婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫

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第65話 キルワ王国のダンジョン探索(20)

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 キルワ王国の王都スルトーンに出現したダンジョン。
 それは、私達が先日オーガーと町中で近くに存在していて、周囲はダンジョンの入り口を中心として学校のグランドほどの広場になっていた。

 広場になっていたというのは、建物の土台が残っているのが見受けられたから。
 ただ、おかげで周囲をよく見渡すことはできる。

「あの方々が、キルワ王国の騎士団の方ですか?」
 
 距離としては50メートルほどのところで、騎士団の方々の姿を見受けることが出来たので、先頭を歩いている二人に確認する。
 人数は30人ほど。
 全員が統一された型式のプレートメイルを装備している。
 それらは鈍い金属の光沢を発してはいたけれど、ところどころ細かい傷や凹みがある事から、実践を経ている方々というのは想像がついた。

「ああ。キルワ王国の下級騎士団だな」
「下級騎士団ですか」

 この異世界では、騎士団は大きく二つに分けられる。
 上級騎士団は、主に貴族の子弟が所属しており、近衛騎士団は王族を警護するけれど、その近衛騎士団は基本的に上級騎士団の中から抜擢される。
 何故なら、魔法が使えることが上級騎士団の中では求められる素養のもっとも大きな部分だから。
 そして下級騎士団は、主に国民から選出される。
 とくに学を求められはしない。
 下級騎士団に必要なのは強靭な肉体と精神力。
 剣術は、あとから騎士団に入ってから叩きこまれると聞かされたことがある。
 
 ――そして……。

「あの方が、上級騎士ですか」

 一人だけ家紋とマントをつけている男性がいる。
 防具も下級騎士と似てはいるけれど、所々に文様が刻まれている事から、一目で貴族出身の騎士だという事は分かった。

「そうだが……?」

 アネットさんが私が向けている視線に気がつき答えてくる。

「エミは、あのロドリア・ノーマンと知り合いなのか?」
「いえ。何となく装備が豪華だと思っただけで」
「なるほどな」

 頷くアネットさん。

「エミはんは、観察力が高いね」
「そうでもないです」

 会話をしている間に、私達は騎士団の方々と会話が交わせる距離まで近づいていた。

「ずいぶんと遅い到着だな。Aランク冒険者は気楽でいいものだ」

 先ほど、私が上級騎士だと思った男性が、私達に語り掛けてくる。
 どうやら、あまり私達は歓迎されていないみたい。

「申し訳おまへん。前回の問題点を改善する為に用意しとったもんで」
「ふん。また、足手纏いのような真似をしたら、冒険者ギルドにお前達の実力不足を報告させてもらうからな。冒険者はダンジョン探索が得意だと聞いていたから、実力も鑑みて雇ったというのに……」

 ブツブツと男性は文句を言っている。
 どうも前回の失敗に関して、完全に此方のミスだと思っているみたい。
 私は、現場にいなかったから本当のことは分からないけど……。

「今回は大丈夫だ。私達の、もう一人の仲間も合流したからな」
「仲間?」

 アネットさんの言葉に、眉を顰めた上級騎士の視線が私に向けられてくる。

「この町娘のことか?」
「せや! エミはんの報告は行っとるはずやけど?」
「……そういえば、冒険者ギルドから来ていたな。何でもAランク冒険者のブレイズを倒したとか……。だが……、杖も持たず、町娘のような恰好をしている者が冒険者だと言うのか? 冗談も休み休み言え」
 
 肩を竦めて、こちらを小馬鹿にしてくる男性。
 完全に此方を格下だと思っている。
 もちろん下級騎士の方々が、彼の暴挙を止めるような行動をするようなことはない。

「Bランク冒険者のエミと申します。至らぬ所は、多々あると思いますが、宜しくお願い致します」

 私は、スカートの裾を掴み軽く会釈する。

「――ッ。そ、そうか……。こちらこそ、よろしく頼む。エミと言ったか? 君は、賢者だと聞いていたが、どこかの貴族の御令嬢であったのか?」
「いえ。平民の出でございます」
「おほん! そうか。何か、困った事があるようだったら遠慮なく聞いてくれて構わない」
「ご配慮、嬉しく存じます」

 私とのやりとりに満足したのか頷く上級騎士の男性。
 すぐに下級騎士の――、部下の方々にダンジョンへ潜る命令を下していると――。

「エミ、すごいな」
「せやで! エミはんは、どこであんな挨拶の仕方を?」
「村で」

 正確には、妃教育の一環で何千、何万回と教え込まれた教養の一つですけど、それが役に立ったのなら妃教育も無駄ではなかったと思いたい。




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