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第82話 聖女の失踪 第三者side(3)
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執務室を退室し――、近衛騎士団が常駐している部屋に入り椅子に座ったところで。
「――ん?」
カサンドラの事務机の上に置かれていた書簡。
それを手にとると、眉間に手を当てながら溜息をつく。
「これを、持ってきたのは誰?」
「団長、それはキルワ王国から届いた書簡です」
「キルワ王国から? どうして隣国から、直接、近衛騎士団の詰め所に書簡が届くの?」
「聖女様の探索を隣国に強力要請していたからですよ」
「そうか……。――ん?」
そこでカサンドラが、首を傾げる。
その際に美しく手入れのされた金糸のような髪が肩にかかるが、詰め所にいる騎士達の中で気にするような輩は誰一人としていない。
近衛騎士団は、王宮の警護をしているだけでなく、必要経費や警備に関する書類作成など多岐に渡る事務作業もある。
それは、警備の観点から他の部署に任せられないという理由からであった。
つまり近衛騎士団の詰め所は事務所であった。
しかも、とてつもなく忙しいブラックな環境である。
計算を得意とする財務大臣の下についている法衣貴族の官僚を使えば少しはマシだったかも知れないが、それはできない。
だからこそ、書簡がカサンドラの机の上にポツンと置かれていたのは仕方ない。
カサンドラとしても、自分の部下が目の下に隈を作り書類作業をしているのを理解はしていたので、とくに注意することはなく、気になった書簡の蜜蝋をナイフで切り羊皮紙を開いていく。
「これって!?」
「団長、どうかしましたか?」
「キルワ王国の入管からの書簡だけど……。どうやら妹と瓜二つの金髪碧眼の女性が、入国したと書かれているわね」
「瓜二つですか?」
「黒髪黒眼ではないようだけど、見た目は本人と見まごうことない程そっくりだったと記載されているわね」
「ですが、団長。アマーリエ様は、黒髪黒眼という特徴では?」
「妹は、魔法を扱うことが出来るし、もし容姿を変えていたのなら――。それと……、どうも冒険者として入国しているみたいね」
「冒険者ですか。ありがちですね。とくに身分を隠したい場合などは……」
「しかも、冒険者として登録したのは、ここセルトラ王国の王都のようね。しかも、妹が姿を消した日に登録がされているみたい」
「それは、かなり確証の高い情報ですね」
「そうね。まずは陛下へご報告してキルワ王国の王室の方から、妹の保護をしてもらわないといけないわね」
「他国の軍が、国境を無断に超えると戦争になりかねませんからね」
その言葉にカサンドラは頷いた。
すぐにカサンドラは、戻ってきたばかりだと言うのに執務室へと向かう。
――コンコン
「ん? 入れ」
「失礼致します」
「カサンドラか。何か問題でも起きたのか?」
執務室内には、国王陛下とユリウスの姿があった。
「じつは、此方の書簡に目を通して頂けますか?」
「ふむ……」
カサンドラが差し出した書簡に目を通していくローレンツ。
「これは、まさか……」
「はい、どうやらアマーリエは、キルワ王国に滞在しているようです」
「そうか! 分かった。すぐに、親書を認める。カサンドラ、お前は、近衛騎士団の編成とすぐにキルワ王国に迎えるように用意をしておけ」
「分かりました」
「陛下。娘が見つかったというのは本当なのですか?」
黙って聞いていたアマーリエの父親であるユリウスは、吉報に笑みを浮かべていた。
「はい。お父様、どうやら妹はキルワ王国に滞在しているの様子です」
「そうか! 必ず連れて戻ってくるのだぞ! きっと、王太子に裏切られて身も心もボロボロになって隣国で困り果てているのだからな」
「分かっております。父上。陛下、それでは失礼致します」
「うむ」
カサンドラは、執務室から意気揚々として出ると近衛騎士団の詰め所へと、軽やかな足を向けた。
「――ん?」
カサンドラの事務机の上に置かれていた書簡。
それを手にとると、眉間に手を当てながら溜息をつく。
「これを、持ってきたのは誰?」
「団長、それはキルワ王国から届いた書簡です」
「キルワ王国から? どうして隣国から、直接、近衛騎士団の詰め所に書簡が届くの?」
「聖女様の探索を隣国に強力要請していたからですよ」
「そうか……。――ん?」
そこでカサンドラが、首を傾げる。
その際に美しく手入れのされた金糸のような髪が肩にかかるが、詰め所にいる騎士達の中で気にするような輩は誰一人としていない。
近衛騎士団は、王宮の警護をしているだけでなく、必要経費や警備に関する書類作成など多岐に渡る事務作業もある。
それは、警備の観点から他の部署に任せられないという理由からであった。
つまり近衛騎士団の詰め所は事務所であった。
しかも、とてつもなく忙しいブラックな環境である。
計算を得意とする財務大臣の下についている法衣貴族の官僚を使えば少しはマシだったかも知れないが、それはできない。
だからこそ、書簡がカサンドラの机の上にポツンと置かれていたのは仕方ない。
カサンドラとしても、自分の部下が目の下に隈を作り書類作業をしているのを理解はしていたので、とくに注意することはなく、気になった書簡の蜜蝋をナイフで切り羊皮紙を開いていく。
「これって!?」
「団長、どうかしましたか?」
「キルワ王国の入管からの書簡だけど……。どうやら妹と瓜二つの金髪碧眼の女性が、入国したと書かれているわね」
「瓜二つですか?」
「黒髪黒眼ではないようだけど、見た目は本人と見まごうことない程そっくりだったと記載されているわね」
「ですが、団長。アマーリエ様は、黒髪黒眼という特徴では?」
「妹は、魔法を扱うことが出来るし、もし容姿を変えていたのなら――。それと……、どうも冒険者として入国しているみたいね」
「冒険者ですか。ありがちですね。とくに身分を隠したい場合などは……」
「しかも、冒険者として登録したのは、ここセルトラ王国の王都のようね。しかも、妹が姿を消した日に登録がされているみたい」
「それは、かなり確証の高い情報ですね」
「そうね。まずは陛下へご報告してキルワ王国の王室の方から、妹の保護をしてもらわないといけないわね」
「他国の軍が、国境を無断に超えると戦争になりかねませんからね」
その言葉にカサンドラは頷いた。
すぐにカサンドラは、戻ってきたばかりだと言うのに執務室へと向かう。
――コンコン
「ん? 入れ」
「失礼致します」
「カサンドラか。何か問題でも起きたのか?」
執務室内には、国王陛下とユリウスの姿があった。
「じつは、此方の書簡に目を通して頂けますか?」
「ふむ……」
カサンドラが差し出した書簡に目を通していくローレンツ。
「これは、まさか……」
「はい、どうやらアマーリエは、キルワ王国に滞在しているようです」
「そうか! 分かった。すぐに、親書を認める。カサンドラ、お前は、近衛騎士団の編成とすぐにキルワ王国に迎えるように用意をしておけ」
「分かりました」
「陛下。娘が見つかったというのは本当なのですか?」
黙って聞いていたアマーリエの父親であるユリウスは、吉報に笑みを浮かべていた。
「はい。お父様、どうやら妹はキルワ王国に滞在しているの様子です」
「そうか! 必ず連れて戻ってくるのだぞ! きっと、王太子に裏切られて身も心もボロボロになって隣国で困り果てているのだからな」
「分かっております。父上。陛下、それでは失礼致します」
「うむ」
カサンドラは、執務室から意気揚々として出ると近衛騎士団の詰め所へと、軽やかな足を向けた。
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