おっさんの異世界建国記

なつめ猫

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第三章 王都暗躍編

第149話 VS 淫魔王リムル(3)

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「――わ、私は! 私は! 港町カルーダの冒険者ギルドマスターであるハロルドの孫よ! 私に、手を出したら、どうなるかくらい分からないとでもいうの!?」
「分からないな」
 
 俺は、さらに日本刀の柄を握る手に力を込めていく。
 日本刀の刃は、固定化の魔法をかけられている事もあり、リムルの首に数ミリ食い込む。
 それにより青白い血が、彼女の首の傷口から滲み出て刃を伝わり、謁見の間の絨毯の上へと滴り落ちる。
 それにより――、魔法陣が形成されていく。
 作られていく魔法陣の直径は優に3メートルを超えていき――、そして黒く光る!
 その様子に、俺の本能は危険を察知する。
 
「なっ!?」
 
 思わず出た声と共に、俺は、リムルから距離を取る。
 
「馬鹿ね! 私の言葉に騙されるなんて! やっぱり人間は愚かだわ!」
 
 リムルが憎しみの篭った目で俺を見てくると同時に、そう吐き捨てる。
 それと共に、魔法陣の中央の部分。
 絨毯だった場所が消失し巨大な穴が生まれる。
 巨大な穴からは遠吠えが聞こえてくる。
 
「さあ、来なさい! 私の召喚に応じなさい! ケルベロス!」
 
 穴の中から3つの頭を持つ体高4メートルを超す巨大な犬が這い出てくる。
 
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ガアアアアアアアア」
「グオオオオオオオオオオ」
 
 それぞれの頭が咆哮を上げる。
 そして、3つの頭が同時に俺の方を見てくる。
 
「ケロべロス! そこの人間を喰い殺しなさい! 命令よ! この淫魔王が命じるわ!」
 
 3つの頭が口を開けて俺へと向けてくる。
 
「マスター!」
「問題ない」
 
 俺は、左手をケルベロスの方へと向ける。
 そして、ケルベロスの3つの頭がそれぞれ炎を吐こうと咥内に炎の塊を生み出していくのを確認したところで――、
 
「エイジ! 貴方が、何をしようとしているのかは分からないわ! ――でも! その! ケルべロスは地獄の門の番人にして、私達魔王族のしもべ! 人間の魔法でどうにか出来るなんて思わないことね! ソイツを何とか出来るのは勇者か、賢者くらいなモノよ!」
 
 リムルが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
 俺は、横目で一瞬だけ、それを見たあと頭の中で思い浮かべる。
 俺が発動できる魔法は魔法であって魔法ではない。
 生活魔法にして、人間だけが唯一使える魔法という名の現象。
 それは、この世界の人間が扱う魔法とは根本的にまったく異なるモノ。
 
「生活魔法発動」
「生活魔法? 馬鹿ね! ケルベロスの! ケルベロスの固有魔法を生活魔法ごときで何とかできる訳がないじゃないの!」
 
 小馬鹿にした声が聞こえてくるが無視。
 そして――、
 
「ガアアアアア!」
「グオオオオオオ!」
「オオオオオオ!」
「死になさい! エイジ! ケルベロスの固有の魔法よ! 地獄の業火! 煉瓦すら蒸発させるほどの威力の!」
 
 俺は思わず笑みを浮かべる。
 それだけの高温の炎を放って来れるのなら、かなりの熱量を収束させていると推測できたからだ。
 だからこそ――、
 
「撃て! ケルベロス! エイジを! あの冒険者を殺しなさい!」
 
 リムルの命令と共にケルベロスが炎の弾を俺に向けて放とうとする。
 それと共にケルベロスの頭が3つとも――、胴体ごと爆散する。
 俺は咄嗟に、生活魔法により土の壁を使い爆風を防ぐ。
 ある程度、距離はあったからこそ対策は出来たが、ケルベロスの直下にいたリムルは、ケルベロスの体が爆散した際に発生した爆風により吹き飛ばされ床の上を転がっていき、天井を支えている大理石の柱に体を思いっきり叩きつけた。
 
「――ぐはっ! けほっ、けほっ……。……い、一体……、何が……。――え? ケルベロスの体が……上半身が……。どうして? どういうことなの?」
 
 彼女の――、リムルの目には、粉々に吹き飛んで下半身だけ残ったケルベロスの姿が映っていたのだろう。
 ケロべロスは、ゆっくりと倒れると穴へと落下していき、その巨体は見えなくなった。
 それと同時に魔法陣は粉々に砕け散り床が元通りの絨毯へと変わる。
 
「マスター、N2を?」
「まぁな……」

 短く、ソルティからの確認に俺は応じる。

「そう」

 ソルティも、納得する。
 こちらの世界に元素記号というモノが存在しているとは思わなかったが、超古代文明というのはかなり進んだ文明だったらしいからな。
 そういうモノがあったんだろう。
 そしてN2というのは液化窒素。
 その液化窒素をケルベロスの咥内に生み出したのだ。
 そして、煉瓦を蒸発させるだけの超高温とぶつけた。
 それにより液化窒素の体積は700倍にまで瞬時に膨れ上がる。
 その結果、起きたのが水蒸気機爆発。
 水蒸気機爆発はケルベロスの咥内――、そして体内で発生し爆発的に膨張し、炸裂し爆発した。
 その結果が、発生した爆風。
 だが、そのことをリムルに教える義理は一切ない。
 俺だけが分かっていればいいだけのこと。

「さて――」

 俺は日本刀を右手に携えたままリムルに近づく。
 
「――な、何を! 何をしたのよ! アンタは! あんたは! あんたは! ただの雑魚冒険者だったじゃないの! 何の取り得もないのに! 少し、珍しい生活魔法が使えるだけのゴミ冒険者だった癖に!」
「そうだな」
 
 俺は、無感動に――、無表情にリムルに近づく。
 
「――ひっ!」
 
 ようやく俺が殺意を持って近づいている事に気が付いたのだろう。
 リムルは、俺から距離を取ろうと大理石の床の上に敷かれている絨毯の上を這って、俺から離れようとする。
 
「なんなのよ……。意味が分からないわ! こんなの! こんなの! こんなの! こんなの! 認められないわ! こんなの!」
 
 俺は這い逃げようとするリムルの背中――、残ったサキュバスの翼を日本刀で切り飛ばす。
 
「ギャアアアアアアア。い、痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!」
 
 叫びながら、絶叫しながら、涙を零しながら、痛みで表情を歪ませながら、絨毯の上を転げまわるリムル。
 
「どうしてなのよ! どうして! どうして! どうして! どうして! 私が、こんな事に! こんな仕打ちを受けないといけないのよおおおおおお!」
「自業自得だ」
 
 俺は短く答えると日本刀の切っ先をリムルへと向けた。
 
 
 
 
 
  
 
 
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