平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
12 / 81

第12話 一縷の望み(2)

しおりを挟む
 廊下を静かに歩く。
 誰にも知られないように裸足で音を立てずに――。

「あっ……」

 曲がり角まで来たところで、私は思わず足を止め、さっき通ってきた通路を戻り、角を曲がったところで顔だけ出す。
 すると、赤髪のメイドのエイナが此方をチラリと見てきたあと何事もなく通り過ぎていく。

「よかったわ。気がつかなかったみたいね」

 小さく呟きながら、私は通路を慎重に歩き2階へと上がる階段までたどり着く。
 そして階段裏に、存在する扉をそっと静かに開けて中へと入る。
 階段の裏には、人ひとりが歩いて通れる分だけの広さがある通路が存在していて、装飾などもされていないし、絨毯なども敷かれていない。
 理由は、使用人が主に使う通路であって、館の主人が使う通路とは別物だから。

 私は通路を歩き、数分ほどで一つの扉を見つける。
 扉を開けると階段があり、上の方へと続いているのが見て取れた。
 
「ここで、合っているのよね?」

 始めてくる場所という事もあり、私は階段を鳴らさないように歩を進めていく。
 そして、2階を通り過ぎて屋根裏部屋へ到着したところで広間に到着。
二つの扉が視界に入る。

「えっと王宮で読んだ恋愛小説だと、一つが殿方用の部屋に通じていて……、もう一つが女性用なのよね?」

 どちらが、どちらか分からないので、まずは手前の扉を開けて中を覗く。
 扉の先は屋根裏部屋の通路と言うこともあり、天窓から光が入ってきているからなのか思っていたよりも明るくて、歩きやすい。
 通路へと足を踏み出し、右手に扉を発見。
 ドアノブを回して中へと入ると、殺風景な風景ではあったけど、整理が行き届いている部屋。

「えっと……」
「お嬢様、何をしているのですか?」
「――え? エ、エイナ!? ど、どうして、ここに!?」
「クララ様が、何やら変なことをしていたようですので、遠くから見ていました」
「そうなのね……」
「それよりも、どうして、このような場所に?」
「……ちょっと、使用人は、どういう生活をしているのかなって……気になって……」

 私の言い訳に、深くエイナは溜息をつく。

「これを――」

 エイナは何を思ったのかメイド服を差し出してくる。
 それは新品のモノで。

「え?」

 私としてはメイド服を手に入れる事が出来るのは嬉しいけど、何だか違うと思う。
 そもそも、私がメイド服を欲しいのは、教会に行くためであっても、町に行っても変に思われない為のカモフラージュに過ぎない。
 つまり、ここでメイド服を渡されても意味がない……。
 
「お嬢様、メイドの仕事に興味があるという事でしたので、今から町に買い物に行きますので、ご一緒にいかがですか? 気分転換にもなると思いますので」

 そのエイナの提案に私は頷き承諾することにした。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。

藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。 サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。 サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。 魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。 父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。 力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

処理中です...