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第5話 抱えていた気持ち。
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金属が鳴る音と共に私は瞼を開ける。
「起きたのか?」
身動ぎした事がお兄様に伝わったのか、膝枕をしてくれているお兄様が頭の上から話しかけてくる。
「はい。もう、夜が明けてしまったのですね」
「そうだな。今、マルク公爵家の屋敷に着いたところだ」
「そうなのですか」
昨日のことがまるで夢のよう。
夢だったら、どんなに良かったのでしょう。
だけど……、お兄様と実家への早めの帰省をした事が、夢ではないと訴えかけてきています。
私は、手櫛で髪を整える。
少しでも、お父様やお母様に心配をかけないように身支度をしておきたかったから。
だけど、その気遣いは殆ど意味を為さないことは理解している。
だって、婚約破棄をされてしまったのだから。
それどころかラインハルト様を諫める事も出来なかった。
「何て顔をしている」
「お兄様……」
「すでに、話の詳細については早馬で連絡が父上の元には届いているはずだ。取り繕う必要はない」
「はい……」
私は小さく頷く。
どうしようもない私自身の不甲斐なさに唇を噛みしめながら。
馬車は、公爵邸の敷地へと通じる装飾が施された門を通り抜けて、まっすぐに進んでいく。
車道の両端には赤いバラと白いバラが交互に植えられていて、庭職人の方の仕事を垣間見ることができた。
その光景を見ていると、少しだけ心が癒される。
「クララは、小さい頃から薔薇を見るのが好きだったな」
「はい」
この車道の両端に咲いている多くの薔薇は、私の大好きな両親が、私が年に一回だけ帰ってくる時に、楽しめるようにと王都フレイルでも有名な花職人の方に依頼して作ってもらった場所。
もちろん、王宮の空中庭園にも薔薇が植えてある。
それは薔薇を好きなのを知った王妃のコーネリア様が、私が両親の元から離れて暮らしていた事に寂しさを感じないようにと植えてくださったもの。
――そう考えてしまうと……、ラインハルト様を説得できなかった自分の至らなさが悔しく思えてきてしまう。
「クララ、到着したぞ」
いつの間にか、馬車は停止していて外からドアが開く。
お兄様が先に馬車から出ると「ほら、クララ」と、手を差し出してくる。
私はお兄様にエスコートされながら馬車から降りると、地面に足をつけた。
「クララ、お帰りなさい」
顔を上げると、1年ぶりに拝見するお母様とお父様の御姿あり、お母様は小走りで駆け寄ってくると、私を抱きしめてくる。
「話は、オイゲンから聞いたわ。大変だったわね」
「お母様……、私……」
「今は良いの。それよりも、湯浴みは? 何か食べたい物はあるかしら?」
私は頭を左右に振りながら視線をお父様の方へと向ける。
お父様は、大きな手で私の頭を撫でてくる。
「あとは、私達が対応をするからクララはゆっくりとしていきなさい」
「――でも、お父様」
「クララは十分に、殿下への忠言をしたと聞いている。それでも素行を正せなかったのだ」「……ですが、私がもっと上手く――、いえ……ラインハルト様のお気持ちにもっと早くから気がついていれば、平民の方を選ぶようなことは――」
そこまで呟いてしまうと、気持ちが溢れてきてしまう。
私は妃教育を受けることで精一杯で、ラインハルト様がどのような重圧に晒されていたのかなんて考えた事も無かった。
「ラインハルト様は、自身を肯定してくれたと……嬉しく――、平民の方のことを楽しく語っておられました……」
「私は、ラインハルト様が王族として、どれだけ苦しんでいるのかも理解できずに自分のことばかりで、ラインハルト様を王族とでしか見ておりませんでした……。私がもっと、しっかりとしていれば……ラインハルト様をお守り出来たかも知れませんのに……」
「クララ……」
お父様が悲しそうな瞳で私を見てきます。
「いいのよ? クララは、一生懸命がんばったのでしょう? 少しは休みなさい」
「お母様……私、私――」
「分かっているから」
その優しい言葉に、私は感情が――、胸の内が張り裂けそうな感情が口から嗚咽となって零れ落ちる。
「どうして……。どうして……、私、がんばったのに……、どうして……」
言葉に鳴らない声が――、音が――、吐露されていく。
ずっと抱えていた思いが……。
「起きたのか?」
身動ぎした事がお兄様に伝わったのか、膝枕をしてくれているお兄様が頭の上から話しかけてくる。
「はい。もう、夜が明けてしまったのですね」
「そうだな。今、マルク公爵家の屋敷に着いたところだ」
「そうなのですか」
昨日のことがまるで夢のよう。
夢だったら、どんなに良かったのでしょう。
だけど……、お兄様と実家への早めの帰省をした事が、夢ではないと訴えかけてきています。
私は、手櫛で髪を整える。
少しでも、お父様やお母様に心配をかけないように身支度をしておきたかったから。
だけど、その気遣いは殆ど意味を為さないことは理解している。
だって、婚約破棄をされてしまったのだから。
それどころかラインハルト様を諫める事も出来なかった。
「何て顔をしている」
「お兄様……」
「すでに、話の詳細については早馬で連絡が父上の元には届いているはずだ。取り繕う必要はない」
「はい……」
私は小さく頷く。
どうしようもない私自身の不甲斐なさに唇を噛みしめながら。
馬車は、公爵邸の敷地へと通じる装飾が施された門を通り抜けて、まっすぐに進んでいく。
車道の両端には赤いバラと白いバラが交互に植えられていて、庭職人の方の仕事を垣間見ることができた。
その光景を見ていると、少しだけ心が癒される。
「クララは、小さい頃から薔薇を見るのが好きだったな」
「はい」
この車道の両端に咲いている多くの薔薇は、私の大好きな両親が、私が年に一回だけ帰ってくる時に、楽しめるようにと王都フレイルでも有名な花職人の方に依頼して作ってもらった場所。
もちろん、王宮の空中庭園にも薔薇が植えてある。
それは薔薇を好きなのを知った王妃のコーネリア様が、私が両親の元から離れて暮らしていた事に寂しさを感じないようにと植えてくださったもの。
――そう考えてしまうと……、ラインハルト様を説得できなかった自分の至らなさが悔しく思えてきてしまう。
「クララ、到着したぞ」
いつの間にか、馬車は停止していて外からドアが開く。
お兄様が先に馬車から出ると「ほら、クララ」と、手を差し出してくる。
私はお兄様にエスコートされながら馬車から降りると、地面に足をつけた。
「クララ、お帰りなさい」
顔を上げると、1年ぶりに拝見するお母様とお父様の御姿あり、お母様は小走りで駆け寄ってくると、私を抱きしめてくる。
「話は、オイゲンから聞いたわ。大変だったわね」
「お母様……、私……」
「今は良いの。それよりも、湯浴みは? 何か食べたい物はあるかしら?」
私は頭を左右に振りながら視線をお父様の方へと向ける。
お父様は、大きな手で私の頭を撫でてくる。
「あとは、私達が対応をするからクララはゆっくりとしていきなさい」
「――でも、お父様」
「クララは十分に、殿下への忠言をしたと聞いている。それでも素行を正せなかったのだ」「……ですが、私がもっと上手く――、いえ……ラインハルト様のお気持ちにもっと早くから気がついていれば、平民の方を選ぶようなことは――」
そこまで呟いてしまうと、気持ちが溢れてきてしまう。
私は妃教育を受けることで精一杯で、ラインハルト様がどのような重圧に晒されていたのかなんて考えた事も無かった。
「ラインハルト様は、自身を肯定してくれたと……嬉しく――、平民の方のことを楽しく語っておられました……」
「私は、ラインハルト様が王族として、どれだけ苦しんでいるのかも理解できずに自分のことばかりで、ラインハルト様を王族とでしか見ておりませんでした……。私がもっと、しっかりとしていれば……ラインハルト様をお守り出来たかも知れませんのに……」
「クララ……」
お父様が悲しそうな瞳で私を見てきます。
「いいのよ? クララは、一生懸命がんばったのでしょう? 少しは休みなさい」
「お母様……私、私――」
「分かっているから」
その優しい言葉に、私は感情が――、胸の内が張り裂けそうな感情が口から嗚咽となって零れ落ちる。
「どうして……。どうして……、私、がんばったのに……、どうして……」
言葉に鳴らない声が――、音が――、吐露されていく。
ずっと抱えていた思いが……。
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