上 下
76 / 437

第76話 納品

しおりを挟む
「あれが、アウガ新鮮市場だな」
 
 カーナビにも表示されている事から間違いはない。
 交差点を、真っ直ぐに直進し立体駐車場に車を停めたあとは、市場で買い物をするために物色をすることにする。
 
「市場っていっぱいあるの!」
 
 フーちゃんを、車の中に残したまま店を巡るが、俺の料理スキルが足りないこともあり、魚が捌けないという欠点からか買う物は限られてしまう。
 とりあえず、青森はリンゴが特産物だと思い一箱だけ購入。
 
「お魚とかお肉とかは買わないの?」
「車の中にフーちゃんを置いたままだから、早く帰らないといけないんだよ」
「そうなの?」
 
 桜が首を傾げているが、実際――、温度は上がってきているので嘘ではない。
 車に戻り青森インターチェンジから南下する。
 途中、何か所か休憩を取りながらもお昼過ぎには、結城村の峠を越えることができて――。
 
「おうちが見えてきたの!」
 
 月山雑貨店の看板が、周りには畑しかない風景の中でポツンと視界に映る。
 それを桜も見つけたのか声を上げている。
 
「やっと着いたな……」
 
 思ったより長い旅行になってしまった。
 もっと早く帰ってくる予定だったけど、金の装飾品の売買などで時間が思ったよりも掛かってしまった。
 正直、しばらく家からは出たくないほど精神的に疲れた。
 
「おじちゃん! あれ! あれ!」
「――ん?」
 
 月山雑貨店から、道路を挟んだ向かい側には黒色のトイレが設置されている。
 
「ずいぶんと存在感があるな……」
 
 見た目からも重厚感と共に重量もかなりありそうだ。
 
「すごいの!」
「とりあえず買い物してきた物を冷蔵庫と冷凍庫に入れたあと見てみようか」
「うん!」
 
 車を家の車庫に入れた後、すぐに電話をする。
 
「――お、五郎か?」
「踝さん、お久しぶりです。今、戻りました」
「そうか、そうか。旅行は満喫できたか?」
「はい。おかげさまで――」
 
 実際は、金の装飾品を売りに移動していた方が長いが――、踝さんには言っていないので旅行という事にしてあることもあり、「そうか。桜ちゃんは楽しんでいたか?」と、聞いてくる。
 
「はい。それで――、追加作業料金の支払いと店舗の話などを聞きたくて――」
「おお、そうだな。すぐに行くから待っていてくれ。それと弟の方にも連絡しておくから」「分かりました」
「宗像冷機の方は、どうするんだ?」
「とりあえず、宗像冷機を手配してくれた藤和さんに連絡を入れようかと思っています」
「そうだな、それじゃ! またあとでな」
 
 軽い様子で電話を切る踝さん。
 続いて、藤和さんへと電話を入れる。
 
「はい。藤和です」
「月山ですが――」
「ああ、お待ちしていました。商品の搬入についての事と、宗像冷機さんの事についてのお話がありましたので……」
 
 どうやら、俺達が旅行に行っているという事に遠慮して待っていてくれたようだ。
 これは悪いことをしたかもしれない。
 
「すみません。待たせてしまって」
「いえいえ。それで、月山様はご自宅にお戻りになられたという事でしょうか?」
「そうなります。それで宗像冷機さんの方と店舗の事について引き渡しの話をしたいのですが――」
「畏まりました。それでは、先方の方には私の方から連絡を致しますので――」
「よろしくお願いします」
「それと物品の搬入の方なのですが用意はすでに出来ているのですが……」
「そうなんですか?」
「はい。一緒に、今日の午後3時には伺えると思うのですが……」
 
 こちらのことを気遣ってくれているのか搬入をすぐにでも出来ますと過剰なまでのサービスを提案してきてくれる藤和さん。
 
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ? 藤和さんも、他に仕事が押しているのでしたら……」
「――いえ! ぜひ! 本日中に入荷を!」
「そ、そうですか……」
 
 ずいぶんと押しが強いな……。
 まぁ、藤和さんも仕事が押していてスケジュールが空いているのが今日くらいしかないかも知れないし……。
 
「わ、わかりました。それでは、作業工賃と商品の搬入の際の支払いは本日、現金一括払いで大丈夫でしょうか?」
「はい!」
 
 話が一段落したところで電話を一端切る。
 
「おじちゃん! クーラーつけていいの?」
「いいぞ!」
「涼しいの!」
「わふー」
 
 居間の方から桜とフーちゃんの声が聞こえてくる。
 
「――さて……と……」
 
 踝さんや藤和さんが来るまでに家の掃除でもするとするか。
 
 
 
 掃除が一段落ついた所で、桜とフーちゃんを寝かせたまま俺も横になっているとインターホンが鳴る。
 
「電話してから1時間も経ってないってことは……」
 
 壁にかけてある時計をチェック。
 踝兄弟の兄の方なら、まず間違いなくインターホンを押さずに玄関を開けてくるから、踝 誠さんの方がきたのだろうと当たりをつける。
 すぐに玄関の戸を開けると予想通り立っていたのは誠さん――、弟さんの方であった。
 
「兄から連絡を頂きまして伺いました」
「はい。伺っていますので――」
「それでは作業が終わりましたので引き渡しを兼ねて――」
 
 誠さんと共に、家庭菜園をしていた場所――、月山雑貨店の向かい側の場所へと向かう。
 そこは、綺麗に砕石が敷き詰められている。
 
「ずいぶんと早く終わったんですね」
「重機を入れましたので――、それでどうでしょうか?」
「十分だと思います。それと、あれは――」
 
 俺は、田口村長が話を持ってきた完全独立型トイレの方へ視線を向ける。
 
「その設置は兄が行いましたので、その時に説明があると思います。それと――、こちらをご覧ください。兄からの提案で散水栓を設置しました」
 
 誠さんが指さした場所の蓋を開けると、そこには蛇口が存在している。
 
「これは、サービスでつけておきました。何かあった時に水を使う場合に利用してください」
「わかりました。それで請求書を頂いても?」
「こちらになります」
 
 受け取った書類という名の請求書をチェックしていく。
 
「それでは、居間で話を」
「わかりました」
 
 家に戻ったあとは、封筒にお金を入れて誠さんに渡す。
 もちろん金額が間違っていないかどうかを確かめてもらう。
 
「確かに――、頂きました。それでは、また何かありましたらよろしくお願いします。あと、カニですけど、ありがとうございます。家族も喜んでいました」
「――いえいえ、一週間留守にしていましたので――。それとこちらこそ。今回はありがとうございます」
 
 誠さんの車は月山雑貨店前の駐車場に停めてあるので、そこまで出向き見送ったあとようやく一つ問題が片付いたなと溜息をつく。
 
 
 
 ――それから2時間以上経過したところで、家の扉がガラガラを開く音が聞こえてくる。
 
「五郎! 居るか?」
 
 俺は慌てて玄関へ向かう。
 まだ桜は寝ているのだ。
 途中で起こすのは宜しいとは言えない。
 
「待っていました。それにしても、同じ村に住んでいるのにずいぶんと時間が掛かりましたね」
 
 別に嫌味で言ったわけではない。
 俺の家から踝さんの家まで同じ村に住んでいるという事もあり車で20分くらいの距離なのだ。
 
「宗像冷機の人間も来るからな。それに合わせて遅らせたんだ。あと、カニは美味かったらしいぞ」
「美味かったらしい?」
「ああ、家に帰ったら妻と子供が全部食べていた」
「……それは、どんまい」
 
 まぁ家庭あるあるである。
 美味しい料理ほど父親の口には入らないという日本伝統のお家芸。
 踝さんと共に、トイレを設置した場所まで行き、使い方を教えてもらう。
 太陽光エネルギーを利用して半自動的に運用してくれるシステムが搭載されている事もあり、かなり近代的だ。
 
「――お、来たみたいだな」
 
 時刻は、すでに午後4時を過ぎている。
 それでも、まだ外は明るいので車が近づいてくるのがすぐに分かった。
 以前に大量の塩を藤和さんにお願いした時――、その時に納入した時に来た車が数台見える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...