138 / 437
第138話 王女と姫将軍と辺境伯
しおりを挟む
そんなものをフーちゃんが持てる訳がない。
寸胴鍋を、中村さんが設置してくれたガスコンロの近くに置く。
ガスコンロが置かれている場所は、雨が降っても大丈夫なようにとテントの中。
テントは、田口村長が昔に小学校で運動会の時に使われていたテントを持ってきてくれた。
それらは、踝さんが設定してくれた。
「――さて……、あとは藤和さんと打ち合わせだな」
「むーっ」
一人呟いたところで何故か知らないが桜は不機嫌そうな顔を見せてくる。
「どうかしたのか?」
「最近のおじちゃん! 桜と、遊んでくれないの!」
「そ、そうか……?」
「そうだぞ! 桜ちゃんに、毎日! ゲームでボコられている私の身にもなってよ!」
「それは、俺をボコろうと考えている訳か? 対戦ゲームで」
「うっ!?」
俺の突っ込みに和美ちゃんが視線を逸らすが、図星だったようだ。
「雪音さんに遊んでもらえばいいんじゃないのか?」
「雪音お姉ちゃんを倒すのは心が痛むからさ!」
和美ちゃんの言葉に俺は内心溜息をつきながら――、俺ならいいのかよ……と心の中で突っ込みを思わず入れた。
月山五郎達が、日常を過ごしていた中――、
エルム王国の西方に位置するルイズ辺境伯領の邸宅には動きがあった。
邸宅に、近づく一台の馬車と、3人の甲冑を身に付け馬に乗った騎馬兵。
馬車は騎馬兵に守られるようにして、ルイズ辺境伯邸の門を潜り、門前で停まると馬車の先導をしていた白馬から一人の女性がヒラリと軽やかに降りる。
その際に、白銀の鎧が静かに音を立てる。
それだけでなく腰までたおやかに伸ばしてあるであろう金髪が、ふわりと広がり少し揺れたあとに地面に着地した女性の背中で揺れた。
「ルイーズ様、到着致しました」
女性は、煌びやかな馬車の踏み台を用意したあと、踏み台を上がり馬車の中に居る人物に声をかけるが――。
「ルイーズ様?」
まったく反応がない事に眉を潜めた女性は、少し目を細めながら数度、馬車の扉を軽くノックする。
その様子を、近くの騎士達は見ていたが意を決したかのように口を開く。
「エメラス様」
「――ア、アロイス殿!? ど、どうかしましたか?」
「いえ、ルイーズ王女様は体調が悪いのかと思いまして―――」
「す、少し……お疲れのようです……」
「そうですか? もし、宜しければ医者の手配など……」
「問題はありません」
「分かりました。それでは、我々は馬を移動しておきますので」
アロイスの申し出に、エルム王国の中でも名門貴族であるクラウス侯爵家のエメラス・フォン・クラウスは頷く。
彼女からしてみればアロイスの申し出は大変助かる内容であった。
アロイスと、その補佐役である騎士がエメラスが手綱を握っていた馬を連れて行ったあと、彼女は小さく溜息をつくと馬車の扉を開ける。
「すやすや……」
そこには、口をだらしなく開けて馬車の中――、椅子の上で横になって寝ているルイーズ・ド・エルムの姿があった。
エルム王国では、珍しい黒髪は昼を過ぎたばかりという事もあり、陽光の日差しを反射して光を放っている。
表情は、日本風の美人――、ひらたく言うのなら日本のトップアイドルも霞むほどの美貌を兼ね備えている。
ただ西洋風の顔立ちが美人顔とされている異世界では、王家のみならず貴族や平民ですらあまり良くは思われていない。
未だに婚約が一つも来ないのは、それが理由であった。
「はぁ……」
無邪気に寝ているルイーズを見て、エメラスは小さく溜息をつくと右手人差し指でルイーズの頬を軽くつつく。
彼女の指先には、ふにふにという何とも言えないぷにぷに感が伝わってくる。
それと同時に彼女にとって心地よかった。
「ほんと――、子供みたいな笑顔よね……」
寂しそうに呟くエメラスは、ルイーズの頭を軽く撫でる。
「寝ている時は、こんなに可愛らしいのに……」
エメラスが途中まで口にした言葉は最後まで発せられることはない。
続く言葉を彼女は呑み込んだのだから。
「本当に無理をさせてばかりいるのだから……、この子は王族になんて……、それに――、あんな指示をするなんて――」
途切れ途切れに呟く言葉は意味を為してはいない。
ただ、エメラスの顔色は芳しくなかった。
「ん……、あれ? エメラス? どうして……はっ! わ、私! 寝ていたの?」
色々と考え込んでいたエメラスを他所に、瞼を開けたルイーズは目の前に居たエメラスを見て言葉を呟く。
「お疲れでしたか?」
「ええ、ごめんなさい」
「お気になさらず。それより、辺境伯領をご覧になって如何でしたか?」
「えっと……」
そっと目を背けるルイーズ。
その様子から、何となく感じいってしまったエメラスは「仕方ありませんね」と、呟く。
「え、エメラス?」
「王城から出て気が緩むのは構いませんが、王の側近も一緒に来ています。ご注意ください」
「わかりました……」
エメラスの言葉に、ルイーズの表情から感情が抜け落ちる。
王家の人間たる者、感情を他人に見せるのは弱みを握られる可能性が高くなる。
それをしないようにと――、ただでさえ立場が弱い彼女が身に付けた護身術で在った。
「ルイーズ様」
「どうかしたの?」
「本日、辺境伯領を確認してまいりましたが市場を散見したところ異世界から来た人間を確認しました。その者は、ルイーズ様と同じ黒髪だったそうです。もし王家の人間として暮らすのが辛い場合には――」
「それ以上はいけないわ。私を育ててくれたお父様には感謝があるもの。それに、私は王家の人間なのよ?」
「それは、分かっていますが……」
眉を潜めるエメラスを見て、泣きそうな笑顔で――。
「私は王女なの。だから大丈夫よ」
ルイーズの言は、どこまでも空虚を含む物であった。
アロイスが馬を馬房に入れたあと、建物から出たところで――、
「アロイス様、ノーマン様がお呼びです」
そう語りかけてきたのは、キースであった。
慌てている様子がない事から、急用ではないと悟ったアロイスであったが、
「分かった。すぐに向かう」
「それでは私も――」
「お前もか?」
「はい。私も、ノーマン様にご報告する緊急事案がありますので」
「ふむ……」
アロイスが、キースを横目で見ながら歩く。
彼は、キース・フォン・ブラッドレイ。
彼はルイズ辺境伯領魔法師部隊の団長であり、準男爵でもある。
そして――、ルイズ辺境伯領において人間の中では最も魔法に長けている。
元は、冒険者という事もありダンジョンやモンスターにも精通しており20代後半という歳若さで、異例の出世をした者でもある。
「緊急というのは、ノーマン様に直接的な害があるものなのか?」
その言葉に含まれている真意は、毒殺されていた辺境伯家の件も含まれており――、それは遠回しであったが、この場で話せるのなら話すようという意図も含まれていたが……。
「いえ、緊急ではあるのですが――、すぐにはノーマン様にご迷惑が掛かるという内容ではありません」
「なるほど……」
二人は、辺境伯邸の中を歩きながら会話をする。
話しの中にある、すぐには害を及ばさないよいう内容。
それが何なのかは、アロイスには皆目見当のつかないものであったが――、すぐに聞きだす必要はないと考え無言になり足早にノーマンの元へと向かう。
「アロイスです」
「入れ」
執務室前に到着したところで扉越しにノックをしながら部屋の主にお伺いを立てたところで、すぐに室内から入室の許可が下りる。
「失礼します」
執務室の扉を開け中に入る二人。
「よく来た」
そう告げるのは執務室の机の前に座っているノーマン・ド・ルイズ辺境伯。
彼は、椅子から立ち上がると、室内のソファーに立っている二人に座るように手で促す。
二人が座ったのを見計らうようにしてテーブルを挟んだソファーに座るノーマン。
「ノーマン様。それで、キースから聞きましたが何かありましたでしょうか?」
「うむ。ルイーズ第四王女の件だが、どうなっている?」
「ルイーズ様ですか……」
そう答えながら、記憶の糸を手繰るアロイス。
一週間近く、エルム王国の第四王女を見てきた彼が見てきたルイーズ王女の見解としては、王女らしくない王女と言った感じであった。
「一言で言いますと、エルム王国の王家の人間らしくはないと言った所でしょうか?」
「ふむ。具体的は?」
「まずは、王家の人間のように無暗に権威をチラつかせる事はしないと言ったところです。あとは、王家の力を誇示しないところなど、概ねエルム王国の王家には相応しくない人物と言えます」
「なるほど……。そのあたりは庶子だと言う可能性もありそうだのう」
「はい。ただ、もう少し性格的歪んでいると見ていたのですが、そういう事も無さそうです」
「ふむ……。それでは謀略に長けていると言ったことは?」
「そういう事からは遠ざけられていたのか、そういう様子は見られません。ただ――、あくまでも表面上は……と、言う事になりますが……」
「そうか」
一週間ほど、問題ある行動があった場合は対処を迅速に出来るようにとアロイスをルイーズに付けたノーマンは、得られた情報を精査しながら何度か頷いているように見える。
「――で、辺境伯領に直接乗り込んできた理由は分かったのかのう?」
「それはキースが付与した魔法で何とか……」
「やはり、儂らが考えた通りかの?」
「はい。戦争を起こす為の火種の為にルイーズ様を送りこんだという話を室内に用意しておりました魔法にて確認しています」
「その内容は?」
「ルイーズ様が、異世界で死んだ場合に異世界に侵攻するという事のようです」
「なるほどのう」
アロイスの情報を聞いたノーマンは小さな溜息と共に額に手を当てる。
「異世界と戦争をするような事になれば、エルム王国だけでない。こちらの世界全てが蹂躙されかねない」
「はい。それは分かっています。まず間違いなくゴロウ様の領内が侵攻された場合には逆に相手国から報復を受ける事でしょう。そうなれば滅びるのは我々です」
「そうなると、異世界にルイーズ王女やエメラス侯爵令嬢を連れていき軍事演習とやらを見て貰った方が良いのかも知れんな。ただ――」
「分かっています。そこはゴロウ様に事前に準備をしてもらう事が必要かと――」
「うむ。あとの問題は王権派だが、それも何とかしないとならんな」
「一緒に連れて行くと言うのは?」
「うむ……。それが手っ取り早いのう」
ただ、二人としては一つ不安点があるのも事実であった。
それは――、
「問題は、それで戦争を始めることを止めなかった場合かのう」
「はい。その場合は……」
「丁度、旗頭も居る事だ。それに、王族としての責務だけは持っているようだ」
「それは、少し酷な事かと……」
「王族というのはそう言う物だ」
二人の話が一段落したところで――、
「ノーマン様、お話があります」
切り出したのは黙って二人の話を聞いていたキース。
「そういえば、火急の話と手紙があったが、何かあったのか?」
「はい。実は、ゴロウ様の事ですが……」
「ゴロウがどうかしたのかの?」
眉を寄せ問いただすノーマンに、キースはゆっくりと頷くと口を開く。
「自衛隊という演習の時に気が付いたのですが……」
そこまで話をした時点でキースの表情には戸惑いの色が見える。
「ノーマン様、私はあの時に結界を維持しておりましたが……」
「ふむ。それがどうかしたのか?」
「はい。ノーマン様の結界という言葉に反応したゴロウ様は、通常は結界を張った術者以外が感知する事も干渉する事もできない結界に無意識に干渉してきました」
額から汗を流しながらキースは震える声で言葉を紡いだ。
寸胴鍋を、中村さんが設置してくれたガスコンロの近くに置く。
ガスコンロが置かれている場所は、雨が降っても大丈夫なようにとテントの中。
テントは、田口村長が昔に小学校で運動会の時に使われていたテントを持ってきてくれた。
それらは、踝さんが設定してくれた。
「――さて……、あとは藤和さんと打ち合わせだな」
「むーっ」
一人呟いたところで何故か知らないが桜は不機嫌そうな顔を見せてくる。
「どうかしたのか?」
「最近のおじちゃん! 桜と、遊んでくれないの!」
「そ、そうか……?」
「そうだぞ! 桜ちゃんに、毎日! ゲームでボコられている私の身にもなってよ!」
「それは、俺をボコろうと考えている訳か? 対戦ゲームで」
「うっ!?」
俺の突っ込みに和美ちゃんが視線を逸らすが、図星だったようだ。
「雪音さんに遊んでもらえばいいんじゃないのか?」
「雪音お姉ちゃんを倒すのは心が痛むからさ!」
和美ちゃんの言葉に俺は内心溜息をつきながら――、俺ならいいのかよ……と心の中で突っ込みを思わず入れた。
月山五郎達が、日常を過ごしていた中――、
エルム王国の西方に位置するルイズ辺境伯領の邸宅には動きがあった。
邸宅に、近づく一台の馬車と、3人の甲冑を身に付け馬に乗った騎馬兵。
馬車は騎馬兵に守られるようにして、ルイズ辺境伯邸の門を潜り、門前で停まると馬車の先導をしていた白馬から一人の女性がヒラリと軽やかに降りる。
その際に、白銀の鎧が静かに音を立てる。
それだけでなく腰までたおやかに伸ばしてあるであろう金髪が、ふわりと広がり少し揺れたあとに地面に着地した女性の背中で揺れた。
「ルイーズ様、到着致しました」
女性は、煌びやかな馬車の踏み台を用意したあと、踏み台を上がり馬車の中に居る人物に声をかけるが――。
「ルイーズ様?」
まったく反応がない事に眉を潜めた女性は、少し目を細めながら数度、馬車の扉を軽くノックする。
その様子を、近くの騎士達は見ていたが意を決したかのように口を開く。
「エメラス様」
「――ア、アロイス殿!? ど、どうかしましたか?」
「いえ、ルイーズ王女様は体調が悪いのかと思いまして―――」
「す、少し……お疲れのようです……」
「そうですか? もし、宜しければ医者の手配など……」
「問題はありません」
「分かりました。それでは、我々は馬を移動しておきますので」
アロイスの申し出に、エルム王国の中でも名門貴族であるクラウス侯爵家のエメラス・フォン・クラウスは頷く。
彼女からしてみればアロイスの申し出は大変助かる内容であった。
アロイスと、その補佐役である騎士がエメラスが手綱を握っていた馬を連れて行ったあと、彼女は小さく溜息をつくと馬車の扉を開ける。
「すやすや……」
そこには、口をだらしなく開けて馬車の中――、椅子の上で横になって寝ているルイーズ・ド・エルムの姿があった。
エルム王国では、珍しい黒髪は昼を過ぎたばかりという事もあり、陽光の日差しを反射して光を放っている。
表情は、日本風の美人――、ひらたく言うのなら日本のトップアイドルも霞むほどの美貌を兼ね備えている。
ただ西洋風の顔立ちが美人顔とされている異世界では、王家のみならず貴族や平民ですらあまり良くは思われていない。
未だに婚約が一つも来ないのは、それが理由であった。
「はぁ……」
無邪気に寝ているルイーズを見て、エメラスは小さく溜息をつくと右手人差し指でルイーズの頬を軽くつつく。
彼女の指先には、ふにふにという何とも言えないぷにぷに感が伝わってくる。
それと同時に彼女にとって心地よかった。
「ほんと――、子供みたいな笑顔よね……」
寂しそうに呟くエメラスは、ルイーズの頭を軽く撫でる。
「寝ている時は、こんなに可愛らしいのに……」
エメラスが途中まで口にした言葉は最後まで発せられることはない。
続く言葉を彼女は呑み込んだのだから。
「本当に無理をさせてばかりいるのだから……、この子は王族になんて……、それに――、あんな指示をするなんて――」
途切れ途切れに呟く言葉は意味を為してはいない。
ただ、エメラスの顔色は芳しくなかった。
「ん……、あれ? エメラス? どうして……はっ! わ、私! 寝ていたの?」
色々と考え込んでいたエメラスを他所に、瞼を開けたルイーズは目の前に居たエメラスを見て言葉を呟く。
「お疲れでしたか?」
「ええ、ごめんなさい」
「お気になさらず。それより、辺境伯領をご覧になって如何でしたか?」
「えっと……」
そっと目を背けるルイーズ。
その様子から、何となく感じいってしまったエメラスは「仕方ありませんね」と、呟く。
「え、エメラス?」
「王城から出て気が緩むのは構いませんが、王の側近も一緒に来ています。ご注意ください」
「わかりました……」
エメラスの言葉に、ルイーズの表情から感情が抜け落ちる。
王家の人間たる者、感情を他人に見せるのは弱みを握られる可能性が高くなる。
それをしないようにと――、ただでさえ立場が弱い彼女が身に付けた護身術で在った。
「ルイーズ様」
「どうかしたの?」
「本日、辺境伯領を確認してまいりましたが市場を散見したところ異世界から来た人間を確認しました。その者は、ルイーズ様と同じ黒髪だったそうです。もし王家の人間として暮らすのが辛い場合には――」
「それ以上はいけないわ。私を育ててくれたお父様には感謝があるもの。それに、私は王家の人間なのよ?」
「それは、分かっていますが……」
眉を潜めるエメラスを見て、泣きそうな笑顔で――。
「私は王女なの。だから大丈夫よ」
ルイーズの言は、どこまでも空虚を含む物であった。
アロイスが馬を馬房に入れたあと、建物から出たところで――、
「アロイス様、ノーマン様がお呼びです」
そう語りかけてきたのは、キースであった。
慌てている様子がない事から、急用ではないと悟ったアロイスであったが、
「分かった。すぐに向かう」
「それでは私も――」
「お前もか?」
「はい。私も、ノーマン様にご報告する緊急事案がありますので」
「ふむ……」
アロイスが、キースを横目で見ながら歩く。
彼は、キース・フォン・ブラッドレイ。
彼はルイズ辺境伯領魔法師部隊の団長であり、準男爵でもある。
そして――、ルイズ辺境伯領において人間の中では最も魔法に長けている。
元は、冒険者という事もありダンジョンやモンスターにも精通しており20代後半という歳若さで、異例の出世をした者でもある。
「緊急というのは、ノーマン様に直接的な害があるものなのか?」
その言葉に含まれている真意は、毒殺されていた辺境伯家の件も含まれており――、それは遠回しであったが、この場で話せるのなら話すようという意図も含まれていたが……。
「いえ、緊急ではあるのですが――、すぐにはノーマン様にご迷惑が掛かるという内容ではありません」
「なるほど……」
二人は、辺境伯邸の中を歩きながら会話をする。
話しの中にある、すぐには害を及ばさないよいう内容。
それが何なのかは、アロイスには皆目見当のつかないものであったが――、すぐに聞きだす必要はないと考え無言になり足早にノーマンの元へと向かう。
「アロイスです」
「入れ」
執務室前に到着したところで扉越しにノックをしながら部屋の主にお伺いを立てたところで、すぐに室内から入室の許可が下りる。
「失礼します」
執務室の扉を開け中に入る二人。
「よく来た」
そう告げるのは執務室の机の前に座っているノーマン・ド・ルイズ辺境伯。
彼は、椅子から立ち上がると、室内のソファーに立っている二人に座るように手で促す。
二人が座ったのを見計らうようにしてテーブルを挟んだソファーに座るノーマン。
「ノーマン様。それで、キースから聞きましたが何かありましたでしょうか?」
「うむ。ルイーズ第四王女の件だが、どうなっている?」
「ルイーズ様ですか……」
そう答えながら、記憶の糸を手繰るアロイス。
一週間近く、エルム王国の第四王女を見てきた彼が見てきたルイーズ王女の見解としては、王女らしくない王女と言った感じであった。
「一言で言いますと、エルム王国の王家の人間らしくはないと言った所でしょうか?」
「ふむ。具体的は?」
「まずは、王家の人間のように無暗に権威をチラつかせる事はしないと言ったところです。あとは、王家の力を誇示しないところなど、概ねエルム王国の王家には相応しくない人物と言えます」
「なるほど……。そのあたりは庶子だと言う可能性もありそうだのう」
「はい。ただ、もう少し性格的歪んでいると見ていたのですが、そういう事も無さそうです」
「ふむ……。それでは謀略に長けていると言ったことは?」
「そういう事からは遠ざけられていたのか、そういう様子は見られません。ただ――、あくまでも表面上は……と、言う事になりますが……」
「そうか」
一週間ほど、問題ある行動があった場合は対処を迅速に出来るようにとアロイスをルイーズに付けたノーマンは、得られた情報を精査しながら何度か頷いているように見える。
「――で、辺境伯領に直接乗り込んできた理由は分かったのかのう?」
「それはキースが付与した魔法で何とか……」
「やはり、儂らが考えた通りかの?」
「はい。戦争を起こす為の火種の為にルイーズ様を送りこんだという話を室内に用意しておりました魔法にて確認しています」
「その内容は?」
「ルイーズ様が、異世界で死んだ場合に異世界に侵攻するという事のようです」
「なるほどのう」
アロイスの情報を聞いたノーマンは小さな溜息と共に額に手を当てる。
「異世界と戦争をするような事になれば、エルム王国だけでない。こちらの世界全てが蹂躙されかねない」
「はい。それは分かっています。まず間違いなくゴロウ様の領内が侵攻された場合には逆に相手国から報復を受ける事でしょう。そうなれば滅びるのは我々です」
「そうなると、異世界にルイーズ王女やエメラス侯爵令嬢を連れていき軍事演習とやらを見て貰った方が良いのかも知れんな。ただ――」
「分かっています。そこはゴロウ様に事前に準備をしてもらう事が必要かと――」
「うむ。あとの問題は王権派だが、それも何とかしないとならんな」
「一緒に連れて行くと言うのは?」
「うむ……。それが手っ取り早いのう」
ただ、二人としては一つ不安点があるのも事実であった。
それは――、
「問題は、それで戦争を始めることを止めなかった場合かのう」
「はい。その場合は……」
「丁度、旗頭も居る事だ。それに、王族としての責務だけは持っているようだ」
「それは、少し酷な事かと……」
「王族というのはそう言う物だ」
二人の話が一段落したところで――、
「ノーマン様、お話があります」
切り出したのは黙って二人の話を聞いていたキース。
「そういえば、火急の話と手紙があったが、何かあったのか?」
「はい。実は、ゴロウ様の事ですが……」
「ゴロウがどうかしたのかの?」
眉を寄せ問いただすノーマンに、キースはゆっくりと頷くと口を開く。
「自衛隊という演習の時に気が付いたのですが……」
そこまで話をした時点でキースの表情には戸惑いの色が見える。
「ノーマン様、私はあの時に結界を維持しておりましたが……」
「ふむ。それがどうかしたのか?」
「はい。ノーマン様の結界という言葉に反応したゴロウ様は、通常は結界を張った術者以外が感知する事も干渉する事もできない結界に無意識に干渉してきました」
額から汗を流しながらキースは震える声で言葉を紡いだ。
372
お気に入りに追加
1,955
あなたにおすすめの小説
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる