田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第82話 過去からの贈り物

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「私としても、従業員が増えることは店舗を回す上で必須でしたので渡りに船ですので」
 
 まぁ、よくよく考えてみれば異世界で商売をする以上、何人か従業員が居た方がいい。
 何せ、異世界と日本とでは時差が12時間もあるのだ。
 その点を考慮すると、殆ど知らない人ではあるが根室さんと村長が推薦してきた人を雇うのは都合がいい。
 
「そうか」
 
 どこか後ろめたい部分もあったのだろう。
 それで色々とバーベキュー用の食材を用意してくれたと考えるのが妥当なのかも知れない。
 なんか知らないが上手く村長の手の平で転がされている気がするが――、困ったときはお互い助け合わないとな。
 店の改装費用だって村のお金を出してもらっているわけだし。
 
「いえ、それで恵美さんは?」
「祭りの気分ではないそうだ」
「そうですね」
 
 まだ諸文が死んでから一か月も経っていないのだ。
 騒がしい場所に来るのはきついだろう――、精神的にも色々と――。
 
 ――その後、パーティは2時間ほど続いた。
 
 
 
 搬入が終わり、商品を店の棚に並び終えたのは朝方であった。
 スマートフォンの時計を見る限りでは時刻は午前8時を指し示している。
 
 スポットのアルバイト達は現在、朝食で俺が出した素麺を客間で食べており、しばらく休憩してから帰る手筈になっていた。
 ちなみに今日の朝方まで商品の搬入と陳列を興味深そうに見ていた桜は、フーちゃんと一緒に妹が使っていた部屋のベッドで一緒に寝ている。
 
「それでは、此方がお金になります」
 
 部屋数が足りないという事もあり、今回――、納品された商品や人件費などの支払いを含む取引の話は俺や桜がいつも寝泊まりしている居間で行っていた。
 
「それでは――」
 
 ――と、藤和さんが、至って冷静に100万円の束が入っている袋――10袋を手に取る。
 その金額は都合、900万円プラスアルファ。
 それが、今回の納品の商品仕入れ額の総額と、宗像冷機に払うお金である。
 
「藤和さん」
「何でしょうか?」
「お金の確認をしなくても大丈夫ですか? 私としては、確認して貰っておいた方が楽なんですが……」
 
 今までも藤和さんは、紙幣の枚数の確認をしてこなかった。
 こちらを信用してくれているのは分かるが、なるべく目の前で確認してもらっておいた方が後で問題が起きなくていいと思うんだが……。
 
「月山様のことは信用しておりますので」
「そ、そうですか……」
 
 その一言だけで、俺は何とも言えなくなる。
 これ以上は、相手を疑うことになってしまう。
 これからも良好な関係を築くのなら、あまり無理強いはできない。
 
「分かりました」
「それでは、こちらにサインを――」
 
 商品受領書にサインをしていく。
 その枚数は400枚近い。
 そして、領収書に書かれている商品の数は一枚につき10品。
 つまり商品の種類として軽く見積もっただけで4000種類もの商品が納品された事になる。
 
「かなり多いですね……」
「そうですね……」
 
 納品と陳列で流石に疲れたのか、疲労した表情で頷いてくる藤和さん。
 
 ――そして俺はと言うと……。
 
 目の前に積み上げられている伝票を見ながら溜息をつく。
 こんなことなら月山雑貨店のハンコを作っておけば良かった。
 
「――ん? そういえば……」
 
 ふと思いつく。
 
「どうかなさいましたか?」
「少し待っていてください」
 
 俺は、物置として利用している部屋に向かい入り――、
 
「たしか、この辺に……」
 
 以前に、月山雑貨店の日誌が入っていた段ボール箱の中に印鑑などが納められていた箱が入っていたのを見た事がある。
 
「これか――」
 
 段ボール箱から取り出したのは木の箱――。
 中を開けると、親父が生前に使っていた月山雑貨店の印鑑だけでなく色々な印鑑が入っている。
 俺は、心の中で親父に感謝し――、箱を手に居間に戻る。
 
「月山様、それは?」
「これは、以前に父親が使っていました印鑑などが入った箱です」
 
 箱を開けて朱肉と『月山雑貨店』と書かれている印鑑を取り出す。
 
「月山様、そのハンコは?」
 
 藤和さんが指差したのは、真新しいクリアケースに入ったハンコ。
   
「何でしょうか?」
 
 クリアケースを手に取るが乳白色なケースという事もあり中を伺い知ることが出来ない。
 蓋をしているビニールを剥がしたあと、中身を――、ハンコを取り出す。
 そこには――、何故か分からない。
 
 だが――、そのハンコには『月山雑貨店 代表取締役 月山五郎』と雑貨店の住所が書かれていた。
 
「どうして……」
 
 どうして俺の名前が――、月山雑貨店の印鑑に書かれているのか……。
 
「月山様、印鑑をご用意していらっしゃったのですね」
 
 そう――、藤和さんは聞いてくるが、
 
「そ、そうですね」
 
 ――と、しか俺には答えることは出来ない。
 実際には、用意はしていない。
 ただ、否定する意味も無いと思いそう答えたが――。
 
 とりあえず、考えることは後にすることにして納品伝票にハンコを押していく。
 藤和さんの話では、会社名と名前と住所が記載されていれば問題無いという事だったので、ハンコが出てきたのは渡りに船だったが……。
 
 結局、400枚の納品伝票にハンコを押し終わったのはお昼近くになった頃であった。
 藤和さんやスポットのアルバイト、そして休みを取りアルコールが抜けたトラックの運転手が帰った頃には、お昼近かった。
 
「ようやく終わったな……」
 
 本当に疲れた。
 今日は、一睡もしていないから疲れてしまった。
 早く寝たい……。
 
 家に戻ったところで、「おじちゃん! お仕事お疲れ様なの!」と、桜が玄関に立っていて笑顔を見せてくる。
 その笑顔だけで、疲れが一瞬で吹き飛ぶ。
 
「桜、起きていたのか?」
「うん! フーちゃんが起こしてくれたの!」
「そうか」
 
 昨日は、桜も寝るのが遅かったからな。
 朝起きる時間が前後するのも仕方ないのかも知れない。
 靴を脱いで家に上がったところで、「くーっ」という音が桜から聞こえてくる。
 
 桜の方を見ると、無言ではあったが頬が真っ赤に染まっている。
 そういえば、朝から何も食べてないな。
 
「桜、お昼にでもするか」
「うん!」
 
 台所にいきガスコンロに火を点ける。
 フライパンを熱したあとに、生卵を割って投入し白米を入れたあと、それらをお玉で混ぜながら、チャーハンの元を入れつつ、キャベツをみじん切りにした物を投入し火にかけていく。
 
「よし! 出来たぞ!」
 
 インターネットで、俺の料理スキルでも作れる料理を検索して作った物。
 その名も『チャーハンのキャベツ風味』。
 
「おじちゃん、これって……」
「ああ、チャーハンだ」
「チャーハン……」
 
 桜が、レンゲを使いチャーハンを口に運ぶ。
 
「普通においしいの!」
「そうか!」
 
 俺も食べてみるが普通に美味しい。
 さすが市販のチャーハンの素を使っただけはある。
 チャーハンの素は偉大である。
 
 お昼ご飯を食べ終わったところで、玄関のインターホンが鳴る。
 
「お客なの?」
「どうだろうな」
 
 玄関の戸をスライドさせると、立っていたのは雪音さん。
 
「月山さん、作業の方終わりました」
「……」
「月山さん?」
「い、いえ――、なんでもないです。そういえば、ご飯は食べましたか?」
「はい。祖父が一度、家に帰って祖母の作った食事を持ってきてくれたので――」
「そうですか……」
 
 雪音さんがデーター入力作業してくれていたという事を忘れていた。
 
「一応、金額については藤和さんと相談した金額――、定価で設定しておきました」
「そうですか」
「それですけど……」
「何か問題でも?」
 
 雪音さんが周囲を見渡すと、
 
「異世界で商品を販売するんですよね? 異世界での価格とかどうするんですか?」
 
 心配そうな表情で話しかけてくる。
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