婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫

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第36話 薬草茶

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「それは、良かったわ」
 
 ホッと胸を撫でおろすメルサさん。

「そういえば、エミさんは一人で戻ってきたの?」
「はい。私は見ているだけしか出来なかったので――、それなのに冒険者ギルドや兵士の方に色々と聞かれても大変だからって」
「そうなのね。戦っていないのなら問い詰められても困るものね」
「はい」
「少し椅子に座ってまっていてね。何か飲み物を用意するから。オーガーなんて見て疲れたでしょう?」

 そう言い残し、1階の台所の方へと向かっていくメルサさん。
 後ろ姿を見送ったあと、私は食堂のテーブル前の椅子へと腰を下ろす。
 
「ふう……」

 思わず、溜息が出てしまう。
 メルサさんの言う通り、疲れているのかも。
 何せ、実践は2回目だし……。
 それに、両腕を粉砕骨折したのは初めてで――、あの時はアドレナリンが出ていたから痛みが麻痺していたから特に何も感じなかったけど、もしかしたら……、一人だけの時だったら、激痛で身動きが取れなかったのかも。

 そう考えてしまうと、薄氷の勝利だったとも言える。
 
「もっと魔法を追求しないと、今後、何かあった時に対応できなくなる時があるわよね」

 思わず一人呟いてしまう。
 魔法の使い方は、分かってはいたけれど王宮や貴族院で妃教育を受けていたから、身の危険を感じなかった事もあり鍛錬が足りない。
 その事が、今回の戦いで十分に理解できた。

「そうなると……、身を守れる程度の魔法の開発は急務よね」
「何が急務なのかしら?」
「メルサさん――」
 
 台所の方から歩いてきたメルサさんが話しかけてきた。
 
「いえ。オーガーと戦えるようになれればと……」
「無理はしなくていいのよ。オーガーは、騎士や兵士に任せておけばいいの」
「そうなのですか?」
「ええ。普通、魔術師はオーガーの相手なんて出来ないから」

 会話をしながらメルサさんは、台所から持ってきたガラスのポットをテーブルの上へと置く。
 ガラスのポットの中には多種多様な花や草などが入っている。
 それは、日本で言う所の薬草茶と言ったところだと思う。
 メルサさんは手に持っていたグラスをテーブルの上へと置いたあと、ポットを持ち上げグラスの中へと淹れていく。

「エルフの森で採れる薬草茶なの。気分を落ち着かせる効能があるから、どうぞ」

 差し出されたグラスを両手で受け取る。
 ほんのりと温かさが手のひらから伝わってくることから、普通の硝子では無い事が何となく分かる。

「これって、耐熱グラスですか?」
「ええ。そうだけど、エミさんは、どうしてエルフの技術を知っているのかしら?」
「エルフの技術?」

 私は首を傾げる。


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