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第三章 王都暗躍編
第105話 王都リーズ(5)
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「――で、具体的な内容に移りたいと思うんだが、どうやって王都内に俺達を手引きするんだ?」
「俺達? 複数いるのか?」
「ああ」
俺は目の前の女――、ラウリに頷く。
「人数は何人だ?」
「そうだな……。2人の予定だ」
「なるほど……。それなら特に支障はでないか……」
「人数が多いと問題が起きることなのか?」
「まぁ、それは――」
そこまで言うと、ラウリが口を閉じて、俺を誘うように手のひらを振ってくる。
「ああ。まずは、前払いってことだな」
「そういうことだ。情報だけを聞き出して、金を払わないやつはごまんと見てきたからな。精霊が懐いているお前を疑うと言う事はしたくはないが――」
「まぁ、生活が掛かっているものな。色々と纏め役というか顔役は大変だな」
俺は、部屋の隅に向けて手のひらを向ける。
「錬成! 生活魔法! 石鹸!」
石鹸を構成する素材を頭の中で思い浮かべると同時に石鹸を手のひらから作り出す。
「お、おい! 土の上に――」
「問題ない。ある程度は、多めに出してやる」
手のひらから『ポンポンポンポン』と、軽快な音と立てて生み出されていく石鹸は、空中で弧を描くようにして部屋の中の床――、土の上に落ちていく。
最初の200個ほどは、地面に直接落ちる。
これはサービスと言う事で、ラウリに進呈する分。
そした、200個の石鹸が土台となったところで、その上には500個の石鹸を積んでいく。
全てが終わったところで、俺はラウリへと視線を向ける。
「まぁ、こんなところだ。200個ほど多めに出したが、俺は地面に直接接しているからな。サービスってことで進呈しておく」
「いいのか?」
「ああ、もちろんだ。王都の中へ手引きしてくれる相手に、石鹸200個で貸しを作れるなら安いもんだろ?」
「……なるほど。あんた、以前と比べて随分と強かになったね」
「そうか?」
俺は肩を竦める。
「ああ。守る者が出来たってところか?」
「それは、どうだろうな」
そう言葉を返したところで、扉がバン! と、開く。
「ラウリ! やべえ! 水が飲めなくなった!」
ノックもせずに建物の中に入ってきた褐色肌の赤髪のポニテ―ルの女は、慌てた様子で部屋に入ってくるなり、そう捲し立ててきた。
そんな女を――、入ってきた女を見て首を傾げる。
どこかで見た気がするからだ。
女は、アラジンに出てくるようなアラビア系の――踊り子のような衣装を身に纏っている。
「ノックくらいして入りな!」
入ってきた女に、ラウリが注意をする。
「すまない。ラウリ」
「――で、水が飲めなくなったってのは、どういう意味なんだい? 話してみな! スーニャ」
「じつは、王都から流れてきている川が堰き止められたんだ」
「「何!?」」
俺とラウリの声が思わず被る。
王都から北を流れるテロウ川、そこから川の水を王都まで引く為に行った灌漑工事の結果、王都リーズでは人口10万人を支えるだけの水を確保できている。
そして王都リーズから流れてくる川の水はもちろん貧困街であるスラムでも利用されている。
その水をストップしたと言う事は、貧民街では大問題だ。
人は水を飲まなければ3日も生きていけない。
「やってくれたな……」
おそらく俺が川の中を移動すると踏んで、王宮側の誰かが何かしらの理由をつけて水門を閉じたのだろう。
そう考えると、辻褄が合う。
おそらく俺を街道移動中に捕まえられなかった連中の仕業だと見ていい。
だが、それよりも問題は――、
「スーニャ。誰が、水門を閉じるような指示を出したか分かるかい?」
「エルハストだって、皆が噂している」
そうスーニャは呟く。
「エルハスト……、たしかエルダ王国の宰相だったよな?」
俺の呟きに頷くラウリ。
「エイジ。あんた知り合いなのかい?」
「――いや、知り合いではないが、冒険者時代に色々とキナ臭い話は聞いたからな。アイツなら、噂からやりかねない」
それと共に、俺と敵対しているのがエルハストなら納得だ。
エルハスト・フォン・グリフード。
グリフード公爵家の現当主で、エルダ王国の重鎮。
貴族派筆頭でもあり、その権力は王家に比類し、逆らえる貴族なんて限られる。
その貴族の一つがニードルス伯爵家。
まぁ、ニードルス伯爵家は兎の獣人だから、逆らうも何も社交界の場には殆どでないというか出られないから逆らっているように見られてしまうだけだが。
だが、これで、俺を狙っている主犯が何となく分かったな。
「どうする? ラウリ」
「どうするも何もしばらくは、私が水の精霊に頼んで雨を降らせるしかないね。相手の意図が読めないのだから仕方ない」
「わかった。それで、ラウリ……、そこにいるのはもしかして……」
「ああ。取引相手の石鹸の納入にきた冒険者だよ。このことは内密にね」
「うん!」
ラウリの言葉に素直に頷いた女は俺に近づいてくる。
「えっと……エイジ・カンダさんで良かったよね?」
「ああ、そうだが?」
どうして、俺のフルネームを知っているんだ?
そんなに俺は、このスラム街で有名だったか?
「俺達? 複数いるのか?」
「ああ」
俺は目の前の女――、ラウリに頷く。
「人数は何人だ?」
「そうだな……。2人の予定だ」
「なるほど……。それなら特に支障はでないか……」
「人数が多いと問題が起きることなのか?」
「まぁ、それは――」
そこまで言うと、ラウリが口を閉じて、俺を誘うように手のひらを振ってくる。
「ああ。まずは、前払いってことだな」
「そういうことだ。情報だけを聞き出して、金を払わないやつはごまんと見てきたからな。精霊が懐いているお前を疑うと言う事はしたくはないが――」
「まぁ、生活が掛かっているものな。色々と纏め役というか顔役は大変だな」
俺は、部屋の隅に向けて手のひらを向ける。
「錬成! 生活魔法! 石鹸!」
石鹸を構成する素材を頭の中で思い浮かべると同時に石鹸を手のひらから作り出す。
「お、おい! 土の上に――」
「問題ない。ある程度は、多めに出してやる」
手のひらから『ポンポンポンポン』と、軽快な音と立てて生み出されていく石鹸は、空中で弧を描くようにして部屋の中の床――、土の上に落ちていく。
最初の200個ほどは、地面に直接落ちる。
これはサービスと言う事で、ラウリに進呈する分。
そした、200個の石鹸が土台となったところで、その上には500個の石鹸を積んでいく。
全てが終わったところで、俺はラウリへと視線を向ける。
「まぁ、こんなところだ。200個ほど多めに出したが、俺は地面に直接接しているからな。サービスってことで進呈しておく」
「いいのか?」
「ああ、もちろんだ。王都の中へ手引きしてくれる相手に、石鹸200個で貸しを作れるなら安いもんだろ?」
「……なるほど。あんた、以前と比べて随分と強かになったね」
「そうか?」
俺は肩を竦める。
「ああ。守る者が出来たってところか?」
「それは、どうだろうな」
そう言葉を返したところで、扉がバン! と、開く。
「ラウリ! やべえ! 水が飲めなくなった!」
ノックもせずに建物の中に入ってきた褐色肌の赤髪のポニテ―ルの女は、慌てた様子で部屋に入ってくるなり、そう捲し立ててきた。
そんな女を――、入ってきた女を見て首を傾げる。
どこかで見た気がするからだ。
女は、アラジンに出てくるようなアラビア系の――踊り子のような衣装を身に纏っている。
「ノックくらいして入りな!」
入ってきた女に、ラウリが注意をする。
「すまない。ラウリ」
「――で、水が飲めなくなったってのは、どういう意味なんだい? 話してみな! スーニャ」
「じつは、王都から流れてきている川が堰き止められたんだ」
「「何!?」」
俺とラウリの声が思わず被る。
王都から北を流れるテロウ川、そこから川の水を王都まで引く為に行った灌漑工事の結果、王都リーズでは人口10万人を支えるだけの水を確保できている。
そして王都リーズから流れてくる川の水はもちろん貧困街であるスラムでも利用されている。
その水をストップしたと言う事は、貧民街では大問題だ。
人は水を飲まなければ3日も生きていけない。
「やってくれたな……」
おそらく俺が川の中を移動すると踏んで、王宮側の誰かが何かしらの理由をつけて水門を閉じたのだろう。
そう考えると、辻褄が合う。
おそらく俺を街道移動中に捕まえられなかった連中の仕業だと見ていい。
だが、それよりも問題は――、
「スーニャ。誰が、水門を閉じるような指示を出したか分かるかい?」
「エルハストだって、皆が噂している」
そうスーニャは呟く。
「エルハスト……、たしかエルダ王国の宰相だったよな?」
俺の呟きに頷くラウリ。
「エイジ。あんた知り合いなのかい?」
「――いや、知り合いではないが、冒険者時代に色々とキナ臭い話は聞いたからな。アイツなら、噂からやりかねない」
それと共に、俺と敵対しているのがエルハストなら納得だ。
エルハスト・フォン・グリフード。
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貴族派筆頭でもあり、その権力は王家に比類し、逆らえる貴族なんて限られる。
その貴族の一つがニードルス伯爵家。
まぁ、ニードルス伯爵家は兎の獣人だから、逆らうも何も社交界の場には殆どでないというか出られないから逆らっているように見られてしまうだけだが。
だが、これで、俺を狙っている主犯が何となく分かったな。
「どうする? ラウリ」
「どうするも何もしばらくは、私が水の精霊に頼んで雨を降らせるしかないね。相手の意図が読めないのだから仕方ない」
「わかった。それで、ラウリ……、そこにいるのはもしかして……」
「ああ。取引相手の石鹸の納入にきた冒険者だよ。このことは内密にね」
「うん!」
ラウリの言葉に素直に頷いた女は俺に近づいてくる。
「えっと……エイジ・カンダさんで良かったよね?」
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