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第81話 聖女の失踪 第三者side(2)
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「このセルトラ王国は、大陸の中でもっとも危険なダンジョンを封印していると知らぬのか?」
「封印?」
「王太子殿下。深淵の迷宮のことです」
軍務大臣ユリウスが助け船を出す。
「あれは伝承の中のことでは……」
「何のために代々、聖女を王家が娶って来たと思っているのだ。しかも、今回は女神様からの啓示もあったのだぞ? 何か問題が起きると、どうして理解しなかったのだ? お前には、何度も忠告したはずだが?」
国王陛下の言葉に、王太子殿下は、完全に言葉を無くす。
何の言葉も返すことが出来ない自身の息子の不甲斐なさに失望するローレンツ。
「もうよい。レーナ・フォン・ビスマルク」
「は、はい……」
そこでようやくクルトの横で怯えながら座っていた女性が震える声で返事をする。
「お前の仕出かした問題については、責任は重大だ。国家転覆罪にあたる。それは理解しているな?」
「……はい」
国家転覆罪。
それは一族郎党死刑を意味する。
顔を真っ青にしていくレーナに対して、何も声をかける事ができないクルト。
「陛下」
そんな折、ユリウスが国王陛下の名前を呼ぶ。
理由は単純明快。
「分かっておる。本来ならば一族郎党死刑が習わしだが、あの心優しいアマーリエが、そのような事を望むとは思えんからの。ガルドよ」
「はい、陛下」
「貴様のビスマルク男爵家は、男爵家としての地位の剥奪と領地の返却を命じる。よいな?」「慎んで承ります」
異例中の異例。
レーナの隣の初老の男性は深々と頭を下げた。
「――さて、カサンドラよ」
「はい、陛下」
「お前の妹の行方は、いまだに掴めないのか?」
「それが、当家の御者の話では冒険者ギルドの近くまで妹を連れていったと……」
「ふむ……。冒険者か……」
「どういたしましょうか?」
「カサンドラ。失踪した聖女を必ず見つけてこい。カタリーナも、アマーリエが次期王妃ということを望んでいるからの」
「了解しました」
「うむ」
そこでクルト、レーナ、ガルドの3人が近衛騎士に連れられて執務室を後にする。
そして――扉が閉まる。
「――で、陛下。今後の娘の処遇ですが……」
軍務大臣を見る国王陛下、その表情には色濃い疲れが見え隠れてしていた。
「分かっておる。まずは息子の事を詫びなければならぬな。あとは……ルドルフなどどうだ?」
「陛下。それは……」
「分かっておる。困ったものだな」
色よい返事を貰う事は出来ないと分かっていたローレンツであったが、娘が行方不明のユリウスにとっては、間髪入れずに婚約の話を切り出してきた国王には思うところがあったのだろう。
了承するような答えを口にすることはなかった。
「封印?」
「王太子殿下。深淵の迷宮のことです」
軍務大臣ユリウスが助け船を出す。
「あれは伝承の中のことでは……」
「何のために代々、聖女を王家が娶って来たと思っているのだ。しかも、今回は女神様からの啓示もあったのだぞ? 何か問題が起きると、どうして理解しなかったのだ? お前には、何度も忠告したはずだが?」
国王陛下の言葉に、王太子殿下は、完全に言葉を無くす。
何の言葉も返すことが出来ない自身の息子の不甲斐なさに失望するローレンツ。
「もうよい。レーナ・フォン・ビスマルク」
「は、はい……」
そこでようやくクルトの横で怯えながら座っていた女性が震える声で返事をする。
「お前の仕出かした問題については、責任は重大だ。国家転覆罪にあたる。それは理解しているな?」
「……はい」
国家転覆罪。
それは一族郎党死刑を意味する。
顔を真っ青にしていくレーナに対して、何も声をかける事ができないクルト。
「陛下」
そんな折、ユリウスが国王陛下の名前を呼ぶ。
理由は単純明快。
「分かっておる。本来ならば一族郎党死刑が習わしだが、あの心優しいアマーリエが、そのような事を望むとは思えんからの。ガルドよ」
「はい、陛下」
「貴様のビスマルク男爵家は、男爵家としての地位の剥奪と領地の返却を命じる。よいな?」「慎んで承ります」
異例中の異例。
レーナの隣の初老の男性は深々と頭を下げた。
「――さて、カサンドラよ」
「はい、陛下」
「お前の妹の行方は、いまだに掴めないのか?」
「それが、当家の御者の話では冒険者ギルドの近くまで妹を連れていったと……」
「ふむ……。冒険者か……」
「どういたしましょうか?」
「カサンドラ。失踪した聖女を必ず見つけてこい。カタリーナも、アマーリエが次期王妃ということを望んでいるからの」
「了解しました」
「うむ」
そこでクルト、レーナ、ガルドの3人が近衛騎士に連れられて執務室を後にする。
そして――扉が閉まる。
「――で、陛下。今後の娘の処遇ですが……」
軍務大臣を見る国王陛下、その表情には色濃い疲れが見え隠れてしていた。
「分かっておる。まずは息子の事を詫びなければならぬな。あとは……ルドルフなどどうだ?」
「陛下。それは……」
「分かっておる。困ったものだな」
色よい返事を貰う事は出来ないと分かっていたローレンツであったが、娘が行方不明のユリウスにとっては、間髪入れずに婚約の話を切り出してきた国王には思うところがあったのだろう。
了承するような答えを口にすることはなかった。
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