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第2話 貴族学院からの退去を命じられました。
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「お兄様、今日は如何なさったのですか? 王宮魔法師団団長様が職務を放り出して来ていいのですか?」
「これは手厳しいな。血の繋がった妹のお前が将来嫁ぐ予定の殿下の護衛に来たというのに」
「そうなのですか」
壁の華となり、貴族の子弟のダンスへと視線を向けている私の横に立っているお兄様。
名前は、パトリック・フォン・マルク。
マルク公爵家の跡取りであり、私の実のお兄様。
貴族学院では、トップの成績で卒業し国内でも有数の魔法の使い手で、眉目秀麗で頭もキレるという非の打ち所がない人として、国内外でも有名人。
「ああ。だが、今日は殿下を見ないが何か知っているか?」
「いえ。私も詳しくは――。ただ、大事な用事があるからと言っておりました」
「ふむ……。まぁ、殿下には護衛の騎士が居るから問題はないと思うが。それより、そろそろ一年に一回の帰省だろう? 父上も母上も、お前に会いたがっていたぞ?」
「本当ですか!」
「ああ。たまにはのんびりと暮らすのもいいと思うぞ?」
「はい」
王妃教育を受けるようになってから、公爵領に帰れるのは一年に一回だけ。
しかも期間は3日だけ。
理由は、家族に固執することで、一部にだけ気持ちの偏りを生じさせてはいけないということ。
そして将来、国を背負う王妃として、全ての貴族に平等に接することが求められるという理由から。
お兄様と話をしていると、突然、ホール内の音が止む。
「――ん? 何かあったのか?」
不意に音楽が途絶えた事にお兄様は交響楽団を注視していた。
背の低い私では見ることは叶わなかったけど、唐突にダンスをしていた貴族の子弟の方々が次々と端に寄っていく。
そして、貴族の子弟の間から姿を見せたのは、婚約者であるラインハルト殿下と、一人の煌びやかなドレスを着た女性。
栗色の髪をカールさせていて、装飾品も過多であり、どうみても卒業生の貴族子弟の方々より目立っている。
二人の様子を見ている間にも、ラインハルト殿下は私の方へ向かってきて数歩前で立ち止まると口を開いた。
「クララ・フォン・マルク公爵令嬢。君との婚約だが破棄したい」
「――え?」
突然の言葉に、私は手に持っていたワイングラスを床の上に落してしまい、ワイングラスが砕けた音が静まり返ったホール内に響き分かった。
ラインハルト王太子殿下が、何を仰せられたのか、私には一瞬、理解できなかった。
まるで、夢心地の中にいるような感じで……。
「殿下! どういうことですか? お戯れは――」
「パトリックか。今は貴公が口を出してくる場面ではない」
「――いえ。私はクララの兄であります。このような一方的な公的な場での婚約破棄は、妹もそうですが殿下の今後にも傷がつきます」
「何度も言わせるな。お前は、魔法師団団長として、この俺の護衛に来ているのであろう? 身分を弁えよ」
「――ッ!?」
お兄様が、唇を強く噛みしめるのを見ながら、私はようやく現実を理解し始める。
「ラインハルト様。婚約を破棄したいという事でしたが、どういう事でしょうか?」
嘘だと言ってほしい。
だって、私は幼少期から物心をついた時に、妃教育ということで大好きな両親から引き離されて王都で一人、教育を受けてきたのだから。
10年以上も、たった一人。
将来、王妃として王家に嫁ぐ為に、周りから落第の印を押されないように――、マルク公爵家の家名に泥を塗らないように――、お父様やお母様に迷惑をかけないようにと一生懸命、どんなに寂しい夜でも私は頑張って……、頑張って……、だから……。
「ユリエール」
「はい。ラインハルト様」
そう言葉を返しながらユリエールと名前を呼ばれた女性は、私を一瞥してくると、「貴女が、クララ様で?」と話しかけてくる。
「ラインハルト様。彼女は――」
私は、一度も貴族の社交の場では面識の無いユリエールという女性から視線を外しながら、ラインハルト様に語り掛ける。
そんな私に、ラインハルト様は苛立った目で私を見てくる。
「ユリエールが話しかけているだろう? 未来の王妃に対して不遜だぞ? クララ」
「み、未来の王妃?」
ラインハルト様の言葉に私は立ち竦んでしまう。
だって、どう見てもドレスに着せられていると言った感じで、貴族の出とはユリエールと呼ばれた少女は見えなかったから。
「どこの貴族の……」
「ユリエールは平民だ。この俺が、国境の視察に行った帰りに町で出会った女性だ」
「……つまり、平民ということですか?」
「何か文句があるのか?」
その言い分に私は思わず、思考が停止してしまっていた。
ただ、隣にいたお兄様が「大丈夫か?」と、心配そうに語りかけてきてくれたので、私は、必死に言葉を選びながら口を開く。
「ラインハルト様、このような場での一方的な婚約破棄は、ラインハルト様の名誉も傷つける行為です。それに、国王陛下に許可は取られているのですか?」
「何故、父上に許可を取らなくてはいけない? 最近では、下級貴族の間では自由恋愛というのが流行っているであろう? ――なら、この俺が率先して国中に自由恋愛を広げるのも自由だろう?」
……なにを……何を言っているのかしら?
ラインハルト様は、普段は、このような物言いはしない。
もっと、気持ちを砕かれて、臣下に優しく接するのが彼なのに……。
「国王陛下がお決めになられた婚約を、ラインハルト様が破棄する行為は、重罪に当たる可能性があります。今でしたら、私の胸の内で留めておきますので、そのようなことは止してください」
私の10年以上の努力が無駄になってしまうから。
何のために、妃教育を受けてきたのか分からなくなってしまう。
それに、お父様やお母様も、きっとショックを受けてしまうに違いないから。
必死に考えてラインハルト様を説得しようと言葉を紡ぐ。
「お前は、すぐに、この俺を見下す。それが非常に不愉快だ! それに比べてユリエールは、この俺を肯定してくれる。お前は、この俺の伴侶――、王妃として相応しくない! 未来の国王に向かって苦言を呈するばかりか、この俺のユリエールをも見下すその発言、許す訳にはいかない。衛兵! クララ・フォン・マルク公爵令嬢を貴族学院の敷地外へ追放しろ!」
「ラインハルト様!」
「煩い!」
私は、ラインハルト様の兵士に捕まれる。
それと同時に、兵士は風に吹き飛ばされた。
「殿下。そのような乱心めいたお考え、承服できません」
「何度も言わせるな、パトリック。王家の者に楯突くと幾ら公爵家であっても分かっているな?」
「――ッ」
お兄様も、ラインハルト様の言動がおかしいと思ってはいるようだけれど、第一王位継承権を持つ王族には、強くでることができない。
最良の方法は、すぐに国王陛下の居られる王城へ報告に行くことくらい。
「お兄様」
「クララ?」
心配そうな表情で私を見てくるお兄様。
「私、マルク公爵領へ戻ります」
「馬鹿な!?」
「――ですが、今のままでは、どうにもなりません。コレ以上は、王家の威信を貶めるだけです。ですから、お兄様は陛下へご報告をお願いします」
「……いや。公爵領まで俺が連れていく」
お兄様は、私の手を引っ張り歩きだす。
それに合わせて、私はホールから出た。
「これは手厳しいな。血の繋がった妹のお前が将来嫁ぐ予定の殿下の護衛に来たというのに」
「そうなのですか」
壁の華となり、貴族の子弟のダンスへと視線を向けている私の横に立っているお兄様。
名前は、パトリック・フォン・マルク。
マルク公爵家の跡取りであり、私の実のお兄様。
貴族学院では、トップの成績で卒業し国内でも有数の魔法の使い手で、眉目秀麗で頭もキレるという非の打ち所がない人として、国内外でも有名人。
「ああ。だが、今日は殿下を見ないが何か知っているか?」
「いえ。私も詳しくは――。ただ、大事な用事があるからと言っておりました」
「ふむ……。まぁ、殿下には護衛の騎士が居るから問題はないと思うが。それより、そろそろ一年に一回の帰省だろう? 父上も母上も、お前に会いたがっていたぞ?」
「本当ですか!」
「ああ。たまにはのんびりと暮らすのもいいと思うぞ?」
「はい」
王妃教育を受けるようになってから、公爵領に帰れるのは一年に一回だけ。
しかも期間は3日だけ。
理由は、家族に固執することで、一部にだけ気持ちの偏りを生じさせてはいけないということ。
そして将来、国を背負う王妃として、全ての貴族に平等に接することが求められるという理由から。
お兄様と話をしていると、突然、ホール内の音が止む。
「――ん? 何かあったのか?」
不意に音楽が途絶えた事にお兄様は交響楽団を注視していた。
背の低い私では見ることは叶わなかったけど、唐突にダンスをしていた貴族の子弟の方々が次々と端に寄っていく。
そして、貴族の子弟の間から姿を見せたのは、婚約者であるラインハルト殿下と、一人の煌びやかなドレスを着た女性。
栗色の髪をカールさせていて、装飾品も過多であり、どうみても卒業生の貴族子弟の方々より目立っている。
二人の様子を見ている間にも、ラインハルト殿下は私の方へ向かってきて数歩前で立ち止まると口を開いた。
「クララ・フォン・マルク公爵令嬢。君との婚約だが破棄したい」
「――え?」
突然の言葉に、私は手に持っていたワイングラスを床の上に落してしまい、ワイングラスが砕けた音が静まり返ったホール内に響き分かった。
ラインハルト王太子殿下が、何を仰せられたのか、私には一瞬、理解できなかった。
まるで、夢心地の中にいるような感じで……。
「殿下! どういうことですか? お戯れは――」
「パトリックか。今は貴公が口を出してくる場面ではない」
「――いえ。私はクララの兄であります。このような一方的な公的な場での婚約破棄は、妹もそうですが殿下の今後にも傷がつきます」
「何度も言わせるな。お前は、魔法師団団長として、この俺の護衛に来ているのであろう? 身分を弁えよ」
「――ッ!?」
お兄様が、唇を強く噛みしめるのを見ながら、私はようやく現実を理解し始める。
「ラインハルト様。婚約を破棄したいという事でしたが、どういう事でしょうか?」
嘘だと言ってほしい。
だって、私は幼少期から物心をついた時に、妃教育ということで大好きな両親から引き離されて王都で一人、教育を受けてきたのだから。
10年以上も、たった一人。
将来、王妃として王家に嫁ぐ為に、周りから落第の印を押されないように――、マルク公爵家の家名に泥を塗らないように――、お父様やお母様に迷惑をかけないようにと一生懸命、どんなに寂しい夜でも私は頑張って……、頑張って……、だから……。
「ユリエール」
「はい。ラインハルト様」
そう言葉を返しながらユリエールと名前を呼ばれた女性は、私を一瞥してくると、「貴女が、クララ様で?」と話しかけてくる。
「ラインハルト様。彼女は――」
私は、一度も貴族の社交の場では面識の無いユリエールという女性から視線を外しながら、ラインハルト様に語り掛ける。
そんな私に、ラインハルト様は苛立った目で私を見てくる。
「ユリエールが話しかけているだろう? 未来の王妃に対して不遜だぞ? クララ」
「み、未来の王妃?」
ラインハルト様の言葉に私は立ち竦んでしまう。
だって、どう見てもドレスに着せられていると言った感じで、貴族の出とはユリエールと呼ばれた少女は見えなかったから。
「どこの貴族の……」
「ユリエールは平民だ。この俺が、国境の視察に行った帰りに町で出会った女性だ」
「……つまり、平民ということですか?」
「何か文句があるのか?」
その言い分に私は思わず、思考が停止してしまっていた。
ただ、隣にいたお兄様が「大丈夫か?」と、心配そうに語りかけてきてくれたので、私は、必死に言葉を選びながら口を開く。
「ラインハルト様、このような場での一方的な婚約破棄は、ラインハルト様の名誉も傷つける行為です。それに、国王陛下に許可は取られているのですか?」
「何故、父上に許可を取らなくてはいけない? 最近では、下級貴族の間では自由恋愛というのが流行っているであろう? ――なら、この俺が率先して国中に自由恋愛を広げるのも自由だろう?」
……なにを……何を言っているのかしら?
ラインハルト様は、普段は、このような物言いはしない。
もっと、気持ちを砕かれて、臣下に優しく接するのが彼なのに……。
「国王陛下がお決めになられた婚約を、ラインハルト様が破棄する行為は、重罪に当たる可能性があります。今でしたら、私の胸の内で留めておきますので、そのようなことは止してください」
私の10年以上の努力が無駄になってしまうから。
何のために、妃教育を受けてきたのか分からなくなってしまう。
それに、お父様やお母様も、きっとショックを受けてしまうに違いないから。
必死に考えてラインハルト様を説得しようと言葉を紡ぐ。
「お前は、すぐに、この俺を見下す。それが非常に不愉快だ! それに比べてユリエールは、この俺を肯定してくれる。お前は、この俺の伴侶――、王妃として相応しくない! 未来の国王に向かって苦言を呈するばかりか、この俺のユリエールをも見下すその発言、許す訳にはいかない。衛兵! クララ・フォン・マルク公爵令嬢を貴族学院の敷地外へ追放しろ!」
「ラインハルト様!」
「煩い!」
私は、ラインハルト様の兵士に捕まれる。
それと同時に、兵士は風に吹き飛ばされた。
「殿下。そのような乱心めいたお考え、承服できません」
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「――ッ」
お兄様も、ラインハルト様の言動がおかしいと思ってはいるようだけれど、第一王位継承権を持つ王族には、強くでることができない。
最良の方法は、すぐに国王陛下の居られる王城へ報告に行くことくらい。
「お兄様」
「クララ?」
心配そうな表情で私を見てくるお兄様。
「私、マルク公爵領へ戻ります」
「馬鹿な!?」
「――ですが、今のままでは、どうにもなりません。コレ以上は、王家の威信を貶めるだけです。ですから、お兄様は陛下へご報告をお願いします」
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