました」
 
 藤和さんは満足そうに頷く。
 
「ところでリーシャ様」
「はい」
「こちらから提案なのですが、我が当家の当主と結婚する前に一度は異世界で暮らしてみるというのは如何でしょうか?」
「――え?」
「――な!?」
 
 思わず二人して驚く。
 
「結婚というのは、お互いの価値観の擦り合わせとも言います。リーシャ様は、此方の世界では巫女というお立場ですが、私達が住まう異世界と此方の世界では価値観や考えが違うというのは明白。我が当主も、突然! 価値観が違う方と一緒になるのも困ると思うのです。そこで! リーシャ様には異世界で暮らして価値観の共有を図るのも手かと思っておますが、どうでしょうか?」
「そ、それが……、認めてもらえる条件ですか?」
「条件というか考える為の前段階と言ったところでしょうか? 仕事や住居などは、こちらの方で手配致しますので、その点は、ご安心頂ければと思います」
「仕事……? それは祭事などと言う事ですか?」
「なるほど……、祭事ですか……」
 
 リーシャの質問に、何故か楽しそうな表情を見せる藤和さん。
 
「ふむ……。――ですが、それは不味いのではありませんか?」
「それは……」
 
 呟きながらチラリと俺の方を見てくるリーシャ。
 その表情から受けるかどうか迷っているように思えるが、俺としては藤和さんが何を考えているのかサッパリ分からない。
 そもそも日本でいう祭事とは、何を示すのか? すら、想像がつかないものだし……。
 
 それよりも俺達の世界にリーシャを連れてくるという話自体、一切! 藤和さんとの打ち合わせには入っていない。
 そのことすら、俺としては了承していいのかすら迷っている。
 
 ――だが! ここで俺が口を挟むことは良くはない。
 
 あくまでも藤和さんに任せる方向で決めていたのだから、乗っておく他はない。
 
「そうですね。リーシャさんが、良ければ……。具体的な事については、家令がお伝えしますが――」
「――! ま、待ってください! 祭事と言う事は神に関する事柄なのですよね? 異世界の私が――、別の神を奉じている私が祭事をしてもいいのでしょうか? 神の怒りに触れるような事にはなります」
 
 なるほど……、リーシャは巫女であり、巫女は神に奉仕する女性の総称と聞いたことがある。
 つまり、別の神の巫女なのに、他の神に奉仕してもいいのか? と、彼女は迷っているのだろう。
 何となく彼女が言った意味が分かってきた。
 
「いえいえ、私がお願いしたい事は祭事ではありませんので」
「え?」
 
 藤和さんが祭事に関する仕事に関しては否定的な意見を述べる。
 
「そうですね……仕事と言うのは簡単な事務作業をして頂きたいと思っています」
「「……事務作業?」」
 
 思わず俺とリーシャの言葉が重なる。
 
「はい。祭事に関しては他文化交流の問題ともなりかねませんのでお願いは出来ません。何せ魔法がある世界なのですから何があるのか分かりませんので。そこで、少し仕事を手伝って頂ければと思いまして」
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