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第7話 雑貨店改築工事と引っ越し作業

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 ――現在の時刻は、午後3時。
 
「……おじちゃん」
「どうした?」
「ここって、すごい道が狭いね」
「旧道だからな」
「きゅーどう?」
「昔、使われていた道のことだよ」
「昔? いまは使われていないの?」
「整備は多少されているようだけど、ほとんど使われていないみたいだな」
 
 これが秋だったら、枯れ葉が道路に落ちていて運転し難かったかもしれない。
 
 
 
 桜が起きたのは午後2時。
 その間、色々と調べ物をしていた俺は、一般道で2時間ほどで行ける隣町ではなく4時間かかる町で【大型ディスカウントショップに併設されているエリアにて業務用の冷蔵・冷凍ケースを処分品価格で販売中】と言う広告をネットで見つけた。
 
 もちろん、期日は今日まで――。
 
 明日、朝から出かけるという手段は取れなかった。
 一般道で大型ディスカウントショップに向かえば到着は、午後6時過ぎになりエリアが閉まる午後5時には間に合わない。
 
 そのために、現在――、もっか旧道を走っている。
 曲がりくねった細い道を俺が運転するワゴンRは疾走する。
 
 俺のワゴンRは、オートマではなくマニュアル。
 2速まで減速した上で、アクセルを踏む。
 そしてクラッチとブレーキを左足で踏み込みながらブレーキングドリフトで、コーナーを抜ける。
 
「景色が横に流れていくの!」
「気のせいだ。俺はあくまでも、法定速度を守って運転しているだけにすぎない」
「……ほーていそくど?」
「車を運転するときに守って走らないといけない速度のことだな」
 
 桜の疑問に答えながら、シフトチェンジをしつつ、すぐに見えてきた次のコーナーを荷重移動だけで曲がる。
 もちろん、何度も言うが法定速度は守っている。
 
 
 
 ――30分後。
 
 
 
 車を大型ディスカウントショップの駐車場に止める。
 そして後部座席のチャイルドシードに乗っている桜を車から降ろす。
 
「おじちゃん……」
 
 車から降りてきた桜は顏を上げると俺のほうを見てくる。
 
「おじちゃんって……、車の運転じょうずだよね? 桜ね、本当は酔い止めの薬飲まないと車に乗ると酔っちゃうの……、でも、まったく酔わなかったよ」
「安全運転をしてたからな。それと、お兄さんな」
 
 そう言葉を返しながら、車の鍵を掛けて桜と一緒に冷蔵・冷凍ケースが販売されているエリアに向かう。
 
「おお、これは……」
 
 思ったよりも多くの冷蔵・冷凍ケースが置かれている。
 桜も目を輝かせて、置かれているケースへ視線を向けており――。
 
「おじちゃん! これ! これ! 安いの!」
 
 桜が、目をキラキラ光らせているのは大型スーパーで見かけるような開き戸式ショーケース。
 
「ふむ……」
 
 たしかに桜が目を引かれるのは仕方ない。
 大きさも、高さ2メートル、横幅2メートル、奥行き70センチ。
 冷蔵・冷凍対応で開き戸も3つ。
 しかもお値段は2万2千円。
 普通なら、これほどの掘り出し物は他にはないだろう。
 
 ジャンク品と書いてなければ!
 
「おじちゃん! これお店にあったらすごいの!」
「そうだな。動けば……」
 
 どうやら、通電すら出来ていないようだが……。
 とりあえず近くに立っている売り子に話かけるか。
 
「すいません!」
「はい、何でしょうか?」
「こちらのショーケースは通電が出来ていないということでいいんでしょうか?」
「はい、その通りです」
「なるほど……」
 
 それだけなら、直せる可能性はある。
 さすがに配管折れや、配管に穴が開いていてガスが抜けていたら面倒だったが……。
 これなら十分に試してみる価値はある。
 
「すいません。これをもらえますか?」
「よろしいのですか?」
「はい。それと運んでもらうのは……」
「どちらまででしょうか?」
「えっと結城村の――」
「そこまでなら、8千円ですね」
「それでは、それでお願いします」
「分かりました。他には買われる物などはありますか?」
「そうですね、一通り見て回りたいと思います」
「また何か用件があった際には遠慮なく声をかけてください」
 
 そのあとも、俺と桜は展示してある冷蔵・冷凍ケースを見て回り、アイスクリームなどを入れておくに適した冷凍ケースを発見。
 正常に稼働するようで4万円で購入する。
 そしてしばらく見て回っていると――、桜が唐突に足を止めた。
 何か見つけたのか? と思っていると――、くーっという音が桜のお腹から聞こえてくる。
 
 そういえば、朝から何も食べてなかったな。
 
「そろそろご飯にするか」
「……うん」
 
 お金を払い――、翌日には、月山雑貨店にショーケースが届くよう手筈を整えてもらい、その場を後にした。
 
 冷蔵・冷凍ケースを販売していたエリアから出たあとは、大型ショッピングセンターの中に用意されているフードコートで食事をすることにする。
 
「何か食べたい物とかあるか?」
「ラーメン」
「ラーメンでいいのか?」
「うん……、ラーメンがいいの」
「そうか、醤油ラーメンを2個お願いします」
 
 お金を払う。
 しばらく待っていると醤油ラーメンを手渡され、二人でフードコートのテーブル席で食べる。
 
 桜が、かなり幸せそうな表情で「ラーメンはおいしいの」と言っている。
 だが、一つ腑に落ちない。
 桜を引き取ってからアパートで暮らしていた時には、かなりの頻度で即席ラーメンを出していたはず。
 なのに、一度も「ラーメンは美味しいの」とは言われたことがない。
 
「おじちゃん?」
 
 俺が考えこんでいた事に気が付いたのか桜が話しかけてくる。
 
「桜はラーメンが好きか?」
「うん!」
「その醤油ラーメンと、俺が作ったミートボールを入れたラーメンはどっちが美味しい?」
「…………ラーメンは好きなの」
 
 ニコリと桜が満面の笑みで答えてきた。
 
 食事を食べたあとは、数日分の食糧を購入し家路についた。
 朝食を食べ終わったあと、父親が残した取引先の電話番号をインターネットで調べて取引先がまだ残って居るかを確認していたところ、チャイムが鳴った。
 桜が廊下を走っていく音が聞こえたあと――。
 
「……おじちゃん。くるぶしさんが来てるよ?」
「ずいぶんと早いな」
 
 部屋の壁時計が指し示している時刻は、朝9時。
 ノートパソコンを開いたまま、立ち上がり玄関に向かう。
 
「五郎、仕事に来たんだが始めてもいいか?」
「お願いします」
 
 別に断る理由もない。
 早めに作業が終わり、少しでも開店が早く出来るなら、それに越したことはないだろう。
 
「それじゃ鍵を取ってきます」
「おう、店の前で待っているからな」
 
 居間まで戻り鍵を手に取ると裏口を通り、月山雑貨店の正面へと向かいシャッターを開ける。
 
「それでは、よろしくお願いします」
「なるべく早く終わらせるから」
「大丈夫ですよ。今日は、商品の搬入はありませんから」
「そうなのか? 商品の発注はまだしていないのか?」
「はい。とりあえず親父がやっていた頃と同じような品揃えをしようとしていますが、以前に付き合っていた発注先が何件かが潰れていたので……」
「だろうな。不景気だったからな。それで目処は立ちそうなのか?」
「まぁ、何とかしてみます」
 
 実際、親父が死んでから雑貨店を閉店してそれなりの年数が経過している。
 以前に付き合いのあった問屋なども移転したり、民事再生法を受けており商談に時間がかかりそうだ。
 
 取引先が開拓出来るまでは、業務用スーパーや業務用の大型雑貨店で商品を購入して急場を凌ぐしかないだろう。
 
「そうか、がんばれよ」
 
 踝が俺の肩を軽く叩くと、4トントラックから木材や電ノコなどの工具を下ろしていく。
 資材の量から時間がかかりそうだな。
 
「踝さん手伝いますよ」
「すまないな」
 
 二人でトラックの荷台から資材を下ろし終えたところで、2トントラックが駐車場に止まった。
 運転席から20代後半の男が降りてくる。
 
「チバラキ運輸の物ですが、月山 五郎さんでよろしいでしょうか?」
「はい。えっと、引っ越しの荷物ですよね?」
「はい、どちらに下ろせば?」
「それでは、その側道を通ってもらえますか? そうすれば家の目の前に出られますので、駐車場は空いていますので停めてもらって大丈夫です」
「わかりました」
 
 2トントラックが側道を通るのを確認したあと。
 
「それでは、踝さん」
「ああ、引っ越しの荷物だろう? こっちは、大丈夫だから」
「じつは、ナカミヤ冷機の方が昼頃に来るらしいので、来たら」
「分かった。ショーケースを買ったのか? たしかナカミヤ冷機は、日本でも有数の冷凍・冷蔵ケースの商会だったよな? よくお金があったな?」
「いえ、中古だったので……」
「そっか。中古でも使えれば問題ないからな。業者が来たら伝えるから行ってこい」
「お願いします」
 
 踝と別れたあと、裏口を通り実家に向かう。
 丁度、トラックが停まったところのようだ。
 
「月山さん。それでは、荷物を置く場所のご指示だけしてくれればいいので」
「分かりました」
 
 トラックから出てきたのは20代後半の運転手と30代の男性二人の計3人。
 これなら、すぐに引っ越しは終わりそうだな。
 
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