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第三章 王都暗躍編
第110話 暗躍する王宮(1)第三者視点
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エルダ王国の王都リーズ。
その王都の中央に鎮座している王宮の一室で陶器の割れる音が響き渡った。
室内に散らばる陶器の破片。
それは、ティーカップであった。
――そして、破片が散らばった近くには、一人の女性が怯えた表情で立っていた。
「わ、私にも……なんのことか……。ただ、目的のモノは見つからないと報告して欲しいとしか……」
王宮に仕える侍女の震えた声色に、溜息をつく女性。
その女性は、赤いマーメイドドレスを身に纏まった金髪碧眼の――、釣り目が特徴の女であった。
「そう、もういいわよ。下がりなさい」
「わ、わわわ、分かりました。それでは失礼致します。メリア様」
頭を下げて部屋から出ていく侍女。
彼女は部屋から出ていくと、王宮の回廊に繋がる扉を閉めた。
そんな様子を見た後、エルダ王国第三王位継承権を有するメリア・ド・エルダは、視線を逸らすと部屋の一角へと視線を向けた。
「いるのでしょう?」
何も存在しない場所。
彼女が声をかけた場所は、何も存在しない空虚な――、椅子しか置かれていない。
すると、メリアが見ている先が一瞬、ボヤけたかと思うと黒い翼をもつ女性が姿を現す。
「どうやら、失敗したようね」
背中からコウモリのような黒い翼を生やすサキュバスは、そう呟く。
「失敗も何も、貴女が言ったエイジ・カンダという人間は本当に此方に向かっているのかしら?」
「間違いなく向かっているわ。だって、ニードルス伯爵から貴族の位を剥奪するような書簡を送ったのでしょう?」
「それは、送ったわ。だから! 私も困っているのよ? 貴女が、エイジ・カンダを殺す手伝いをすれば魔王の力で私の王にしてくれると約束したから!」
苛立ちを含んだ声で、リムルに詰め寄るメリア王女。
そんなメリア王女を、どこまでも冷たく余裕の笑みで見つめるリムルの目には、彼女を道具とでしか見てはいなかった。
リムルは、紫色のルージュで塗られた唇を開く。
「送っているのなら、エイジという冒険者は必ず来るわ。だって、エイジが身を寄せているニードルス伯爵家は、今は窮地な状況に立たされていると思うから」
その言葉に、腕を組み眉間に皺を寄せながら聞いていたメリア王女は――、「それは、テラン王国の件かしら?」と、言葉を口にする。
それに対して、リムルは頷き――、
「テラン王国は、もともとニードルス伯爵領を欲しがっていたわ。だから、ニードルス伯爵領を切り捨てたという話が、テラン王国に届けば、必ずテラン王国はニードルス伯爵に接してくるはず」
「それって……、希望的観測という訳ではないのよね?」
半信半疑と言った様子でメリアが言葉を口にする。
「もちろんよ。冒険者ギルドは国からの援助で動いている国お抱えの機関ではあるけれど、大陸中との情報共有もされているわ。だから、国と繋がりがあれば、伝手さえあれば、他国の情報は幾らでも仕入れることは出来るわ。お金はかかるけどね」
「それも、冒険者ギルドマスターの孫という地位を悪用して得た力なのかしら?」
「あら? メリア、貴女だって王族という権力を利用して私利私欲のために行動していたじゃない?」
「……」
そのリムルの言葉に、思わずメリアが口を閉ざす。
そんなメリアを見て、リムルは口角を歪ませると――、
「やめましょ。お互いに、不毛な会話をするのは――。私は、エイジ・カンダを殺せればそれでいい。メリア、貴女はエルダ王国で初めての――、歴史に名を刻む女王に戴冠出来ればいい。互いに共存共栄――、互いに利益があり、そして望む物があるのだから、協力関係があるのだから、互いの思想に関与するのは止めましょう。時間の浪費よ?」
「分かったわ」
話をはぐらかすリムルに、嫌気が差していたメリアは、エイジ・カンダのことを聞いても、リムルが話をするとは限らないと察し方針転換することに決める。
「リムル。エイジ・カンダは、街道沿いを雇った野党に探させたけど、見つかったという報告は上がってきていないわ」
「たしか幌馬車で向かっているとリンゼント男爵から情報提供があったのよね?」
リムルの言葉に頷くメリア。
「――でも見つからずよ」
「そう……」
「それよりもリムル」
「何よ?」
「貴女。エルハストに、何かしたの?」
「藪から棒に何の話よ?」
「だから、エルハストがいきなり私を担ぎ上げたの」
「そんなことは知らないわね。でも、エルハストって、宰相よね? そんな宰相に担ぎ上げられたってことは、次期、女王としての未来も近いのではなくて?」
「……それは。でも、彼は私を嫌っていたはずよ? それなのに、いきなり担ぎあげてくるなんておかしいと思わない?」
「だから、私が何かをしたとでも?」
メリアの疑問に、リムルは肩を竦める。
「断定では出来ないけど……」
「ねえ。メリア。さっき、私は言ったわよね? お互いに目的が一致しているのだから余計な詮索を止そうって」
「……そうね」
「分かってくれたのならいいわ」
渋々と頷いたメリアに、リムルは思考を巡らせた。
その王都の中央に鎮座している王宮の一室で陶器の割れる音が響き渡った。
室内に散らばる陶器の破片。
それは、ティーカップであった。
――そして、破片が散らばった近くには、一人の女性が怯えた表情で立っていた。
「わ、私にも……なんのことか……。ただ、目的のモノは見つからないと報告して欲しいとしか……」
王宮に仕える侍女の震えた声色に、溜息をつく女性。
その女性は、赤いマーメイドドレスを身に纏まった金髪碧眼の――、釣り目が特徴の女であった。
「そう、もういいわよ。下がりなさい」
「わ、わわわ、分かりました。それでは失礼致します。メリア様」
頭を下げて部屋から出ていく侍女。
彼女は部屋から出ていくと、王宮の回廊に繋がる扉を閉めた。
そんな様子を見た後、エルダ王国第三王位継承権を有するメリア・ド・エルダは、視線を逸らすと部屋の一角へと視線を向けた。
「いるのでしょう?」
何も存在しない場所。
彼女が声をかけた場所は、何も存在しない空虚な――、椅子しか置かれていない。
すると、メリアが見ている先が一瞬、ボヤけたかと思うと黒い翼をもつ女性が姿を現す。
「どうやら、失敗したようね」
背中からコウモリのような黒い翼を生やすサキュバスは、そう呟く。
「失敗も何も、貴女が言ったエイジ・カンダという人間は本当に此方に向かっているのかしら?」
「間違いなく向かっているわ。だって、ニードルス伯爵から貴族の位を剥奪するような書簡を送ったのでしょう?」
「それは、送ったわ。だから! 私も困っているのよ? 貴女が、エイジ・カンダを殺す手伝いをすれば魔王の力で私の王にしてくれると約束したから!」
苛立ちを含んだ声で、リムルに詰め寄るメリア王女。
そんなメリア王女を、どこまでも冷たく余裕の笑みで見つめるリムルの目には、彼女を道具とでしか見てはいなかった。
リムルは、紫色のルージュで塗られた唇を開く。
「送っているのなら、エイジという冒険者は必ず来るわ。だって、エイジが身を寄せているニードルス伯爵家は、今は窮地な状況に立たされていると思うから」
その言葉に、腕を組み眉間に皺を寄せながら聞いていたメリア王女は――、「それは、テラン王国の件かしら?」と、言葉を口にする。
それに対して、リムルは頷き――、
「テラン王国は、もともとニードルス伯爵領を欲しがっていたわ。だから、ニードルス伯爵領を切り捨てたという話が、テラン王国に届けば、必ずテラン王国はニードルス伯爵に接してくるはず」
「それって……、希望的観測という訳ではないのよね?」
半信半疑と言った様子でメリアが言葉を口にする。
「もちろんよ。冒険者ギルドは国からの援助で動いている国お抱えの機関ではあるけれど、大陸中との情報共有もされているわ。だから、国と繋がりがあれば、伝手さえあれば、他国の情報は幾らでも仕入れることは出来るわ。お金はかかるけどね」
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「あら? メリア、貴女だって王族という権力を利用して私利私欲のために行動していたじゃない?」
「……」
そのリムルの言葉に、思わずメリアが口を閉ざす。
そんなメリアを見て、リムルは口角を歪ませると――、
「やめましょ。お互いに、不毛な会話をするのは――。私は、エイジ・カンダを殺せればそれでいい。メリア、貴女はエルダ王国で初めての――、歴史に名を刻む女王に戴冠出来ればいい。互いに共存共栄――、互いに利益があり、そして望む物があるのだから、協力関係があるのだから、互いの思想に関与するのは止めましょう。時間の浪費よ?」
「分かったわ」
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「リムル。エイジ・カンダは、街道沿いを雇った野党に探させたけど、見つかったという報告は上がってきていないわ」
「たしか幌馬車で向かっているとリンゼント男爵から情報提供があったのよね?」
リムルの言葉に頷くメリア。
「――でも見つからずよ」
「そう……」
「それよりもリムル」
「何よ?」
「貴女。エルハストに、何かしたの?」
「藪から棒に何の話よ?」
「だから、エルハストがいきなり私を担ぎ上げたの」
「そんなことは知らないわね。でも、エルハストって、宰相よね? そんな宰相に担ぎ上げられたってことは、次期、女王としての未来も近いのではなくて?」
「……それは。でも、彼は私を嫌っていたはずよ? それなのに、いきなり担ぎあげてくるなんておかしいと思わない?」
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「断定では出来ないけど……」
「ねえ。メリア。さっき、私は言ったわよね? お互いに目的が一致しているのだから余計な詮索を止そうって」
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「分かってくれたのならいいわ」
渋々と頷いたメリアに、リムルは思考を巡らせた。
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