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第22話 国王たちへの聖女通達~第三者視点
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――クララが聖女としての資格を得るために、教皇と対談を行い公爵邸に戻った頃、王都フレイルには夜の帳が落ちかけていた。
静かに、それでいて確実に王都は闇夜に呑まれていく。
そんな王都を一望する事の出来る一室――『執務室』で数人の男が会話の為に、顔を見合わせていた。
「つまり……だ、オイゲン。貴公の報告からすると、余の息子のラインハルトは隣国エイゼル王国の魔女に操られていたということか?」
立派な白い髭を蓄えている壮年の男が言葉を漏らす。
男は、クラウス・ド・イグニス。
イグニス王国の国王陛下であり、ゆったりとした服を着ていても分かるほどに身体は鍛えられていた。
「はい。そこは間違いないかと思われます」
羊皮紙が纏められた書類を、執務室のテーブルの上に置きながら、そう言葉を紡ぐ男。
それは、オイゲン・フォン・マルク。
クララの実の父親であり、軍務大臣でもあった。
「そうか……。それは確固たる事実なのか?」
「サーバル・フォン・レムロスに、精神魔法をかけて聞き出したので間違いはないです」
クラウス国王陛下の問いかけに答えたのは、魔法師団団長のパトリック・フォン・マルクであった。
「魔法師団団長として――、と言う事か?」
「はい。間違いありません」
「ふむ……。だが、イグニス王国で禁呪とされている精神魔法を使用してまで、余の息子を救いたいのか?」
怪訝な表情で言葉を紡ぐ国王陛下。
その国王陛下の言葉に、眉間に皺を寄せた二人。
そして、口を開いたのはオイゲン公爵であった。
「まるで陛下は、自身の息子を救いたいとは思っていないように受け取れますが……」
「アレは、魔法の才能がない。たしかに魔女の力ならば、利用することは可能であろう。だが――、その対策を怠ったのは愚息の過ちだ。そして、貴族の社交の場において、行ってならぬ行動をした。それは、正気に戻った息子も理解しているであろう」
「だからこそ、救う必要はないと――。民にまで話しが及んでいる事に関して王家の威信を示す為の人柱として利用すると……そう言うことですか?」
「分かっているのならよい」
「国王陛下」
「何だ? パトリック」
「私の妹は、簡単にラインハルト様を諦めるとは限らないと思いますが……」
そのパトリックの言葉に溜息をつく国王陛下。
「女が何処に嫁ぐかは、当主が決めることだ。それは、貴族の家に生まれた人間ならば責務と言える。そこは理解しているだろう?」
「――ッ」
――貴族制は、家が絶対であり、当主に逆らう事は許されていない。
女は基本的に、自由はない。
何故なら貴族同士の家を繋げる為の楔であり、政治的な発言すら許されていない。
「分かっております」
「ならよい。オイゲン、貴公の娘に関しては第二王位継承権を持つゲールに嫁がせることにする」
「……分かりました」
長考の末、了承するオイゲン。
それに対して、パトリックは妹のクララの気持ちを思うと、拳を強く握りしめることしかできなかった。
その時、執務室のドアが勢いよく開く。
部屋に入ってきたのは文官の一人。
文官は慌てた声で叫ぶ。
「――へ、陛下! 大変です! 精霊神教の教皇より、クララ・フォン・マルクを、聖女として正式に任命すると通達がきました!」
「「なんだと!?」」
文官の言葉に、大きく目を見開く国王陛下とオイゲン。
驚いた二人とは正反対にパトリックは小さく笑みを浮かべた。
実の妹が、教会を巻き込んだ行動をするとは思ってもみなかった事に……、そう嬉しそうに。
静かに、それでいて確実に王都は闇夜に呑まれていく。
そんな王都を一望する事の出来る一室――『執務室』で数人の男が会話の為に、顔を見合わせていた。
「つまり……だ、オイゲン。貴公の報告からすると、余の息子のラインハルトは隣国エイゼル王国の魔女に操られていたということか?」
立派な白い髭を蓄えている壮年の男が言葉を漏らす。
男は、クラウス・ド・イグニス。
イグニス王国の国王陛下であり、ゆったりとした服を着ていても分かるほどに身体は鍛えられていた。
「はい。そこは間違いないかと思われます」
羊皮紙が纏められた書類を、執務室のテーブルの上に置きながら、そう言葉を紡ぐ男。
それは、オイゲン・フォン・マルク。
クララの実の父親であり、軍務大臣でもあった。
「そうか……。それは確固たる事実なのか?」
「サーバル・フォン・レムロスに、精神魔法をかけて聞き出したので間違いはないです」
クラウス国王陛下の問いかけに答えたのは、魔法師団団長のパトリック・フォン・マルクであった。
「魔法師団団長として――、と言う事か?」
「はい。間違いありません」
「ふむ……。だが、イグニス王国で禁呪とされている精神魔法を使用してまで、余の息子を救いたいのか?」
怪訝な表情で言葉を紡ぐ国王陛下。
その国王陛下の言葉に、眉間に皺を寄せた二人。
そして、口を開いたのはオイゲン公爵であった。
「まるで陛下は、自身の息子を救いたいとは思っていないように受け取れますが……」
「アレは、魔法の才能がない。たしかに魔女の力ならば、利用することは可能であろう。だが――、その対策を怠ったのは愚息の過ちだ。そして、貴族の社交の場において、行ってならぬ行動をした。それは、正気に戻った息子も理解しているであろう」
「だからこそ、救う必要はないと――。民にまで話しが及んでいる事に関して王家の威信を示す為の人柱として利用すると……そう言うことですか?」
「分かっているのならよい」
「国王陛下」
「何だ? パトリック」
「私の妹は、簡単にラインハルト様を諦めるとは限らないと思いますが……」
そのパトリックの言葉に溜息をつく国王陛下。
「女が何処に嫁ぐかは、当主が決めることだ。それは、貴族の家に生まれた人間ならば責務と言える。そこは理解しているだろう?」
「――ッ」
――貴族制は、家が絶対であり、当主に逆らう事は許されていない。
女は基本的に、自由はない。
何故なら貴族同士の家を繋げる為の楔であり、政治的な発言すら許されていない。
「分かっております」
「ならよい。オイゲン、貴公の娘に関しては第二王位継承権を持つゲールに嫁がせることにする」
「……分かりました」
長考の末、了承するオイゲン。
それに対して、パトリックは妹のクララの気持ちを思うと、拳を強く握りしめることしかできなかった。
その時、執務室のドアが勢いよく開く。
部屋に入ってきたのは文官の一人。
文官は慌てた声で叫ぶ。
「――へ、陛下! 大変です! 精霊神教の教皇より、クララ・フォン・マルクを、聖女として正式に任命すると通達がきました!」
「「なんだと!?」」
文官の言葉に、大きく目を見開く国王陛下とオイゲン。
驚いた二人とは正反対にパトリックは小さく笑みを浮かべた。
実の妹が、教会を巻き込んだ行動をするとは思ってもみなかった事に……、そう嬉しそうに。
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