田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
69 / 437

第69話 店内改装

しおりを挟む
 その言葉に、異世界で仕入れた物を売る為の倉庫を作っているのだと察してしまう。
 
「月山様」
 
 二人で話し込んでいたところで、東山エレクトロニクスの本田さんが話しかけてくる。
 
「何か問題でもありましたか?」
「作業が終わりましたので、受領印と――」
「分かりました。それでは、踝さん」
「はい。こちらの作業はお任せください」
 
 熱気が篭っている店内に入ると丁度、段ボールや器具を片付けている東山エレクトロニクスの若者の姿が目に入る。
 
「月山様、こちらがレジスターになります。使い方については、こちらの説明書をご覧ください」
 
 カウンターの上に置かれているレジスターの取り扱い説明書はハローページ並みの厚さだ。
 しかも、それが3冊もある。
 これは読むのだけで大変そうだな。
 
「それと、これが私の名刺になります」
 
 受け取った名刺には東山エレクトロニクスの本田(ほんだ) 平八(へいはち)と書かれている。
 
「故障した際には、こちらの品質保証書に書かれております連絡先までよろしくお願いします」
「分かりました」
「それでは受領印と金額に関しましては――」
 
 取付工賃などを含めると、70万円強――、正確には73万2664円。
 それを現金一括で支払う。
 そして受領印を押せばレジスターの取り付け作業は終わりだ。
 
「たしかに承りました」
 
 金額を確認したあと、本田さんはカバンにお金を入れたあと頭を下げて若者と一緒に引き上げていった。
 それにしても、レジスターか……。
 
「取り扱い説明書を読むだけで大変そうだな」
 
 ハローページと同等の分厚さを誇る説明書を3冊。
 それを手に抱えて外に出ると、ロードローラーが店の前の――、道路を挟んだ畑を整地しているのが見える。
 
「月山様」
「どうかしましたか?」
「じつは、ちょっと見て貰いたいのですが――」
 
 誠さんに案内された場所は、もちろん大型ロードローラーが整地している場所であったが、
 
「これは思ったより沈んでいませんか?」
 
 一目で分かる。
 予想していたよりも、大型ロードローラーが整地という踏み固めをした後の地面がずっと沈んでいるのだ。
 
「はい。以前、畑として利用されていたと言う事ですが、休眠状態であったことも加味して見積もりをしたのですが――」
「つまり、埋め立てる為の砕石が予想よりも多く必要と言う事ですか?」
「心苦しいのですが――、そうなります」
「なるほど……、ちなみに――、如何ほど必要ですか?」
「そうですね。もうあと30トンほど……」
「30トン……」
「仕方ないですね」
 
 人間だれしも間違いというか想定外の出来事は起きるものだ。
 ここで関係を拗らせるのは宜しくないだろう。
 ここはスパッ! と、出す物は出して印象を良くしておく方が今後の為にはいいはず。
 
「分かりました。それでは、必要な砕石を必要な分だけ投入してください。量に関しては、事後報告でいいので」
「本当にいいのですか?」
「はい。必要な物をケチっても仕方ないので、プロの方にお任せします」
「プロ……、わかりました! 承らせて頂きます!」
 
 すぐに誠さんは、携帯電話を取り出し電話を掛け始める。
 横で聞いている限りでは、近くの――、と、車で数時間の距離はあるであろう町の建材屋と話しているようだが――。
 
「それでは、自分は取り扱い説明書を読んでいますので、何かあったら家のチャイムを押してください」
「――あ、はい。わかりました」
 
 ――家に、居間に戻ると扇風機とクーラーが稼働しており桜とフーちゃんが寝ていた。
 
「仕方ないな」
 
 タオルケットを桜とフーちゃんにかけたあと、座布団の上に座り取り扱い説明書を読み始める。
 
「操作手順は、そんなに難しくないんだな」
 
 一度も、小売店で仕事はした事は無いが殆ど機械がやってくれるようで思ったより簡単にできそうだ。
 
「故障の際の手順は、壊れてからでいいか」
 
 どうせ、そんなに客は来ないだろうからな。
 習うより慣れろとも言うし、ある程度、使い方を理解しておくだけで、あとは実践で覚えていけばいいだろう。
 
 ――ピンポーン
 
「――ん? 誠さんか? 何か問題が起きたのか?」
「どうも宗像(むなかた)冷機です。冷凍・冷蔵ケースの設置にお伺いしました」
「五郎、作業を始めていいか?」
 
 まさか、リフォーム踝の社長である踝(くるぶし) 健(けん)さんと――、宗像冷機の作業員の方が一緒に来るとは思わなかった。
 
「店のシャッターの方は空いていますので作業をして頂いて結構ですので……」
 
「じゃ、俺は宗像冷機さんのところの作業員と相談して棚の最終チェックをしておくな」
「はい」
 
 もはや「はい」と、しか返す言葉はない。
 
「月山様、一応は現場の確認と作業の進捗を見て頂きたいのですが――」
「それは一部始終見る必要が?」
「はい。工事を始める前にウォークイン冷凍庫と冷蔵庫の設置場所の確認をお願いできますか?」
「わかりました」
 
 そこまで言われたら、蒸し暑い店内に戻らざるを得ない。
 月山雑貨店の駐車場まで戻ったところで、駐車スペースがいっぱいになっていることに気が付く。
 
 宗像冷機は、零細企業だと思っていたが――、ワンボックスカーだけで4台。
 冷凍・冷蔵ケースを積んだ四トントラックが3台も駐車場に停まっている。
 それだけじゃない。
 作業員の数が、一目で20人以上居る。
 
「これは……」
「すごい人口密度だよな!」
 
 俺の先輩にあたる健さんが笑ってくるが――。
 健さんの所の作業員だって6人いるし――、誠さんの所も8人も作業員が来ている。
 
「人口300人の結城村で……、30人以上集まる場所とか――」
 
 いま一番、結城村で人口密度が多い場所というのは間違いない。
 
「それでは説明させて頂きます」
 
 店内に入るとカウンターの上に店内の図面が広げられる。
 図面には、すでに移動が出来る簡易の冷凍・冷蔵ケース――、つまり独立したケースが書かれている。
 それは店舗の中央部分に置かれており壁際には、埋め込み式タイプのウォークイン冷凍庫や冷蔵庫と言った物が記載されていた。
 
「えっと……」
「まず、店内の配置につきまして踝さんと話をして田口さんからの依頼も含めまして――、店内の中央部分――、つまり島の部分は移動が出来る腰くらいの高さの冷蔵・冷凍ケースの設置をすることになっています」
「はい。それは伺っています」
 
 とりあえず、俺は頷いておく。
 その点に関しては以前に説明を受けていたからだ。
 
「次に、壁沿いに設置します埋め込み型のウォークイン冷蔵・冷凍庫については全部で9台用意してあります。月山様が購入されましたウォークインタイプの冷蔵・冷凍庫を足して全部で10台になりますので、容量的には普通のコンビニの倍近い冷蔵・冷凍商品を並べることが可能となります」
「なるほど……」
 
 実際、結城村では冷凍食品は町から購入してくる間に2時間近くかかることもあり溶けて変質してしまう。
 そのために、夏場にアイスクリームなどを町で購入して持ってくることは不可能。
 一度、溶けてしまったアイスは固めると内部の気泡が潰れて固くなって、まったく別のモノになってしまうから。
 
「本日の作業は、まず電動コンプレッサーを試用する為、配管の設置を行います。それに平行して冷蔵・冷凍ケースを壁に埋め込んで設置する形を取りたいと思っています。月山様のショーウィンドタイプの冷蔵・冷凍ケースですが、出来れば飲料水関係で利用して頂きたいと思っています」
「それは何故ですか?」
「はい。まず電動コンプレッサーを使って冷却をすると言う事は、島単位――、つまり電動コンプレッサーで冷やした際にグループが指定されるのです。どれだけ冷やすかという事をケースのグループ単位で決めるため冷凍系統は、冷凍系統。冷蔵ケースは冷蔵ケース系統と一般的に分けられています。その為、一つの電動コンプレッサーで冷蔵と冷凍ケースを同時に冷やすことは出来ないのです」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...