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第142話 リーシャとの交渉(3)

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「そこでストップ!」
「ええ!? 見てください! このお腹の淫紋! 赤くピカピカと点滅してます! これは、私の運命の人が! 私を求めている証拠です! さあ! 子作りを!」
 
 このエロフは相変わらずのようだ。
 まぁ、今回は強ち外れてでもないので否定するようなことはしないが……。
 
「コホン!」
「ほえ!?」
 
 藤和さんが場を取り仕切る為に、一度――、咳をしてリーシャの注意を俺から一瞬外すと――。
 
「お初に目にかかります。私は、月山家の家令を務めております藤和一成と申します。ゲートの管理人であるエルフの方でお間違いないでしょうか?」
「ゲート……エルフ……」
 
 一瞬、呆けてしまっていたリーシャを俺は横目で見ていたが彼女は、すぐにハッ! と、して――、
 
「はい! 私は森の民! ハイエルフ族の巫女リーシャと申します!」
「それでは、リーシャ様が世界間を繋いでいるゲートを管理している方でお間違いないでしょうか?」
「その通りです! それにしても……」
 
 ニコリと! それは――、それは! とてもいい笑顔で俺を見てくるリーシャ。
 
「家のことを一手に任せておられる家令の方を連れて来られるなんで、ゴロウ様は私にまったく! 興味がないと思っていましたけど、そんなことはなかったんですね! 家令の方を紹介されるという事はそういう事ですよね?」
「いえ、勘違いしないでください」
 
 思わず辛辣な言葉が出てしまった。
 俺の言葉を聞いたリーシャの表情が強張る。
 思わずあまりの勘違いぶりに突っ込みを入れてしまったが、さすがに不味いと思い――、
 
「リーシャ様」
 
 何か言わなければ! と、思ったところで藤和さんが話に割って入ってくる。
 
「何でしょうか? いまはゴロウ様とお話をしているのですが?」
 
 スウッと、目が細まり藤和さんを見ずに俺へ語りかけるように言葉を呟いてくるリーシャ。
 
「さようでございますか。それは誠に残念です。私の方から当家の当主には話を通すことは出来るのですが? とくにリーシャ様の気持ちなどを……」
「――ほ、本当ですか!?」
 
 バッ! と、俺から視線だけでなく体ごと藤和さんの方へ向き直ったリーシャは、興奮な面持ちをしている。
 
「もちろんです。家令というのは、そういう仕事も含まれておりますので」
「――!!」
 
 キリッ! と、した表情で有る事無い事を話す藤和さん。
 
「ところで、リーシャ様の希望は月山家の当主と子供を作る! その程度の願いでいいのですか?」
「――!」
 
 家令として自己紹介していた藤和さんがニヤリと笑みを浮かべている。
 
「……で、出来れば……結婚したいなって……」
「なるほど! なるほど!」
 
 大げさなまでに何度も頷く藤和さん。
 
「……で、でも……。ゴロウさんは、私のことが嫌いみたいで……」
「まぁ、たしかに――」
 
 思わず同意してしまう。
 聞いたリーシャは半泣き状態。
 
「月山様」
「――そんなことはないですよ?」
 
 窘められた事で、続く言葉でフォローしていく。
 
「いいですか? リーシャ様。よく聞いてください。当家の当主は所謂、ツンデレというモノなのです」
「ツン――?」
 
 どうやら、この世界にはツンデレという文化は無いらしい。
 
「簡単に申しますと、好意を持っている相手に素直になれないから冷たく当たるという行動をツンデレと言います」
「――え? そ、それって!? ――も、もしかして……」
 
「勘違いするなよ? まったく好感度は上がってないからな?」と、思わず言いそうになったが藤和さんが顔を左右に振ったので喉元まで出かけた言葉を飲み干す。
 
「その通りです。我が月山家の当主の月山五郎様は恋愛事には疎い部分がありまして苦労しているのです」
「そうだったのですか……」
 
 藤和さんの説明を完全に勘違いして理解したリーシャは、ヘニャとした表情で「えへへっ」と笑みを浮かべている。
 完全に嘘偽りの情報でリーシャを騙している事になるんだが、いいのだろうか?
 
「それでは! ゴロウ様は、私と結婚を考えているという事でしょうか!?」
「……」
 
 ――え? この返答はどうすればいいんだ?
 思わず藤和さんの方を見ると、その顔は「してやったり!」と言った様子で――、
 
「リーシャ様、たしかに当主は貴女様に好意を寄せては居りますが、私が認めてはおりません」
「――え? そ、それって……どういうことですか?」
「我が月山家では、当主ではなく家令も結婚相手を認めなければ成婚出来ないという決まりがあるのです」
「そんなの聞いたことがありません! 当主の決定は絶対ではないのですか!」
「それは、この世界では! と、言う事に過ぎません。異世界は異世界で異なる法則で動いているというのはご理解頂けているのかと思っていますが?」
「そ、それは……」
 
 困った表情になるリーシャを見ながら、俺は藤和さんの論調に舌を巻く。
 
「――ですが! 逆を言えば家令が認めれば結婚が出来る! 可能性があるという事です」
「――!! そういう事ですか!」
「はい!」
「そ、それで! どうすれば藤和さんに私は認めてもらえるのですか!?」
「そうですね……。まずは、いくつかお願いがあります。それを、しっかりと果たして貰えるのなら、少しはリーシャ様と当主との成婚に関して考慮をする可能性が出てきます」
「分かりました! 何でもしますので!」
 
 藤和さんに、誘導されてしまったようで両こぶしをギュッ! と、力強く握りしめながら頷くリーシャ。
 正直言って、ああいうのはよくないと思うが――。
 
「藤和さん」
「月山様、少しお店の中でリーシャ様とお話をしたいのですが……」
「ここでもいいのでは?」
 
 兵士達が俺達に気が付いていないのだ。
 特に問題ないと思っていたが――、
 
「いえ、少し込み入った話もありますので、何かあった場合に困りますので不測の事態に備えた場合とお考えください」
「……それは、リーシャさんを店の中に連れて行くってことですよね?」
「そうなります」
「……」
 
 チラリとリーシャの方を見る俺。
 そして、リーシャと言えば騙されているとも知らず俺の方をジッ! と、潤んだ瞳で見てくる。
 
「……」
「……」
 
 互いに無言で見つめ合う。
 たしかに、リーシャは俺のタイプではないし、自己中心的だし――、自分の考えを押し付けてきたりと暴走気味ではあるが、基本的には…………、まぁ――、あまり良い奴ではないな……。
 まぁ、それでも……。
 
「月山様、色々と考えていらっしゃるようですので先に説明しておきますが、悪いようには致しませんので――、ご安心ください」
「藤和さん……」
 
 これほど! ご安心ください! と言われて信用できないと思った言葉はないんだが……。
 ただ、交渉については藤和さんに一任している。
 ここで、それを曲げることは良くはないだろう。
 
「分かりました。リーシャさん、手を――」
「――は、はい!」
 
 震える手で差し出してきたリーシャの手を右手で掴み――、藤和さんの手を左手で掴んだあと店の中に入る。
 一瞬、体が重くなるのを感じたが、すぐに体調は治る。
 
「ここが……、五郎様のお店ですか……」
 
 手を繋いだまま感慨深く店の中を見渡しながらポツリと呟くリーシャ。
 その頬は少しだけ朱色に染まっている気もするが――、気のせいだろう。
 
「――さて、時間がありませんので直ぐに話を――」
「そ、そうですね。それで! 私は、何をすればいいですか?」
 
 とりあえず、余りにも無体な内容の交渉だったら、さすがに目覚めが悪いので止めるとして俺は交渉を見守ることにする。
 
「まずは、ゲートの詳細を教えて頂けますか?」
「ゲートというのは異世界と此方の世界を繋げる門の事で宜しいでしょうか?」
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