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第8話 王太子殿下との記憶
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ダイニングルームには、すでにお母様が席について居られた。
「おはようございます。お母様」
「ええ、おはよう」
挨拶を交わしたあとに、エイナが引いた席へと私は腰を下ろす。
食事は、ベーコンエッグにパンやスープにサラダと言ったもの。
「クララ」
「はい」
「大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
お母様は、悲しそうな青い瞳で、まっすぐに私を見てくる。
その視線に耐え切れなくなった私は、そっと視線を逸らす。
「あまり無理はしないようにね」
「はい……」
「別に攻めているつもりはないのよ? 話しは聞いているから」
優しい声色で、私の身を案じてくる言葉に私は小さく首肯する。
その思いやりが、余計に辛くも感じるのだけれど。
「あの、お母様」
「どうかしたの?」
「お父様やお兄様は?」
「今日の朝に王宮から仕えの者が来たの」
「王宮からですか?」
「ええ。詳しい事は聞いてはいないけれど、王宮からの招集が掛かったみたいなの」
「招集ですか……」
貴族の招集が掛かるのは、基本的に戦時下か、それに近い問題事の時にしか起きない。
それなのに招集が掛かるという事は、理由は一つしか思い浮かばない。
そう考えている間にも、他のメイドが私の前のグラスに葡萄酒を注いでいく。
「まずは食事に致しましょう」
「はい」
食事をはじめるけど、殆ど食欲が湧かない。
そんな私の姿を見ていたお母様は小さく溜息をついていた。
食事を摂り終えたあとは、お母様と一緒に庭の散策をすることになった。
「お母様、去年よりも薔薇の数が増えましたか?」
「ええ、貴女は薔薇を見るのが好きですものね」
「それは、ラインハルト様が初めて――」
そこまで言いかけたところで、私は口ごもってしまう。
私が王宮に連れて行かれて、一人でずっと泣いていた時に、ラインハルト様が心を砕いて用意してくれたモノが空中庭園に咲いていた赤い薔薇だった。
ラインハルト様も、そのころは小さかった事もあり素手で採ってきたので、ラインハルト様の手は棘などで、傷だらけになっていた。
私は、初めて見る薔薇に興味津々で受け取ったけど、それは他国から輸入したばかりの薔薇で、その時は珍しい花で――。
もちろん、そんな珍しい花を採ってきたラインハルト様は国王陛下様や王妃様からきつく叱られた。
だけど、ラインハルト様は、私のことを一切言わなかった。
それは王宮に来たばかりの私が忌避の目で見られることを嫌ったからだと思う。
ラインハルト様は「僕の軽率な行動ですまない。君には迷惑をかけないようにするから」と、言ってくれた。
彼の言葉を無碍にすることも出来ずに私は、黙っていることしかできなかった。
だから、私は薔薇を好きになった。
たった一人、王宮で泣いていた私に、無償で、その身を犠牲にしても手を差し伸べてくれたのはラインハルト様だけだったから。
「……そう。貴女が、どうして薔薇が好きなのかは知らないけど、色々とあるのね」
お母様は私の様子に、とくに追及することもなく言葉を紡がれる。
庭園を見て周り、庭でお茶を嗜む。
「ディアナ様」
心地よい天気の中で、紅茶を飲んでいたところで一番年配のメイドの方が小走りで近寄ってくる。
「どうかしたのかしら?」
「オイゲン様より、早馬です」
メイドの方が差し出した手紙を受け取ったお母様は封蝋を切ると中の手紙へと視線を落とすと、小さく溜息をつく。
「お母様、手紙には何て書いてあったのですか?」
「手紙には、王太子殿下と貴族学院長の処遇が決まったと書かれているわ」
「――え? もう、決まったのですか?」
「国中の子弟の前で行ったことを踏まえると遅いくらいです」
「それで内容は……」
「貴族学院のサーバル・フォン・レムロス学院長は、レムロス子爵家の御取り潰しと一族全員が死罪」
「――え? そ、それではラインハルト様は?」
「王太子殿下は、国王陛下の決定に意を唱えた事と、貴女を罵り怪我をさせ、貴族の順位を穢したことを含めて断頭台にて死罪と言うことになるみたいね」
「そんな!? それでは……」
それは、あまりにも……。
「あ、あの! お母様! 平民は――、ユリエールという人物は?」
「事態が危ぶまれると共に、国外逃亡。現在は行方不明らしいわ」
「おはようございます。お母様」
「ええ、おはよう」
挨拶を交わしたあとに、エイナが引いた席へと私は腰を下ろす。
食事は、ベーコンエッグにパンやスープにサラダと言ったもの。
「クララ」
「はい」
「大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
お母様は、悲しそうな青い瞳で、まっすぐに私を見てくる。
その視線に耐え切れなくなった私は、そっと視線を逸らす。
「あまり無理はしないようにね」
「はい……」
「別に攻めているつもりはないのよ? 話しは聞いているから」
優しい声色で、私の身を案じてくる言葉に私は小さく首肯する。
その思いやりが、余計に辛くも感じるのだけれど。
「あの、お母様」
「どうかしたの?」
「お父様やお兄様は?」
「今日の朝に王宮から仕えの者が来たの」
「王宮からですか?」
「ええ。詳しい事は聞いてはいないけれど、王宮からの招集が掛かったみたいなの」
「招集ですか……」
貴族の招集が掛かるのは、基本的に戦時下か、それに近い問題事の時にしか起きない。
それなのに招集が掛かるという事は、理由は一つしか思い浮かばない。
そう考えている間にも、他のメイドが私の前のグラスに葡萄酒を注いでいく。
「まずは食事に致しましょう」
「はい」
食事をはじめるけど、殆ど食欲が湧かない。
そんな私の姿を見ていたお母様は小さく溜息をついていた。
食事を摂り終えたあとは、お母様と一緒に庭の散策をすることになった。
「お母様、去年よりも薔薇の数が増えましたか?」
「ええ、貴女は薔薇を見るのが好きですものね」
「それは、ラインハルト様が初めて――」
そこまで言いかけたところで、私は口ごもってしまう。
私が王宮に連れて行かれて、一人でずっと泣いていた時に、ラインハルト様が心を砕いて用意してくれたモノが空中庭園に咲いていた赤い薔薇だった。
ラインハルト様も、そのころは小さかった事もあり素手で採ってきたので、ラインハルト様の手は棘などで、傷だらけになっていた。
私は、初めて見る薔薇に興味津々で受け取ったけど、それは他国から輸入したばかりの薔薇で、その時は珍しい花で――。
もちろん、そんな珍しい花を採ってきたラインハルト様は国王陛下様や王妃様からきつく叱られた。
だけど、ラインハルト様は、私のことを一切言わなかった。
それは王宮に来たばかりの私が忌避の目で見られることを嫌ったからだと思う。
ラインハルト様は「僕の軽率な行動ですまない。君には迷惑をかけないようにするから」と、言ってくれた。
彼の言葉を無碍にすることも出来ずに私は、黙っていることしかできなかった。
だから、私は薔薇を好きになった。
たった一人、王宮で泣いていた私に、無償で、その身を犠牲にしても手を差し伸べてくれたのはラインハルト様だけだったから。
「……そう。貴女が、どうして薔薇が好きなのかは知らないけど、色々とあるのね」
お母様は私の様子に、とくに追及することもなく言葉を紡がれる。
庭園を見て周り、庭でお茶を嗜む。
「ディアナ様」
心地よい天気の中で、紅茶を飲んでいたところで一番年配のメイドの方が小走りで近寄ってくる。
「どうかしたのかしら?」
「オイゲン様より、早馬です」
メイドの方が差し出した手紙を受け取ったお母様は封蝋を切ると中の手紙へと視線を落とすと、小さく溜息をつく。
「お母様、手紙には何て書いてあったのですか?」
「手紙には、王太子殿下と貴族学院長の処遇が決まったと書かれているわ」
「――え? もう、決まったのですか?」
「国中の子弟の前で行ったことを踏まえると遅いくらいです」
「それで内容は……」
「貴族学院のサーバル・フォン・レムロス学院長は、レムロス子爵家の御取り潰しと一族全員が死罪」
「――え? そ、それではラインハルト様は?」
「王太子殿下は、国王陛下の決定に意を唱えた事と、貴女を罵り怪我をさせ、貴族の順位を穢したことを含めて断頭台にて死罪と言うことになるみたいね」
「そんな!? それでは……」
それは、あまりにも……。
「あ、あの! お母様! 平民は――、ユリエールという人物は?」
「事態が危ぶまれると共に、国外逃亡。現在は行方不明らしいわ」
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