婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫

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第42話 御店を始めましょう。(4)

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「紹介料ですか?」
「ああ、お前さんも、こんな裏路地で何かを探しているんじゃろう? ――なら、その道のプロに聞いた方がタイムロスは短くて済むんじゃないか?」
「……」

 たしかに目の前の老人の言う通り。
 余計な時間を費やしていたら、目撃者が増える。
そうなれば、どこかしら情報が漏れるのは必然。

「おっと! ヒヒヒッ……。お嬢ちゃんが強い魔法を使う魔導士というのは知っているんじゃよ?」
「つまり、裏路地に入ってから一部始終、私の行動を見ていたということですか?」
「ヒッヒッヒッ」

 まるで、私からの質問に対して、内容を肯定するかのように引き攣った笑い声で答えてくる。
 さらに、私に対して言葉で牽制までしてくる老人。
 どう考えても、見た目どおりの普通の老人ではないというのは、分かる。
 ただ、此処でどうにかする? と言う選択肢は取れない。
 何故なら相手の実力が未知数だから。
 少なくとも、町の中に居たとは言え裏路地で警戒していた私の索敵を掻い潜って数時間、追跡してきた事を考えると、ユーリエさんやアネットさんよりも追跡という部分では遥かに先んじていると思って間違いない。
 そうなると争うのは得策ではない……。

「分かりました。それで紹介料は如何ほど必要なのですか?」
「金貨10枚ほど欲しいかの」
「……金貨10枚ですか」

 日本円にして100万円ほど。
 しかも、私が探している買取店ではなく何でも屋への紹介だけで100万円。
 正直、高すぎると思ってしまう。
 ただ問題は、この世界に転生してから貴族として生まれ、すぐに王宮で暮らしてきた私にとって異世界での街並みというのは、未知の場所であり、何があるのか分からない危険な所で……。

「どうじゃ?」
「分かりました。金貨10枚に関しては、後払いでいいですか?」
「よいぞ。さて、参るとするか。ついて参れ」
「……分かりました」

 内心、溜息をつきながら歩きだした老人のあとを付いていく私。
 そして、やはりというか直ぐに老人の足取りがシッカリとしていた事に気がつく。

「とりあえず、まずは何でも屋に案内するんじゃが、儂の名前はデメトルと言うんじゃが――」

 先を歩いていた老人が歩みを止めずに、自己紹介してくる。
 そして――、途中で言葉を止めたことから私にも自己紹介をするようにという意思表示を見せてきた。
 私としては名前を言うのは、逃亡中なので不味い。
 アマーリエの名前では、何かあった時に困るし、それにエミという名前も普段利用している名前。
 ただ偽名と言うのも、何かあった時に名前を呼ばれた時、即反応出来ないと偽名と思われる可能性がある。
 そうなると、使える名前は……。

「神田と言います」
「カンダ?」
「はい。カンダです」
「ふむ……。ずいぶんと女らしくない名前じゃな」
「私の村は、この町からは遠い場所にありますので」

 出身地を濁しておく。
 


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