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第67話 乾坤一擲(3)
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湿気の帯びた空気が、停滞し淀んだ地下通路に甲高い音が鳴り響く。
「一体、どういうことなの!」
静まり返った通路に響くヒステリックな声。
「ユリエール殿、少し静かにしてください」
「――ッ! 分かっているわよ! でもね! この私を! こんな扱いをしていいと思っているの!? 仮にも私は王太子殿下の寵愛を受けていたのよ!」
「それが問題なのです」
ギリッと、歯ぎしりし返答してきた男を睨みつけるユリエール。
そこには以前に、パーティ会場で見せていた余裕のある笑みなどは存在していなかった。
「はぁ、分かっているわ。それで、エイゼル王国の暗部は私に戻るように通達してきたのよね?」
「はい。どうやらエイゼル王国内にて、大きな問題が発生したとのことで」
漆黒の――、闇夜に紛れるために用意された衣服を纏い話をしている二人の動作には、無駄がなく、その後ろに続く10人近い男女も、見る者が見れば分かるが、それなりの実力者揃いであった。
「それよりも、アウラが私達の敵に回るなんて思わなかったわ」
「すでにスペンサー枢機卿と神殿騎士団が動いております。それに王族の近衛部隊と魔法師団も、ユリエール殿を捕まえる為に――」
「そんな話は、何度も聞いたわ。一度で十分よ!」
「――ならば、すぐにエイゼル王国へと戻りましょう」
「分かっているわ」
そこで話を区切った男女は、唐突に足を止める。
理由は簡単であった。
「――だれ!?」
目の前に唐突に姿を現した女性。
両手には、それぞれ彼女ら彼らが見た事もない武器を手にして立っていた。
「この通路を使うと思って張っていましたが、さすがに考えた通りに話が進むとなると幾ばくかの落胆を禁じ得ませんね」
そう、女性は呟く。
「誰だって聞いているの!」
「ところで、貴女がユリエールで良かったのですか?」
赤髪の女性が漏らした言葉。
それにより、教会の地下墓地の空気が一瞬で緊張感に包まれる。
「どうやら、当たりのようですね」
女性は、視線をユリエールの方へと向ける。
「――な、何なのよ」
「ユリエール殿。どうやら、この目の前の者が、ただモノではない様子」
「分かっているわ。――と、とにかく! この場に居る時点で身内か敵かそれだけは分かるもの。――なら殺しておしまい!」
ユリエールの命令と同時に、後ろを追従していた10人近くの黒装束を着た男女がダガーやナイフを取り出し赤髪の女性目掛けて疾走する。
一瞬で間合いをつめ、毒が塗られているであろうナイフやダガーを突き出すが、それら全ての攻撃を女性は避けると同時に小太刀を縦横無尽に振るっていく。
――一瞬の交差。
時間として10秒も満たない僅かな時間。
赤髪の女性に向かっていった暗殺者の全員は、首を刈られ一拍置いたあと、頭を失った体は埃が積もった地下墓地の石畳の上に倒れていく。
「――な! ま、まさか……」
その光景を見ていた男は――、ユリエールの相手をしていた暗殺者は絶句した声を上げていたが、その声はすぐに途切れる。
男が知覚する前に、その男の体は赤髪の女性により両断されていたから。
「――な、なんなのよ! あなたは! 一体!」
赤髪の女性は、無言のまま、ユリエールの腹部を殴り彼女の意識を刈った。
そして――、数人の人間の気配がユリエール達の来た方角から近づいてくるのを赤髪の女性は感じ取った。
「ずいぶんと遅い到着ですね」
皮肉に近い言葉を赤髪の女性は口にする。
「それでも、かなり急いできたのですよ。それよりも、もう戻ってきていたのですね」
肩を竦めながら応じる男性。
「先ほど、戻ってきたところ、王家の方で動きがあったと知り合いの情報通から話しを聞きまして」
「なるほど。それで、ここを張っていたと?」
「はい。罪人が逃げ延びる方法は決まっていますから」
「そうですか。ですが、良かったのですか?」
「私は、クララ様に忠義を果たしたまで。それよりも、この女の口を割らせるのが先ではありませんか?」
女性は、意識を失って倒れているユリエールへと視線を向ける。
「そうですね。それよりも我が家に戻っては来ないのですか?」
「パトリック様。私が、戻れないというのは分かっているでしょう?」
「妹は、貴女を必要としていると思いますが?」
「…………それは出来ません。少なくとも公爵家にお仕えすることは――」
「そうですか。分かりました。それではユリエールの身柄は、こちらで預かります」
パトリックの言葉に、赤髪の女性は頷く。
そして踵を返したところで――、彼女の背中に向けて小さく、誰にも聞こえない声で「エイナ、ご苦労様でした」と、パトリックは深く礼を伝えるのであった。
「一体、どういうことなの!」
静まり返った通路に響くヒステリックな声。
「ユリエール殿、少し静かにしてください」
「――ッ! 分かっているわよ! でもね! この私を! こんな扱いをしていいと思っているの!? 仮にも私は王太子殿下の寵愛を受けていたのよ!」
「それが問題なのです」
ギリッと、歯ぎしりし返答してきた男を睨みつけるユリエール。
そこには以前に、パーティ会場で見せていた余裕のある笑みなどは存在していなかった。
「はぁ、分かっているわ。それで、エイゼル王国の暗部は私に戻るように通達してきたのよね?」
「はい。どうやらエイゼル王国内にて、大きな問題が発生したとのことで」
漆黒の――、闇夜に紛れるために用意された衣服を纏い話をしている二人の動作には、無駄がなく、その後ろに続く10人近い男女も、見る者が見れば分かるが、それなりの実力者揃いであった。
「それよりも、アウラが私達の敵に回るなんて思わなかったわ」
「すでにスペンサー枢機卿と神殿騎士団が動いております。それに王族の近衛部隊と魔法師団も、ユリエール殿を捕まえる為に――」
「そんな話は、何度も聞いたわ。一度で十分よ!」
「――ならば、すぐにエイゼル王国へと戻りましょう」
「分かっているわ」
そこで話を区切った男女は、唐突に足を止める。
理由は簡単であった。
「――だれ!?」
目の前に唐突に姿を現した女性。
両手には、それぞれ彼女ら彼らが見た事もない武器を手にして立っていた。
「この通路を使うと思って張っていましたが、さすがに考えた通りに話が進むとなると幾ばくかの落胆を禁じ得ませんね」
そう、女性は呟く。
「誰だって聞いているの!」
「ところで、貴女がユリエールで良かったのですか?」
赤髪の女性が漏らした言葉。
それにより、教会の地下墓地の空気が一瞬で緊張感に包まれる。
「どうやら、当たりのようですね」
女性は、視線をユリエールの方へと向ける。
「――な、何なのよ」
「ユリエール殿。どうやら、この目の前の者が、ただモノではない様子」
「分かっているわ。――と、とにかく! この場に居る時点で身内か敵かそれだけは分かるもの。――なら殺しておしまい!」
ユリエールの命令と同時に、後ろを追従していた10人近くの黒装束を着た男女がダガーやナイフを取り出し赤髪の女性目掛けて疾走する。
一瞬で間合いをつめ、毒が塗られているであろうナイフやダガーを突き出すが、それら全ての攻撃を女性は避けると同時に小太刀を縦横無尽に振るっていく。
――一瞬の交差。
時間として10秒も満たない僅かな時間。
赤髪の女性に向かっていった暗殺者の全員は、首を刈られ一拍置いたあと、頭を失った体は埃が積もった地下墓地の石畳の上に倒れていく。
「――な! ま、まさか……」
その光景を見ていた男は――、ユリエールの相手をしていた暗殺者は絶句した声を上げていたが、その声はすぐに途切れる。
男が知覚する前に、その男の体は赤髪の女性により両断されていたから。
「――な、なんなのよ! あなたは! 一体!」
赤髪の女性は、無言のまま、ユリエールの腹部を殴り彼女の意識を刈った。
そして――、数人の人間の気配がユリエール達の来た方角から近づいてくるのを赤髪の女性は感じ取った。
「ずいぶんと遅い到着ですね」
皮肉に近い言葉を赤髪の女性は口にする。
「それでも、かなり急いできたのですよ。それよりも、もう戻ってきていたのですね」
肩を竦めながら応じる男性。
「先ほど、戻ってきたところ、王家の方で動きがあったと知り合いの情報通から話しを聞きまして」
「なるほど。それで、ここを張っていたと?」
「はい。罪人が逃げ延びる方法は決まっていますから」
「そうですか。ですが、良かったのですか?」
「私は、クララ様に忠義を果たしたまで。それよりも、この女の口を割らせるのが先ではありませんか?」
女性は、意識を失って倒れているユリエールへと視線を向ける。
「そうですね。それよりも我が家に戻っては来ないのですか?」
「パトリック様。私が、戻れないというのは分かっているでしょう?」
「妹は、貴女を必要としていると思いますが?」
「…………それは出来ません。少なくとも公爵家にお仕えすることは――」
「そうですか。分かりました。それではユリエールの身柄は、こちらで預かります」
パトリックの言葉に、赤髪の女性は頷く。
そして踵を返したところで――、彼女の背中に向けて小さく、誰にも聞こえない声で「エイナ、ご苦労様でした」と、パトリックは深く礼を伝えるのであった。
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