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第32話 根室家の事情
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目黒さんの家から、根室さんの牧場はご近所である。
山を下りて、橋を渡り田畑の合間の道を走ること10分。
牛乳を貯めるタンクが視界に入ってきた。
「桜、もうすぐ根室さんの家だぞ」
「……うん」
元気なさそうに頷く桜の姿をバックミラーで確認しつつ、車を運転する。
根室さんの家の敷地に入ったあとは、桜をチャイルドシートから降ろして母屋へと向かうが見慣れない赤いセダンが停まっている。
「おじちゃん」
「分かった」
とりあえず、「お兄さんな!」と、訂正することなく桜のあとを付いていく。
何故か知らないが、訂正するよりも早めに根室老夫妻と会った方がいい気がしたからだが――。
玄関の引き戸を何度か叩き、「月山です!」と、叫ぶが――、答えは帰ってこない。
何となくだが――、留守という感じではないように思える。
こういう時にインターホンとか設置しておいてくれれば便利なのに……。
「おじちゃん、居ないのかな?」
「どうだろうな……」
桜に言葉を返しながらも、仕方ないと割りきる。
都会に住むこと20年近く。
他人の土地に無断で入るのは、気が進まないのだが……、仕方ないと心の中で呟きつつも縁側の方へと向かう。
幸い雨戸は開いていた。
「和美ちゃん……」
さくらがトコトコと歩いていく。
そんな桜の声に気が付いたのか、和美ちゃんだけでなく根室老夫妻と、20代後半の女性が俺達に視線を向けてくる。
「桜ちゃん――」
何となくだが――、和美ちゃんの元気が無いように思えるのは俺の気のせいではないかも知れない。
それに……、そこはかとなく女性の顔立ちは和美ちゃんに似ている気がする。
「五郎、どうかしたのか?」
正文が立ち上がり、縁側から降りてきた。
その顔色は、どこか疲れているようにすら見える。
「いえ、今日は和美ちゃんが遊びに来なかったので……、心配になっていたのですが……、そんな雰囲気では無さそうですね」
正文が、小さく首肯する。
やはり余計な事は言わない方がいいかも知れないな。
「和美ちゃんのお母さん?」
――と、考えていると俺の横に立っていた桜が俺を見上げてきて聞いてくるが……、俺に聞かれても答えられるはずもない。
何せ、知らない女性なのだ。
「そうだよ、和美の母親で恵美さんだよ」
桜の問いかけに答える正文。
なるほど……、それにしてもずいぶんと年若い女性と諸文は結婚したものだな。
10歳以上は年が離れているだろうに。
正文の様子から、あまり立ち入って欲しくない話だと理解する。
「今日は、帰ります。また、何かありましたら電話でもしてください」
「すまないな」
桜の手を掴んだあと、車まで戻りチャイルドシートに乗せ、車のエンジンを掛ける。
「おじちゃん……、和美ちゃん帰っちゃうの?」
「まだ夏休みが終わるまで一ヵ月くらいはあるからな」
以前に調べた限りでは、幼稚園にも夏休みがあるらしい。
ただ、俺は和美ちゃんが小学一年の可能性もあると考えているので、もしかしたら小学校の夏休みを利用して田舎に来ているのでは? とも思っていた。
だから桜からの問いかけに曖昧な答えで返す形になってしまう。
ただし正直、母親が来ているのなら和美ちゃんが家に帰る可能性はとても高い。
何せ夏休み期間に遊びにきているだけなのだから。
――ただ、迎えにきただけという雰囲気ではないんだよな……。
考えたところで、答えは出ない。
ここは一度、気分転換でもした方がいいだろう。
「今日は、町にいくとするか」
金を売ってお金にしないといけないし。
それに、久しぶりにレストランで食事をするというのも悪くない。
結城村から車で走ること2時間――、人口200万人近い都市にまで足を運んだあとは、昼食をファミレスで食べた。
お昼ご飯は、ハンバーグ定食2人前。
俺としては、桜はお子様ランチでいいと思ったが、桜が断固拒否してきたので、普通の大人向けハンバーグ定食になった。
きっと背伸びをしたいお年頃なのだろう。
そのあとは、スマートフォンで金の買取店舗を調べつつ装飾品を売っていく。
――ただ今風の形ではないからなのか、少しばかり怪訝そうな表情を見せる店員は多かった。
金の装飾品を売ったあと、袋の中身を確認する。
とりあえず宝石が取り付けられている宝飾品以外の換金は全て済んだ。
今回、換金できた金額は577万4000円。
当座の資金としては十分すぎるくらいだ。
問題は、23店舗も回ったことで近くの質屋や金の買取店舗をコンプリートしてしまい、次回からは使えないというところだろう。
「もう少し遠出をしないといけなくなるかな……」
「とおで?」
「遠出だな。少し離れたところに御仕事に行くってことだ」
「桜は?」
「もちろん一緒にいくことになるけど、大丈夫か? いっぱい車に乗ることになるけど」
「うん! 大丈夫!」
沈んだ様子で、聞いてきた桜は俺の返答に笑みを浮かべて言葉を返してくる。
そんな桜の様子を見て俺は一人だけ置いて行かれるのは嫌なのだろうと、何となくだが察してしまう。
それと同時に異世界の事について桜に話していいものなのか? と、考える。
今の桜は、以前よりも話すようになったとは言え、両親が居なくなったという傷は消えてはいないし、こんな短期間で癒えるとも思えない。
笑顔を見せているが――、桜は聡い子だ。
もしかしたら、俺に気を使っている可能性もある。
そんな子に、異世界の話をするのは……。
もう少し落ち着いてからでも良いのかも知れない……。
それに、ノーマン辺境伯という人物が本当はどんな人間なのかという事も分かっていない。
少なくとも、奴隷制度を嫌っているというのは分かったし、こちらの利益の事も考えてくれているということは理解できる。
――ただ、それが演技だと言う可能性だってある。
我ながら捻くれた性格だと言うのは分かるが――、結城村の村長や医院長などにも注意された通り、自分一人が責任を負うだけで済む問題ではないのだ。
俺の失敗は、俺の家族である桜にも響く。
安易に行動することは極力避けた方がいいだろう。
車のエンジンを掛けたあと、車のヘッドライトをつける。
すでに時刻は、午後6時を示していた。
結城村まで戻るとなると午後8時になりそうだ。
今日は近くのホテルで泊まった方がいいかも知れないな。
丁度、お金もある程度あることだし。
スマートフォンで近くのホテルをチェックしていくが繁忙期と言う事もあり空きが中々見つからない。
「少し高めのホテルにするか……」
「今日っておとまりなの?」
「そうだな。桜は、どんなホテルに泊まりたい?」
「わかんない……」
「そっか」
とりあえず、朝食がついているホテルを選ぶとしよう。
金額としては、夏の繁忙期ということもあり一人一泊4万円というプランのホテルが見つかった。
すぐに予約を入れる。
「よし、いくとするか」
場所を暗記したまま車を走らせること30分ほど。
ようやくホテルが見えてきた。
「おっきいー」
「そうだな……」
インターネットで検索して調べたこともあり、ホテルの規模などを確認しなかった。
さすが一泊4万円のホテルと言ったところだろう。
駐車場も広く、何台もの大型バスが停まっているのが見える。
車を駐車スペースに停めたあと、桜と一緒にホテルのフロントへと向かう。
「それにしても……、以前に一度だけ行ったことがある帝国ホテルと同じくらいフロントが広いな」
「ていこくほてる?」
「東京にある大きなホテルの事だよ」
桜が、ホテルのフロントをキョロキョロと見渡しながらトコトコと俺のあとを着いてくる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「予約をしていた月山と言いますが――」
「確認いたします。少しお待ち下さい……、――はい、確認致しました。それでは、こちらに、お名前とお電話番号などの記入を頂けますでしょうか?」
差し出された名簿表に名前、電話番号、住所、職業などを記載していく。
職業は個人事業主と言ったところか……。
「それでは、こちらがカードキーになります。お部屋から出られる際にもお忘れないようにお願い致します」
2人分のカードキーを受け取る。
すると、フロント受付が呼んだホテルマンが俺達を案内してくれるようで後を付いていくことになった。
別に手荷物などカバンしかないのだから必要ないんだけどな……。
ただ、断るのも悪い気がしたので案内されることになった。
「すっごい広いの」
通された部屋は、3LDKあり1DKのビジネスルームとは訳が違った。
まさしく次元が違うと言っていい。
「お布団もふかふか……」
桜が、布団を両手で押しながら俺を見上げてくる。
「この布団は高そうだな……」
正直、あまり高い布団だと俺は寝られない。
畳にせんべい布団を敷いただけの方が寝れる俺にとって羽毛が沢山使われている布団は、寝心地が悪いのだ。
山を下りて、橋を渡り田畑の合間の道を走ること10分。
牛乳を貯めるタンクが視界に入ってきた。
「桜、もうすぐ根室さんの家だぞ」
「……うん」
元気なさそうに頷く桜の姿をバックミラーで確認しつつ、車を運転する。
根室さんの家の敷地に入ったあとは、桜をチャイルドシートから降ろして母屋へと向かうが見慣れない赤いセダンが停まっている。
「おじちゃん」
「分かった」
とりあえず、「お兄さんな!」と、訂正することなく桜のあとを付いていく。
何故か知らないが、訂正するよりも早めに根室老夫妻と会った方がいい気がしたからだが――。
玄関の引き戸を何度か叩き、「月山です!」と、叫ぶが――、答えは帰ってこない。
何となくだが――、留守という感じではないように思える。
こういう時にインターホンとか設置しておいてくれれば便利なのに……。
「おじちゃん、居ないのかな?」
「どうだろうな……」
桜に言葉を返しながらも、仕方ないと割りきる。
都会に住むこと20年近く。
他人の土地に無断で入るのは、気が進まないのだが……、仕方ないと心の中で呟きつつも縁側の方へと向かう。
幸い雨戸は開いていた。
「和美ちゃん……」
さくらがトコトコと歩いていく。
そんな桜の声に気が付いたのか、和美ちゃんだけでなく根室老夫妻と、20代後半の女性が俺達に視線を向けてくる。
「桜ちゃん――」
何となくだが――、和美ちゃんの元気が無いように思えるのは俺の気のせいではないかも知れない。
それに……、そこはかとなく女性の顔立ちは和美ちゃんに似ている気がする。
「五郎、どうかしたのか?」
正文が立ち上がり、縁側から降りてきた。
その顔色は、どこか疲れているようにすら見える。
「いえ、今日は和美ちゃんが遊びに来なかったので……、心配になっていたのですが……、そんな雰囲気では無さそうですね」
正文が、小さく首肯する。
やはり余計な事は言わない方がいいかも知れないな。
「和美ちゃんのお母さん?」
――と、考えていると俺の横に立っていた桜が俺を見上げてきて聞いてくるが……、俺に聞かれても答えられるはずもない。
何せ、知らない女性なのだ。
「そうだよ、和美の母親で恵美さんだよ」
桜の問いかけに答える正文。
なるほど……、それにしてもずいぶんと年若い女性と諸文は結婚したものだな。
10歳以上は年が離れているだろうに。
正文の様子から、あまり立ち入って欲しくない話だと理解する。
「今日は、帰ります。また、何かありましたら電話でもしてください」
「すまないな」
桜の手を掴んだあと、車まで戻りチャイルドシートに乗せ、車のエンジンを掛ける。
「おじちゃん……、和美ちゃん帰っちゃうの?」
「まだ夏休みが終わるまで一ヵ月くらいはあるからな」
以前に調べた限りでは、幼稚園にも夏休みがあるらしい。
ただ、俺は和美ちゃんが小学一年の可能性もあると考えているので、もしかしたら小学校の夏休みを利用して田舎に来ているのでは? とも思っていた。
だから桜からの問いかけに曖昧な答えで返す形になってしまう。
ただし正直、母親が来ているのなら和美ちゃんが家に帰る可能性はとても高い。
何せ夏休み期間に遊びにきているだけなのだから。
――ただ、迎えにきただけという雰囲気ではないんだよな……。
考えたところで、答えは出ない。
ここは一度、気分転換でもした方がいいだろう。
「今日は、町にいくとするか」
金を売ってお金にしないといけないし。
それに、久しぶりにレストランで食事をするというのも悪くない。
結城村から車で走ること2時間――、人口200万人近い都市にまで足を運んだあとは、昼食をファミレスで食べた。
お昼ご飯は、ハンバーグ定食2人前。
俺としては、桜はお子様ランチでいいと思ったが、桜が断固拒否してきたので、普通の大人向けハンバーグ定食になった。
きっと背伸びをしたいお年頃なのだろう。
そのあとは、スマートフォンで金の買取店舗を調べつつ装飾品を売っていく。
――ただ今風の形ではないからなのか、少しばかり怪訝そうな表情を見せる店員は多かった。
金の装飾品を売ったあと、袋の中身を確認する。
とりあえず宝石が取り付けられている宝飾品以外の換金は全て済んだ。
今回、換金できた金額は577万4000円。
当座の資金としては十分すぎるくらいだ。
問題は、23店舗も回ったことで近くの質屋や金の買取店舗をコンプリートしてしまい、次回からは使えないというところだろう。
「もう少し遠出をしないといけなくなるかな……」
「とおで?」
「遠出だな。少し離れたところに御仕事に行くってことだ」
「桜は?」
「もちろん一緒にいくことになるけど、大丈夫か? いっぱい車に乗ることになるけど」
「うん! 大丈夫!」
沈んだ様子で、聞いてきた桜は俺の返答に笑みを浮かべて言葉を返してくる。
そんな桜の様子を見て俺は一人だけ置いて行かれるのは嫌なのだろうと、何となくだが察してしまう。
それと同時に異世界の事について桜に話していいものなのか? と、考える。
今の桜は、以前よりも話すようになったとは言え、両親が居なくなったという傷は消えてはいないし、こんな短期間で癒えるとも思えない。
笑顔を見せているが――、桜は聡い子だ。
もしかしたら、俺に気を使っている可能性もある。
そんな子に、異世界の話をするのは……。
もう少し落ち着いてからでも良いのかも知れない……。
それに、ノーマン辺境伯という人物が本当はどんな人間なのかという事も分かっていない。
少なくとも、奴隷制度を嫌っているというのは分かったし、こちらの利益の事も考えてくれているということは理解できる。
――ただ、それが演技だと言う可能性だってある。
我ながら捻くれた性格だと言うのは分かるが――、結城村の村長や医院長などにも注意された通り、自分一人が責任を負うだけで済む問題ではないのだ。
俺の失敗は、俺の家族である桜にも響く。
安易に行動することは極力避けた方がいいだろう。
車のエンジンを掛けたあと、車のヘッドライトをつける。
すでに時刻は、午後6時を示していた。
結城村まで戻るとなると午後8時になりそうだ。
今日は近くのホテルで泊まった方がいいかも知れないな。
丁度、お金もある程度あることだし。
スマートフォンで近くのホテルをチェックしていくが繁忙期と言う事もあり空きが中々見つからない。
「少し高めのホテルにするか……」
「今日っておとまりなの?」
「そうだな。桜は、どんなホテルに泊まりたい?」
「わかんない……」
「そっか」
とりあえず、朝食がついているホテルを選ぶとしよう。
金額としては、夏の繁忙期ということもあり一人一泊4万円というプランのホテルが見つかった。
すぐに予約を入れる。
「よし、いくとするか」
場所を暗記したまま車を走らせること30分ほど。
ようやくホテルが見えてきた。
「おっきいー」
「そうだな……」
インターネットで検索して調べたこともあり、ホテルの規模などを確認しなかった。
さすが一泊4万円のホテルと言ったところだろう。
駐車場も広く、何台もの大型バスが停まっているのが見える。
車を駐車スペースに停めたあと、桜と一緒にホテルのフロントへと向かう。
「それにしても……、以前に一度だけ行ったことがある帝国ホテルと同じくらいフロントが広いな」
「ていこくほてる?」
「東京にある大きなホテルの事だよ」
桜が、ホテルのフロントをキョロキョロと見渡しながらトコトコと俺のあとを着いてくる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「予約をしていた月山と言いますが――」
「確認いたします。少しお待ち下さい……、――はい、確認致しました。それでは、こちらに、お名前とお電話番号などの記入を頂けますでしょうか?」
差し出された名簿表に名前、電話番号、住所、職業などを記載していく。
職業は個人事業主と言ったところか……。
「それでは、こちらがカードキーになります。お部屋から出られる際にもお忘れないようにお願い致します」
2人分のカードキーを受け取る。
すると、フロント受付が呼んだホテルマンが俺達を案内してくれるようで後を付いていくことになった。
別に手荷物などカバンしかないのだから必要ないんだけどな……。
ただ、断るのも悪い気がしたので案内されることになった。
「すっごい広いの」
通された部屋は、3LDKあり1DKのビジネスルームとは訳が違った。
まさしく次元が違うと言っていい。
「お布団もふかふか……」
桜が、布団を両手で押しながら俺を見上げてくる。
「この布団は高そうだな……」
正直、あまり高い布団だと俺は寝られない。
畳にせんべい布団を敷いただけの方が寝れる俺にとって羽毛が沢山使われている布団は、寝心地が悪いのだ。
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