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第68話 レジスターがやってきた。

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「それにしても、今日は特に暑いな」
「暑いの」
「くーん」
 
 現時刻は――、朝7時半。
 すでに気温は31度を超えていた。
 さすがに盆地。
 熱が篭る速度は定評がある。
 さらに言えば近くに川が流れていることもあり湿度も高い。
 つまり暑くなる要素が! てんこ盛りなのだ。
 
 ――ということで、俺と桜と犬のフーちゃんが朝から何もやる気が出ず素麺だけで朝食を終わらせて縁側に寝そべりながら扇風機に当たってダラダラしているのは仕方ない……。そう仕方ない。
 
「おじちゃん……」
「ん?」
「アイスクリームは?」
「さっき作ったばかりだから固まるのに当分時間がかかるな」
「はうっ」
 
 桜が、力尽きたかのようにグタッと縁側で寝そべる。
 そして冷凍庫から持ってきたであろうロックアイスを口に含むと口の中で転がしている。
 
「クーラーでもつけるか」
 
 我が家では、クーラーは体に悪いと言う事であまり付けてはいないが、さすがに熱中症になったら洒落にならない。
 ダラダラと寝ていた桜が、「本当に!? フーちゃん! リモコン!」と叫ぶと、フーちゃんも「わん!」と、立ち上がると共に居間の方へと駆けていく。
 そして、フーちゃんは居間の畳の上で跳躍し壁に前足を掛けたかと思うと、そのまま頭上に向けてジャンプ。
 頭の上の壁の掛けてあったクーラーのリモコンを尻尾で叩き落とすと空中でリモコンを口に咥えて桜の元へもってくる。
 
「おじちゃん! リモコン!」
「そ、そうだな……」
 
 なんだか桜とフーちゃんの連携がすごい事になっているんだが……。
 まるで、フーちゃんと桜が意思疎通出来ているみたいだ。
 それに……、まるで犬らしからぬ動きだったような気がする。
 
「まぁ、見た目は犬だからな」
 
 異世界の犬なのだ。
 深く詮索するのも野暮というものだろう。
 障子を閉めたあとクーラーをつける。
 しばらく居間で、だらけているとようやく涼しくなってきて――、多少はやる気が出てくる。
 
「わう?」
 
 唐突に、耳をピクリと動かしたフーちゃんが立ち上がると、玄関の方へと走っていく。
 
「おじちゃん。フーちゃんが、知らない音がしたって言っていたの」
「そうなのか?」 
 
 子供特有の妄想みたいなものか。
 さすがに犬と話せるとか、そんなファンタジーなことはありえないと思いつつも俺も玄関の方へ向かう。
 
 ――ピンポーン
 
 玄関に到着したところで来客を知らせるチャイムが鳴る。
 すぐにドアを開けると、若い男が2人立って居り、
 
「すいません。月山五郎様の御自宅で宜しいでしょうか?」
「はい、そうですが――」
「東山エレクトロニクスの本田と言います。ホームセンターで依頼頂きましたレジスターの設置にお伺い致しました。どちらに設置すれば宜しいでしょうか?」
「少しお待ちください」
 
 居間に戻る。
 
「桜、店の方にレジの設置に行ってくるから、留守番を頼んだぞ?」
「うん」
 
 クーラーの真下に陣取っていた桜が頷くのを確認してから、すぐに箪笥に入れておいたお金の一部を財布に入れて家を出る。
 設置業者を連れて店のシャッターを開けたあと、蒸し暑い店内のカウンターにレジスターの設置をしてくれるようにお願いしておく。
 二人がレジスターの設置をしている間、俺は家に戻り冷えた麦茶とコップを二つ持ってくる。
 
「作業は、どのくらいで終わりますか?」
「そうですね……」
 
 俺の問いかけに二人の内――、20代後半の本田さんが口を開くと、「1時間もあれば作業は終わると思います。あと、料金の方ですが――」と、答えてくる。
 
「はい、分かっています」
 
 受領印となる印鑑も持ってきてあるし、現金も持参済み。
 
「店の中は暑いので、麦茶でも飲んでください」
「すいません」
「ありがとうございます」
 
 本田さんが頭を下げてくる。
 そんな彼は、まだ20歳前半であろう見習いの作業員にレジスターの箱の開封を指示していた。
 しばらく作業を見ていたが――、唐突に地面が揺れた。
 何か起きたのか? と、店の外に出てみると、大型トラックが3台ほど此方に向かってきているのが見える。
 
「あれは……、ローラー車か?」
 
 よく道路の工事でアスファルトを押し固めるのに使われているローラー車がトラックの荷台に乗っているのが見えた。
 
 
 
 トラックが、月山雑貨店の近くで停車したところで、ようやくトラックの側面に書かれている文字が視界に入った。
 やはりというか文字は、踝建設と書かれている。
 
「すいません、朝早くから――」
 
 トラックの助手席から降りてきたのは踝(くるぶし) 誠(まこと)さん。
 月山雑貨店の向かい側にある元・畑の整地を依頼した会社の社長。
 
「――いえ。こちらも店内のレジ設置の業者さんが来ていましたので……」
「なるほど、それは良かったです」
「それにしても、ずいぶんと大がかりですね」
「このくらいないと今日中には作業は終わりませんから」
「今日中に?」
 
 俺の問いかけに「はい」と、誠さんが頷いてくる。
 
「それと、店前の駐車場に車を入れさせてもらってもいいですか? この道だと10トンの大型トラックは別として、15トン近いロードローラーを運搬している大型特殊車両を停めておくのは宜しくないと思いますので」
「そんなに重量が?」
「はい。運搬用の大型特殊車両とロードローラーの重さを加味すれば30トンは楽に超えていますから」
 
 月山雑貨店の前の道は、たしかに舗装はされてはいる。
 以前は塩が満載に詰まれていた10トントレーラーが何台も連なって停められていたが、そこまで気は回らなかかった。
 
 餅は餅屋に聞けと言うが、やはり建設会社の人間なだけあって見方が違うのだろう。
 
 そうなると、プロの指示に従った方がいいだろう。
 一応、月山雑貨店の前は駐車場として利用されていた事もあるから、大型トラックが入っても問題はない……はず……。
 まぁ、壊れたら壊れたであとで修繕するとしよう。
 
「わかりました。もし駐車場が壊れたら修復を――、多少はお金が掛かってもいいのでお願いします」
「分かりました」
「車を一旦、こっちの駐車場に頭から入れてくれ。ロードローラー車は、直に道路に降りられるような形で――」
 
 誠さんが声を張り上げながら指示を出していく。
 それに共だって、トラックが頭から駐車場に入っていく。
 そんな様子を見ながら3台のトラックが駐車場内に停車する。
 
「それでは作業に入らせていただいてもいいでしょうか?」
「もちろんです」
 
 早めに作業が終わるなら、それに越したことはない。
 
「よーし、お前ら! 作業を開始してくれ!」
 
 誠さんが声で、ローラー車がトラックから降りていくと、
 ローラー車は、舗装された道路に一端、降りたあと昔、母親が家庭菜園をしていた畑にゆっくりと侵入していく。
 
「ずいぶんと慎重なんですね」
「元は、畑ですから――、どれだけ沈むか分かりませんからね」
「なるほど……、それで残りのトラックには――」
「砕石を20トンほどもってきてあります」
「20トン……」
「全部、使うとは限りませんが念のためです」
「それでは足が出てしまうのでは?」
「砕石というのは、そんなに高くはありませんので、1トンあたり2000円から6000円が相場ですから10トンでも2万円から6万円ほどになります」
「そうですか……」
 
 つまり20トンでも、20万円以下で抑えられると言う事になるわけか……。
 問題は人件費や輸送料などを含めると、それでは足りないと言う事になるわけだが……。
 
「そういえば、お兄さんは?」
「私達の作業が終わるまでは来てもやる事はないので――。それに店内の改築も、もうすぐ終わると言っていましたで今日来るかどうかは……、それに田口村長の依頼で大きなプレハブ小屋を建てる為に忙しいようです」
 
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