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第17話 異世界事情
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用意された馬車に荷物を積んだあとは、馬車でノーマン辺境伯の邸宅へと向かう。
「いまは、いくつの鐘になりますか?」
「そうですね、6の鐘が鳴ったばかりですので、お昼時でしょうか?」
ナイルは、即答してくる。
やはり、俺が前回思った通り、地球とは12時間の時差があるということだろう。
「なるほど」
俺は相槌を落ちながら外へと視線を向ける。
前回は、落ち着いて町の光景を見ることが出来なかった。
今回は落ち着いて、異世界の町の光景を見ることが出来る。
足元は、基本的に足で踏み固められた土であり、赤色煉瓦が敷き詰められているのは店前だけ。
おそらく埃が店内に入らないようにという配慮なのだろう。
――ただ、雨の日などは大変な事になりそうなのは想像に難くない。
それにしてもお昼時だというのに、飲食関係の店などが殆ど見当たらない。
両脇にポツリポツリと存在する店の大半は、果物や見た事がない獣の皮や牙を売る店ばかりで、日本の屋台のように食事をその場で作って提供しているような様相はまったく見られないのだ。
「ナイルさん」
「何でしょうか?」
「お昼時は、皆さんは、どちらで食事をしているんでしょうか?」
「そうですね。一般的には自宅で食事を作るのが多いですね」
「なるほど……」
「その割には魚や肉を売っているお店が見当たらないですね」
「はい。ここら一帯に、露店を構えているのは商業ギルドが管理する区域に店を出すことが出来ない店が多いですからね」
「なるほど……」
「はい。ですが――、彼らは店を出す場所の地代を払っています」
「それはノーマン辺境伯様にですか?」
「いえ。そこまで縛っても意味はありませんから。基本的には、店を出す後ろの建物の住民の方と相談をして頂き契約をして支払いをする形をとっています。仲介役としては、私達とは管轄の違う町の衛兵が行っております。ただし――、物の売買は経済を活性化させるという方針をノーマン辺境伯様はとっておりますので、町の衛兵が仲介料を取ることはしていません」
「そうなんですか」
つまり日本で言うと軒先を貸して商売をしてもらうみたいな形なのか。
「一応、ゴロウ様が店を構えていらっしゃる付近は商業ギルドが管理している商業エリアとなっております。立地的には外れになってしまっているので、他のお店とは被っていません。それに、ノーマン辺境伯様の邸宅とは逆方向に市場があるため、露店が殆ど見当たらないのもそのためです」
「それでは、このへんは住宅などがメインの場所ですか?」
「一応、辺境伯様のご邸宅の近くと言う事もありますので商人や上流階級の市民などの邸宅が多いですね」
「商人や上流階級?」
「はい。一般的に、年間の治めている税金が金貨200枚を超えている人々が住まう場所になっています」
なるほど……。
こちらの世界の金貨の価値というのが、今一分からない。
一度、異世界の市場を見せてもらった方がいいかも知れないな。
「そうなると、基本的には食事は自宅で作る感じなのですね」
「はい。自宅で食事を摂る者が大半です。あとは、市場内の露店で提供されている食べ物を購入したりする場合と、裏路地のフードエリアで食べる場合が多いですね」
「裏路地?」
「はい。食堂は火などを使うため、建物が燃えた場合に迅速に対応するために火を使う場所を決めているのです。あとは煙などで建物が汚れることもあるため、大通り沿いに食堂建築の許可は降りませんので、基本的には、どの町でも裏路地に食堂などがエリアごとに纏められています」
ナイルと話をしている間にノーマン辺境伯邸に到着する。
馬車から降りたあとは荷物を下ろし、手に持ったまま屋敷の中に案内された。
もちろん、案内されたのは以前と同じ応接室。
ソファーに座ったあと、10分ほどすると扉が開く。
「ゴロウ様、お待ちしておりました。ただいま、ノーマン辺境伯様が来られますのでお待ち下さい」
そう話しかけてきたのはアロイスであった。
それから5分ほどして、ノーマン辺境伯が姿を現す。
――ただ、その姿は以前よりもはるかに弱弱しい様子。
「おお、ゴロウか。待たせたな」
アロイスに手を借りながらノーマン辺境伯は、テーブルを挟み反対側のソファーへと腰を下ろす。
「――いえ。あまりお体に触るようでしたら、寝室に伺いましたが……」
一応は、祖父。
無理をして、応接室まで来なくてもいいと思い言葉を選びながら言葉を紡ぐ。
「気にすることはない。それと、唯一の肉親なのだから、もう少し砕けた言葉で話してくれてもよい」
「善処します」
さすがに、今回で2回目の相手に対して全幅の信頼を寄せて話すのは無理がある。
それよりも、言葉の端々からノーマン辺境伯は、俺を完全に肉親だと断定しているように思えてならない。
いくら、俺の父親の名前や母親の名前を知っていたとは言え、俺の素性を調べることも出来ない状態で、肉親だと断定しているのは些か腑に落ちないんだが……。
「――ふっ。頭の固いところは、ゲシュペンストにそっくりであるな」
「そうですか?」
「うむ」
ノーマン辺境伯は頷く。
「付かぬ事をお伺いしても?」
「何だろうか?」
「はい。私の素性が、こちらの世界では調べられないということは、店の中に無断で入ることが出来ないとナイルさんに伺ったときに分かったのですが」
「ふむ」
「どうして、そこまで私のことを血筋だと確信しているのでしょうか?」
「そんなことか」
さも当たり前のようにノーマン辺境伯は頷くと、アロイスの方へと目くばせをする。
するとアロイスは、応接室を出て行ったあと、白い石板を持って戻ってきた。
――それは、A4ノートと同じくらいの大きさ――、ただし、厚さは5センチほど。
アロイスが石板をテーブルの上に置き扉まで下がると、ノーマン辺境伯が口を開く。
「これは、所有者の魔力に反応して色を変える石板になる。たとえば――」
ノーマン辺境伯が、テーブルの上に置かれた石板に手を翳すと、白い石板は色を変えていき薄い青色へと変化する。
「貴族の血を引く者は、魔力に青い色を纏う。ゴロウもやってみるといい」
頷きながら手を翳す。
すると石板の色は、白から薄い青色を通り越し群青色へと変わった。
「ノーマン様、これは!?」
「今はよい。それよりもだ――、魔力の色を見るだけなら魔法を扱うことが出来る者なら見ることが出来る。いまのは魔法を扱う術をもたぬゴロウでも分かりやすいように見せたにすぎぬ。どうだ? これで肉親かどうかの判別が何故ついたのか分かったか?」
ノーマン辺境伯の言葉に頷く。
つまり、最初から俺の魔力の色を見てアロイスは話しかけてきたと言うことになる。
「――さて、前回の話の続きだが……」
「その前に、ノーマン辺境伯様」
「ノーマンでよい。どうかしたのか?」
「はい。こちらを見て頂けますか?」
俺は一袋1キロの塩――、10袋をテーブルの上に置く。
自然とアロイスや、ノーマン辺境伯の視線は塩へと向けられる。
「これは……、なんだ?」
ノーマン辺境伯は、透明なビニールに包まれた塩を両手で持ち上げると感慨深げに見ている。
「お伝えする前に、人払いなどをお願いしたいのですが……」
俺は室内の窓際に立っているアロイスや、ナイル、そしてメイド服を着た女性達へと視線を向ける。
「ふむ……、ここに居る者は信に値するものだ。気にせずともよい」
「そうですか」
トップに立っている人間がそういうなら――、これ以上は言う必要ない。
「それは塩です」
「何と!? こ、これが塩だと!?」
塩という言葉にノーマン辺境伯だけでなく、室内に立っていた兵士や女中までがざわつく。
「はい。それは異世界の製法で作られた塩です」
「なんと……、これが塩とは……、こんな真っ白な物は見た事がないの」
「そうですか。どうぞ、試食してみてください」
「う、うむ……、アロイス」
ノーマン辺境伯の言葉に、アロイスが腰に差していたナイフを抜くとビニールを破る。
そして――、ビニールの中に入っていた塩をノーマン辺境伯は掬ったあと舌で舐めた。
「いまは、いくつの鐘になりますか?」
「そうですね、6の鐘が鳴ったばかりですので、お昼時でしょうか?」
ナイルは、即答してくる。
やはり、俺が前回思った通り、地球とは12時間の時差があるということだろう。
「なるほど」
俺は相槌を落ちながら外へと視線を向ける。
前回は、落ち着いて町の光景を見ることが出来なかった。
今回は落ち着いて、異世界の町の光景を見ることが出来る。
足元は、基本的に足で踏み固められた土であり、赤色煉瓦が敷き詰められているのは店前だけ。
おそらく埃が店内に入らないようにという配慮なのだろう。
――ただ、雨の日などは大変な事になりそうなのは想像に難くない。
それにしてもお昼時だというのに、飲食関係の店などが殆ど見当たらない。
両脇にポツリポツリと存在する店の大半は、果物や見た事がない獣の皮や牙を売る店ばかりで、日本の屋台のように食事をその場で作って提供しているような様相はまったく見られないのだ。
「ナイルさん」
「何でしょうか?」
「お昼時は、皆さんは、どちらで食事をしているんでしょうか?」
「そうですね。一般的には自宅で食事を作るのが多いですね」
「なるほど……」
「その割には魚や肉を売っているお店が見当たらないですね」
「はい。ここら一帯に、露店を構えているのは商業ギルドが管理する区域に店を出すことが出来ない店が多いですからね」
「なるほど……」
「はい。ですが――、彼らは店を出す場所の地代を払っています」
「それはノーマン辺境伯様にですか?」
「いえ。そこまで縛っても意味はありませんから。基本的には、店を出す後ろの建物の住民の方と相談をして頂き契約をして支払いをする形をとっています。仲介役としては、私達とは管轄の違う町の衛兵が行っております。ただし――、物の売買は経済を活性化させるという方針をノーマン辺境伯様はとっておりますので、町の衛兵が仲介料を取ることはしていません」
「そうなんですか」
つまり日本で言うと軒先を貸して商売をしてもらうみたいな形なのか。
「一応、ゴロウ様が店を構えていらっしゃる付近は商業ギルドが管理している商業エリアとなっております。立地的には外れになってしまっているので、他のお店とは被っていません。それに、ノーマン辺境伯様の邸宅とは逆方向に市場があるため、露店が殆ど見当たらないのもそのためです」
「それでは、このへんは住宅などがメインの場所ですか?」
「一応、辺境伯様のご邸宅の近くと言う事もありますので商人や上流階級の市民などの邸宅が多いですね」
「商人や上流階級?」
「はい。一般的に、年間の治めている税金が金貨200枚を超えている人々が住まう場所になっています」
なるほど……。
こちらの世界の金貨の価値というのが、今一分からない。
一度、異世界の市場を見せてもらった方がいいかも知れないな。
「そうなると、基本的には食事は自宅で作る感じなのですね」
「はい。自宅で食事を摂る者が大半です。あとは、市場内の露店で提供されている食べ物を購入したりする場合と、裏路地のフードエリアで食べる場合が多いですね」
「裏路地?」
「はい。食堂は火などを使うため、建物が燃えた場合に迅速に対応するために火を使う場所を決めているのです。あとは煙などで建物が汚れることもあるため、大通り沿いに食堂建築の許可は降りませんので、基本的には、どの町でも裏路地に食堂などがエリアごとに纏められています」
ナイルと話をしている間にノーマン辺境伯邸に到着する。
馬車から降りたあとは荷物を下ろし、手に持ったまま屋敷の中に案内された。
もちろん、案内されたのは以前と同じ応接室。
ソファーに座ったあと、10分ほどすると扉が開く。
「ゴロウ様、お待ちしておりました。ただいま、ノーマン辺境伯様が来られますのでお待ち下さい」
そう話しかけてきたのはアロイスであった。
それから5分ほどして、ノーマン辺境伯が姿を現す。
――ただ、その姿は以前よりもはるかに弱弱しい様子。
「おお、ゴロウか。待たせたな」
アロイスに手を借りながらノーマン辺境伯は、テーブルを挟み反対側のソファーへと腰を下ろす。
「――いえ。あまりお体に触るようでしたら、寝室に伺いましたが……」
一応は、祖父。
無理をして、応接室まで来なくてもいいと思い言葉を選びながら言葉を紡ぐ。
「気にすることはない。それと、唯一の肉親なのだから、もう少し砕けた言葉で話してくれてもよい」
「善処します」
さすがに、今回で2回目の相手に対して全幅の信頼を寄せて話すのは無理がある。
それよりも、言葉の端々からノーマン辺境伯は、俺を完全に肉親だと断定しているように思えてならない。
いくら、俺の父親の名前や母親の名前を知っていたとは言え、俺の素性を調べることも出来ない状態で、肉親だと断定しているのは些か腑に落ちないんだが……。
「――ふっ。頭の固いところは、ゲシュペンストにそっくりであるな」
「そうですか?」
「うむ」
ノーマン辺境伯は頷く。
「付かぬ事をお伺いしても?」
「何だろうか?」
「はい。私の素性が、こちらの世界では調べられないということは、店の中に無断で入ることが出来ないとナイルさんに伺ったときに分かったのですが」
「ふむ」
「どうして、そこまで私のことを血筋だと確信しているのでしょうか?」
「そんなことか」
さも当たり前のようにノーマン辺境伯は頷くと、アロイスの方へと目くばせをする。
するとアロイスは、応接室を出て行ったあと、白い石板を持って戻ってきた。
――それは、A4ノートと同じくらいの大きさ――、ただし、厚さは5センチほど。
アロイスが石板をテーブルの上に置き扉まで下がると、ノーマン辺境伯が口を開く。
「これは、所有者の魔力に反応して色を変える石板になる。たとえば――」
ノーマン辺境伯が、テーブルの上に置かれた石板に手を翳すと、白い石板は色を変えていき薄い青色へと変化する。
「貴族の血を引く者は、魔力に青い色を纏う。ゴロウもやってみるといい」
頷きながら手を翳す。
すると石板の色は、白から薄い青色を通り越し群青色へと変わった。
「ノーマン様、これは!?」
「今はよい。それよりもだ――、魔力の色を見るだけなら魔法を扱うことが出来る者なら見ることが出来る。いまのは魔法を扱う術をもたぬゴロウでも分かりやすいように見せたにすぎぬ。どうだ? これで肉親かどうかの判別が何故ついたのか分かったか?」
ノーマン辺境伯の言葉に頷く。
つまり、最初から俺の魔力の色を見てアロイスは話しかけてきたと言うことになる。
「――さて、前回の話の続きだが……」
「その前に、ノーマン辺境伯様」
「ノーマンでよい。どうかしたのか?」
「はい。こちらを見て頂けますか?」
俺は一袋1キロの塩――、10袋をテーブルの上に置く。
自然とアロイスや、ノーマン辺境伯の視線は塩へと向けられる。
「これは……、なんだ?」
ノーマン辺境伯は、透明なビニールに包まれた塩を両手で持ち上げると感慨深げに見ている。
「お伝えする前に、人払いなどをお願いしたいのですが……」
俺は室内の窓際に立っているアロイスや、ナイル、そしてメイド服を着た女性達へと視線を向ける。
「ふむ……、ここに居る者は信に値するものだ。気にせずともよい」
「そうですか」
トップに立っている人間がそういうなら――、これ以上は言う必要ない。
「それは塩です」
「何と!? こ、これが塩だと!?」
塩という言葉にノーマン辺境伯だけでなく、室内に立っていた兵士や女中までがざわつく。
「はい。それは異世界の製法で作られた塩です」
「なんと……、これが塩とは……、こんな真っ白な物は見た事がないの」
「そうですか。どうぞ、試食してみてください」
「う、うむ……、アロイス」
ノーマン辺境伯の言葉に、アロイスが腰に差していたナイフを抜くとビニールを破る。
そして――、ビニールの中に入っていた塩をノーマン辺境伯は掬ったあと舌で舐めた。
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