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第93話 新規オープン
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「いえ。それより雪音さんは、無理をしてまで朝から来なくて大丈夫ですよ?」
「私が好きでしていることですから。それに、桜ちゃんが朝からカップラーメンや素麺だけというのも問題だと思いますし――」
それを言われると何も言えない。
これでも、ネットの主婦たちが集う掲示板でアドバイスを受けたり動画サイトをチェックして野菜炒めを作れるくらいは進歩したんだが……。
「そうですね」
苦笑いで返しつつ、出汁巻き卵を口にして咀嚼する。
何というか俺が作った料理とは次元が違う旨さと言えばいいだろうか?
「月山さん、話は変わりますけどフラワー田所から午前9時頃に新規開店に合わせて発注しておいた祝い花が届くそうです」
「そうですか。わかりました」
――あと、一つ。
新規開店が、明日に差し迫っている事から、この3日間は忙しく雪音さんの問題を片付ける余裕がまったく無かった。
「でも、ようやくですね」
「そうですね」
「明日は、人がいっぱいくるの?」
「それは分からない」
桜の問いかけに曖昧な答えしか返せない。
何しろ、人口300人ほどの結城村は潜在的な買い物客数が絶対的に不足している。
この3日間、必死に勉強したが月山雑貨店の敷地面積は規模的に中規模の食品スーパーというカテゴリに分類される。
そして、一般的にコンビニエンスストアが維持できるのは3千人、地域診療所は5千人、スーパーだと1万人とされている。
つまり、月山雑貨店の規模のスーパーの場合、少なくとも5千人規模の人口が必要となる。
一般的な統計から見ると、親父が店をしていた頃の人口5千人前後が居た結城村が店を維持できるギリギリのラインだったのだろう。
あくまでも常識的に考えればだが――。
「そうなの?」
俺の答えに桜が首を傾げながら雪音さんの方を見る。
「大丈夫。いま村は、人口は少ないけど年寄ばかりだから遠くまで買い出しにいけないから」
「うん」
まだ上手く焼き魚の身を箸で取れない桜のために、焼き魚の身をほぐしたのを小皿に移した雪音さんは桜に渡しながら答えている。
それにしても、本当に子供への対応の仕方が上手いもんだな。
食事を終えたあとは、店先にいきシャッターを開けてから花屋が来るのを待つ。
ただ待つだけではなく、商品のデーターのチェックをしつつ、商品の賞味期限と消費期限のチェックをしていく。
しばらく店舗でレジ操作の最終チェックをしていると――、車が到着する音が店先の駐車スペースから聞こえてくる。
駐車したのは白のワンボックスカーで降りてきたのは2人の女性。
一人は年配の女性で――、園芸農家の田所さん。
もう一人は見た事がない20歳後半の女性。
今風の女子のように髪の毛を染めているのか少し金髪より。
身長は俺よりも10センチ低く線も細い。
表情は、少し目元がキリッ! としており自分の意思をハッキリともってそうだ。
「五郎、祝い花を納品にきたよ」
まず話しかけてきたのは年配の女性――、園芸農家の田所(たどころ)絹(きぬ)さん。
「どうも、お久しぶりです。――と、言うより一昨日ぶりです。それで祝い花は?」
「それよりも、ほら!」
恰幅のいい田所さんは、横に立っていた女性の尻を叩く。
一歩押し出されるような形になり、俺の前に来た女性は意を決したのか口を開くと、「田所(たどころ) 美鈴(みすず)と言います。こ、今回はご利用を――、あ、ありがとうございます!」と、所々――、噛みながら話してきた。
先ほどまでの自分の意思をハッキリと持っているという印象とは真逆だったが、それは先入観ということで。
「月山雑貨店の店長兼社長の月山五郎と言います。今回は、お忙しい中、急な仕事をお願いしてしまい申し訳ありません」
「いえ! こちらこそ! それに――」
「ほら、さっさと納品用の花を車から降ろす!」
「はい!」
小走りで店の外に出ていく田所美鈴さん。
それにしても――。
「絹さん、ずいぶんと人使い荒くないですか?」
「いいんだよ。それに、今回は助かったよ」
「何かあったんですか?」
「じつは孫娘は昔から花屋をするのが夢でね。本当は園芸農家を継いで欲しかったんだよ」
「そうなんですか」
「ただね……、花屋を開店したのは良かったんだけどね、中々――、仕事が無くてね。最近は、花屋も不景気だからね」
田所美鈴さんの母親は、園芸農家を継いでいる。
ただ、その娘である田所美鈴さんは花屋を開店。
固定客も居ないから売り上げも安定しないらしい。
そこで、俺からの依頼があって実績作りも兼ねて祝い花の制作を短期間で引き受けてくれた。
そういうことらしい――、という話を美鈴さんが花を軒先に並べている間、聞かされた。
さすがはおばちゃん。
話が好きなのはどこも一緒だ。
「お待たせしました」
「いえいえ。一人で大変だったでしょう」
「いえ! 初めての祝い花の仕事だったので!」
そこは初めてと言ったらイケナイ気がするが、スルーしておくことにする。
何というか隠し事が出来ない子なのか。
あまり商売に向いているという感じではない気がする。
店の外に出て設置された祝い花を確認する。
「こうして色とりどりの祝い花で店先が飾られているのを見ると店を始めるという気持ちが湧いてきますね」
「はい、祝い花は良い物ですよね」
「――あ、そうそう。これを――」
俺は祝い花の代金が入った封筒を美鈴さんに渡す。
念のために金額を確認して頂くことを伝えたあと、確認し終え領収書を受け取る。
「今回は、ご利用ありがとうございます。あの……、店先の飾られた花をお店のブログにアップしてもいいですか?」
「それは写真を撮ってということですか?」
「はい。初めての祝い花の納品でしたので! それをブログに上げて少しでも宣伝しようかと」
「別に構いませんよ」
――と、言うか細かい考えまで一々言わなくていいから。
何となくだが、心配になってしまうな。
「五郎」
写真を撮る事で手一杯なのか俺に目もくれずに必死にスマートフォンで写真を撮っている美鈴さん。
そんな美鈴さんに聞こえないように小声で絹さんが話かけてくる。
「どうかしましたか?」
「孫は独身だから」
「あの年頃で、あのルックスなら彼氏くらいは居ると思いますが?」
「それはない」
「どうしてですか?」
俺は溜息交じりに聞く。
まったく、田舎の年寄はどうしてこうも結婚を薦めてくるのか。
「孫は婚活しているようで、何度もパンフレットが届いているからさ」
「そうですか」
「27歳、お得感がある」
「そうですか」
「彼氏いない歴イコール年齢」
「そういう個人情報をお孫さんの――、美鈴さんの許可を取らずに話すのは問題だと思いますが……」
「それとも半分同棲状態の田口のところの孫と出来ているのか?」
「いや、それもないので」
ほんと、幾つになっても女性は、こういう話が好きだよな。
話をしていたところで、また一台――、車が駐車場に停まる。
車の車種はワンボックスカーで、車のドアには問屋の藤和と書かれていて――、
「月山様、お久しぶりです」
車から降りてきたのは、やはりというか藤和一成その人。
「こちらこそ」
頭を下げ答えつつ、藤和さんの視線が店先に並べられている祝い花に向けられている事に気が付く。
「月山様、祝い花の発注をなさったのですね」
「はい」
「私も祝い花を御持ちしたのですが――」
車の後部ドアをスライドさせて祝い花を見せてくる藤和さん。
車の中には、ずいぶんとお金を掛けたであろう祝い花が2つ置かれていて――、
「これは、ずいぶんと――」
30万円近く掛けて用意してもらった祝い花に見劣りしない程――、
「立派な祝い花ですね」
「私が好きでしていることですから。それに、桜ちゃんが朝からカップラーメンや素麺だけというのも問題だと思いますし――」
それを言われると何も言えない。
これでも、ネットの主婦たちが集う掲示板でアドバイスを受けたり動画サイトをチェックして野菜炒めを作れるくらいは進歩したんだが……。
「そうですね」
苦笑いで返しつつ、出汁巻き卵を口にして咀嚼する。
何というか俺が作った料理とは次元が違う旨さと言えばいいだろうか?
「月山さん、話は変わりますけどフラワー田所から午前9時頃に新規開店に合わせて発注しておいた祝い花が届くそうです」
「そうですか。わかりました」
――あと、一つ。
新規開店が、明日に差し迫っている事から、この3日間は忙しく雪音さんの問題を片付ける余裕がまったく無かった。
「でも、ようやくですね」
「そうですね」
「明日は、人がいっぱいくるの?」
「それは分からない」
桜の問いかけに曖昧な答えしか返せない。
何しろ、人口300人ほどの結城村は潜在的な買い物客数が絶対的に不足している。
この3日間、必死に勉強したが月山雑貨店の敷地面積は規模的に中規模の食品スーパーというカテゴリに分類される。
そして、一般的にコンビニエンスストアが維持できるのは3千人、地域診療所は5千人、スーパーだと1万人とされている。
つまり、月山雑貨店の規模のスーパーの場合、少なくとも5千人規模の人口が必要となる。
一般的な統計から見ると、親父が店をしていた頃の人口5千人前後が居た結城村が店を維持できるギリギリのラインだったのだろう。
あくまでも常識的に考えればだが――。
「そうなの?」
俺の答えに桜が首を傾げながら雪音さんの方を見る。
「大丈夫。いま村は、人口は少ないけど年寄ばかりだから遠くまで買い出しにいけないから」
「うん」
まだ上手く焼き魚の身を箸で取れない桜のために、焼き魚の身をほぐしたのを小皿に移した雪音さんは桜に渡しながら答えている。
それにしても、本当に子供への対応の仕方が上手いもんだな。
食事を終えたあとは、店先にいきシャッターを開けてから花屋が来るのを待つ。
ただ待つだけではなく、商品のデーターのチェックをしつつ、商品の賞味期限と消費期限のチェックをしていく。
しばらく店舗でレジ操作の最終チェックをしていると――、車が到着する音が店先の駐車スペースから聞こえてくる。
駐車したのは白のワンボックスカーで降りてきたのは2人の女性。
一人は年配の女性で――、園芸農家の田所さん。
もう一人は見た事がない20歳後半の女性。
今風の女子のように髪の毛を染めているのか少し金髪より。
身長は俺よりも10センチ低く線も細い。
表情は、少し目元がキリッ! としており自分の意思をハッキリともってそうだ。
「五郎、祝い花を納品にきたよ」
まず話しかけてきたのは年配の女性――、園芸農家の田所(たどころ)絹(きぬ)さん。
「どうも、お久しぶりです。――と、言うより一昨日ぶりです。それで祝い花は?」
「それよりも、ほら!」
恰幅のいい田所さんは、横に立っていた女性の尻を叩く。
一歩押し出されるような形になり、俺の前に来た女性は意を決したのか口を開くと、「田所(たどころ) 美鈴(みすず)と言います。こ、今回はご利用を――、あ、ありがとうございます!」と、所々――、噛みながら話してきた。
先ほどまでの自分の意思をハッキリと持っているという印象とは真逆だったが、それは先入観ということで。
「月山雑貨店の店長兼社長の月山五郎と言います。今回は、お忙しい中、急な仕事をお願いしてしまい申し訳ありません」
「いえ! こちらこそ! それに――」
「ほら、さっさと納品用の花を車から降ろす!」
「はい!」
小走りで店の外に出ていく田所美鈴さん。
それにしても――。
「絹さん、ずいぶんと人使い荒くないですか?」
「いいんだよ。それに、今回は助かったよ」
「何かあったんですか?」
「じつは孫娘は昔から花屋をするのが夢でね。本当は園芸農家を継いで欲しかったんだよ」
「そうなんですか」
「ただね……、花屋を開店したのは良かったんだけどね、中々――、仕事が無くてね。最近は、花屋も不景気だからね」
田所美鈴さんの母親は、園芸農家を継いでいる。
ただ、その娘である田所美鈴さんは花屋を開店。
固定客も居ないから売り上げも安定しないらしい。
そこで、俺からの依頼があって実績作りも兼ねて祝い花の制作を短期間で引き受けてくれた。
そういうことらしい――、という話を美鈴さんが花を軒先に並べている間、聞かされた。
さすがはおばちゃん。
話が好きなのはどこも一緒だ。
「お待たせしました」
「いえいえ。一人で大変だったでしょう」
「いえ! 初めての祝い花の仕事だったので!」
そこは初めてと言ったらイケナイ気がするが、スルーしておくことにする。
何というか隠し事が出来ない子なのか。
あまり商売に向いているという感じではない気がする。
店の外に出て設置された祝い花を確認する。
「こうして色とりどりの祝い花で店先が飾られているのを見ると店を始めるという気持ちが湧いてきますね」
「はい、祝い花は良い物ですよね」
「――あ、そうそう。これを――」
俺は祝い花の代金が入った封筒を美鈴さんに渡す。
念のために金額を確認して頂くことを伝えたあと、確認し終え領収書を受け取る。
「今回は、ご利用ありがとうございます。あの……、店先の飾られた花をお店のブログにアップしてもいいですか?」
「それは写真を撮ってということですか?」
「はい。初めての祝い花の納品でしたので! それをブログに上げて少しでも宣伝しようかと」
「別に構いませんよ」
――と、言うか細かい考えまで一々言わなくていいから。
何となくだが、心配になってしまうな。
「五郎」
写真を撮る事で手一杯なのか俺に目もくれずに必死にスマートフォンで写真を撮っている美鈴さん。
そんな美鈴さんに聞こえないように小声で絹さんが話かけてくる。
「どうかしましたか?」
「孫は独身だから」
「あの年頃で、あのルックスなら彼氏くらいは居ると思いますが?」
「それはない」
「どうしてですか?」
俺は溜息交じりに聞く。
まったく、田舎の年寄はどうしてこうも結婚を薦めてくるのか。
「孫は婚活しているようで、何度もパンフレットが届いているからさ」
「そうですか」
「27歳、お得感がある」
「そうですか」
「彼氏いない歴イコール年齢」
「そういう個人情報をお孫さんの――、美鈴さんの許可を取らずに話すのは問題だと思いますが……」
「それとも半分同棲状態の田口のところの孫と出来ているのか?」
「いや、それもないので」
ほんと、幾つになっても女性は、こういう話が好きだよな。
話をしていたところで、また一台――、車が駐車場に停まる。
車の車種はワンボックスカーで、車のドアには問屋の藤和と書かれていて――、
「月山様、お久しぶりです」
車から降りてきたのは、やはりというか藤和一成その人。
「こちらこそ」
頭を下げ答えつつ、藤和さんの視線が店先に並べられている祝い花に向けられている事に気が付く。
「月山様、祝い花の発注をなさったのですね」
「はい」
「私も祝い花を御持ちしたのですが――」
車の後部ドアをスライドさせて祝い花を見せてくる藤和さん。
車の中には、ずいぶんとお金を掛けたであろう祝い花が2つ置かれていて――、
「これは、ずいぶんと――」
30万円近く掛けて用意してもらった祝い花に見劣りしない程――、
「立派な祝い花ですね」
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