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第61話 税理士契約(3)
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雪音さんを連れて家を出たあと、庭を通り月山雑貨店バックヤード側へと続く戸を開けて通る。
「手前側から行くのではないのですね」
声の大きさからして独り言だとおもうが――。
後ろから付いてきている雪音さんへと「そうですね」と、俺は義務感のように相槌を打ちながら、バックヤード側のドアの鍵を開ける。
――リィン。
異世界と繋がる時に鳴る鈴の音が辺りに鳴り響く。
「五郎さん、いまのは――」
「異世界に繋がった音です」
「そうなのですか?」
半信半疑と言った様子で、雪音さんが俺の手元を見てくる。
俺は、そのままバックヤードから店内に入り、店の中から外を確認する。
時刻は、すでに昼を過ぎて午後2時――、異世界だと午前2時と言ったところだろう。
人影も店を護衛している兵士の姿しか見受けられない。
「これが昼間だったらな……」
大勢の人々が行きかう街並みを見せれば一発で理解を得ることが出来ただろうに。
「あれ? そういえば……」
バックヤードに戻る。
雪音さんの姿は見られない。
首を傾げながら、バックヤードから外に通じるドアを開けて外に出ると――、雪音さんや田口村長が驚いた様子で俺を見てきている。
「ご、五郎。孫がドアを開けようとしたが、ドアのノブを掴むことができないのだ」
「――え?」
俺は何度かドアノブを握るが特に問題なく触ることが出来るし開けることも出来る。
「今度は、私が試してみますね」
俺の横に来た雪音さんがドアノブを掴もうとする。
だけど、空を掴むように手はドアノブをすり抜けてしまう。
「うむ。やっぱりダメだのう」
「やっぱり?」
「うむ。五郎の父親に頼んだ時も同じ症状であった」
「なるほど……」
つまり、以前に試したことがあったと――。
「これって、どうなっているのですか?」
何度もドアノブを掴もうとトライしている雪音さんが原理を聞いてくるが――。
「エルフが作った結界としか……」
「エルフがいるんですか!? それってイケメンですか!」
「そうですね。イケメンというか女性が多いと聞いた事があります」
「女性が……」
明らかにテンションが下がる雪音さん。
「それよりも、店が異世界と繋がっているということをご理解頂けましたでしょうか?」
「はい」
雪音さんが渋々と言った様子で頷いてくる。
そのあとは居間に戻り塩の取引を異世界で行っていることなどを説明していく。
「量が量だけに何かしらの事業を隠れ蓑にしないとこれは……」
やはりというか――、村長と同じ個所(かしょ)が気になったらしいな。
「やはり――、そこが気になりますか……」
「はい。月山様が、取引を行っている藤和さんがどういう事務手続きをしているか分かりませんが、問屋であり会社という形を取っている以上、必ず取引会社というのが存在していますので、藤和さんが幾ら情報を隠蔽したところで隠し通せる物ではありませんから――」
「そうですね……」
「一番いい方法としては行政に、異世界と通じる扉があることを伝えるのが一番良いと思います」
「それは、ちょっと……」
さすがに、俺や桜は異世界人の血を引いている。
そんな俺達を国が放っておく可能性は非常に低い。
間違いなくモルモットか何かに利用されるし忌避の目で見られることだろう。
「そうですよね……。月山様の御家庭は、異世界人の方の血を引いていますものね」
どうやら、案の一つとして出したようだな。
まぁ、俺が異世界人の血を引いている事は説明したし……。
「だから言っただろう? 大量の塩を使う何かしらの民芸品を用意して――、それを隠れ蓑にして売ればいいと」
「おじいちゃん。塩の使い道って抗菌とか汚れを落とす分野くらいにしかないんだよ?」
「ふむ……」
「それでは、異世界から商品を仕入れる際に塩を使って作りそうな民芸品を仕入れてくればいいのでは?」
「そんな都合のいい物があるのか?」
半信半疑な表情で村長が聞いてくるが――。
「ダメ元でもやるしかないでしょう。行政に目をつけられれば面倒な事になりますし……。それに、何とかしないと金の換金も問題ですから」
「そうだの」
「――え? 金って何ですか?」
俺と村長の話に雪音さんが割って入ってくる。
「そういえば、雪音さんには金の事について話していませんでしたね」
俺は隣の居間から10キロ相当の金の装飾品が入っている袋を持ち運んでくると、客間の畳の上に広げる。
「――こ、これは……。……ぜ、全部! 本物ですか?」
「純金の本物です」
雪音さんが震える手で金を手にして見ていく。
「あ、あの! これだけの金は、どうやって――」
「塩を売って報酬としてもらいました」
「……もしかして異世界って文明が、かなり遅れていたりしますか?」
「どうでしょうか?」
正直、文明がどれだけ遅れているかは一目見ただけでは分からないが……。
とりあえず分かる事と言えば産業革命前の中世ヨーロッパと言った感じだろうか?
「とりあえず車とか飛行機は見当たらなかったですね」
「五郎。そんな物が異世界に存在していたら塩が高値で売れるわけがないだろう?」
「それもそうですね」
「あの……、経営サポートする事務員として一度、異世界に行きたいのですけど……」
「そんなに異世界に行くことが重要ですか?」
「はい。この目で異世界を確認しておいた方が経営面としてでもバックアップできると思いますので……。正直、月山様は少し周囲への警戒心が薄いような感じがしますから……」
何か遠回しに使えない人間されているような気がしたんだが、気のせいか?
「そうですね。どちらにしても異世界には、魔力がない人間は入れないので……、――ん?」
「どうかしましたか?」
「なんでも――」
そういえば、異世界に雑貨店が繋がった時――、誰も店に入る事が出来ないとナイルさんが言っていたな。
――只、ノーマン辺境伯だけは店の中に立ち入ることが出来た。
それは俺がノーマン辺境伯の手を握っていたから。
そう考えると、もしかしたら……。
「分かりました。それでは一度、夜の0時に来て頂けますか? その時に、もしかしたら異世界に行けるかも知れないので――、行けなかったら諦めてください」
「はい! 分かりました。それでは、今日の午前0時にお伺いさせて頂きます。おじいちゃん! いいよね!」
「その時間は年寄には……」
「いいよね! 私、車持ってないし!」
「年寄には……、辛い時間……」
「村長、それでは自分が雪音さんを迎えにいきますので大丈夫ですよ」
「おおっ、さすが五郎。老体に鞭打ってくる孫娘とはえらい違いだの」
話が一段落ついた所で、車で帰る二人を見送る。
そのあとは、作り置きしていたプリンをおやつとして桜は食べたあと、いつも通り俺の部屋になっている居間で横になりゴロゴロとしていた。
「おじちゃん」
「――ん? どうした?」
「フーちゃんがね」
「あー、そういえば病院に連れていかないといけないな」
一応、村長の手前もあるからな。
連れていって診断結果を見せた方がいいだろうし……。
「病気じゃなくてね、少し匂うの!」
「どれどれ」
フーちゃんを抱き上げてお腹の辺りの匂いを嗅ぐ。
たしかに、少し獣くさい。
「仕方ないな」
フーちゃんを抱き上げたまま、風呂場に入り湯舟にお湯を張っていく。
すると――、フーちゃんが「わうわうわう」と叫び始める。
どうやら、洗われてしまうというのが分かってしまったようだな。
レジを予約したホームセンターで購入してきた犬専用シャンプーを取り出し「きゅーん」と絶望的な表情を見せているフーちゃんを洗っていく。
一回目は、まったく泡が立たない。
5回ほど洗ったところで、ようやく綺麗になる。
毛並みがシベリアンハスキーぽいと思っていたが、洗い終わったあとの毛並みは真っ白な犬種としてはスピッツに近い感じになってしまった。
「手前側から行くのではないのですね」
声の大きさからして独り言だとおもうが――。
後ろから付いてきている雪音さんへと「そうですね」と、俺は義務感のように相槌を打ちながら、バックヤード側のドアの鍵を開ける。
――リィン。
異世界と繋がる時に鳴る鈴の音が辺りに鳴り響く。
「五郎さん、いまのは――」
「異世界に繋がった音です」
「そうなのですか?」
半信半疑と言った様子で、雪音さんが俺の手元を見てくる。
俺は、そのままバックヤードから店内に入り、店の中から外を確認する。
時刻は、すでに昼を過ぎて午後2時――、異世界だと午前2時と言ったところだろう。
人影も店を護衛している兵士の姿しか見受けられない。
「これが昼間だったらな……」
大勢の人々が行きかう街並みを見せれば一発で理解を得ることが出来ただろうに。
「あれ? そういえば……」
バックヤードに戻る。
雪音さんの姿は見られない。
首を傾げながら、バックヤードから外に通じるドアを開けて外に出ると――、雪音さんや田口村長が驚いた様子で俺を見てきている。
「ご、五郎。孫がドアを開けようとしたが、ドアのノブを掴むことができないのだ」
「――え?」
俺は何度かドアノブを握るが特に問題なく触ることが出来るし開けることも出来る。
「今度は、私が試してみますね」
俺の横に来た雪音さんがドアノブを掴もうとする。
だけど、空を掴むように手はドアノブをすり抜けてしまう。
「うむ。やっぱりダメだのう」
「やっぱり?」
「うむ。五郎の父親に頼んだ時も同じ症状であった」
「なるほど……」
つまり、以前に試したことがあったと――。
「これって、どうなっているのですか?」
何度もドアノブを掴もうとトライしている雪音さんが原理を聞いてくるが――。
「エルフが作った結界としか……」
「エルフがいるんですか!? それってイケメンですか!」
「そうですね。イケメンというか女性が多いと聞いた事があります」
「女性が……」
明らかにテンションが下がる雪音さん。
「それよりも、店が異世界と繋がっているということをご理解頂けましたでしょうか?」
「はい」
雪音さんが渋々と言った様子で頷いてくる。
そのあとは居間に戻り塩の取引を異世界で行っていることなどを説明していく。
「量が量だけに何かしらの事業を隠れ蓑にしないとこれは……」
やはりというか――、村長と同じ個所(かしょ)が気になったらしいな。
「やはり――、そこが気になりますか……」
「はい。月山様が、取引を行っている藤和さんがどういう事務手続きをしているか分かりませんが、問屋であり会社という形を取っている以上、必ず取引会社というのが存在していますので、藤和さんが幾ら情報を隠蔽したところで隠し通せる物ではありませんから――」
「そうですね……」
「一番いい方法としては行政に、異世界と通じる扉があることを伝えるのが一番良いと思います」
「それは、ちょっと……」
さすがに、俺や桜は異世界人の血を引いている。
そんな俺達を国が放っておく可能性は非常に低い。
間違いなくモルモットか何かに利用されるし忌避の目で見られることだろう。
「そうですよね……。月山様の御家庭は、異世界人の方の血を引いていますものね」
どうやら、案の一つとして出したようだな。
まぁ、俺が異世界人の血を引いている事は説明したし……。
「だから言っただろう? 大量の塩を使う何かしらの民芸品を用意して――、それを隠れ蓑にして売ればいいと」
「おじいちゃん。塩の使い道って抗菌とか汚れを落とす分野くらいにしかないんだよ?」
「ふむ……」
「それでは、異世界から商品を仕入れる際に塩を使って作りそうな民芸品を仕入れてくればいいのでは?」
「そんな都合のいい物があるのか?」
半信半疑な表情で村長が聞いてくるが――。
「ダメ元でもやるしかないでしょう。行政に目をつけられれば面倒な事になりますし……。それに、何とかしないと金の換金も問題ですから」
「そうだの」
「――え? 金って何ですか?」
俺と村長の話に雪音さんが割って入ってくる。
「そういえば、雪音さんには金の事について話していませんでしたね」
俺は隣の居間から10キロ相当の金の装飾品が入っている袋を持ち運んでくると、客間の畳の上に広げる。
「――こ、これは……。……ぜ、全部! 本物ですか?」
「純金の本物です」
雪音さんが震える手で金を手にして見ていく。
「あ、あの! これだけの金は、どうやって――」
「塩を売って報酬としてもらいました」
「……もしかして異世界って文明が、かなり遅れていたりしますか?」
「どうでしょうか?」
正直、文明がどれだけ遅れているかは一目見ただけでは分からないが……。
とりあえず分かる事と言えば産業革命前の中世ヨーロッパと言った感じだろうか?
「とりあえず車とか飛行機は見当たらなかったですね」
「五郎。そんな物が異世界に存在していたら塩が高値で売れるわけがないだろう?」
「それもそうですね」
「あの……、経営サポートする事務員として一度、異世界に行きたいのですけど……」
「そんなに異世界に行くことが重要ですか?」
「はい。この目で異世界を確認しておいた方が経営面としてでもバックアップできると思いますので……。正直、月山様は少し周囲への警戒心が薄いような感じがしますから……」
何か遠回しに使えない人間されているような気がしたんだが、気のせいか?
「そうですね。どちらにしても異世界には、魔力がない人間は入れないので……、――ん?」
「どうかしましたか?」
「なんでも――」
そういえば、異世界に雑貨店が繋がった時――、誰も店に入る事が出来ないとナイルさんが言っていたな。
――只、ノーマン辺境伯だけは店の中に立ち入ることが出来た。
それは俺がノーマン辺境伯の手を握っていたから。
そう考えると、もしかしたら……。
「分かりました。それでは一度、夜の0時に来て頂けますか? その時に、もしかしたら異世界に行けるかも知れないので――、行けなかったら諦めてください」
「はい! 分かりました。それでは、今日の午前0時にお伺いさせて頂きます。おじいちゃん! いいよね!」
「その時間は年寄には……」
「いいよね! 私、車持ってないし!」
「年寄には……、辛い時間……」
「村長、それでは自分が雪音さんを迎えにいきますので大丈夫ですよ」
「おおっ、さすが五郎。老体に鞭打ってくる孫娘とはえらい違いだの」
話が一段落ついた所で、車で帰る二人を見送る。
そのあとは、作り置きしていたプリンをおやつとして桜は食べたあと、いつも通り俺の部屋になっている居間で横になりゴロゴロとしていた。
「おじちゃん」
「――ん? どうした?」
「フーちゃんがね」
「あー、そういえば病院に連れていかないといけないな」
一応、村長の手前もあるからな。
連れていって診断結果を見せた方がいいだろうし……。
「病気じゃなくてね、少し匂うの!」
「どれどれ」
フーちゃんを抱き上げてお腹の辺りの匂いを嗅ぐ。
たしかに、少し獣くさい。
「仕方ないな」
フーちゃんを抱き上げたまま、風呂場に入り湯舟にお湯を張っていく。
すると――、フーちゃんが「わうわうわう」と叫び始める。
どうやら、洗われてしまうというのが分かってしまったようだな。
レジを予約したホームセンターで購入してきた犬専用シャンプーを取り出し「きゅーん」と絶望的な表情を見せているフーちゃんを洗っていく。
一回目は、まったく泡が立たない。
5回ほど洗ったところで、ようやく綺麗になる。
毛並みがシベリアンハスキーぽいと思っていたが、洗い終わったあとの毛並みは真っ白な犬種としてはスピッツに近い感じになってしまった。
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