おっさんの異世界建国記

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
132 / 190
第三章 王都暗躍編

第132話 弔い合戦(4)

しおりを挟む
「そうかよ」
 
 俺は、執事のアードレスに軽口を叩きながら、執務室の扉に手をかけるが――、
 
「鍵がかかっているぞ?」
「問題ありません」
 
 アードレスが、そう答えてくると自身の懐から銀色に輝く鍵を取り出すと、執務室のドアの鍵穴にあけて回す。
 ガチャリと言う音と共に執務室のドアの鍵が開く。
 
「どうぞ」
「準備がいいな」
「ガルガン殿から、少し前から依頼をされていた時に、このような事態になる事は予測がついていましたので――。まあ、ガルガン殿が来られないというのは予想外でしたが……」
「なるほどな……」
「ところでガルガン殿は、いまはどちらに?」
「さあな? 俺も一緒に行動しているわけではないからな」
 
 肩を竦めて答える。
 嘘ではないが本当でもない。
 本当のことを伝えるに値するかどうか、まだ見極めが出来てない相手には本当のことを伝える事はできないだけだ。
 ガルガンが、俺の敵にまわったこと――、そして俺がこの手で殺したことを知ればアードレスが、どういう行動を取るのか想像がつかない。
 
「そうですか」
「ああ」
 
 俺はドアノブを回す。
 執務室のドアは、音と立てることもなく内側へと静かに開いていく。
 そして部屋の中に入ったところで、とくに一般的な執務室と代わり映えもしない部屋の中を物色していくが、当たり障りのない書類しか見当たらない。
 
「外れか……」
 
 そう思ったところだった。
 机を調べていたアードレスが小さく声を上げる。
 
「栄治さん、これを見てください」
「どうした?」
 
 執務机を見てみれば、執務室の引き出しの一つ――、そこには上げ底の板があり――。
 
「二重底か……」
 
 それにしても、二重底を見つけるなんて、どういう眼力をしているんだ? 知らないで見つけるなんてありえないが……。
 まぁ、いまはどうでもいいか――、少しでも黒幕の情報を知りたいからな。
 二重底となっている板を外すと厚さ3センチほどの本が出てくる。
 その表紙に書かれている文字は、一言で表すのなら日記帳と言ったところ。
 
「これは、俺の方で確認する。あんたは他を調べてくれ」
「分かりました」
 
 日記帳を開いて文字列に目を通していく。
 確認するのは、ここ最近の内容。
 
「これは……」
「どうかしましたか?」
「いや――」
 
 俺は日記帳を閉じる。
 そして、日記帳を背中のリュックに入れたあと、アードレスの方を見る。
 アードレスは、未だに執務室の中を物色している。
 そんな男に俺は声をかける。
 
「アードレス。アンタは、これからどうするつもりだ?」
「ガルガン殿からの連絡を待ちます。それに、貴方の一緒に居なくなれば嫌疑がかけられる可能性がありますから」
「そうか……。分かった。それじゃ、俺は、これで脱出させてもらう」
「よろしいので?」
「ああ。これ以上は、さすがに王都の兵士だけでなく王宮や王城の騎士団も駆けつけてくるからな」
 
 さすがに宰相の邸宅が襲撃されて黙っている国の重鎮や貴族や王族はいないだろう。
 治安のことを踏まえると騎士団が出てくる可能性だってある。
 そうなると面倒になる事は目に見えている。
 
「そうですか。それでは、互いに頑張りましょう」
「ああ。何かあったらガルガンに伝えてくれ」
 
 すでにガルガンはいないが、アイツの事だ。
 何かしらの情報伝達手段は残しているはずだが――、俺が、そのことに干渉することはよくはない。
 そのことを伝えるのなら、ガルガンを俺が殺したことも説明しないといけなくなるし、それを執事のアードレスが了承するのかも理解するのかも分からないからな。
 
「分かりました。それではお気をつけて」
「ああ」
 
 俺は炎上を続けるグリフードの館を後にする。
 館から距離として300メートルほど離れたところで、馬の嘶きと、金属が擦れる音が聞こえてくる。
 俺は慌てて、近くの茂みの中に隠れる。
すると、すぐに数十騎の騎士団が俺が立っていた場所を駆け抜けていく。
 
「暗殺ギルドが屯っているかも知れない公爵邸に騎士団を派遣するとは――」
 
 駆け抜けていく騎士達の姿を見ながら俺は思わず呟く。
 ということは、騎士団もグリフード家の当主エルハストと繋がっている可能性もあると考えないといけないのか……。
 
「まったく……面倒なこと、この上ないな」
 
 騎士団が駆け抜けて行ったあと、俺は借りている宿へと戻る。
 宿は、深夜と言う事もあり灯りは落とされていたが――、借りている部屋のドアノブを回し開けると、いきなり抱き着かれる。
 
「ディアナ――」
「ご主人様! どこに行かれたのですか?」
 
 涙目で語り掛けてくるディアナの頭を撫でながら、ベッドまで移動する。
 ディアナをベッドに寝かせたあと、
 
「悪かったな。実は、グリフードの屋敷に行っていた」
「――え? それは、私と共に行かれると言ったではありませんか?」
「まぁ、それはそうなんだが……。獣人が一緒に行動しているとなると、エルダ王国側が獣人に攻撃されたと言う事になるからな。そうなると、開拓中の村を敵視される恐れもあるしニードルス領も狙われることになる。だから――」
「それで、ご主人様は、一人で行かれたのですか?」
 
 俺は「ああ、そうだ」と、答えた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...