平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

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第75話 想いと思い(7)

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「そんなことは……」

 最後まで言葉を紡ぐことが出来ない。

「言い切れないと言う事は、思う所がご自身であると言う事ですか?」
「それは……」
「クララは、ずっと寂しい思いをしておりました。ずっと、ずっと――。そんなときに声をかけたのがラインハルト殿下でした」
「彼女にとって、貴方はどれだけの心の支えだったのか、ご理解されていなかったのでしょうね。本当に、愚かな……」

 そう呟くと、エイナの恰好をした存在は部屋から出ていく。
 するとクララの姿は掻き消え、ホールには自分ひとりだけ取り残される。

 慌てて彼女のあとを追いかける。
 部屋を出ると、そこは書庫であった。
 そして目の前には、私が居た。
 
 ――そして、私に気が付いたのか駆け寄ってくる。

「クララ、待っていたよ」
「ラインハルト様、ごめんなさい。遅くなってしまって――」
「いや、気にしなくていいよ」

 小さなころの自分が気が付いたのはクララの気配だったのだろう。
 よくよく考えてみれば、その頃にクララと書庫で会っていた記憶がある。
 理由は簡単で王族としての勉強に飽き飽きしていた自分は、クララと会う事を理由に抜け出していただけだった。

「ラインハルト様も、お忙しいのでは?」
「――いや。君に会う為だから」

 それを聞いて、私は嘘をついていたのだなと思った。
 その頃は、クララのことを婚約者だとは認識してはいた。
 だが、気持ちの面では何とも思ってはいなかった。
 王族としては当たり前の一つとしか考えていなかったからだ。

「クララ・フォン・マルスは、両親から引き離されて、ずっと王城で一人暮らしていました。両親と会う事も許されずに王妃としての教育を受けて、誰にでも品性公平に笑顔を向けることができるように」

 そう声が聞こえてきた。
 いつの前にか、さっきの部屋と同じく時が停まったのか灰色の空間にいた。

「貴方は呪いのです、ラインハルト王太子殿下。貴方にとってクララはどうでもいい存在では無かったのですか? 何故、いまさらクララに近づこうと思っているのですか?」
「私は、クララと共に歩んでいきたいと思ったからだ」
「でも、貴方は、クララからの申し出を断りました。それがどういう意味を持っているのか理解していたはず」
「それは全て、クララのために!」
「そう言って、全てをクララに擦り付けるのですか? 何かあれば、君のためだと……。君のためにしたのだと……。本心を語る強さもない――、本音で語ろうとしない、そのような殿方が、愛する女性を守れるとは思えませんが?」




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