平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

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第55話 壊れた人形(2)

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「――そう。クララが死にたいと言っていたのね」
「はい。奥様」

 クララが睡眠をとったあと、ディアナの寝室へ来るとエイナは一日の報告をしていた。
 もちろん、その中には、一日の間、少量の果実だけを口にした後は、魂が抜けたかのように室内で過ごしたクララの様子を含まれている。

「エイナから見て、娘の容態はどう思うの?」
「冒険者をしていた時から考えますと、かなり危険な兆候かと思います。まして本人は、無意識の内に死にたいと考えている事から、生きている理由が見当たらない――、もしくは、その事に気が付いていて、気が付かないフリをしているかと……」
「つまり精神的に不安定な状況だと言う事?」
「それよりも、かなり酷い状況かと。今のクララ様の精神年齢が何歳か分かりませんが、クララ様を支えていた存在もしくは、それに準ずるものがあると思うのですが……」
「つまり、いまは、それが無い状態なのね?」
「はい」

 エイナは、そう断言する。

「そう」
「早めに手を打たなければ、また自傷行為に及ぶ可能性があるかと――」
「それは絶対に阻止しなさい」
「分かっています。ですが、支えを失った人間というのは、自らを罰しようとしてしまうもの。早めに何らかの対応をとらなければいけないと思います」
「そうね……」

 エイナの言葉にディアナは思考するが、妙案が浮かぶこともない。
 何せ、ディアナは5歳以降の――、婚約破棄されてから実家に戻ってくるまでのクララの事を知らないのだから。
 そしてディアナは、それと同時に「こんな事なら……、娘を王家で教育するという提案を断るべきだったわ」という言葉を呑み込む。

それは王家に対する反逆に近い考えだったからだ。

「奥様!」

 どうすれば? と、言う思考で考えが纏まらない中で、マルク公爵家にメイドとして仕える女性が扉をノックしたかと思うと、ディアナの許可を待たずに扉を開けて室内に入ってくる。

「どうしたの? そんなに急いで」

 息が上がっているメイドに対してディアナは、何があったの? と、問いただす。

「お、王太子殿下が――、御当主様と一緒に起こしになられております」
「ラインハルト王太子殿下が!?」
「それは本当なの?」

 エイナとディアナの声が重なる。
 それと同時に、エイナは驚きのあまりに声を発してしまった事に対して、すぐに口を閉じる。

「本当にオイゲンと一緒に来ているの?」
「はい。奥様」

 その話を聞いた途端、ディアナは部屋から飛び出す。
 エイナも、ディアナの後を追う。
 そして――、屋敷の入り口でディアナは足を止める。

「あなた……」
「今、戻った」

 ディアナは、夫であるオイゲンに返事せずに、その横に立っていた男――、ラインハルト王太子殿下へと近づく。
 そして――、乾いた音が玄関口で鳴り響いた。




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