33 / 81
第33話 支持基盤(6)
しおりを挟むギルフォードは、マンドラゴラ夫婦の自宅へと入ると、双葉へと近づいていく。
双葉は、ピンと天へと伸びて元気そうだが、成長しているようには見えない。
種から発芽するまでも長い時間がかかった。
オフィーリア様曰く、この双葉は、両親以上に上位種のマンドラゴラらしく、魔王城から溢れる魔素を浴びてはいるが、それだけでは魔素が足りていないらしい。
魔素が一定以上溜まるまでは、成長できないとのことなのだ。
ギルフォードは、少しでも双葉の成長の足しになればと、森の中で魔石を探しては、双葉の近くに埋めている。
魔石は魔獣の身体の中に核として在る物だ。簡単に言えば、大気中の魔素が凝縮されて固まったものだ。獣と魔獣の違いは、体内に、この魔石が有るか無いかだといえる。
人間は魔石を魔道具の動力にするため必要としてはいるが、中々手に入るものではない。
魔獣を倒して、その体の中から取り出さなければならないからだ。しかし魔獣を倒せる人間は、そうそうにはいない。
ギルフォードは、そんな魔石を魔の森の中で、拾ってくる。
人の手にかからなくとも、死ぬ魔獣は多くいるから。魔獣は死ぬと身体から魔石がこぼれ出て、一定の時間が経つと地に帰る。
ギルフォードは、地に帰る前の魔石を探して、せっせと双葉の元へと届けているのだ。
「きゅっ」
「うきゅっ」
ギルフォードが魔石を埋め終わるころ、マンドラゴラ夫婦がやってきた。手に手にぞうさんじょうろを持っているから、水を汲みに行っていたのだろう。
マンドラゴラ夫婦は、それはそれは双葉を大切にしている。
芽が出る迄は、ヤキモキしていたが、芽が出たら出たで、なかなか大きくならない双葉に、またもヤキモキしている。
それを側で見ていたギルフォードは、自分にも何か出来ないかと、魔石を集めるようになったのだ。
「うきゅきゅー」
ドラ子が双葉に向かって、水をかける。その横で、ゴラ男が謎の伸縮踊りを踊っている。
「早く大きくなれよぉ」
ギルフォードも双葉に向かって声をかける。
柵の外では、シアと亀助が、まだ揉めているようだが、一切無視する。
「きゆゅ」
「え?」
ギルフォードの目の前で、双葉が揺れると、小さな声が聞こえた。
「もしかして、双葉の声?」
ギルフォードは微かに聞こえた声の方に向かい、耳を近づける。マンドラゴラ夫婦も耳を澄ましているのか、双葉に注目している。
ポコリ。
小さな土くれが双葉の横からこぼれ出ると、双葉が揺れながら、伸びていく。
小さな顔が、現れてくる。
「うっわぁ、可愛い」
小さな小さなマンドラゴラが上半身を土から出して、ギルフォードを見ている。
未だ頭の葉っぱは双葉だけだが、双葉はピコピコと動いている。
「「うきゅきゅきゅきゅ~」」
マンドラゴラ夫婦も大喜びだが、その場からは動かない。
双葉は力を入れて身動きしているのだが、中々土の中から出てこられないようで、思わずギルフォードは手を挿し伸ばす。
「あらあら駄目よぉ。生まれたてのマンドラゴラは、自分の力で土から出なければならないのよ」
いつの間にかにギルフォードの背後には女神オフィーリアがいて、ギルフォードの手を押さえ付ける。半透明なオフィーリアの腕は、ギルフォードの手を通り抜けてしまったが。
お手軽顕現の女神に、ギルフォードは驚いて、ピクリと身体を震わせてしまう。
「うわぁ、そうなんだ。知らなかったとはいえゴメン。オフィーリア様に止めてもらって良かった」
ギルフォードの手は、双葉にあと少しという所まで来ていたのだ。慌ててギルフォードは、自分の伸ばした手を引っ込める。
やや長い時間をかけ、やっと双葉は土から自分の力で這い出てきた。
その時、可愛らしい悲鳴を上げたのだが、魔の森に認められているギルフォードに、悲鳴が作用することは無かった。
そして、おぼつかない足取りで、マンドラゴラ夫婦ではなく、ギルフォードへと抱き着いてきたのだ。
「ウフフフ。可愛らしい赤ちゃんねぇ。生まれたばかりなのに、双葉ちゃんはギルフォードのことが好きなのね」
ホンワリと笑うオフィーリアだが、マンドラゴラ夫婦の冷たい視線にさらされているギルフォードは、それどころではない。
「うきゅう、うきゅう」
小さなマンドラゴラは、ギルフォードの腰にしがみつき、嬉しそうに双葉を揺らしている。
「騒がしいけど、どうしたの?」
リーリアが魔王城から出てきた。
夕飯を作っていたのだろう、片手にお玉を持っている。
「もしかして、双葉ちゃんが土から出てきたの?」
ギルフォードに抱き着いている双葉を見て、リーリアが嬉しそうに、駆け寄って来る。
「キシャーっ」
双葉が威嚇音を発し、ピリピリと辺りに魔力が放出される。
「双葉ちゃん……」
リーリアは畑の柵から中に入ることが出来ず、悲しそうに双葉を見ている。
(どうしてこんなにリーリアを嫌うのだろう?)
小さな双葉に触れるのも躊躇われ、ギルフォードは、ただただ困惑してしまうのだった。
88
お気に入りに追加
964
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる