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第30話 モンスターの襲撃(2)
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「ダンジョンが理由じゃないのか?」
「ダンジョンって……。普通は、ゾンビが出て来たりしないですよね?」
「まぁ、連れてきたとかそんなところじゃないのか? 処理しきれずに逃げてきたとか」
「そんな事あるのですか?」
アネットさんの説明に、さすがに私は驚きを禁じ得ない。
だって、モンスターをダンジョンの外まで連れてきたら、どうなるのか分かっているでしょうに。
「稀に良くある」
「稀なのか、良くあるのか、どっちかにしてください!」
「まあ、そう慌てへんでもすぐに鎮静化する思うで」
まるで日常的に良くあるような素振りで答えてくるユーリエさん。
「直ぐに鎮静化?」
「ああ、ここは一応、王都だからな。警備兵が直ぐに集まってくる。それに冒険者もな」
「それは、そうですけど……」
身長が低い私の視界には逃げてくる市民の方の姿しか見えない。
つまり、どういう魔物がダンジョンから出てきたのか見ることが出来ないので、何の状況もつかめない。
「あれはまずいなぁ」
逃げてくる人々の波に翻弄されながら、身体強化を使い、その場で耐えていると、壁を昇って先を見ていたユーリエさんが困惑した様子で一言呟いた。
「どうしたのですか?」
「オーガーキングがおるなぁ」
「オーガーキング?」
「せや、一匹で新兵10人と同格の戦力を持つオーガーを統率するバケモンや。あれが、ダンジョンから出てきて跋扈してるとなると、かなりの数のオーガーが居る事になるなぁ」
「それって、かなりマズイのでは?」
もう、その話で嫌な予感しかしない。
「並の冒険者じゃ歯が立たへんね。王都の警備兵でもかなりの被害がでるかも分からへんね」
そう――、ユーリエさんが答えた瞬間、私は地面を蹴っていた。
一瞬だけ割れた人波の先に、2歳から3歳くらいの小さな女の子が地面に座り込んで泣いていたから。
「エミ!」
「アネットさん、これを――」
私は念のために、アネットさんから預かっていた私が作った剣を投げて渡す。
「――くっ!?」
手加減なしに投げたこともあり、アネットさんは鞘に納められたブロードソードを受け取った衝撃と痛みに苦痛を漏らしていたけど、私の意識はすでに前方へと向けられていた。
一足飛びに、逃げてくる市民の頭上を跳躍し超えると同時に、背中に魔法で発生させた強風を宛てて空中を一気に移動する。
「間に合って!」
私が女の子の目の前に着地すると同時に、民衆を追いかけてきていたオーガーの一匹が、幼い女の子の頭上に向けて木の槌を振り下ろしてきていた。
「ままーっ!」
その叫びと同時に、私は身体強化を極限まで行い振り下ろされた土を両腕で受け止めると同時に両腕からは骨が砕け割れる音が聞こえてくる。
「アネットさんっ!」
「分かっているっ!」
すでに粗方、市民が逃げ出した通路で、ようやくブロードソードを抜刀する事が出来たアネットさんが、私の声に応じると共に、ブロードソードを横一閃に薙ぐ。
それだけで、オーガーの体が上下に分かたれて行き――、オーガーの上半身は地面の上へと落ち、一拍置いてオーガーの下半身も後ろへと倒れた。
地面へ広がっていく緑色の血を見てから、女の子の方を見る。
「大丈夫?」
「う、うん……」
どうやら、見た感じ怪我などはしてなさそう。
「――くっ。エミ! 撤退するぞ!」
間髪入れずにアネットさんが指示を出してくる。
「――で、でも……」
「こんな狭い場所じゃ、剣士は別として魔術の行使は難しい。周りに被害が出る!」
たしかにアネットさんの言う通りで――。
「分かったわ」
私は頷く。
たしかに、私の使う魔術は、万能ではあるけれど、市街戦を想定して作ってはいない。
それに目の前に見える体長3メートルほどのオーガーの数だけで20体近くおり、その後ろには、さらに二回りでかい体長が6メートル以上ある筋肉隆々のオーガーキングという魔物の姿もある。
明らかに此方に不利な状況。
「お姉ちゃん、あそこにママがいるのっ!」
撤退しようと心に決めた時に、私が助けた女の子が一件のパン屋を指差した。
視線を向ければ、パン屋の入り口の戸は閉まっていたけれど、執拗に木製の扉を破壊しようとしているオーガーの姿から人がいると言うのは察しがついた。
「冗談だろ?」
アネットさんは、無数のオーガが群がっているパン屋の方へと視線を向けて苦々しく吐露していた。
「ダンジョンって……。普通は、ゾンビが出て来たりしないですよね?」
「まぁ、連れてきたとかそんなところじゃないのか? 処理しきれずに逃げてきたとか」
「そんな事あるのですか?」
アネットさんの説明に、さすがに私は驚きを禁じ得ない。
だって、モンスターをダンジョンの外まで連れてきたら、どうなるのか分かっているでしょうに。
「稀に良くある」
「稀なのか、良くあるのか、どっちかにしてください!」
「まあ、そう慌てへんでもすぐに鎮静化する思うで」
まるで日常的に良くあるような素振りで答えてくるユーリエさん。
「直ぐに鎮静化?」
「ああ、ここは一応、王都だからな。警備兵が直ぐに集まってくる。それに冒険者もな」
「それは、そうですけど……」
身長が低い私の視界には逃げてくる市民の方の姿しか見えない。
つまり、どういう魔物がダンジョンから出てきたのか見ることが出来ないので、何の状況もつかめない。
「あれはまずいなぁ」
逃げてくる人々の波に翻弄されながら、身体強化を使い、その場で耐えていると、壁を昇って先を見ていたユーリエさんが困惑した様子で一言呟いた。
「どうしたのですか?」
「オーガーキングがおるなぁ」
「オーガーキング?」
「せや、一匹で新兵10人と同格の戦力を持つオーガーを統率するバケモンや。あれが、ダンジョンから出てきて跋扈してるとなると、かなりの数のオーガーが居る事になるなぁ」
「それって、かなりマズイのでは?」
もう、その話で嫌な予感しかしない。
「並の冒険者じゃ歯が立たへんね。王都の警備兵でもかなりの被害がでるかも分からへんね」
そう――、ユーリエさんが答えた瞬間、私は地面を蹴っていた。
一瞬だけ割れた人波の先に、2歳から3歳くらいの小さな女の子が地面に座り込んで泣いていたから。
「エミ!」
「アネットさん、これを――」
私は念のために、アネットさんから預かっていた私が作った剣を投げて渡す。
「――くっ!?」
手加減なしに投げたこともあり、アネットさんは鞘に納められたブロードソードを受け取った衝撃と痛みに苦痛を漏らしていたけど、私の意識はすでに前方へと向けられていた。
一足飛びに、逃げてくる市民の頭上を跳躍し超えると同時に、背中に魔法で発生させた強風を宛てて空中を一気に移動する。
「間に合って!」
私が女の子の目の前に着地すると同時に、民衆を追いかけてきていたオーガーの一匹が、幼い女の子の頭上に向けて木の槌を振り下ろしてきていた。
「ままーっ!」
その叫びと同時に、私は身体強化を極限まで行い振り下ろされた土を両腕で受け止めると同時に両腕からは骨が砕け割れる音が聞こえてくる。
「アネットさんっ!」
「分かっているっ!」
すでに粗方、市民が逃げ出した通路で、ようやくブロードソードを抜刀する事が出来たアネットさんが、私の声に応じると共に、ブロードソードを横一閃に薙ぐ。
それだけで、オーガーの体が上下に分かたれて行き――、オーガーの上半身は地面の上へと落ち、一拍置いてオーガーの下半身も後ろへと倒れた。
地面へ広がっていく緑色の血を見てから、女の子の方を見る。
「大丈夫?」
「う、うん……」
どうやら、見た感じ怪我などはしてなさそう。
「――くっ。エミ! 撤退するぞ!」
間髪入れずにアネットさんが指示を出してくる。
「――で、でも……」
「こんな狭い場所じゃ、剣士は別として魔術の行使は難しい。周りに被害が出る!」
たしかにアネットさんの言う通りで――。
「分かったわ」
私は頷く。
たしかに、私の使う魔術は、万能ではあるけれど、市街戦を想定して作ってはいない。
それに目の前に見える体長3メートルほどのオーガーの数だけで20体近くおり、その後ろには、さらに二回りでかい体長が6メートル以上ある筋肉隆々のオーガーキングという魔物の姿もある。
明らかに此方に不利な状況。
「お姉ちゃん、あそこにママがいるのっ!」
撤退しようと心に決めた時に、私が助けた女の子が一件のパン屋を指差した。
視線を向ければ、パン屋の入り口の戸は閉まっていたけれど、執拗に木製の扉を破壊しようとしているオーガーの姿から人がいると言うのは察しがついた。
「冗談だろ?」
アネットさんは、無数のオーガが群がっているパン屋の方へと視線を向けて苦々しく吐露していた。
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