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第177話 失意の慟哭(6) エミリアside
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「よかろう。ならば、汝らとの契約に応じよう」
地竜は、厳かに言うと、お母様へと視線を落し――、
「では、グレースよ。汝との契約に応じ、この地は我が守護しよう。それで構わぬな?」
「はい。ウェイザー様」
「エミリアよ。汝も、それでいいな?」
「分かりました」
「――では、竜の契約として汝らの命と魂を盟約として捧げてもらおう。約束を違えることは、決して許される事ではない。もし契約を反故するのなら、この地は不毛な土地となるであろう」
地竜は、そう語ると、王宮から離れていく。
そして姿が見えなくなったところで、祭壇上に立っていたお母様は膝から崩れ落ちる。
「お母様!」
「母上!」
私とお兄様は、倒れたお母様の元へと駆け付ける。
「大丈夫だ。霊力を使い切っただけだ。それにしても……」
お兄様が悲痛な表情で、私を見てくる。
「お兄様?」
「すまない。エミリア……、まさか、このような契約になるとは――」
「いいのです。私も、王族として生きてきた者です。民を守ることは、王族の役目ですから。ですから、気になさらないでください」
「すまない……」
後悔から吐露されたお兄様の小さな言葉は、少し離れた位置に立っていた周囲に居た近衛騎士団の方々に聞かれることはない。
それほど小さな声だったから。
お兄様が吐き出した言葉は、意識を失ったお母様と私しか聞くことができなかった。
――それから、1年の間。
魔王の侵攻は、全て地竜が防いでいた。
魔王軍四天王と10万に及ぶ魔王軍の軍勢。
それらは、大地を司る地竜の前では、まったくの無意味で一瞬で殲滅していき――、気が付けば魔王軍が獣人の国には手を出さなくなっていた。
そして――、地竜との再契約を行うために、私とお母様は、地にもっとも近い場所にある獣人国に存在している地底都市へ向けて移動していた。
使役の法は、一年後との契約が必要であり、その為であった。
到着した場所は、大国アルドノアの衛星王国アドリアとの境。
「――では、これで再契約は終わりだ」
そう荘厳な声で去っていく地竜の後ろ姿を、私とお母様。そして、護衛たる兵士が見送った。
「お母様、それでは、王宮に戻りましょう」
「そうね。無事に契約も終わったのだから」
そして、王宮へ戻ろうとした時――、無数の松明の灯りが地底都市を照らし出した。
そこには、1000人を超える人間の姿あった。
「姫様! すぐに逃げてください!」
この1年の間、獣人の国を攻略できないと悟った魔王軍は、私達の国を横目に人間国へ直接攻撃を仕掛けていた。
そして、それを快く思っていなかった大国アルドノア。
獣人差別を率先していた国。
その大国の衛星王国であるアドリア王国との国境近くで契約を行おうとしていたけど、まさか察していたなんて……。
私達を護衛していた兵士は次々と打ち取られていった。
地竜は、厳かに言うと、お母様へと視線を落し――、
「では、グレースよ。汝との契約に応じ、この地は我が守護しよう。それで構わぬな?」
「はい。ウェイザー様」
「エミリアよ。汝も、それでいいな?」
「分かりました」
「――では、竜の契約として汝らの命と魂を盟約として捧げてもらおう。約束を違えることは、決して許される事ではない。もし契約を反故するのなら、この地は不毛な土地となるであろう」
地竜は、そう語ると、王宮から離れていく。
そして姿が見えなくなったところで、祭壇上に立っていたお母様は膝から崩れ落ちる。
「お母様!」
「母上!」
私とお兄様は、倒れたお母様の元へと駆け付ける。
「大丈夫だ。霊力を使い切っただけだ。それにしても……」
お兄様が悲痛な表情で、私を見てくる。
「お兄様?」
「すまない。エミリア……、まさか、このような契約になるとは――」
「いいのです。私も、王族として生きてきた者です。民を守ることは、王族の役目ですから。ですから、気になさらないでください」
「すまない……」
後悔から吐露されたお兄様の小さな言葉は、少し離れた位置に立っていた周囲に居た近衛騎士団の方々に聞かれることはない。
それほど小さな声だったから。
お兄様が吐き出した言葉は、意識を失ったお母様と私しか聞くことができなかった。
――それから、1年の間。
魔王の侵攻は、全て地竜が防いでいた。
魔王軍四天王と10万に及ぶ魔王軍の軍勢。
それらは、大地を司る地竜の前では、まったくの無意味で一瞬で殲滅していき――、気が付けば魔王軍が獣人の国には手を出さなくなっていた。
そして――、地竜との再契約を行うために、私とお母様は、地にもっとも近い場所にある獣人国に存在している地底都市へ向けて移動していた。
使役の法は、一年後との契約が必要であり、その為であった。
到着した場所は、大国アルドノアの衛星王国アドリアとの境。
「――では、これで再契約は終わりだ」
そう荘厳な声で去っていく地竜の後ろ姿を、私とお母様。そして、護衛たる兵士が見送った。
「お母様、それでは、王宮に戻りましょう」
「そうね。無事に契約も終わったのだから」
そして、王宮へ戻ろうとした時――、無数の松明の灯りが地底都市を照らし出した。
そこには、1000人を超える人間の姿あった。
「姫様! すぐに逃げてください!」
この1年の間、獣人の国を攻略できないと悟った魔王軍は、私達の国を横目に人間国へ直接攻撃を仕掛けていた。
そして、それを快く思っていなかった大国アルドノア。
獣人差別を率先していた国。
その大国の衛星王国であるアドリア王国との国境近くで契約を行おうとしていたけど、まさか察していたなんて……。
私達を護衛していた兵士は次々と打ち取られていった。
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