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第176話 失意の慟哭(5) エミリアside
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国王代理であるお兄様が、お母様に使役の法の行使を頼んでから一週間が経過した。
現在、獣人国ワーフランドの王宮の離れでは、5つの篝火が炊かれていて、儀式の準備が始まっていた。
私とお兄様は、五芒星になるように配置された篝火の中心で舞を踊るお母様の奉納の舞を見ていた。
「お兄様」
「……くどいぞ。エミリア」
「――ですが、この使役の法が成功してしまえば、お母様は……」
「母上も言っていただろう? 王族としての自覚をもてと」
「……私には、理解できません」
「いつかお前も分かる時がくる。王族――、人の上に立つということは、下々の生活を守る義務が課せられる。だからこそ、民は税を払うのだ。王族や貴族が民を万が一の時に守らなければ、国というのは成り立たない。それくらいは、理解しているな?」
「それは……」
分かっていますと口にしたら、何かが変わってしまうと、私は直感し言葉にはできない。
そんな私を見てお兄様は小さく溜息をつくと、視線を奉納の舞を行っているお母様の方へと向けていた。
そして、太陽が直上に昇ってきたところで、地鳴りと共に王宮全体――、祭壇までもが大きく揺れる。
「地竜だ!」
王宮近衛騎士団のダルアが叫ぶ。
その鬼気迫る声と共に、近衛騎士団が、ざわめき私とお兄様――、そしてお母様の間を隔てるように移動してくる。
「このような儀式をし、地竜である我を呼ぶとはどのような意図か?」
地竜の姿は、想像を絶するほど巨大なモノであった。
祖先である玉藻様から聞いていたよりも遥かに強大で、頭上から降ってくる地竜の一言だけで、私は立っている事すら出来ずに座り込んでしまう。
「地竜ウェイザー! 貴公との契約を結びたい」
「ほう? 玉藻と行った契約を破棄するということか?」
「そうではありません。この国を守るために力を貸してほしいのです」
恐怖に震える私を他所に、お母様は、微動だにせず顔を上へと上げ、地竜の姿を真っ直ぐに見つめていた。
「すごい……」
私には、そんなお母様の姿が、とても美しく見えた。
「なるほど……。だが、その代償がどういうものかは理解しているはずだが、それでもよいのか?」
「構いません!」
「そうか。――では、玉藻との約束を含めて汝は、契約後に我の生贄として、その体を差し出すということだな?」
「もちろんです。ですから、お力を貸して頂けませんか?」
「……ふむ。だが、汝が不慮の事故で死んだ場合、担保になる魂が必要だ」
「それは……」
「俺では駄目か!」
お兄様が声を張り上げる。
すると地竜の視線が私達――、お兄様の方へと向けられる。
「奉納の舞を踊れぬ者に――、霊力を有していない者に、契約を行うことはできない。それは貴様がよく分かっていることだろう?」
「――くっ」
お兄様が、唇を噛みしめる。
「そこにいる娘なら問題ないが、どうする?」
地竜の視線が私に向けられ、私を名指ししてきた同時に、お母様と、お兄様の顔色が、青く変わる。
「エミリアをか!?」
「エミリアを!? それは――」
「なら、契約はなしだ。我も力を振るうには、太古の神の源泉たる力が必要であるからな」
お兄様と、お母様が返答できずに固まっていると、地竜は「ならば契約はなしだ」と、踵を返そうとする。
「待ってください!」
私は、座り込んだまま叫ぶ。
地竜との契約が出来なければ獣人の国は滅んでしまう。
それは、お父様やお兄様――、お母様の頑張りが全て無駄になってしまうということ。
「分かりました。契約に応じます」
私は震える声で地竜に向けて語り掛けた。
現在、獣人国ワーフランドの王宮の離れでは、5つの篝火が炊かれていて、儀式の準備が始まっていた。
私とお兄様は、五芒星になるように配置された篝火の中心で舞を踊るお母様の奉納の舞を見ていた。
「お兄様」
「……くどいぞ。エミリア」
「――ですが、この使役の法が成功してしまえば、お母様は……」
「母上も言っていただろう? 王族としての自覚をもてと」
「……私には、理解できません」
「いつかお前も分かる時がくる。王族――、人の上に立つということは、下々の生活を守る義務が課せられる。だからこそ、民は税を払うのだ。王族や貴族が民を万が一の時に守らなければ、国というのは成り立たない。それくらいは、理解しているな?」
「それは……」
分かっていますと口にしたら、何かが変わってしまうと、私は直感し言葉にはできない。
そんな私を見てお兄様は小さく溜息をつくと、視線を奉納の舞を行っているお母様の方へと向けていた。
そして、太陽が直上に昇ってきたところで、地鳴りと共に王宮全体――、祭壇までもが大きく揺れる。
「地竜だ!」
王宮近衛騎士団のダルアが叫ぶ。
その鬼気迫る声と共に、近衛騎士団が、ざわめき私とお兄様――、そしてお母様の間を隔てるように移動してくる。
「このような儀式をし、地竜である我を呼ぶとはどのような意図か?」
地竜の姿は、想像を絶するほど巨大なモノであった。
祖先である玉藻様から聞いていたよりも遥かに強大で、頭上から降ってくる地竜の一言だけで、私は立っている事すら出来ずに座り込んでしまう。
「地竜ウェイザー! 貴公との契約を結びたい」
「ほう? 玉藻と行った契約を破棄するということか?」
「そうではありません。この国を守るために力を貸してほしいのです」
恐怖に震える私を他所に、お母様は、微動だにせず顔を上へと上げ、地竜の姿を真っ直ぐに見つめていた。
「すごい……」
私には、そんなお母様の姿が、とても美しく見えた。
「なるほど……。だが、その代償がどういうものかは理解しているはずだが、それでもよいのか?」
「構いません!」
「そうか。――では、玉藻との約束を含めて汝は、契約後に我の生贄として、その体を差し出すということだな?」
「もちろんです。ですから、お力を貸して頂けませんか?」
「……ふむ。だが、汝が不慮の事故で死んだ場合、担保になる魂が必要だ」
「それは……」
「俺では駄目か!」
お兄様が声を張り上げる。
すると地竜の視線が私達――、お兄様の方へと向けられる。
「奉納の舞を踊れぬ者に――、霊力を有していない者に、契約を行うことはできない。それは貴様がよく分かっていることだろう?」
「――くっ」
お兄様が、唇を噛みしめる。
「そこにいる娘なら問題ないが、どうする?」
地竜の視線が私に向けられ、私を名指ししてきた同時に、お母様と、お兄様の顔色が、青く変わる。
「エミリアをか!?」
「エミリアを!? それは――」
「なら、契約はなしだ。我も力を振るうには、太古の神の源泉たる力が必要であるからな」
お兄様と、お母様が返答できずに固まっていると、地竜は「ならば契約はなしだ」と、踵を返そうとする。
「待ってください!」
私は、座り込んだまま叫ぶ。
地竜との契約が出来なければ獣人の国は滅んでしまう。
それは、お父様やお兄様――、お母様の頑張りが全て無駄になってしまうということ。
「分かりました。契約に応じます」
私は震える声で地竜に向けて語り掛けた。
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