本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫@書籍化作家

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第160話 砂上の戦闘(19)

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 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
 もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
 聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
 ……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。

 そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。

 月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
 最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。


「ユーカ、呼び出して悪かった」

「ごめんね、ユーカ」

「いえ、大丈夫です」


 ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。


「ジークさん? ハミルさん?」


 何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。


「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」

「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」


 まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。


「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」

「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」


 『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。


「俺達と」

「僕達と」

「「結婚してくださいっ」」


 しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
 私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。


「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」


 ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。








皇魔歴九千六十四年のある日。


「母さんっ! これ見て!」

「なぁに? ルーク?」


 ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
 彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。


「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」


 そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。

 邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。


(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)


 今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。

 その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。


「見ーつけたっ」

「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」

「うん」


 クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。


「ふふっ」

「? どうしたの? ユーカ?」

「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」


 もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。


「そうだったな」

「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」

「そうは見えなかったよ?」


 実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。


「ユーカ、愛してる」

「大好き。愛してるよ。ユーカ」


 同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。


「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」

「さぁ、部屋へ戻ろう」

「続きはベッドでゆっくり、ね?」


 最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。


「えっと、お、お手柔らかに?」


 深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。


(完)
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