1 / 81
第1話 婚約破棄を言い渡されました。
しおりを挟む
私が、王家に嫁ぐことが決まったのは生まれてから間もない頃。
理由は、精霊神教のスペンサー枢機卿が、マルク公爵家に聖女が生まれた事を神託として受けたから。
ただ、王子と年齢と貴族位が釣り合う女児は、私しかいなかったので、もし私が聖女ではなくても、王家に嫁ぐことが決まるのは確定だったらしい。
お父様から、小さいころにそう言われたことがある。
イグニス王国の将来の王妃として、教育を受ける事になったのは、物心がついた5歳の時。
優しい両親から引き離され、私は10年以上を王城と貴族院を交互に行き来するようにして王妃教育を受けてきた。
自分に、将来は国を背負う立場になるのだからと――、王子を支えられる立派な王妃として、民に慕われる優しい王妃になるようにと言い聞かせながら。
そして――、10年以上の月日が流れた。
貴族の子弟が通う貴族院の中でも、もっとも大きな建物。
そこは、数百人がパーティを行える場所であり、今日は、特別な日。
イグニス王国では、18歳で成人を迎える事になっている。
成人を迎えた貴族は、貴族院を卒業し親の仕事を手伝うことで研鑽を積み、将来、国を担う者へと成長していく。
そんな貴族の子弟が、卒業するのが今日であった。
「クララ様」
声をかけられたので振り向く。
話しかけてきたのはカーランド子爵家の御令嬢。
「お久しぶりですわ。リーゼロッテさん」
「はい。クララ様、ご機嫌は如何ですか? 何か、お考えのようでしたが……」
「いえ。とくには――。今日は、ラインハルト様の貴族院の卒業の日ですので――」
「そういうことでしたか。本日付けでラインハルト様は、国政に参加される御身分と共に王太子殿下となられますものね」
「そうですわね」
私はリーゼロッテさんの言葉に頷く。
今日で、私の婚約者であるラインハルト様は王太子殿下となり、16才から結婚が出来る私は、王太子殿下と数週間以内に結婚をする事になる。
幼少の時から、必死に頑張ってきた事がようやく報われると思うと、何と言うか達成感? みたいなものを少しは感じてしまうのだけれど。
だた、それは、これから長い時を王太子殿下の伴侶として、そしてイグニス王家の王妃として彼を支えていく入口に立っただけ。
本当に大変なのは、これから。
「そういえば、リーゼロッテさんはリンダール伯爵家の元へ嫁がれるのよね?」
「はい。私、このイグニス王国を外の国に知って欲しくて」
「そうよね? 授業で外国語を一生懸命学んでいたのは存じておりましたから。ですが――、外交官のハウスマン様の元へ嫁がれるのは予想しておりませんでした」
「お父様が、諸外国の見聞を広めるのなら、年が近く外交に精通しておられる方のお近くに居た方がいいと、探してくれたのですが、その時にリンダール伯爵家のハウスマン様が、年近い女性を探しておられましたので、丁度いいからと――」
「それで縁談が決まったのね?」
「はい」
「それで、ハウスマン様はどうなの? もうお会いしたことはあるの? 私は、夜会で数回しか話したことはありませんが……」
「とても聡明な方でいらっしゃいます。それと、とてもお優しく他者への配慮を忘れない方ですので――」
幸せそうな顔で、私に話してくるリーゼロッテさん。
「そうなのね。それは良縁に恵まれて良かったわ」
「ありがとうございます。私、ハウスマン様を支えながら外交官として将来は、クララ様を支えられるようになればと思っております」
「ええ。将来、イグニス王国を共に支えられるように頑張っていきましょう」
「それでは、クララ様。失礼致します。憂慮されるような事がありましたら、声をかけてください」
貴族の礼儀をして去っていくリーゼロッテさん。
その後ろ姿が、今日、貴族院卒業を控えた100人近くの男爵位以上の貴族の子弟の中に埋もれていき見えなくなる。
私は、少しだけ心が温まる思いを感じながら、パーティが行われている会場の中を見渡す。
会場には、すでに派閥ごとに分かれて今後の政策の他に他愛も無い会話を楽しんでいる貴族の子弟の方の姿が見受けられる。
貴族院の卒業のパーティ会場と言っても、ここは自身の人脈を作る場でもあるので、今後、国政を担っていく上では重要な場と言っても差し支えない。
そんな様子を見ながら私は、パーティの主役であるラインハルト様の姿が無い事に少しだけ焦りを感じてしまう。
もう殆どの国内貴族の子弟は集まっていたから。
本来は派閥同士の話が始まる前に、ラインハルト様から卒業に関しての話があるはずなのに。
「これは、クララ様。本日、ラインハルト殿下は?」
そう私に話かけてきたのは、ラインハルト様と懇意にされているカザスト財務卿の子弟であらされるハーネスという方。
「ハーネス様。ラインハルト様は、所用があるとのことで――」
「そうですか。ラインハルト殿下には、今年から王城で顔を合わせる機会もあると思いましたので、挨拶に伺ったのですが」
「殿下には、私の方からお伝えしておきますわ」
「ぜひ、よしなに」
ハーネスという人物は、上昇志向の高い方で、何かとラインハルト様と懇意に仕様としている方。
悪い方ではないのだけれど、私は少し苦手だったりします。
私は、ホール内を見渡してラインハルト様の姿を探しますが、まだお越しにはなられてはいないみたい。
とりあえず、私は一息つく。
すると、私の視線の先にパーティ会場内に設置されている舞台の上に楽器を持つ方々上がっていく様子が映りこむ。
私は、すぐに近くのテーブルに置かれている果実を絞ったジュースが注がれているワイングラスを手に取り、ホールの壁まで下がる。
すると、軽やかな曲が流れ始めた。
それと同時に、すでに許嫁が決まっている貴族の子弟の方々がダンスを披露し始める。
「どうした? クララ。手持無沙汰か?」
貴族の方々のダンスの様子を見学していると、長身の男性が話しかけてきた。
理由は、精霊神教のスペンサー枢機卿が、マルク公爵家に聖女が生まれた事を神託として受けたから。
ただ、王子と年齢と貴族位が釣り合う女児は、私しかいなかったので、もし私が聖女ではなくても、王家に嫁ぐことが決まるのは確定だったらしい。
お父様から、小さいころにそう言われたことがある。
イグニス王国の将来の王妃として、教育を受ける事になったのは、物心がついた5歳の時。
優しい両親から引き離され、私は10年以上を王城と貴族院を交互に行き来するようにして王妃教育を受けてきた。
自分に、将来は国を背負う立場になるのだからと――、王子を支えられる立派な王妃として、民に慕われる優しい王妃になるようにと言い聞かせながら。
そして――、10年以上の月日が流れた。
貴族の子弟が通う貴族院の中でも、もっとも大きな建物。
そこは、数百人がパーティを行える場所であり、今日は、特別な日。
イグニス王国では、18歳で成人を迎える事になっている。
成人を迎えた貴族は、貴族院を卒業し親の仕事を手伝うことで研鑽を積み、将来、国を担う者へと成長していく。
そんな貴族の子弟が、卒業するのが今日であった。
「クララ様」
声をかけられたので振り向く。
話しかけてきたのはカーランド子爵家の御令嬢。
「お久しぶりですわ。リーゼロッテさん」
「はい。クララ様、ご機嫌は如何ですか? 何か、お考えのようでしたが……」
「いえ。とくには――。今日は、ラインハルト様の貴族院の卒業の日ですので――」
「そういうことでしたか。本日付けでラインハルト様は、国政に参加される御身分と共に王太子殿下となられますものね」
「そうですわね」
私はリーゼロッテさんの言葉に頷く。
今日で、私の婚約者であるラインハルト様は王太子殿下となり、16才から結婚が出来る私は、王太子殿下と数週間以内に結婚をする事になる。
幼少の時から、必死に頑張ってきた事がようやく報われると思うと、何と言うか達成感? みたいなものを少しは感じてしまうのだけれど。
だた、それは、これから長い時を王太子殿下の伴侶として、そしてイグニス王家の王妃として彼を支えていく入口に立っただけ。
本当に大変なのは、これから。
「そういえば、リーゼロッテさんはリンダール伯爵家の元へ嫁がれるのよね?」
「はい。私、このイグニス王国を外の国に知って欲しくて」
「そうよね? 授業で外国語を一生懸命学んでいたのは存じておりましたから。ですが――、外交官のハウスマン様の元へ嫁がれるのは予想しておりませんでした」
「お父様が、諸外国の見聞を広めるのなら、年が近く外交に精通しておられる方のお近くに居た方がいいと、探してくれたのですが、その時にリンダール伯爵家のハウスマン様が、年近い女性を探しておられましたので、丁度いいからと――」
「それで縁談が決まったのね?」
「はい」
「それで、ハウスマン様はどうなの? もうお会いしたことはあるの? 私は、夜会で数回しか話したことはありませんが……」
「とても聡明な方でいらっしゃいます。それと、とてもお優しく他者への配慮を忘れない方ですので――」
幸せそうな顔で、私に話してくるリーゼロッテさん。
「そうなのね。それは良縁に恵まれて良かったわ」
「ありがとうございます。私、ハウスマン様を支えながら外交官として将来は、クララ様を支えられるようになればと思っております」
「ええ。将来、イグニス王国を共に支えられるように頑張っていきましょう」
「それでは、クララ様。失礼致します。憂慮されるような事がありましたら、声をかけてください」
貴族の礼儀をして去っていくリーゼロッテさん。
その後ろ姿が、今日、貴族院卒業を控えた100人近くの男爵位以上の貴族の子弟の中に埋もれていき見えなくなる。
私は、少しだけ心が温まる思いを感じながら、パーティが行われている会場の中を見渡す。
会場には、すでに派閥ごとに分かれて今後の政策の他に他愛も無い会話を楽しんでいる貴族の子弟の方の姿が見受けられる。
貴族院の卒業のパーティ会場と言っても、ここは自身の人脈を作る場でもあるので、今後、国政を担っていく上では重要な場と言っても差し支えない。
そんな様子を見ながら私は、パーティの主役であるラインハルト様の姿が無い事に少しだけ焦りを感じてしまう。
もう殆どの国内貴族の子弟は集まっていたから。
本来は派閥同士の話が始まる前に、ラインハルト様から卒業に関しての話があるはずなのに。
「これは、クララ様。本日、ラインハルト殿下は?」
そう私に話かけてきたのは、ラインハルト様と懇意にされているカザスト財務卿の子弟であらされるハーネスという方。
「ハーネス様。ラインハルト様は、所用があるとのことで――」
「そうですか。ラインハルト殿下には、今年から王城で顔を合わせる機会もあると思いましたので、挨拶に伺ったのですが」
「殿下には、私の方からお伝えしておきますわ」
「ぜひ、よしなに」
ハーネスという人物は、上昇志向の高い方で、何かとラインハルト様と懇意に仕様としている方。
悪い方ではないのだけれど、私は少し苦手だったりします。
私は、ホール内を見渡してラインハルト様の姿を探しますが、まだお越しにはなられてはいないみたい。
とりあえず、私は一息つく。
すると、私の視線の先にパーティ会場内に設置されている舞台の上に楽器を持つ方々上がっていく様子が映りこむ。
私は、すぐに近くのテーブルに置かれている果実を絞ったジュースが注がれているワイングラスを手に取り、ホールの壁まで下がる。
すると、軽やかな曲が流れ始めた。
それと同時に、すでに許嫁が決まっている貴族の子弟の方々がダンスを披露し始める。
「どうした? クララ。手持無沙汰か?」
貴族の方々のダンスの様子を見学していると、長身の男性が話しかけてきた。
367
お気に入りに追加
964
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる