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第30話 日進月歩
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「他の者との協力で用意できましたので」
「……ふむ。それでは見せてもらうとしようか」
颯爽とした身のこなしでノーマン辺境伯は椅子から立ち上がる。
「ナイル。早急にアロイスに、兵士と運送用の荷馬車の用意を伝えるのだ。」
「分かりました」
「儂は、これから城下町に出向き物の確認を行う」
ノーマン辺境伯の指示を受けたナイルさんは、すぐに部屋から出ていく。
「それではいくとしよう」
用意された馬車に二人して乗りこみ店の前に到着したのは、それから30分後……。
どうして、それだけの時間が掛かったかというと――。
それは店の前に待機していた兵士の数が増えていたからだ。
先ほど店から出る時に見た数の10倍――、100人近くはおり通りを圧迫していた。
おかげで通りは、混みあい時間が掛かったという。
馬車を降りたあと、ノーマン辺境伯と手を繋ぎ店内に入る。
今回も光が発生したが、異世界は病が多いのだろうか?
「こ、これは……」
パレットに詰まれている塩に目を向けた途端、ノーマン辺境伯が目を見開くと口を開いた。
「どうかしましたか?」
「う、うむ……。これは、全て同じ……、なのだな?」
ノーマン辺境伯が、パレットに積まれている塩を手に取りながら振り向いてくる。
「はい。それが何か?」
何を驚いているのだろうか?
「これは、全て同じ量で分けられているのだな?」
「もちろんです。私の国では、これが普通ですので――」
「う、うむ……。コレが普通なのか……」
ノーマン辺境伯が、独り言のように呟くと店の中を見回す。
あれは、何なのだ?
「あれがシャッターを開閉するボタンですね」
「ボタン?」
「このボタンを押すと、出入り口の扉が開くようになっています」
レジを置く予定のテーブル近くの柱に近寄りボタンを押すと低い音が鳴りながらシャッターが閉まっていく。
「ふむふむ。珍しいカラクリがあるのだな」
カラクリって……、そんな言葉が異世界にあるのか。
「――して、この点滅している機械は何なのだ?」
「ルーターですね」
「ルーター? 何かの魔法道具なのか?」
「いえ、インターネットに繋げるために必要な物ですね」
「いんたーねっと?」
「簡単に説明しますと世界中の情報を共有し見たりすることが出来る物ですね」
「――なんと!? そんな物が!? すばらしい魔法道具であるな」
興味津々と言った様子で子供のように目を輝かせながらルーターを見ている。
「それにしても……」
顔を上げたノーマン辺境伯は、俺へと視線を向けてくる。
「ゲシュペンストは、異世界は我が領内とは殆ど変わらないと言っておったが……、ずいぶんと違うのだな」
思案顏をしながら、ノーマン辺境伯は語り掛けてくるが――、その言葉に俺は確かにと突っ込みを入れる。
たしかに、インターネットが一般的に普及したのは、ここ20年程で――、携帯電話に至っては30年前には存在してすらいなかった。
テレビだって、俺が生まれる前は白黒テレビだったはずだし、連絡は基本的に固定電話のみだったはずだ。
そう考えると、僅か40年の間に地球の科学力と言うのは躍進どころか飛躍したと言っていい。
俺が生まれる40年以上前の情報を聞いていたノーマン辺境伯としては驚きの方が大きいのも頷ける。
「技術は、日進月歩ですので」
「たしかに……な。エルム王国でも、王立魔法機関で毎年のように新しい魔法陣が提唱されているからな……」
「魔法陣?」
「うむ。魔法の威力、魔法の展開速度、魔法の詠唱省略を如何にして突き詰めていくのかという研究を行っているのだが――、つねに新しい発見をしているのだ。たとえば――」
ノーマン辺境伯の指先が赤く光る。
そして、何もない空中に文字を描いていく。
空間上に、丸い円と幾何学模様が書き込まれていくと同時に――、【炎よ、我が掌(たなごころ)に、集いて命じる物を焼き尽くす紅蓮の劫火と為せ】と、ノーマン辺境伯が詠唱らしき物を呟いたと同時に、ノーマン辺境伯の掌に直径30センチほどの赤い炎の塊が出現する。
「これが一般的な炎の攻撃魔法ファイアーボールの魔法になる。この魔法が使えれば王国の兵士として採用される。」
「なるほど……」
「こう言った魔法の詠唱を如何にして短く、威力を突き詰めていくか、という研究を王立魔法機関で行っているのだ。たとえば、このファイアーボールは去年のファイアーボールよりも少しだけ威力が上がっている」
少しだけ? どのくらいが少ししか良く分からないけど、突っ込みをするのは止めておこう。
ノーマン辺境伯は、手のひらに作り出していた炎の塊を消す。
「さて――、ゴロウ。この塩は取引を行って大丈夫なのだな?」
「はい」
「分かった。それでは兵士達に運び出させるとしよう」
「それでは、店の中で作業をされる兵士の方と外で受け取る兵士の方で分けた方がいいですね」
「うむ」
ノーマン辺境伯の指示で一人ずつ兵士を店の中へと連れてくる。
辺境伯の時のように店が輝くことがない。
ノーマン辺境伯が、店の中に入るときには店全体が輝いたというのに……。
……もしかして――。
ノーマン辺境伯は病気もそうだが、毒を盛られている可能性がある?
兵士達が入口の方に塩の袋を運び、俺が間で外へと出していき――、外で待機している兵士に渡す。
どうやら、俺と手を繋いでいないと店の入り口の境界線上からは出ることも入ることも出来ないらしく塩を入口から出すことが出来ないからだ。
しかも投げても、弾かれてしまい結局、俺が中間に立って塩を店の入り口から出すという重労働をする羽目になった。
そして、何時間掛かったか知らないが、10トン全ての塩を異世界に出した頃には完全に腰にキていた。
腰が痛い……。
中腰で作業をしていたのが原因なのは明らかである。
「大丈夫か? ゴロウ」
「大丈夫……です……」
心配して話しかけてきたノーマン辺境伯に言葉を返しながら思う。
本気でフォークリフトを買おうと――。
そうしないと体力的にきついというか物理的に死んでしまう。
――あれ? そういえば途中からノーマン辺境伯の姿を見なかったな。
「ゴロウ、これでよいか?」
受け取った袋の中身を確認する。
中には金の装飾品が大量に入っている。
さらには宝石がついている金の宝飾品もある。
正直、宝石については取引が難しいと思うんだが……。
「すぐに用意できるものが、このくらいしかなかったのだが大丈夫か?」
そう気を使われると、宝石より金の装飾品をくださいとは言い難い。
「はい。ありがとうございます」
「うむ。次からは、きちんと金の装飾品を用意しておくから安心してくれ」
俺の言葉に満足したのかノーマン辺境伯は頷く。
「それでは、次回の納入だが――」
「そうですね。明日か、明後日には用意できると思います」
「ほう……、分かった。それとだな……、今度――、ゴロウの世界を見てみたいと思うのだが……」
「あ!? そのことですが、世界が異なるということでノーマン辺境伯様が未知の病に掛かってしまうのは避けたいので……」
「ふむ……、そうだな……」
しぶしぶと言った様子でノーマン辺境伯は納得してくれた。
さすがに、俺はノーマン辺境伯の事を詳しく知らない。
それに、何より桜の事も……、――あっ!?
「ノーマン辺境伯様、私は今日はこのへんで――、異世界での商売もありまして……、そろそろ商人との話し合いもあるので……」
「そうか。わかった」
店の中でパレットから塩を下ろしてくれていた兵士の方を急いで店の外へと連れだしたあと、シャッターを閉める。
そして金の装飾品や宝飾品が入った袋を手に持ったまま、バックヤード側から外に出たあと家に戻る。
居間へと急いで戻ると、時計の針は午前5時を示していたが、桜は、まだ布団で寝ていた。
――良かった。
目を覚ます前に帰ってくることが出来て……。
やはりフォークリフトは、早めに購入した方がいいな。
「……ふむ。それでは見せてもらうとしようか」
颯爽とした身のこなしでノーマン辺境伯は椅子から立ち上がる。
「ナイル。早急にアロイスに、兵士と運送用の荷馬車の用意を伝えるのだ。」
「分かりました」
「儂は、これから城下町に出向き物の確認を行う」
ノーマン辺境伯の指示を受けたナイルさんは、すぐに部屋から出ていく。
「それではいくとしよう」
用意された馬車に二人して乗りこみ店の前に到着したのは、それから30分後……。
どうして、それだけの時間が掛かったかというと――。
それは店の前に待機していた兵士の数が増えていたからだ。
先ほど店から出る時に見た数の10倍――、100人近くはおり通りを圧迫していた。
おかげで通りは、混みあい時間が掛かったという。
馬車を降りたあと、ノーマン辺境伯と手を繋ぎ店内に入る。
今回も光が発生したが、異世界は病が多いのだろうか?
「こ、これは……」
パレットに詰まれている塩に目を向けた途端、ノーマン辺境伯が目を見開くと口を開いた。
「どうかしましたか?」
「う、うむ……。これは、全て同じ……、なのだな?」
ノーマン辺境伯が、パレットに積まれている塩を手に取りながら振り向いてくる。
「はい。それが何か?」
何を驚いているのだろうか?
「これは、全て同じ量で分けられているのだな?」
「もちろんです。私の国では、これが普通ですので――」
「う、うむ……。コレが普通なのか……」
ノーマン辺境伯が、独り言のように呟くと店の中を見回す。
あれは、何なのだ?
「あれがシャッターを開閉するボタンですね」
「ボタン?」
「このボタンを押すと、出入り口の扉が開くようになっています」
レジを置く予定のテーブル近くの柱に近寄りボタンを押すと低い音が鳴りながらシャッターが閉まっていく。
「ふむふむ。珍しいカラクリがあるのだな」
カラクリって……、そんな言葉が異世界にあるのか。
「――して、この点滅している機械は何なのだ?」
「ルーターですね」
「ルーター? 何かの魔法道具なのか?」
「いえ、インターネットに繋げるために必要な物ですね」
「いんたーねっと?」
「簡単に説明しますと世界中の情報を共有し見たりすることが出来る物ですね」
「――なんと!? そんな物が!? すばらしい魔法道具であるな」
興味津々と言った様子で子供のように目を輝かせながらルーターを見ている。
「それにしても……」
顔を上げたノーマン辺境伯は、俺へと視線を向けてくる。
「ゲシュペンストは、異世界は我が領内とは殆ど変わらないと言っておったが……、ずいぶんと違うのだな」
思案顏をしながら、ノーマン辺境伯は語り掛けてくるが――、その言葉に俺は確かにと突っ込みを入れる。
たしかに、インターネットが一般的に普及したのは、ここ20年程で――、携帯電話に至っては30年前には存在してすらいなかった。
テレビだって、俺が生まれる前は白黒テレビだったはずだし、連絡は基本的に固定電話のみだったはずだ。
そう考えると、僅か40年の間に地球の科学力と言うのは躍進どころか飛躍したと言っていい。
俺が生まれる40年以上前の情報を聞いていたノーマン辺境伯としては驚きの方が大きいのも頷ける。
「技術は、日進月歩ですので」
「たしかに……な。エルム王国でも、王立魔法機関で毎年のように新しい魔法陣が提唱されているからな……」
「魔法陣?」
「うむ。魔法の威力、魔法の展開速度、魔法の詠唱省略を如何にして突き詰めていくのかという研究を行っているのだが――、つねに新しい発見をしているのだ。たとえば――」
ノーマン辺境伯の指先が赤く光る。
そして、何もない空中に文字を描いていく。
空間上に、丸い円と幾何学模様が書き込まれていくと同時に――、【炎よ、我が掌(たなごころ)に、集いて命じる物を焼き尽くす紅蓮の劫火と為せ】と、ノーマン辺境伯が詠唱らしき物を呟いたと同時に、ノーマン辺境伯の掌に直径30センチほどの赤い炎の塊が出現する。
「これが一般的な炎の攻撃魔法ファイアーボールの魔法になる。この魔法が使えれば王国の兵士として採用される。」
「なるほど……」
「こう言った魔法の詠唱を如何にして短く、威力を突き詰めていくか、という研究を王立魔法機関で行っているのだ。たとえば、このファイアーボールは去年のファイアーボールよりも少しだけ威力が上がっている」
少しだけ? どのくらいが少ししか良く分からないけど、突っ込みをするのは止めておこう。
ノーマン辺境伯は、手のひらに作り出していた炎の塊を消す。
「さて――、ゴロウ。この塩は取引を行って大丈夫なのだな?」
「はい」
「分かった。それでは兵士達に運び出させるとしよう」
「それでは、店の中で作業をされる兵士の方と外で受け取る兵士の方で分けた方がいいですね」
「うむ」
ノーマン辺境伯の指示で一人ずつ兵士を店の中へと連れてくる。
辺境伯の時のように店が輝くことがない。
ノーマン辺境伯が、店の中に入るときには店全体が輝いたというのに……。
……もしかして――。
ノーマン辺境伯は病気もそうだが、毒を盛られている可能性がある?
兵士達が入口の方に塩の袋を運び、俺が間で外へと出していき――、外で待機している兵士に渡す。
どうやら、俺と手を繋いでいないと店の入り口の境界線上からは出ることも入ることも出来ないらしく塩を入口から出すことが出来ないからだ。
しかも投げても、弾かれてしまい結局、俺が中間に立って塩を店の入り口から出すという重労働をする羽目になった。
そして、何時間掛かったか知らないが、10トン全ての塩を異世界に出した頃には完全に腰にキていた。
腰が痛い……。
中腰で作業をしていたのが原因なのは明らかである。
「大丈夫か? ゴロウ」
「大丈夫……です……」
心配して話しかけてきたノーマン辺境伯に言葉を返しながら思う。
本気でフォークリフトを買おうと――。
そうしないと体力的にきついというか物理的に死んでしまう。
――あれ? そういえば途中からノーマン辺境伯の姿を見なかったな。
「ゴロウ、これでよいか?」
受け取った袋の中身を確認する。
中には金の装飾品が大量に入っている。
さらには宝石がついている金の宝飾品もある。
正直、宝石については取引が難しいと思うんだが……。
「すぐに用意できるものが、このくらいしかなかったのだが大丈夫か?」
そう気を使われると、宝石より金の装飾品をくださいとは言い難い。
「はい。ありがとうございます」
「うむ。次からは、きちんと金の装飾品を用意しておくから安心してくれ」
俺の言葉に満足したのかノーマン辺境伯は頷く。
「それでは、次回の納入だが――」
「そうですね。明日か、明後日には用意できると思います」
「ほう……、分かった。それとだな……、今度――、ゴロウの世界を見てみたいと思うのだが……」
「あ!? そのことですが、世界が異なるということでノーマン辺境伯様が未知の病に掛かってしまうのは避けたいので……」
「ふむ……、そうだな……」
しぶしぶと言った様子でノーマン辺境伯は納得してくれた。
さすがに、俺はノーマン辺境伯の事を詳しく知らない。
それに、何より桜の事も……、――あっ!?
「ノーマン辺境伯様、私は今日はこのへんで――、異世界での商売もありまして……、そろそろ商人との話し合いもあるので……」
「そうか。わかった」
店の中でパレットから塩を下ろしてくれていた兵士の方を急いで店の外へと連れだしたあと、シャッターを閉める。
そして金の装飾品や宝飾品が入った袋を手に持ったまま、バックヤード側から外に出たあと家に戻る。
居間へと急いで戻ると、時計の針は午前5時を示していたが、桜は、まだ布団で寝ていた。
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