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第104話 月山雑貨店会議(3)

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 そこまでで――。
 藤和さんは一端、口を閉じる。
 
「なるほどの」
「五郎、アレを持ってきなさい」
「アレ?」
「塩を納入した時に受け取ってきた代金のことだ」
「納入? 塩を?」
 
 一瞬、藤和さんの視線が鋭く光るが、俺は居間に戻り皮袋を手に持ったあと客室に戻りテーブルの上に皮袋の中に入っていた金の装飾品などをぶちまけると、それを見た藤和さんの眉間に皺が寄る。
 
「これは、何でしょうか?」
「金の装飾品と言ったところかの」
「それは、見れば――」
「手に持って確認してくれてもよい」
「……」
 
 藤和さんが、金の装飾品を両手で持ちながら物色していく。
 
「メッキではないようですね。――ただ、結城村では金が出土されるという記録はなかったはずですが……。それに金メッキでは無いということは塩を使ってはいない。使っていない上で、これだけの金を見せた上で話をもってくる。つまり……」
「――さて、藤和さん。月山雑貨店が異世界と繋がっているとしたら――。貴方は、どう思われるかの?」
 
 村長のその言葉に、藤和さんが渋い表情を見せる。
 藤和さんが、俺の方へと視線を向けてきたあと、雪音さんや村長を見たあと口を開く。
 
「まずは証拠を見せて頂きませんと――」
 
 たしかに……いきなり異世界と言われても困るよな。
 当然と言えば当然の反応だろう。
 
「五郎、よいか?」
「いいんですか?」
「百聞は一見にしかずだからのう。まずは連れていくのがいい」
「分かりました。――あ、でも……」
「どうかしたのかの?」
「いえ、いまは店が通常営業しているので――」
 
 そういえばシャッターを開けたままバックヤード側の扉を開けた事なかったが、シャッターを閉めずに外からバックヤード側に入るドアを開けたらどうなるんだ?
 
「買い物客が居なければ一時的に閉めるという感じでいいのではないのか?」
 
 もし買い物客が来たら困ると思うんだが――。
 まぁ、ほんの数分くらいの時間だからな。
 恵美さんに店の駐車場で客が来たら話してもらうように説明してもらえばいいか。
 
「分かりました。それでは……、藤和さん」
「わ、分かりました。それより異世界というのは冗談という訳では……」
「まずは見てもらえれば分かることかと――」
「そうですか」
 
 半信半疑の表情で藤和さんは答えてくる。
 
「それでは玄関で待っていて貰えますか?」
 
 すぐに、店舗へ赴く。
 幸い買い物客の姿はない。
 
「根室さん」
「はい。どうかしましたか?」
「少しメンテナンスチェックでシャッターを下ろしたいので、メンテナンス中にお客様が来られたら説明しておいてくれますか?」
「そういたしますと私は駐車場に居た方がいいですよね?」
「はい。それで、お願いできますか?」
「ちなみにメンテナンスは、どのくらいを予定されていますか?」
「そうですね。10分くらいということで――」
「分かりました」
 
 店舗の電気を入れたまま、恵美さんが店から出たのを確認したあと――、シャッターだけ閉めて母屋の玄関へ。
 
「藤和さん、お待たせしました。それではこちらに――」
 
 中庭を通り店のバックヤード側に周り込む。
 そして、店舗のバックヤードに繋がるドアを開けると藤和さんの腕を掴む。
 
「――え? 月山様。私には、そのような趣味は――」
「勘違いしないでください! こうしないと一緒に中に入れないので!」
「――?」
 
 怪訝な表情で眉を潜める藤和さん。
 それを無視したまま、俺は藤和さんの腕を引っ張り店舗の中へと通じるバックヤード側へと入る。
 それと同時に鈴の音が鳴り――。
 
「鈴の音? それに……。こ、これは……!?」
 
 バックヤード側から店内に入り込んだところで、外の景色が――、大きなガラスから外に見える光景が田舎の風景から一変している事に気が付いた藤和さんが驚いた声を上げ――。
 
「月山様! これは一体!?」
 
 藤和さんが目を見開き外を――窓の外に見える異世界の街並みを注視しながら俺に問いかけてくる。
 
「藤和さん、あそこに見えるのが――」
「鎧に剣に槍? 特撮ではないですよね? それに、まるで通りを歩いている人々の姿が異なる文化の体系を模しているような……」
「見て頂けて分かったと思いますが、藤和さんから仕入れた塩は異世界で販売しています」
「……これは外に出ることはできませんか?」
「いまは難しいです。そのことを含めて藤和さんにはお願いしたい事があります」
「…………分かりました。今後のことも含めて一度、話を纏めると共に伺いたいと思います」
 
 藤和さんは、そう言うとバックヤード側から外に出ようとするが――。
 
「扉のノブが回らない?」
「異世界と繋がっている時、異世界に繋げる時に扉のノブを回すことが出来るのは自分と桜だけみたいなので――」
「え? それは、どういう……」
「自分と桜は、異世界人の血を引いているので――」
「…………」
 
 藤和さんが、いままで見たことがないほど驚いた表情を見せてきた。
 
 
 
 異世界の街並みを店内から見せたあと、藤和さんはしばらく固まっていた。
 ふらついた足で客間に戻ってきてからは、しばらく気持ちを整理する為なのか額に手を当てていたが――、しばらくして情報が欲しいと聞いてきた。
 
 情報は、異世界の市場状況と月山雑貨店の立ち位置と、辺境伯とエルム王国に関しての情報。
 市場に関しては以前に異世界に行った際に撮った動画があるので代用することができた。
 ――そして、
 
「…………つまり、月山様は異世界人の血を引いておられて異世界の辺境伯と取引が無くなれば店舗の運営維持が難しいという事ですか。そして――、辺境伯から取引中止と異世界へ繋がる道の封鎖を言い渡されたと……。それを何とかしてほしいと……そういうことで宜しいでしょうか?」
「そうなる」
 
 答えたのは田口村長。
 
「やはり信じられないですか?」
 
 俺の問いかけに藤和さんが頭を左右に振る。
 
「いまだに信じられないという気持ちはあります。――ですが……」
「はい」
「自分自身が体験した事を嘘だと断ずるのも間違っていると思っていますので――」
 
 そう呟くと、藤和さんの手元に置かれている月山雑貨店の現在の状況――、赤字経営が書かれている帳簿に目を通していく。
 
「思っていたよりこれは……」
 
 その言葉に思わず俺は苦笑いをする。
 さすがの俺でも藤和さんが何を言いたいのか察することが出来たからだ。
 きっと、彼は思っていたよりも酷いと言いたかったのだろう。
 
「分かりました。私の力で何とか出来るならお力添え致しましょう。月山様はお得意様ですから」
「そんなに簡単に決めてしまっていいんですか?」
「はい。それに田口雪音様が販促路の開拓と電話で申されたとおり、先ほど見せて頂きました異世界の市場風景ですが、あれを見せて貰った様子では、日本の製品は売れると思いますので――」
「そうか。それではよろしく――」
「少しお待ちください」
 
 田口村長が、藤和さんから言質を取って話を纏めようとしたところで、待った! を藤和さんがかけてくる。
 
「今回の相手側との交渉ですが、私に一任して頂けるという事で宜しいでしょうか?」
「それは、値段も含むということかの?」
「そうなります」
「それって利益配分も含むという事でしょうか?」
 
 雪音さんは、飲み終わった俺達のコップに麦茶を注ぎながら言葉を紡ぐ。
 
「はい。正確には、異世界――、王国の交渉の際に必要になってくるという事ですが――。それと異世界に行く為には、月山様ではないと異世界には移動できないというのは確定情報なのでしょうか?」
「そうですね。異世界には自分と手を繋いでいないと行くことは出来ないですね。あとは、店舗の出入りには自分と手を繋いでいる必要があります」
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