平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
53 / 81

第53話 壊れた記憶(13)第三者視点

しおりを挟む
 ――王城の執務室

「突然来たかと思えば、ラインハルトを牢獄から出せとは……。それが、どういう意味か分からぬお前でもあるまいに……」
「分かっております。陛下」
「――では、許可できないという理由も分かっておるだろう?」
「その点は重々承知しておりますが……」

 王城内執務室内で、イグニス王国の国王陛下であるクラウスと、マルク公爵家の当主であるオイゲンが話合いを始めてから数分、執務室内は、緊迫感溢れる空気が漂っていた。

「たしかに、ラインハルトの件に関しては、オイゲン、お前に一任はしておるが、牢屋から出すと言う事は衆人の目に晒される可能性があると言う事だ。それに教会側が企んでいる目的や、首謀者が分からない以上、下手な行動をとるのは王家の威信に関しても難しい時期というのは分かっているであろう?」
「はい。ですが――、お言葉ですが陛下。娘が魔力を――、魔法を取り戻さない限りはレゴリス帝国との関係性は、破綻する可能性が高いということを念頭に置かれませんと」

 そのオイゲンの言葉に、クラウスは難しい表情をする。
 さらに、オイゲンの話は続く。

「とくにレゴリス帝国のシュワルツ皇帝には至っては、マリーゴールド姫君を溺愛されております。もし治癒の魔法が使えず、心身ともに負担がかかる長旅が無駄になったと知ったらお怒りになるのは必然かと」
「つまり、王家の威信をとるか国際条約を取るかと言う事を言いたいのか?」
「はい。帝国との国際条約を守る事は、安全通商条約の観点から見ても絶対です。国内の問題は国内の問題であり、国家間の取り決めには関係はありません。優先されるべきは酷寒の約束事かと」
「……」

 深く沈黙するクラウス。
 彼は眉間に皺を寄せたあと、溜息をつく。

「分かった。ラインハルトの牢屋からの外出を許可しよう」
「ありがとうございます」
「だが、本当にうまくいくのか?」
「それは分かりません」

 オイゲンにも、分からなかった。
 ラインハルトを、いまの娘に合わせて症状が改善するかどうかの見通しが立つかどうかは。
 それでも、方法は一つしかないと考え王城に足を運んだのであった。

「とにかくだ。帝国の姫君が到着するまでに何とかしろ」
「分かりました。全力を尽くします」
「うむ。それと教会に関してだが、どうやらエイゼル王国との国境沿いにスペンサー枢機卿が出向いたと証言が取れたようだ」
「――となりますと……」
「ああ、消息不明のユリエールとスペンサー枢機卿が繋がっている可能性が非常に高い」

 クラウスの断定的な情報に、オイゲンは頷いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。

藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。 サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。 サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。 魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。 父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。 力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...