平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫

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第1話 婚約破棄を言い渡されました。

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 私が、王家に嫁ぐことが決まったのは生まれてから間もない頃。
 理由は、精霊神教のスペンサー枢機卿が、マルク公爵家に聖女が生まれた事を神託として受けたから。

 ただ、王子と年齢と貴族位が釣り合う女児は、私しかいなかったので、もし私が聖女ではなくても、王家に嫁ぐことが決まるのは確定だったらしい。
 お父様から、小さいころにそう言われたことがある。

 イグニス王国の将来の王妃として、教育を受ける事になったのは、物心がついた5歳の時。
 優しい両親から引き離され、私は10年以上を王城と貴族院を交互に行き来するようにして王妃教育を受けてきた。
 自分に、将来は国を背負う立場になるのだからと――、王子を支えられる立派な王妃として、民に慕われる優しい王妃になるようにと言い聞かせながら。



 そして――、10年以上の月日が流れた。

 貴族の子弟が通う貴族院の中でも、もっとも大きな建物。
 そこは、数百人がパーティを行える場所であり、今日は、特別な日。

 イグニス王国では、18歳で成人を迎える事になっている。
 成人を迎えた貴族は、貴族院を卒業し親の仕事を手伝うことで研鑽を積み、将来、国を担う者へと成長していく。
 そんな貴族の子弟が、卒業するのが今日であった。

「クララ様」

 声をかけられたので振り向く。
 話しかけてきたのはカーランド子爵家の御令嬢。

「お久しぶりですわ。リーゼロッテさん」
「はい。クララ様、ご機嫌は如何ですか? 何か、お考えのようでしたが……」
「いえ。とくには――。今日は、ラインハルト様の貴族院の卒業の日ですので――」
「そういうことでしたか。本日付けでラインハルト様は、国政に参加される御身分と共に王太子殿下となられますものね」
「そうですわね」

 私はリーゼロッテさんの言葉に頷く。
 今日で、私の婚約者であるラインハルト様は王太子殿下となり、16才から結婚が出来る私は、王太子殿下と数週間以内に結婚をする事になる。
 幼少の時から、必死に頑張ってきた事がようやく報われると思うと、何と言うか達成感? みたいなものを少しは感じてしまうのだけれど。
 だた、それは、これから長い時を王太子殿下の伴侶として、そしてイグニス王家の王妃として彼を支えていく入口に立っただけ。

 本当に大変なのは、これから。

「そういえば、リーゼロッテさんはリンダール伯爵家の元へ嫁がれるのよね?」
「はい。私、このイグニス王国を外の国に知って欲しくて」
「そうよね? 授業で外国語を一生懸命学んでいたのは存じておりましたから。ですが――、外交官のハウスマン様の元へ嫁がれるのは予想しておりませんでした」
「お父様が、諸外国の見聞を広めるのなら、年が近く外交に精通しておられる方のお近くに居た方がいいと、探してくれたのですが、その時にリンダール伯爵家のハウスマン様が、年近い女性を探しておられましたので、丁度いいからと――」
「それで縁談が決まったのね?」
「はい」
「それで、ハウスマン様はどうなの? もうお会いしたことはあるの? 私は、夜会で数回しか話したことはありませんが……」
「とても聡明な方でいらっしゃいます。それと、とてもお優しく他者への配慮を忘れない方ですので――」

 幸せそうな顔で、私に話してくるリーゼロッテさん。

「そうなのね。それは良縁に恵まれて良かったわ」
「ありがとうございます。私、ハウスマン様を支えながら外交官として将来は、クララ様を支えられるようになればと思っております」
「ええ。将来、イグニス王国を共に支えられるように頑張っていきましょう」
「それでは、クララ様。失礼致します。憂慮されるような事がありましたら、声をかけてください」

 貴族の礼儀をして去っていくリーゼロッテさん。
 その後ろ姿が、今日、貴族院卒業を控えた100人近くの男爵位以上の貴族の子弟の中に埋もれていき見えなくなる。

 私は、少しだけ心が温まる思いを感じながら、パーティが行われている会場の中を見渡す。
 会場には、すでに派閥ごとに分かれて今後の政策の他に他愛も無い会話を楽しんでいる貴族の子弟の方の姿が見受けられる。
 貴族院の卒業のパーティ会場と言っても、ここは自身の人脈を作る場でもあるので、今後、国政を担っていく上では重要な場と言っても差し支えない。

 そんな様子を見ながら私は、パーティの主役であるラインハルト様の姿が無い事に少しだけ焦りを感じてしまう。
 もう殆どの国内貴族の子弟は集まっていたから。
 本来は派閥同士の話が始まる前に、ラインハルト様から卒業に関しての話があるはずなのに。

「これは、クララ様。本日、ラインハルト殿下は?」

 そう私に話かけてきたのは、ラインハルト様と懇意にされているカザスト財務卿の子弟であらされるハーネスという方。

「ハーネス様。ラインハルト様は、所用があるとのことで――」
「そうですか。ラインハルト殿下には、今年から王城で顔を合わせる機会もあると思いましたので、挨拶に伺ったのですが」
「殿下には、私の方からお伝えしておきますわ」
「ぜひ、よしなに」

 ハーネスという人物は、上昇志向の高い方で、何かとラインハルト様と懇意に仕様としている方。
 悪い方ではないのだけれど、私は少し苦手だったりします。
 私は、ホール内を見渡してラインハルト様の姿を探しますが、まだお越しにはなられてはいないみたい。
 とりあえず、私は一息つく。
 すると、私の視線の先にパーティ会場内に設置されている舞台の上に楽器を持つ方々上がっていく様子が映りこむ。

 私は、すぐに近くのテーブルに置かれている果実を絞ったジュースが注がれているワイングラスを手に取り、ホールの壁まで下がる。
 すると、軽やかな曲が流れ始めた。
 それと同時に、すでに許嫁が決まっている貴族の子弟の方々がダンスを披露し始める。

「どうした? クララ。手持無沙汰か?」

 貴族の方々のダンスの様子を見学していると、長身の男性が話しかけてきた。


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