田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
126 / 437

第126話 祭りの前の準備

しおりを挟む
 つまり餌付けされた可能性が非常に高いということだ。
 
 ――まったく、結局は犬ということか。
 
「焼けましたよー」
 
 恵美さんの昼食の用意が出来たという声が聞こえてくる。
 
「桜、和美ちゃん、フーちゃん、ご飯だぞ」
「わかったの!」
「はーい」
「わん!」
「お前のご飯はコレな」
 
 俺はドックフードをプラスチックの容器に入れて出す。
 
「ガルルルルル」
「五郎さん、食べられる物を見繕いますから」
「いえ! 甘やかしたら犬として生きていけなくなると思うんですよね。それにドックフードもあと8キロくらいあって駄目になったら困りますし」
「それなら――」
 
 雪音さんがタッパーから自家製ローストビーフを取り出すと、ドックフードの上にのせていく。
 
「これで、どう?」
「わんわん!」
 
 雪音さんに尻尾を振るフーちゃん。
 
「まったく仕方ないな……」
 
 俺はフーちゃんに、
 
「お手!」
「がう!」
「痛っ!」
 
 手を甘噛みされた……。
 まったく、本当に俺の言う事だけは聞かないよな……。
 桜と雪音さんの言う事は聞くのに。
 フーちゃんが、ローストビーフから食べるのを見ていると、
 
「五郎」
「村長、どうかしましたか?」
「ちょっと良いかの?」
「は、はぁ……」
 
 村長に促されるように、参加者から離れていく。
 
「最近、雪音とはどうかの?」
「特に問題ありませんが……」
「そ、そうか……、何も無いのか……」
「はい。何も問題はないですね。話はそれだけですか?」
「う、うむ……。それより例の猟友会の話だが、バス会社が定期バスを出してくれることになった。今年は、かなり人数が減ることになった。人数は、関係者を含めて3000人ほどになるからの」
「分かりました。それで出店の用意をする感じですか?」
「いや、普通に店を使わせてくれるだけでいい。あとは、お湯を多めに用意しておいてくれないかの?」
「分かりました」
 
 カップ麺が多く出ると言う事だろう。
 そうなると、電子レンジで調理できる食料の用意も多めにしておいた方がいいかも知れないな。
 
 規則正しい音――、俎板と包丁が奏でる音が聞こえてくる。
 毎朝、雪音さんが日本風の朝食を作ってくれているからだ。
 
 俺は、そんな音を聞きながら欠伸をしつつ目を覚ます。
 布団の中には、桜が居て――、その横にはフーちゃんが寝ている。
 
「――さて……」
「五郎さん、おはようございます」
「おはようございます。雪音さん、いつも朝ご飯を作ってもらってすいません」
「気にしないでください。家事をするのは好きですから」
「そ、そうですか……。よかったら朝食を作る手伝いでもしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。それに台所は女の城ですから」
「――な、なるほど……。そ、それでは自分は仕事のメールでも確認しておきます」
「はい」
 
 どうも雪音さんは古風な部分があるというか、男を台所に立たせるのは好きではないようで――、以前は料理を教えてくれると言っていたが、半ば同棲中の現在では料理どころか家事は全て雪音さんが取り仕切るようになってしまっている。
 ちなみに桜に至っては、怪我をしたら大変だという理由で、少し大きくなったら料理を教えるとか言っていた。
 
 俺はノートパソコンを起動しつつ、今後の予定を考える。
 先日、村長から猟友会の集まりについて言われたが3000人がうちの雑貨店を利用するとしたら色々と用意する物がある。
 仮設トイレなどは、完全自立型トイレの周辺に設置する事になり、場所はあるから問題はない。
 ただ、お湯などを提供するとなると、それなりの電気ポットが必要になる。
 
「うーむ……電気ポットを幾つか購入するとしてもな……」
 
 コンスタントに使う訳ではない以上、無駄な出費になってしまう。
 それは、あまり好ましくはない。
 
「大きな鍋でも購入するか……」
 
 インターネットで、寸胴鍋の検索をかけていく。
 
「寸胴鍋100リットルで7000円か……。炊き出し用だけど、これなら丁度いいかも知れないな。あとは、寸胴鍋を熱する為の土台作りはホームセンターで煉瓦を購入する方向で――、それとアウトドア用の石炭があれば十分だな」
 
 そこまで考えたところで、ふと思いつく。
 すぐに携帯電話で電話。
 
「はい、リフォーム踝です」
 
 まだ朝7時。
 眠そうな声が聞こえてくると思っていたが歳を経ると朝早く起きるようになることもあり、普通に電話に出た踝さん。
 
「月山です」
「おお、五郎か! どうした? こんな朝早くから」
「じつは、猟友会の件で話したい事がありまして」
「俺の所にもテントの設営を手伝えって村長から連絡がきたぞ」
「有料で?」
「いつもは有料なんだが、今年は色々とお前の店の開店でお金を貰ったから無料だな」
「そうですか」
「それで、何かあったのか?」
「じつは猟友会の人たちが店を使う可能性があって、カップ麺などのお湯確保の為に寸胴鍋を使おうと思っているんですが……」
「なるほど、それでガス配管の設置をお願いしたいと言う事か」
「いえ、寸胴鍋を温めるのは石炭で行こうと思っているんですが……」
「鍋の材質は何でいくんだ?」
「材質ですか?」
 
 購入しようと思っていたステンレスの寸胴鍋をチェックしていく。
 
「えっと……材質はステンレスですね」
「それだと、石炭は止めた方がいいぞ。耐熱温度の問題もあるからな。普通にガス配管をした方がいいぞ」
「ちなみに値段は如何ほどに?」
 
 あまり高いと俺の方としても困る。
 
「五郎の所はプロパンガスだろう?」
「そうですけど……」
「それならプロパンガスボンベを扱っている中村石油店に頼めばいいな」
 
 ――中村石油店。
 
 結城村では唯一のガソリンなどを販売している小さなガソリンスタンドで、灯油の宅配から結城村内の家庭全てのプロパンガスの交換などを全て一手に引き受けている。
 
「――でも、工事は結構大変じゃないですか?」
「そうだな。匠さんも、そろそろ歳だからな……」
「もう年ってレベルじゃないですよね? 70歳超えていますよね?」
「まぁ、俺も手伝うから問題ないだろ」
「ですか……。それより、アイツは……」
「陸翔のことか?」
「…………」
「お前が、気にすることじゃないだろ」
「それは、そうですね」
 
 ――陸翔(りくと)。
 中村(なかむら)匠(たくみ)さんの一人息子であり、俺とは同級生。
 知り合いで友人だった男。
 いまでは袂を分かっていて、その理由を踝さんも知っているので余計な詮索などはしない。
 
「とにかくだ。配管工事については俺から中村さんの所に電話しておくから」
「分かりました。あと1週間後に猟友会の集まりがあるので」
「今日中には連絡がいくと思うぞ」
「よろしくお願いします」
 
 電話を切る。
 
「おじちゃん……」
 
 気が付けば桜は起きていたのか、布団の上で横になりながら俺を見てきている。
 
「どうかしたのか?」
「ううん。なんかね――、おじちゃん、すごく怖い顔してたの……」
「そんな事ないぞ」
 
 俺は桜の頭を撫でる。
 
 
 
 辺境伯達が領地に帰還を済ませてから3週間が経過し――、土日の休みを過ぎた月曜日。
 場所は、月山家の客間。
 室内に居るのは、俺と藤和さんと田口村長。
 少し緊張感の漂う室内の空気の中――、
 
「それでは――、先日ご連絡頂きました猟友会の集まりで消費されるかも知れないという納品につきましてですが……」
 
 そう口火を切ったのは藤和さん。
 先日に連絡を入れて詳細を説明した所、すぐに3000人が消費すると思われる予測を立てると言う事で一日間を置くことになり――。
 本日、話し合いの場を持つこととなった。
 
「こちらが資料になります」
「これは、何を参考に作った資料になるのか?」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...