平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

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第70話 想いと思い(2)

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 窮屈だと思ったことはあった。
 自分は何で生まれたのかと思ったことはあった。
 どうして、私は、両親から離されているのだろうと思ったことはあった。
 でも、それは思っただけで口にする事は謀れた。
 だって、私は次の王妃だと言われていたから。

 ――そう。私は特別だからと教育係りに教えられていたから。

 でも、それは私が望んだことではなく……。

「どうかしましたか? クララ様」
「何か?」
「――いえ。少し、上の空のようでしたので……」
「そうだったかしら?」

 私は、馬車の中で次に視察に向かう商業ギルドに関しての資料に目を通す。
 他国との交易の要の一つである商業ギルド。
 そこは王族や貴族が出資している組合の一つであり、王国の財政を支える一つの柱でもあった。
 そのような組織のトップや重鎮と縁を作るのは、これから国を支えていく人間にとっては重要な仕事の一つ。

 私は馬車に乗りながら、外を見る。
 王都には、多くの人やモノが周辺国から流れこみ、お店が並び、多種多様な催しが行われている。
 それは、まるでお祭りのように。

「いいな……」

 一人呟く。
 10年近く、肉親が傍にいない私。
 大切にしてくれる人はいる。
 でも、それは王家に嫁ぐ人間――、将来は国王になる殿下の伴侶として立つ王妃としての私として大切にされているだけ。

 ――本当に私を大切にしてくれる人はいない。

 多くの人が周囲にいるけれど、誰も周りにいない。
 そんな私。
 表情も――、言葉遣いも、立ち振る舞いも、将来の王妃として期待され、つねに評価される自分。
 だからこそ、自由に笑って話せて、好きに行動できる人が羨ましく――、輝いて見えてしまうのかも知れない。

「どうかなさいましたか?」
「何でもないの。それよりも、これからのことを考えていたの」
「商業ギルドのトップの方との?」
「ええ。そうね」
「本日は、クララ様の御姿を、商業ギルドに所属している者達に見せるというのが主な事だと記憶しておりますので、そこまでお考えにならなくても問題ないかと思われますが」
「そうね」

 あくまでも王家が睨みを付けていると言う事を見せる。
 それだけのこと。

「クララ様。コーネリア様は、クララ様に期待しておいでです」
「そう……」

 現、国王陛下の本妻のコーネリア・ド・イグニス様。
 私が嫁ぐ予定の――様の、お母様で、将来は私の義理のお母様。
 お会いしたことは数えるほどしかない。
 だけれど、貴族の令嬢の手本となるような方だと言う事は理解できた。
 
 だけど……。

「やはり、どこか、お体の具合でも?」
「そうではないの。ただ、王妃様が私に――」

 そこで私は口を閉ざす。
 王妃様は、国王陛下をさりげなく立てるだけでなく貴族の令嬢としても素晴らしい方だと言う事は分かる……わかってしまう。
 だけど、それを私に求められても困ってしまう。
 私は、好きで――、好きで次の王妃として生まれてきた訳ではないのだから。
 でも、周りは私の気持ちなんて知らない。
 誰も私の気持ちを理解してはくれない。
 だって……、私には、そんな役割は求められていないから。

 ――だから、本当の事を口に出したらいけない。





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