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第78話 皆月茜の末路
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――ハイネ城炎上の翌日、ハイネ城の謁見の間。
「此度の働き、大変、ご苦労であった」
そう俺に語り掛けてくるのはハイネ領主であるヘイゼル・フォン・ハイネであった。
「冒険者として依頼を達成することは当然のこと」
俺は謁見の間の絨毯に片膝をつき、頭を垂れながら言葉を返す。
裏を知っている人間ならば完全なる茶番だとしか見えない。
だが、事実を知らないハイネ領主の領民や騎士や兵士にとっては、必要な事。
何せ、新・魔王軍四天王である皆月茜を倒したのだから。
それを領主が避難している間に、冒険者が勝手に倒したなど、貴族の名誉に関わる大失態だ。
貴族というのは本来、自らの命をかけて有事の際に戦うことを生業としているから。
「だが――」
「ヘイゼル様の心遣いも、その辛苦も理解はできますが、まずは領民の命を守ることを最優先にした事こそ、貴族としての根幹ではないのでしょうか?」
歯を浮くようなセリフを口にしながら、俺は内心、面倒だなと思っているが、あとの報酬の話もあるので、仕方なく演じる。
「そなたには大変に世話になった。新生・魔王軍四天王の一人――、勇者から寝返ったアカネ・ミナツキを、我が領内で倒したことは、人類が勇者に頼らずとも魔王を倒す事が出来るという証になるであろう」
「そのとおりで」
俺は膝をついたまま言葉を返す。
もちろん、俺の後ろにはエミリアやリオンも同じように膝をついている。
「――さて、カズマ。汝が、献上した、この肉塊であるが……」
ハイネ領主の足元には、10リットル程度が入る素焼きの土瓶が置かれている。
そして、その中には、水竜エンブリオンの呪いにより、未来永劫死ぬこともなく死ぬことも出来ない、ドロドロに溶かされた肉塊である皆月茜が納められていた。
もちろん、その肉塊は生きていて――、皆月茜の意識は存在している。
ただ、リオンの魔の核を入れられ耐え切れずにスライム化、つまり肉塊と化した皆月茜は動くことは愚か、言葉を発することも出来ない。
ただ、未来永劫意識があるだけ。
そして、腐った肉からは虫が這い出て、皆月茜の肉を食い散らし――、皆月茜の成れの果てである肉塊は再生する。
「皆月茜で相違ありません」
「なるほど……。――では、これは我ら人間を残虐的に殺し、裏切った勇者の末路という事で、ハイネ領地で見世物にでも使うとしよう」
「それが宜しいかと」
必死に何かを訴えようと、土瓶の中の肉塊へと成り果てた皆月茜は、唯一存在する人間の時の名残である瞳から涙を零し続けるが、そんなのは誰の感心も引くことはない。
逆に、俺や犠牲になった異世界ガルドランドの住民の留飲を下げることだろう。
「――では、カズマよ。汝に、褒美を取らせたいと思う!」
ようやく褒美か。
長かったな。
「此度の働き、大変、ご苦労であった」
そう俺に語り掛けてくるのはハイネ領主であるヘイゼル・フォン・ハイネであった。
「冒険者として依頼を達成することは当然のこと」
俺は謁見の間の絨毯に片膝をつき、頭を垂れながら言葉を返す。
裏を知っている人間ならば完全なる茶番だとしか見えない。
だが、事実を知らないハイネ領主の領民や騎士や兵士にとっては、必要な事。
何せ、新・魔王軍四天王である皆月茜を倒したのだから。
それを領主が避難している間に、冒険者が勝手に倒したなど、貴族の名誉に関わる大失態だ。
貴族というのは本来、自らの命をかけて有事の際に戦うことを生業としているから。
「だが――」
「ヘイゼル様の心遣いも、その辛苦も理解はできますが、まずは領民の命を守ることを最優先にした事こそ、貴族としての根幹ではないのでしょうか?」
歯を浮くようなセリフを口にしながら、俺は内心、面倒だなと思っているが、あとの報酬の話もあるので、仕方なく演じる。
「そなたには大変に世話になった。新生・魔王軍四天王の一人――、勇者から寝返ったアカネ・ミナツキを、我が領内で倒したことは、人類が勇者に頼らずとも魔王を倒す事が出来るという証になるであろう」
「そのとおりで」
俺は膝をついたまま言葉を返す。
もちろん、俺の後ろにはエミリアやリオンも同じように膝をついている。
「――さて、カズマ。汝が、献上した、この肉塊であるが……」
ハイネ領主の足元には、10リットル程度が入る素焼きの土瓶が置かれている。
そして、その中には、水竜エンブリオンの呪いにより、未来永劫死ぬこともなく死ぬことも出来ない、ドロドロに溶かされた肉塊である皆月茜が納められていた。
もちろん、その肉塊は生きていて――、皆月茜の意識は存在している。
ただ、リオンの魔の核を入れられ耐え切れずにスライム化、つまり肉塊と化した皆月茜は動くことは愚か、言葉を発することも出来ない。
ただ、未来永劫意識があるだけ。
そして、腐った肉からは虫が這い出て、皆月茜の肉を食い散らし――、皆月茜の成れの果てである肉塊は再生する。
「皆月茜で相違ありません」
「なるほど……。――では、これは我ら人間を残虐的に殺し、裏切った勇者の末路という事で、ハイネ領地で見世物にでも使うとしよう」
「それが宜しいかと」
必死に何かを訴えようと、土瓶の中の肉塊へと成り果てた皆月茜は、唯一存在する人間の時の名残である瞳から涙を零し続けるが、そんなのは誰の感心も引くことはない。
逆に、俺や犠牲になった異世界ガルドランドの住民の留飲を下げることだろう。
「――では、カズマよ。汝に、褒美を取らせたいと思う!」
ようやく褒美か。
長かったな。
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